小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1060回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

今年最後の“耳ふさがない系”NTTソノリティ生まれ「nwm」、Cheero「CHE-643」

「耳を塞がない」が新ウェーブを確立

ヘッドフォン・イヤフォンのノイズキャンセリングは未だ根強い人気を誇る技術だが、それと同じぐらい耳を塞がない系の技術が伸びてきた。オープンイヤー型とも呼ばれているが、もう一段ブレイクするには、なにかもうちょっとズバッとしたネーミングが欲しいところである。

今回取り上げる「nwm(ヌーム)」は聞きなれないブランドだが、今年8月にNTTソノリティという会社が、耳元だけに音を閉じ込める、ワイヤードのイヤフォン「MWE001」をクラウドファンディングでリリースした。

そして今回、同じ技術を使ってワイヤレス化した「MBE001」の発表を期に立ち上げたコンシューマ向け音響ブランドが、「nwm」というわけである。

12月9日にクラウドファンディングを開始したnwm「MBE001」

もう1つ、Cheero「CHE-643」は、モバイルバッテリーやイヤフォンなどで知られるティ・アール・エイの製品。これまでも完全ワイヤレスや骨伝導など、新技術を積極的に取り入れて商品展開しているが、今回も耳を塞がない系としてイヤーカフ型で参入という事になる。

12月13日に発売を開始したCheero「CHE-643」

そんなわけで今年最後のZooma製品レビューは、耳を塞がない系イヤフォン2種をお送りする。来週は総集編となる予定だ。

新技術「PSZ」がキーの「MBE001」

耳を塞がないイヤフォンにはいくつかの方法があるが、骨伝導や軟骨伝導のほか、耳には入れるが真ん中に穴を開けたソニーの「LinkBuds」のほかは、耳穴の外で音を出して聴かせるという方法が中心となる。

nwmの初号機「MWE001」は、イヤーフック型で耳穴の外で音を出すという方法論は同じだが、周囲に逆相の音を拡散することで、音漏れを打ち消すという新技術「PSZ」(パーソナライズド・サウンド・ゾーン)が特徴であった。

ただワイヤードのイヤフォンは、接続相手が限られる。昨今のスマホはもうアナログ端子がなくなってきているので、利用するならポータブルアンプやトランスミッタを組み合わせる必要があった。

当初からワイヤレス化が切望されてきたわけだが、それを実現したのが今回の「MBE001」というわけである。現在「GREEN FUNDING」にてクラウドファンディング中で、製品送付は来年2月下旬を予定している。今回お借りしているのは試作モデルなので、量産モデルとは違いがあるかもしれないことをお断わりしておく。

ドライバ部は四角形で、裏面には耳穴へ向けて音を放出する穴がある。耳穴に入れるわけではないが、裏面全体がエラストマー素材になっており、肌への当たりは柔らかい。また前方2箇所、後方1箇所に逆相音を放出する穴があるのが特徴だ。

裏面に音の放出口がある
ドライバの三方に逆相の放出口がある

ドライバは12mmで、再生周波数特性は100Hz~20kHz。対応コーデックはSBC、aptX、AACとなっている。耳をグルッと回って後方には、バッテリー及び基板部がある。重量は片側9.5gで、再生時間は最大6時間。

【お詫びと訂正】記事初出時、再生周波数特性を「100Hz~2kHz」と記載しておりましたが、「20kHz」の誤りでした。お詫びして訂正します。(12月21日)

バッテリー部の底に物理ボタンがあり、曲のポーズやスキップなどに割り当てられている。完全ワイヤレスではタッチセンサーで操作するものも多いが、ちょっと装着位置を直そうと触っただけで何かが動作してしまうといったデメリットもあり、最近は敬遠される傾向があるようだ。

バッテリー部の底に物理ボタン

また頭に当たる部分には、着脱検知用と思われるセンサーがある。表面には充電などのステータスを示すLEDがあり、通話用のマイクもある。

後ろから耳にひっかけるスタイル
バッテリー部が耳の後ろに挟まる

充電ケースは平たいメガネケース型で、イヤフォンと充電端子はマグネットでくっつくため、特にはめ込みようの凹みなどは付けられていない。フタ部分には、本体のLEDが透けて見える構造になっており、フタを閉めても充電の様子が確認できる。なおケースにはバッテリーを装備しておらず、背面のUSB-C端子に電源を接続したときのみ充電される。

小型のメガネケース風の充電ケース
ケースとはマグネットで引き合う設計

低価格でゲーミングモードも搭載、Cheero「CHE-643」

Cheero「CHE-643」は、イヤーカフスタイルで耳たぶに固定するスタイルのイヤフォンだ。すでに発売が開始されており、価格は9,880円。12月26日までの期間限定で、各色200台、特別価格の7,900円で販売されている。

カラーはグレー、ブルー、ホワイトの3色展開となっている。今回はグレーモデルをサンプルとしてご提供いただいている。

イヤフォン部だが、10mmのダイナミックドライバを採用、対応コーデックはSBC、aptX、AACとなっている。防水等級はIPX5相当。

イヤーカフ型のイヤフォン部
ドライバは10mm径でやや小型

ドライバは、短いアームでバッテリーと基板部に接続されている。片側約10gで、耳たぶにぶら下がる構造ではあるが、バッテリー部が耳の後ろに挟まれる格好になるので、重さ的な負担は少ない。イヤフォン本体の連続再生時間は、およそ7時間。バッテリー部後方には物理ボタンがあり、こちらも同じくタッチセンサーによる誤動作を避けるため、物理ボタンを採用したとある。

耳たぶに装着するイヤーカフ型
バッテリー部は耳の後ろに挟まる

Lボタンを1回押すと、遅延時間が通常の約半分となる、「ゲーミングモード」に切り替え可能。もう一度押すと通常の「ミュージックモード」となる。押すたびにモード名がアナウンスされるので、どっちだかわからなくなることはない。

左右に物理ボタンを装備

充電ケースは、なかなか面白い。上下がちょうど半分にパカッと別れるようになっており、それぞれに片方ずつ収納する。収納位置が左右でちょっとだけズレており、イヤフォンのアーム部が互い違いに収まるようになっている。収納は磁石で引き込まれるので、端子位置がズレる事はない。右左を逆に入れても入ることは入るが、充電端子の位置が合わないので充電されない。そこは注意が必要だ。

ユニークなケース構造

上と下はただのゴムで接続されているように見えるが、充電端子はL側にしかなく、おそらくバッテリーもL側だけだと思われるので、このゴムの中に導線が通っているという事だろう。

ケース上下もマグネットでくっつくようになっている。またワイヤレス充電にも対応するなど、低価格ながらやれることは全部やった感のあるケースだ。

音質の違いは?

では早速音を聴いてみよう。まずは「MBE001」からだ。正式リリースの際にはEQ等が使える音質調整用のアプリも公開されるようだが、まだ一般公開されていないので、ノーマルの状態で試聴する。今回視聴したのは、今年10月にクラウドファンディングで制作されたという、PYRAMIDの5枚目のアルバムである。

一聴してわかるのは、音のクリアさだ。バランスがいいのはもちろんだが、高域音の伸びに雑味がなく、楽音1音1音がさらりと分離して聞こえる。逆相の放出が音質にどのような影響を与えているのか定かではないが、従来型の耳元でスピーカーを鳴らす系とは全然違った解像感がある。

耳穴から5mm程度浮いたところから音を放出しており、これが開放感のあるサウンドに繋がっている。低音はやや大人しめだが、アタックがしっかりしており、スラップベースの輪郭がよくわかる。正式版のアプリでちょっと補正してやれば、かなり良いバランスになるだろう。

耳へのフィッティングも良く、装着のズレ幅が少ない。誰が装着してもだいたい同じ位置に収まる設計となっている。従って装着ポジションによる聞こえ方のバラツキも少ないものと思われる。

左右のボタン1回押しで再生・停止、2回押しでスキップ、3回押しで曲戻しだ。左ボタンを2回押しホールドで音量アップ、右ボタンの2回押しホールドで音量ダウンとなる。

「CHE-643」は、なかなか音質評価が難しいモデルだ。というのも、イヤーカフ型なので取り付け位置にかなり幅があり、それに応じて音が全然変わってしまうからである。耳の上の方に付ければ高音が立ち、下に下げれば低音が出てくる。自分で好みの音の位置に装着できるかが勝負になりそうだ。

筆者好みの位置で評価するが、高域のシャキーンとした伸びが素晴らしく、非常に明るい音が特徴である。イヤーカフ型は一般に低域が弱まる傾向があるが、本機も若干その傾向がありながらも低音の芯は捉えている。一定以上の音量を上げると低音が出てくるポイントがあり、そこを超えれば音楽的にも気持ちいいバランスで鳴ってくれる。このあたりは耳への取り付け位置や角度でも変わってくるので、装着位置を上手く調整する必要がある。

音楽再生よりも、動画視聴のほうが向いているように思う。Netflixで昨年のM-1の敗者復活戦を試聴したが、音声帯域の明瞭感が高く、ゲーミングモードにすれば、Bluetoothイヤフォン特有のリップシンクのズレも気にならない。

音漏れと音声通話はどうか

「MBE001」は、音漏れが少ないことがポイントとなっている。そこでダミーヘッドにイヤフォンを装着し、Pixel 6aに接続して最大ボリュームで再生して、顔の前でどれぐらい音漏れするのかを調べてみた。使用した音源は、フリー音源提供サイト「DAVA-SYNDROME」で公開中の、「Flehmann」氏による「With You」である。

最大ボリュームで、なおかつドライバが耳から浮いている状態なのだが、音漏れはかなり小さい。音漏れしないわけではないが、最大ボリュームでこの程度ならかなり小さいほうだろう。

一方で「CHE-643」も同じ条件で試してみた。こちらはドライバが耳たぶにくっつく格好になるため、隙間はあまり空いていない。フルボリュームでもそれほど大音量にならないという事もあり、音漏れ具合はだいたい同じ程度である。

音漏れ具合をテスト

どちらも外音がガンガンに聞こえてくるので、そもそもうるさい場所での使用には向いていないわけだが、静かな場所での音漏れはエチケットとして気になるところだろう。どちらも適度なボリュームであれば、それほど音漏れを気にするほどでもないだろう。

いつものショッピングモールで、音声通話もテストしてみた。収録は火曜日で、土日ほどの人出はないが、それなりにうるさい場所である。

「MBE001」は収録音声にかなり強いノイズリダクションがかかるのがわかる。筆者の声とともに、場内アナウンスも聞こえてくるあたりは、音声のみを抽出するアルゴリズムがちゃんと動いているという事だろう。若干音声がキュワキュワした感じになるが、音声の明瞭感はあり、昨今の通話ノイズリダクションとしては平均的な動作である。

「CHE-643」は、声質もあまり変わらず良好なリダクションではあるが、いかんせん出力音声が小さい。会議アプリなどで入力音声をブーストできればいいのだろうが、標準状態では会話にならないだろう。実際筆者も収録音声を「CHE-643」を使って聴き直そうとしたが、音声が小さすぎて聴き取れなかった。音質的には良好なのだで、ファームアップなどで音量の問題が解決できれば、使いやすいイヤフォンになりそうだ。

音声通話のテスト

総論

耳を塞がない系が人気の理由は、多くの人のイヤフォン装着が長時間化していることが上げられる。耳穴に長時間異物を入れていれば、皮膚への負担が大きくなる。2~3日ならともかく毎日ともなれば、衛生的にも問題になるほか、外耳炎などの疾患にも注意が必要となる。

耳を塞がないイヤフォンであれば、耳穴への負担が減るとともに、日常生活でも付けたり外したりする必要が減る。音は鳴っていないが付けっぱなし、という状態もあり得る。

その点では、「CHE-643」の連続7時間再生は魅力だ。充電時間も1.5時間となかなか早い。音楽再生で聴くには装着にコツが必要になるが、会議等では使いやすいだろう。ただ集音性能が低いので、マイクは別途必要になるのが惜しい。

「MBE001」は期待のワイヤレス化ということで、注目度の高い製品だ。早くもクラウドファンディングでは、割引率の高いプランから終了しており、やはりそれだけ切望されていた製品ということである。

最大音量では音漏れはまったくゼロではないが、結構耳穴からの距離があるわりには音漏れはかなり軽減されている。適度な音量であれば、まず周囲に迷惑がかかるような事にはならないだろう。音質的にも優れており、今後アプリの登場も楽しみである。

イヤフォン、ヘッドフォンにも多くの選択肢が出てきた。“さあ聴くぞ”ではなく、普段使いで仕事や生活も音楽流しっぱなしでいけるようになったのは、大きな変化であろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。