小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1163回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

小型ながら「間違いない」音。EDIFIER 「M60」を聞く

昨年発売のコンパクトスピーカー、「M60」

ハイレベルを維持するPCスピーカー

昔はPC向けスピーカーを真剣に語るなら、DTMをやる人がアクティブ型モニタースピーカーを選ぶとか、ハイレゾ再生のためにいいDACと組み合わせて……みたいなイメージだった。しかし昨今はアクティブスピーカーも低価格化と高性能化が進み、そんなにこだわらないけどいわゆる「コスパがいいスピーカー」ならPC用が狙い目、と判断する人もいる。

そんなユーザーが注目しているのが、今のところCreativeとEDIFIERなのかなという気がしている。本連載でも今年に入ってすでにEDIFIER「MR3」とCreative「Pebbel Nova」を取り上げたところだ。

Pebbel Novaは純粋にリスニング用だが、MR3はどちらかといえばDTM向けの製品である。手動による音質補正ができるなど、厳しい耳の持ち主なら高コスパだが、単なるリスニングではもう少し入力数が欲しい。

そうしたニーズを満たすのが、EDIFIER「M60」である。昨年10月の発売だが、ニアフィールドでのリスニングに特化した小型スピーカーとして人気が高い。直販価格は23,980円と、MR3よりちょっと高いが、18日現在(原稿執筆時点)では公式サイトでクーポンコードを配付しており、適用すると18,980円で購入できる。今回はこのM60の音質、それから使い回しといったところをチェックしてみたい。

派手さを抑えたデザイン

もうすでにMR3は返却してしまったので直接的な比較はできないのだが、M60はMR3より一回り半ぐらい小さい。MR3がいかにもミキサー卓の肩に乗っていそうなルックスだったのに対し、M60は正面から端子やスイッチ類も見えず、主張しないデザインとなっている。カラーはブラックとホワイトがあり、今回はブラックをお借りしている。

M60 ブラックモデル

ドライバは1インチ15Wシルクドームツイーターで、これはMR3と同じ。ミッド/ベースドライバは3インチ18Wで、MR3の3.5インチより一回り小さい。キャビネットは一見金属製のように見えるが、実は木製で、マットコーディングによる仕上げも上品だ。背面の上部にバスレフポートがある。

1インチシルクドームツイーター
3インチミッド/ベースドライバ

アクティブスピーカーなので、右側に入力部やアンプがある。入力はUSB-C、3.5mmアナログ、Bluetoothが使える。USBはパソコン直結で24bit/96kHzまで使え、ハイレゾに対応する。周波数特性は58Hzから40kHzと、MR3とほとんど変わらない。

スピーカー背面。右側のみ入力と電源端子がある
右側入力部

Bluetoothコーデックは、SBCとLDACという、極端な組み合わせ。Bluetoothは主にスマホ音源で使用することだろうが、LDAC対応スマホかどうかは重要だ。アンプは高性能アナログオーディオフロントエンド(ADC)と、Texas Instruments製Class-Dデジタルアンプを採用しており、最大出力は33W×2となっている。

左右の接続は、4芯のマルチケーブルとなっている。電源はメガネケーブル直挿しで、ACアダプタはない。

左右は4芯マルチケーブルで接続

右側の天面にはタッチパネルがあり、手を近づけると点灯する。電源のON/OFF、入力切り替え、ボリュームアップダウンに対応する。

右側天面にタッチセンサーがある

また製品には、仰角が付けられるアルミスタンドも付属している。机の上に置いて近くで聴く場合はツイーターの指向性や音の反射が問題になるので、利用するべきだろう。

アルミスタンドに乗せて仰角をつけたところ

本機では他のスピーカーやヘッドフォンと同じく、EDIFIER Connentアプリで設定変更や調整が可能だ。スマホに対していったんBluetooth接続しないと使えないが、繋がったあとは入力をUSBなどに変えても、コントロールは維持する。

コントトールソフトはEDIFIER Connect

LEDライトなどの装飾機能はまったくないので、主に設定変更はEQという事になる。また上部センサーの待機時間や感度も設定変更できる。

いろんなところで試したいペアスピーカー

ではさっそく試聴してみよう。今回はM4 MacMiniの前面USBポートに直結し、Amazon MusicからDEZOLVEが昨年発表したアルバム「Asterisim」をハイレゾ音源で聴いていく。

日本のフュージョンバンドらしい、音ツメツメながらもクリアなサウンドが持ち味のバンドだが、M60では端正な表現力でその良さがよく出ている。バスドラがドコドコ出るタイプではないが、ミッド/ベースドライバはロングストロークなので、アタック感のあるサウンドもよく再現できる。このサイズ感としては、かなり低音も出て、納得のバランスである。

音の広がりは左右をどれぐらい離すかで調整できるので、ステレオイメージサイズは自分で調整すればよい。個人的には、視聴までのスピーカーの距離と同じぐらい、つまりスピーカーと聴き手の距離で正三角形になるぐらい離した方が、良さが出るように思える。

センターへの音の結像・定位感は、若干ふんわりしている印象だ。その点では、モニタースピーカーよりはリスニング向けという事だろう。

アプリによるEQは「音楽」、「モニター」、「ゲーム」、「映画」、「カスタマイズ」の5種類。デフォルトは「音楽」になっている。「モニター」は「音楽」をベースに少し高域を抑えた音。あまり派手に聞こえないようチューニングされているようだ。

EQは4プリセットとカスタムが使える

「ゲーム」は「音楽」をベースにしながら、低域を持ち上げた音。いわゆるイマドキのスピーカーの音であり、もう常時これでいいという人もいるだろう。個人的には一番気に入ったモードである。

「映画」はかなり低域に寄せて、迫力を重視したサウンド。小型スピーカーでもこんなゴリッとした低音が、という驚きが感じられる。映画鑑賞もいいだろうが、音楽再生でもバランスを壊すことはないので、聴き疲れしない音がいいという方はこのモードがいいだろう。ただ大音量で聴く場合、低域の一部に共振するポイントがある。

カスタマイズは6バンドのグラフィックスEQだが、可変範囲が±3dBと小さい。極端な音作りはできないが、ちょっとした物足りなさを補正することはできる。

EQは可変範囲が狭い

MR3とM60はほぼ同じ時期に登場したので、どういう棲み分けなのか気になるところだろう。MR3はモニタースピーカーらしく、アナログ入力で鳴らすのがデフォルトで、入力された音は切り替えなしに全部がミックスされて出るという仕様になっていた。

左右の接続は普通のスピーカーケーブルなので、リケーブルなどのカスタマイズもできる。基本的には、自分でいろいろいじりたい人向けのスピーカーだ。

一方M60はリスニングスピーカーなので、仕様は一般的なBluetoothスピーカーに近い。Bluetooth、アナログ、USBの入力切り替えがあり、1系統ずつ鳴らすことになる。

USB入力はパソコンと組み合わせることになるだろうが、MR3よりも小型なので移動も楽だ。電源さえ確保できればどこにでもおけるので、今日はダイニングテーブルで仕事する、みたいなときにパッと置けるのは魅力だ。テレビスピーカーとしての素性も良く、いろんなところに置いて聴いてみたい音である。

いろんなところに移動できて、ちゃんした音が出るのが魅力

ただ、スピーカーがむき出しでカバーなどはないので、移動の際には誤って指を突っ込まないよう注意していただきたい。できればエンクロージャのサイドに、指がかりの突起や凹みがあると良かったかもしれない。

スマホ再生の場合はBluetooth接続になるだろうが、スマホがLDACに対応していない場合は、USBポートに繋いで再生できる機種もあるようだ。Google Pixel 8ではUSB接続で再生できた。一方iPhone 12 miniでは、LightningとUSB-Cの変換コネクタを使用しても、USBオーディオとして認識しなかった。昨今はiPhoneでもUSB-C端子になっているので、USB-C搭載iPhoneならば繋がるのかもしれない。

可搬性に関しては、一体型になっているサウンドバー型スピーカーに軍配が上がるところだが、ノートパソコンとは組み合わせられない。どこにでも置ける1ペアのスピーカーがあるのはなかなか便利だ。

総論

音楽の再生装置として、今はイヤフォン・ヘッドフォンが主力だ。スピーカーで音楽を聞くなど、もうしばらくやってないという人もいるかもしれない。イヤフォンはなくしたり、壊れたりと割と買い換えも多いと思うが、スピーカーは無くすということが考えられず、あんまり買い換える機会もないので、割と古いスピーカーを使っている人も多いだろう。

昨今スピーカーも各種技術革新が進み、小口径でも音楽用としては十分な低音が出せるようになっている。人間の可聴音域は下は20Hzからと言われているが、実際には楽音で20Hzが出せる楽器はほぼなく、どちらかといえば振動に近い音である。そこまでの特性にこだわらなければ、小型スピーカーも十分なクオリティで音楽再生が可能になっている。

M60は片手で持てる程度の小型スピーカーだが、出てくる音は非常によく整理されている。デザインも控えめなので、シックな部屋にもマッチする。部屋で鳴らす場合、本棚などに乗せても収まりがいいだろう。奥行きは15cmぐらいで、そこから後ろにケーブルのコネクタが出ることになるので、四六判の本と奥行きがだいたい合う。

ハイレゾも対応して、この価格というのは非常にコスパのいいスピーカーだと言える。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。