小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1164回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ハッセルブラッドとAIの融合「OPPO Find X8」、Dolby Atmos対応タブレット「OPPO Pad Neo」を試す

日本で存在感を高めるOPPO

中国のスマートフォンメーカー「OPPO」が日本に参入したのは2018年のことだった。当初は廉価SIMフリーのスマホが相次いで日本参入を始めた時期であり、OPPOもそんなスマホメーカーの一つだと思われていた。だがOPPOはいち早く日本市場向けのカスタマイズに踏み切り、おサイフケータイ機能を搭載するなどして、2020年には日本のキャリアからも採用。安いだけで終わらない戦略へとシフトしてきた。

昨年12月には、スウェーデンのカメラブランド・Hasselbladと共同開発したカメラシステムを搭載した「OPPO Find X8」を、日本で発売した。OPPOでは以前からHasselblad協同開発モデルを作ってはいたが、日本市場に持ってきたのはこのFind X8が最初となる。またSoCには日本ではまだ珍しい「MediaTek Dimensity 9400」を採用し、AI対応の強さをアピールする。オープン価格でキャリアモデルもあるが、OPPOの公式ECサイトではSIMフリー版が139,800円となっている。

「OPPO Pad Neo」は、Find Xと同時に発表された11.4型タブレット。薄型ながらDolby Atmos、ハイレゾ再生にも対応したクワッドスピーカーを搭載したことがポイント。ディスプレイはLCDだが、2.4K解像度で読書や文書確認などにも使えるという。価格はオープンだが、公式ECサイトでは44,800円となっている。

今のOPPOの実力を検証するにはいい機会だ。今回はこの2台を試用してみる。

特徴的なデザインのボディ

OPPOとしては、Hasselblad共同開発カメラシステム搭載スマホを日本で展開するのはFind X8が最初となる。このあたりのニュアンスが微妙で、Hasselblad共同開発カメラシステムが日本で展開されるのが初、という誤解もあるようだ。

Find X8 スターグレイモデル

Hasselbladはすでに多くの企業とコラボレートしており、筆者が知る限りでは2017年にモトローラのスマートフォン向けに専用カメラユニット「Hasselblad True Zoom」を展開したほか、2021年には「DJI Mavic 3」のカメラシステムを共同開発している。またプロ機では、Blackmagic URSA CINEシリーズでHasselbladマウントも採用されるなど、動画の世界ではLeica、zeissに続くハイブランドとして注目されているところだ。

Find X8はスターグレーとスペースブラックの2色展開で、今回はスターグレーをお借りしている。

特徴的なカメラシステムは、背面に円形のユニットとして搭載されており、超広角、広角、望遠の3カメラ構成となっている。一番下もレンズに見えるが、実際はここに各種センサーが集められている。各カメラのスペックは以下のとおり。

左が超広角、上が望遠、右が広角カメラ
画角焦点距離F値センサーOIS
超広角15mm2.0Samsung JN5×
広角24mm1.8SONY LYT-700
望遠73mm2.6SONY LYT-600

画素数はすべて50MPに統一されており、カメラを変えるたびに解像度が変わるということがないように設計されている。センサーの特徴としては、Samsung JN5は2024年に発表された1/2.76インチセンサーで、低光量下でのSNの良さに特徴がある。ソニーのセンサーは2023年に発表された「LYTIA」シリーズで、LYT-600は1/2インチ(1/1.95)の全画素オートフォーカスをポイントとする普及帯モデル、 LYT-700は1/1.56インチのHDR対応センサーとなる。

カメラの実装としては、0.6倍から1倍未満が超広角カメラ、1倍から3倍未満が広角カメラ、3倍から18倍までが望遠カメラという切り分けになっている。

静止画0.6倍
動画0.6倍
静止画1倍
動画1倍
静止画2倍
動画2倍
静止画3倍
動画3倍
静止画6倍
動画6倍

また望遠レンズは、プリズムを使って光軸を3回折り曲げるという世界初の「W型プリズム望遠レンズ」となっている。全長が長くなりがちな望遠レンズを薄型筐体へ実装する工夫で、確かに73mmという焦点距離から考えれば、カメラ部の出っ張りは少ない。

ディスプレイは約6.6インチ、2,760×1,256のAMOLEDで、リフレッシュレートは120Hz。標準輝度は800nitsで、最大輝度は1,600nitsとなる。またHDRコンテンツ再生時のピーク輝度は4,500nitsとなっている。

ディスプレイはHDR対応AMOLED

SoCとなる「MediaTek Dimensity 9400」は昨年10月に発表されたばかりのフラッグシップで、CPU・GPU性能のみならず、AIの使用にも最適化されたことで話題となった。AI機能としては画像処理のほか、テキストの要約や校正といった機能を持つが、テキスト関係については日本語対応が今年3月以降のソフトウェアアップデートでの対応となる。よって今回は画像処理関連機能のみテストしてみる。

OSはAndroidベースの独自OS「ColorOS」を採用しており、純正のAndroidとは若干見た目が違う。アプリストアも独自のAppMarketがあるが、Playストアも問題なく使えるので不便さはない。サイドボタンもボリュームが上、電源ボタンが下など一般的なルールと違う部分もあるが、すぐに慣れる。

OSはオリジナルのColorOS
独自のアプリマーケットがある
サイドボタンはボリュームが上側にある

機能豊富なカメラシステム

カメラ撮影モードは、表面に出ているものが「マスター」、「動画」、「写真」、「ポートレート」の4種。あとは「その他」の中に収められている。「マスター」は露出やISO感度、ホワイトバランスなどがすべてマニュアルで設定できる静止画モードである。

「その他」の中にあるカメラモード

写真と動画では、「スマートシーン」として、打ち上げ花火やステージなど撮影が難しいシーン専用モードがある。また15パターンのフィルターが用意されており、動画静止画両方に使用できる。

「写真」で使えるスマートシーン
フィルター:オリジナル
フィルター:フレッシュ
フィルター:エメラルド
フィルター:クリア
フィルター:鮮明
フィルター:輝き
フィルター:静けさ
フィルター:ナチュラル
フィルター:食べ物
フィルター:寒色
フィルター:暖色
フィルター:刺激的
フィルター:フェード
フィルター:モノクロ
フィルター:単色
フィルター:サイバーパンク

ポートレートモードでは自動で3倍カメラに切り替わり、被写界深度が設定できる。デフォルトはF4.5だが、F1.4からF16までバリアブルに可変できる。ただ物理絞りがあるわけではなく、後処理でボケを加えるようだ。

F1.4
F4.5
F16

ビューティモードも備えており、0から100までバリアブルで設定できる。ただ50以上になると、肌のディテールがなくなるため、メイクにメイクを上塗りしたような印象になる。

ビューティ0
ビューティ50
ビューティ100

動画撮影では、最高4K/60pの撮影が可能。通常撮影に加えて、ドルビービジョンによるHDR撮影もできる。ただドルビービジョンのバージョンなどは不明で、基本的には自己録再で完結することが前提だろう。

ドルビービジョンのHDR撮影

また「その他」の中に「映画」モードもあり、こちらで撮るとデフォルトで3,840×1,648(21:9)のHDR撮影になる。

映画モードで撮影

動画の手ブレ補正はすべてのカメラで効くが、広角と望遠カメラは光学補正も効く。こちらは手動でOFFにする設定がなく、標準で効きっぱなしになっているようだ。広角カメラで手ブレ補正のON・OFFを比較したが、元々光学補正が効いていることもあり、それほど大きな差は出なかった。

手ブレ補正は元々光学補正が効いているため、電子補正を加えてもそれほど差が出ない

スローモーションは、720pが240fpsと480fps、1080pが240fpsの3モードから選択する。今回は1080/240fpsのサンプルを掲載しておく。

1080/240fpsのサンブル

音声収録に関しては、「サウンドフォーカス」という機能がある。背景のノイズを抑制して収録音声を明瞭にする機能だ。Google Pixelにある「音声拡張機能」と似たような機能である。ただ効果としては派手に効くわけではなく、ナチュラルさが感じられる。ただ動画撮影中でもモードが変えられるというのは、他にないユニークな機能だ。

「サウンドフォーカス」をテスト

夜景モードは昨今の流行りだが、要するに自動的に長時間露光してくれるモードである。特に広角はレンズも明るくセンサーも上位モデルなので、最も良好な結果が得られる。

街灯が1灯しかなく、目視ではほぼ真っ暗な道
星も撮影できる

AIによる補正機能も充実

AIによる画像補正機能は、静止画に対して利用できる。可能な効果としては、トリミングで拡大した画像を鮮明化する「鮮明度強化」、指定したオブジェクトを消去する「AI消しゴム」、シャッタースピードが遅い場合の被写体のブレを補正する「ぼけ除去」、ガラスの反射を除去する「反射除去」の4つがある。

AI補正機能は4つ

「鮮明度強化」を試してみよう。オリジナルの画像からトリミングした画像が以下だ。

オリジナルの写真
単純にトリミングしたもの

これに対して「鮮明度強化」を適用してみる。

「鮮明度強化」を適用したもの

一見すると大してディテールが変わらないように見えるが、単純にトリミングした画像は380×453ピクセルである。一方AI補正した画像の解像度は、3,436×4,096ピクセルになっている。ディスプレイ上ではそれほど違いがわからないかもしれないが、プリントなどするときにこれだけの解像度があれば、かなり良好な出力が得られる。

続いて「反射除去」を試してみる。車の窓越しに撮影した映像に対して効果を適用してみた。

オリジナル写真
「反射除去」を適用したもの

確かにガラス越しという雰囲気は残したまま、反射した不要な風景が綺麗に消えている。どれが反射なのかを人間が指定することなく、AIが自動で判別してくれるのは助かる。また全体に青みを引いていることもあり、暖色に近い色味になっている。青空の反射も取り去ったということだろう。

昨年末にAdobe PhotoshopでAIによる「反射の削除」機能が搭載されて話題になったが、現在はRAWで撮影された写真にしか使えない。一方本機の機能はJPGでも使え、処理にかかる時間も10秒程度なので、試す価値はある。

11.4インチ薄型タブレット「OPPO Pad Neo」

「OPPO Pad Neo」は、11.4インチ、2,408×1,720ドットのLCDディスプレイを搭載するタブレットだ。最大輝度は400nitsで、リフレッシュレートは最大90Hz。CPUに「MediaTek Helio G99」を採用し、GPUはArm Mali-G57 MC2。メモリーは6GBでストレージは128GBとなっている。

11.4インチのLCDディスプレイを搭載する「OPPO Pad Neo」
背面のカメラのデザインがユニーク

バッテリーは8,000mAhで、連続使用時間は動画再生で約14.5時間。33Wの急速充電に対応する。

重量は約538gだが、専用カバーを付けると合計822gとなる。ズッシリしているわけではないが、ずっと持っているのは辛いというぐらいのバランスである。

1,720×2,408ドットという画面比はほぼ1:√2(1:1.4142)となり、これは俗に白銀比と言われている。美しい比率としては黄金比の1:1+√5/2(1:1.618)が知られるところだが、黄金比はおもに西洋において美しいとされた比率で、パルテノン神殿を正面から見た縦横比がこれである。

一方白銀比は日本で古くから美しいとされてきた比率で、法隆寺金堂の上下の屋根の横幅の比率、同じく法隆寺五重塔の最上位と最下部の屋根の横幅の比率がこの白銀比となっている。この白銀比は印刷でもよく使用され、A版とB版どちらも縦横は白銀比となっている。

Fire HD 10(左)と比較

長々と説明して何が言いたいかというと、B5サイズで作られたパワポとか、A4サイズで作られたPDFとかを表示すると、ほぼ画面全域を使ってピッタリ表示できるわけである。縦や横に余りが出ないので、ディスプレイに無駄ができない。

パワポ資料もピッタリ表示

タブレットをパソコンの代わりにしたいという人ならもう少しメモリーやプロセッサなどが強力なほうがいいだろうが、確認やちょっとした修正に使いたいという人は、使いやすいサイズだ。

またオーディオ面では、スピーカーを左右2つずつ、合計4スピーカー構成となっており、Dolby Atmosおよびハイレゾオーディオの認証を取得している。

片側にスピーカーを2基ずつ搭載

昨今はノートPCでもなかなかの低音を出すモデルも出てきており、高効率スピーカーの薄型化が進んできている。OPPO Pad Neoでハイレゾの楽曲はどのように聞こえるのか、興味あるところだ。Amazon Musicでいつもサウンドチェックに使っているドナルド・フェイゲンの「Morph the Cat」を再生してみた。

ベースの低音が特徴的な楽曲だが、OPPO Pad Neoでもなんとか頑張って再生しようとしているのはわかる。ゴリッとした低音の輪郭はわかるのだが、基音部分がやはり出し切れていない。ボーカル帯域は非常に生々しく再生でき、全体的に高域上がりの特性だと言える。EQで低音を上げてみたが音割れするので、元々キャパシティがないようだ。

ただ音像の広がり具合は、一般のタブレットよりもかなり広い。スピーカーの開放口が左右方向を向いているので、横に音を出すという構造となっている。全身を包み込むような、というのは大げさだが、少なくとも頭は包まれるような感覚ではある。

品質をチェックしてみると、ストリーミング自体は24bit/96kHzだが、デバイスで24bit/48kHzに落ちている。ただ24bit/48kHzでもハイレゾではあるので、看板としては間違ってはいない。

デバイスのところで24bit/48kHzにダウンしている

続いてDolby Atmos対応コンテンツとして、Netflixで配信中の「6アンダーグラウンド」を視聴した。第1話のカーチェイスのシーンでは、音楽と共に車の走行音、クラッシュ音などが大きな広がりをもって再生できる。ずしりとした低音は望むべくもないが、休みの日にソファに寝転んでみるには十分である。

ディスプレイも正統派HDRではないが、輝度を最高にすればかなり高コントラストな再生が楽しめる。横や下から見ても色化けや輝度落ちも少ない、いいディスプレイだ。

白銀比ゆえに、シネスコサイズの画面ではかなり上下が余ることになるが、そのあたりは痛しかゆしである。

総論

OPPOのスマートフォンを評価したのは初めてだが、作りとしてはかなりしっかりしており、挙動もおかしなところは見当たらない。カメラ機能も矛盾がなく、表面にはシンプルな機能のみを表出させる一方、マニュアル撮影もできるなど、かなりこなれた作りになっている。静止画の「マスター」モードに対して、動画の方は「映画」モードが相当するようだ。どちらもマニュアル撮影に特化したモードである。

ただHDR撮影に関しては、いきなりドルビービジョンで撮影できてしまうのは編集するときが難しいのではないかと思う。ドルビービジョンは完成品を最終出力する段階で選ぶもので、素材の段階でこれがあっても専用LUTがあるわけでもなく、扱いに困るというのが正直なところだ。

Hasselbladの動画カメラは貴重な存在なので、素材としてはもう少しフィルムテイストに寄せたカラープロファイルがあったら面白かった。ただまあ10万円程度のスマホそこまでやっても扱える人がいないので、何もしなくても自己録再で完結するドルビービジョンが妥当というということかもしれない。

OPPO Pad Neoは、約4.5万円強で買えるエンタテイメントタブレットという位置づけではあるが、書類の確認などでも解像度の高さゆえに使いやすいモデルだ。音質的には低音までガッツリとはいかないが、音の広がりに関してはかなり入念に設計されており、本気で、というよりは軽くコンテンツを楽しむには十分である。BluetoothもSBC/AAC/aptX/aptX HD/LDACまで対応しており、イヤフォンやヘッドフォンとの相性も良い。

ただスペックや質感に目をつぶれば、AmazonのFire HD 10が1.3万円、Fire Max 11が2.7万円で買えることを考えると、Androidタブレットはなかなか厳しい商売だよなぁと思わざるを得ない。

ただ今回のレビューで、すでにOPPOは格安メーカーを完全に脱し、メインストリームで戦えるメーカーなのだという認識を新たにした。昨今はXiaomi、HUAWEIの勢いも目覚ましいが、OPPOでも昨今はイヤフォンやスマートバンドも製品化しており、その一角に加わっていくタイミングなのかもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。