小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1130回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

「明るさは正義」3色レーザー光源で回転するプロジェクタ。JMGO「N1S Ultra 4K」を試す

5月29日より先行予約がスタートした「N1S Ultra 4K」

初めてのJMGO

テレビでは、もはやテレビ番組を視聴しておらず、ネットサービスばかり見ているという人も多いと聞く。だったら場所を取るテレビではなく、大画面プロジェクターに買い換えるという選択はアリだろう。これまで部屋のレイアウトはテレビを中心に考えてきたが、適当な壁さえあればどこにでも写せるプロジェクターは、部屋の使い方を2倍にも3倍にも広げてくれる。

これまでガツンと光量のあるタイプは大型の据え置き型というのが常識だったが、この連載でも取り上げてきたように、最近はポータブルプロジェクターでもかなり明るいものが出てきている。

今回ご紹介するのは、JMGO(ジェイエムゴー)という中国メーカーの新製品「N1S Ultra 4K」だ。JMGOは2011年創業のスマートプロジェクター企業で、3色レーザーを使った光学システムに特徴がある。2022年に「N1 Ultra」および「N1」という、脚部付きのプロジェクターを展開し、人気となった。筆者も名前と製品写真ぐらいは知っていたが、実際にJMGO製品を試すのは初めてである。

現在N1シリーズは公式サイトでは終売となっており、それに代わるシリーズとして4Kモデルの「N1S Ultra 4K」とフルHDの「N1S」がリリースされたところだ。現在公式サイトでは先行予約販売が行なわれており、N1S Ultra 4Kが定価342,980円のところ、20% OFFの274,384円となっている。

3,000 ANSIルーメンを誇るという3色レーザーの最新モデルを、さっそく試してみよう。

レーザーの割には小型

JMGOのウリはなんといっても、映画館などで使われている3色レーザー光源を家庭用にまとめたという点につきる。これまで3色レーザーが家庭用で難しかったのは、小型化、発熱、価格などの面で不利だったからだが、N1S Ultra 4Kはサイズ的にはそれほど大きくはない。標準でバリアングルの脚部が付いてくるため大きそうに見えるが、本体はそれほどでもない印象だ。

サイズ比較のためにパソコンのキーボードを置いてみた。思ったほど大きくない

光源に使用されているレーザーモジュールは日本の日亜化学工業製の「Qualas RGB」。日亜化学は今年1月に、レーザーダイオード技術が映画業界の発展に貢献したことを評価され、映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences: AMPAS)よりアカデミー科学技術賞を授与されている。

レーザー光源は、そのままではレーザースペックルと呼ばれるランダムノイズが発生する事が知られており、これを抑制するために様々な技術開発が行なわれている。

JMGOではレーザー光を拡散するための拡散板を上下左右にランダムに振動させる、LSR(Laser Speckle Reducer)を開発し、搭載した。スペックル除去率は業界標準を大きく超える97%を実現している。

投影倍率1.2:1の光学レンズ
レンズ脇に各種センサーがある

また発色面でも非常に広色域で、BT.2020のカバー率は98%。特にグリーン方向でBT.2020の範囲を大きく超えているのが特徴だ。グリーンの発色は輝度にも大きく影響するところである。

投影方式はDLPで、0.47インチDMD方式。表示解像度は3,840×2,160の4Kで、コントラスト比1,600:1のHDR10対応。最大投影サイズは180型だが、推奨は100~150インチとなっている。投影距離としては2.6mから4m程度だ。オートフォーカスや台形補正、壁色自動適応、障害物回避といった、昨今当たり前になりつつある機能は当然備えている。

スピーカーは10W×2で、Dolby Digital、Dolby Digital Plus、DTS HDに対応。搭載OSはGoogle TVだ。外部入力としてはHDMI×2系統で、そのうち1つはeARC対応。USBポート、ヘッドフォン端子もある。Wi-Fi 6、およびBluetooth 5.1にも対応しており、コーデックはAACとSBCに対応する。

両側面にスピーカーを配置
入出力端子はすべて背面

特徴的な台座部分は、上下角が調整できるだけでなく、スタンド底部に回転機構があるので、2軸で回転できる。台座部の正面に電源ボタンがあるのもユニークだ。また電源ケーブルは台座のアーム部に後ろから突っ込むようになっている。

台座部分に電源ボタンがある
ACアダプタは脚部に接続する
ACアダプタはかなり大きめ
脚部のおかげで真上にも投影できる
底面に回転機構を持つ台座部分

リモコンも見ておこう。Google TV対応リモコンとしてはそれほど特殊でもない。強いて挙げれば「設定」ボタンがあるので、Wi-Fiや音声モード切り換えなどベーシックな設定変更はやりやすい。

付属のリモコン

ショートカットボタンはYouTube、入力ソース、Netflix、Prime Videoに対応。それぞれ専用アプリをインストールしていくスタイルだが、他にGoogle TV製品を使っていれば、Googleアカウントを設定するだけで紐付けされているサービスが自動でインストールされる。

Google TVのアカウント情報を入力すれば、これまで使用したサービスのアプリが自動追加される
製品箱にハンドルが付いており、そのままキャリングケースとして利用できる

発色・解像度ともに十分な性能

ではさっそく投影してみよう。本体重量は4.5kgなので、片手で持つには若干厳しいところだが、付属の台座でパン・チルトが軽く動かせる。だいたいのところに設置したら、あとは回転角で調整できるので、設置はかなり簡単だ。

プロジェクター設定では、「シームレス台形補正」が強力だ。これはプロジェクターを動かすとほぼリアルタイムで台形補正が追いついてくるという機能だ。もうちょっと右だったとか投影角を微調整したい時に、手動で再調整する必要がない。

プロジェクターの動きに対して台形補正をリアルタイムで追従させる「シームレス台形補正」

投影の明るさは、マニュアルで10段階あるほか、「適応明るさ」に設定すれば環境光を測定して自動的に適切な明るさに設定してくれる。またマニュアルで10に設定すると、さらに「ウルトラ明るさ」モードが使用できる。ただしこのモード使用時には、壁面色自動適応といった自動色温度機能が強制的にOFFになる。RGBレーザーそれぞれが全力を出すからだろう。

「適応明るさ」で環境に合わせた明るさに自動調整できる
最高輝度の「ウルトラ明るさ」では、自動色温度機能がOFFになる
上位モデルで搭載が増えている壁面色自動適応機能

今回はAmazon Prime Videoで配信されている「The Boys」を視聴した。4K HDR作品である。

まず夕暮れ時に外光が入らない状態で視聴してみた。厚手のカーテンをひいているが、完全に真っ暗にできるわけではない。だが、さすがに3,000 ANSIルーメンは明るい。黒が沈まないのは仕方がないが、輝度は十分で、コンテンツの視聴には問題ないレベルだ。レーザースペックルに関しては、さすがに97%も抑えられていると目視ではまず見つけることはできない。

オーディオに関しては、かなり低音まできちんと出るユニットを使用しており、ステレオ感もちゃんとある。サウンドスタイルとしては標準、音楽、映画、スポーツの4種類がある。「標準」でもかなり低音が出るバランスだが、「映画」だとよりその傾向が顕著になる。Netflixのオープニング、「ダダーン」というサウンドロゴも鋭いアタックが十分に表現されており、心臓にドーンと来るインパクトが楽しめる。一方で音楽やスポーツは低域が抑え気味になるチューニングになっている。

音がいいので「サウンドスタイル」は積極的に使いこなしたいところ

一方で背面からレーザーの熱を排気しているが、このファン音が若干気になる。にぎやかなシーンでは気にならないが、無音に近い緊張感のあるシーンでは気になるところだ。

外部入力もあるということで、コンピュータ画面を入力してみた。筆者はふだん4Kテレビを外部ディスプレイとして使用しており、この広さのデスクトップに慣れてしまっているが、「N1S Ultra 4K」もHDMI入力で4Kに対応する。

HDMIケーブルを挿すと自動的に信号を認識し、入力を切り替えてくれる。プレゼンなどで使用する際にも、2つあるHDMIのどちらに挿しても自動認識して切り替わるので、入力切り換えでモタモタすることもない。

HDMIが接続されると自動で入力が切り替わる

実際にテキストを読むにはある程度近づかないと文字が小さいが、解像度は十分だ。さすがに常時プロジェクターで仕事するのは現実的ではないが、まあまあ明るい場所でも大型ディスプレイ替わりとして使える強みがある。

PC画面を4Kで出力しても十分に仕事できるレベル

HDMIを抜くと、Google TVのホーム画面には自動で戻らない。仕事の話をしているときにエンタメ画面が出て話が逸れるといったこともないところは、よく考えられている。

総論

現在家庭用プロジェクターの世界では、1,500ルーメン以下のLED光源のものが広く普及しており、HD解像度の製品なら価格もこなれている。それ以上になると、次のステップは3,000ルーメン以上の4K対応ということになるわけだが、ここのエリアは据え置き型が主流となる。

その点において、設置場所を選ばず、スタンド内蔵で投射角が自由に選べる4K・3000ルーメンの「N1S Ultra 4K」は珍しい立ち位置の製品だ。これまで筆者もプロジェクター製品を多く扱ってきたが、毎回投射角の微調整には、消しゴムやらビンのフタを挟んだりと、割とダサダサな方法が必要だった。テンポラリな設置なので、そこまでキッチリやる必要もなかったからだ。

一方JMGO製品は最初からスタンド付きで、設置場所から角度を微調整するのが前提の設計なので、家庭内でポン置きして使うには想像以上に便利だった。置き場所をいろいろ変えてみたいという人には、ピッタリの製品だろう。

エンターテイメント用として家庭用でも活躍するだろうが、投射角の調整が簡単なので学校や自治体などでのイベント用としても便利なのではないだろうか。製品箱がそのままキャリングケースになるので、保管も簡単だ。

先行予約中なら価格も30万円を切っているのが嬉しい。なお先行予約は6月23日で終了するので、購入するなら今週中に決心したほうがいいだろう。「明るさは正義」というプロジェクターの絶対法則からすれば、買って損のない製品だ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。