小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第938回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

もはや「プロスマホ」、Xperia 1 IIを試す。快適AF、秒20コマ連写

「Xperia 1 II」。Xperiaの特徴となりつつある21:9ディスプレイを搭載

早くもMark II登場

2019年のMWC19にて、Xperiaシリーズのフラッグシップ「Xperia 1」が登場した。21:9のディスプレイ、3カメラといったスペックは、メディアでも高い評価を受けた。

だがスペックだけでなく、本当の実力を認識させられたのは、2019年のNABでの展示であった。ソニーのプロ用マスターモニタと並んで、シネマカメラからの出力を表示させた展示は、プロの現場でも通用するHDRディスプレイとしての仕上がりを感じさせた。

6月に発売された折には、同社のシネマカメラ「VENICE」のトーンで撮影できる新アプリ、「Cinema Pro」をテストしたが、スマホとは思えぬその映像に驚いたものだった。

Xperia1は、スマホ不振が騒がれる日本メーカーの中にありながら、ソニーが独特の足場を固めるのに成功したモデルだと言える。その後もXperia 1 Professional Edition、Xperia 8、Xperia 5とラインナップを拡充させてきたわけだが、初代Xperia 1から約1年、その直系として「Xperia 1 II」が登場した。

通信系の最大の目玉は、ソニーでは初となる5G対応という事になるが、やはりAV Watch的に気になるのはカメラスペックの進化である。5月下旬よりdocomoとauから発売が予定されているところであるが、今回はいち早くデモ機をお借りすることができた。ただし国内販売モデルではなく、グローバルモデルのため、若干挙動に違いがあるかもしれないことをお断りしておく。

Xperia 1を超えられるのは、Xperia 1だけだ。1ナンバーの実力を、さっそく試してみよう。

スリムボディはそのまま

まずボディだが、前作と変わらず6.5型、21:9のOLED(有機EL)で高色域、高コントラストを極めた「シネマワイドディスプレイ」を採用しており、ルックスの特徴である「長いスマホ」がポイントだ。解像度は水平3,840画素×垂直1,644画素となっている。

4K・HDR・BT.2020対応のOLED

カラーはブラック、ホワイト、パープルの3色展開だが、パープルを扱うのは国内ではdocomoのみとなる。今回はブラックをお借りしている。

ディスプレイ側から見るとあまり大きな変化は感じられないが、裏面はかなり違う。まず3カメラの配置が、前作ではボディ中央に配置されていたのに対し、今回は左肩へ寄せられている。また前作では高コントラストで目立っていたSONYロゴがグレーとなり、大人しめの主張となった。

レンズは左隅へ寄せられている

気になるレンズだが、前作が35mm換算で16mm、26mm、52mmであったのに対し、今回は16mm、24mm、70mmとなっている。標準レンズがややワイドになり、望遠側を伸ばした格好だ。さらに標準レンズにはZEISSを採用。T*コーティングと合わせて、光学系が大きく進化した。スペックは表組みでまとめておく。なおスペックは画角の広い順に並べたが、実際のレンズの配列は上から16㎜、70㎜、24㎜となっている。

標準カメラのみZEIZZ T*レンズを搭載

手ブレ補正は光学式と電子式を組み合わせたハイブリッド方式で、24mmと70mmにのみ搭載されている。元々超広角は手ブレの影響を受けにくいので、搭載しても効果が低いという事だろう。

また標準レンズのみ、センサーサイズが1/2.6型から1/1.7型と大型化されている。初代Xperia 1の1.5倍の感度だという。また超広角と標準レンズのみ、「デュアルPDセンサー」を採用している。

カメラ性能としての今回の目玉は、αで培われた技術が投入されているところだろう。標準レンズの下には、3D iToFセンサーを搭載。被写体へ赤外線を照射し、反射した時間を検出することで、被写体までの距離を測定する。暗いシーンにおけるAF性能が大幅に向上している。加えて最高20コマのAF/AE追従高速連写、瞳AFなど、動画だけでなく写真性能も大きく上がっている。

「Photography Pro」ではαの技術が盛り込まれた

これらの性能を引き出すため、静止画用にもプロ向けアプリが投入された。それが「Photography Pro」である。初代Xperia 1は「シネマ」の文脈で語られる機会が多かったが、本機はさらに静止画での評価も高まるだろう。

なお今回は専用アクセサリとして、「Xperia 1 II Style Cover View」もお借りしている。カバーが半透明のポリカーボネイト製となっており、カバーをしたままでも時間等の確認ができる。なおカバーのカラーは本体に合わせてブラック、グレー、パープルの3色展開となっている。

専用カバーの「Xperia 1 II Style Cover View」
カバー部は半透明のポリカーボネート製
カバーをしたままでも時間などが確認できる

画角のバリエーションが広がった動画撮影

では早速撮影してみよう。まずは動画からだ。撮影アプリは前作同様「Cinematography Pro」を使用した。4K・HLG・29.97fpsで、LOOKはVENICE CSを使っている。なおキャプチャ画像はカラーグレーディングを行なっている。

シネマ撮影アプリ「Cinematography Pro」

撮影日はあいにくの曇天ではあったが、光量はそこそこあった。ディスプレイの輝度を最大にして撮影したが、それでも海辺の光量ではOLED画面が見えづらかった。これから夏に向かっての撮影では、何かフード的な物が必要だろう。

アクセサリの半透明カバー部分がひさし代わりにならないかと考えてみたのだが、シャッターボタンの都合もあるのか、Cinematography Proは上下が反転してくれない。したがって半透明カバーをひさしがわりにするとアプリが上下逆になってしまうため、うまくいかなかった。撮影メインのスマホを名乗るからには、この辺りにもう一工夫欲しいところである。

前作と比較するとカメラ画角は超広角のみ変わらないが、標準と望遠の焦点距離が変更になっている。その理由としては、一般的な標準ズームの大半が24-70mmであることに由来するという。各カメラの画角としては次のようなイメージとなる。

超広角
超広角
超広角
標準
標準
標準
望遠
望遠
望遠

24mmと70mmでは間が空きすぎているように思えるが、画角のバランスとしては悪くない。24mmを基本に、ここぞという時に引ける、寄れる画角があるという点では、1台のスマホでバリエーションのある画角が撮影できるのが強みだ。

ただ気になるのは、望遠側の発色である。静止画撮影では差が分からないが、HDRで撮影すると、発色の鈍さが気になる。特に肌色が黒ずんだ感じになるのは残念なところだ。

最終的にはカラーグレーディングで合わせ込むことは可能だとはいえ、撮ったはいいがこれでは他のカメラと絵と繋がらないというケースも出てくるのではないだろうか。この辺りは望遠のみセンサーが「デュアルPDセンサー」でないことによる影響かもしれない。

4K/HLGによる撮影サンプル
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

手振れ補正については、16mmは補正が効かないものの、それほど大きな影響はない。一方24mmでの補正力は素晴らしいものがあり、レールを敷いての撮影と遜色ない補正力である。70mmではかなり健闘はしているものの、補正力としては限界を感じさせる。

手振れ補正比較
stab.mov(37.54MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

AFに関しては、レンズに絞りがないので常に開放で撮影することになるが、遠景ではそれほど被写界深度が浅くならないこともあり、接近する被写体に対しても実用上問題はない。シネマ撮影の場合はマニュアルフォーカスが基本ということもあるのか、静止画撮影ほどには高機能なAFが使えるようにはなっていない。

絞りは開放しかないが、AFも実用上問題ない
AF.mov(20.21MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

夜間撮影も行なってみたが、動画撮影では最大ISO感度が800までしか使えないため、シャッタースピード1/30程度ではそれほど明るく撮影できるわけではない。

夜景撮影テスト
night.mov(11.06MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

圧巻の静止画撮影

動画では画角の違いのほかはあまり変化点がないが、Xperia 1 IIの真骨頂は拡張された静止画機能にあるようだ。新搭載の「Photography Pro」では、UI上で常時カメラのフル機能にアクセスできるため、かなり凝った撮影も可能になる。

本機より新搭載となった「Photography Pro」

静止画撮影時は雨天で、しかも光量の乏しい室内だったが、何がなんでも明るく撮るのではなく、シックな雰囲気を残しつつ明るく撮れる。これは楽しいカメラだ。

16mm
24mm
70mm
少ない光量ながら発色も正確
透明感の表現も素晴らしい
望遠レンズも静止画ならば発色は悪くない

なお最高ISO感度はカメラ毎に異なる。16mmはISO 1600まで、24mmはISO 3200まで、70mmはISO 1000までとなっている。以下24mmで撮影した夜景ショットを掲載する。

ISO64
ISO100
ISO200
ISO400
ISO800
ISO1600
ISO3200

連写性能としては、秒間20コマの撮影が可能だ。ただしこの速度で撮影できるのは24mmカメラのみである。連続での連写枚数は筆者が試したところ、200枚のようである。

一眼並みの連写性能を誇る

総論

初代Xperia 1は、シネマ方向へ大きく振った、というか、ある意味振り切ったスマホだった。シネマを見るだけでなく、撮影まで踏み込んで、プロのワークフローにも影響を与えた点は、“ソニーの本気”を見た思いであった。

そして2世代目となる本機では、ソニーが総力戦で仕上げてきたマシンである。特にαのエッセンス注入は、かなり大きいインパクトを与えずにはおかない。絵作りの良さもさることながら、標準24mmカメラの突出したスペックと性能には舌を巻く。その両サイドを固める16mmと70mmのカメラも、画角のバリエーションを広げるにはちょうどいい焦点距離だ。

撮影していて個人的に感心したのは、AFの正確さだ。タッチしたポイントにAFがくるのはもちろんのこと、撮影中のAFの追従も外れることがなかった。唯一夜間撮影において、Cinematography Proでの動画撮影時、ISO感度を下げた時のみAF動作が怪しかった。これは暗すぎて光源しか写らなかったため、被写体がセンシングできなかったためだろう。

Xperia 1は動画職人が食いついたが、加えてXperia 1 IIは写真職人が食いつきそうな仕上がりである。ディスプレイの見やすさ、コントロールのしやすさも相まって、「これでいい」から「これがいい」に変わる瞬間が今かもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。