小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1009回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ハッセルブラッド4/3型カメラで画質、安全性進化「DJI Mavic 3」

3年ぶりのリニューアル、「DJI Mavic 3」

連続で来るDJI

ここのところDJIの新製品ラッシュが続いている。10月にはプロ用シネマカメラ「Ronin 4D」と「DJI Action 2」、「DJI Mic」、そして11月には「Mavic 3」が登場した。

MavicはDJIの折りたたみ式ドローンのシリーズで、DJI AirやDJI Miniといった多くのバリエーションを備える。その中でもシンプルに「Mavic」の名称があるのは、撮影機能に特徴のある中型機だ。前作「Mavic 2」はもう3年前のモデルで、ズームレンズを備えた「Mavic 2 Zoom」と、1型センサーを備えた「Mavic 2 Pro」が存在した。

今回のMavic 3も実は2タイプがあり、標準版の「Mavic 3」と、シネマ撮影に特化した「Mavic 3 Cine」に分かれる。すでに公式サイトでは販売が開始されており、一般の販売店では標準版が11月18日、Mavic 3 Cineを含むコンボ製品が11月23日の発売を予定している。価格は標準版が253,000円、DJI Mavic 3 Fly Moreコンボが341,000円、DJI Mavic Cine Premiumコンボが583,000円となっている。今回は標準版のMavic 3を含む「DJI Mavic 3 Fly Moreコンボ」をお借りすることができた。

機体も3年ぶりのリニューアルということで安全性がより向上しているが、DJIといえばなんといってもカメラである。今回はハッセルブラッドと共同開発した4/3型センサーを搭載するメインと、望遠レンズを備えたサブカメラの、デュアルカメラシステムとなっている。

まだ最終ファームではなく、動作しない機能もあるが、4/3型センサーで最高5.1K撮影可能なドローンの映像を見てみたい。早速テストしてみよう。

長時間飛行を可能にしたボディ

Mavicシリーズとしては、Mavic 2以降Mavic MiniMavic Air 2が出ているが、これらは小型・軽量化にフォーカスした製品だった。

一方Mavic 3はフル機能を搭載する中型機であり、ボディ・バッテリーなども新規設計となっている。アーム、ボディ、ジンバルの形状に航空力学の原理を取り入れ、モーターとプロペラをエネルギー効率の高いものへ改善、ドローンの骨組みや部品の重量を軽減したという。

航空力学を取り入れた新規ボディ

風胴試験によると、DJI Mavic 3の風圧抵抗性能は前モデルと比較し35%向上、飛行速度も大幅に改善されている。バッテリーは天面兼用ではなく、背後から差し込むタイプへと変更された。容量は5,000mAhと大型化され、飛行時間はバッテリー1本あたり46分となった。

バッテリは背面から差し込むタイプに
新バッテリーと三連の充電ユニット

バッテリー残量がなくなったときに自動的に帰還するRTH(Return to Home)の挙動も見直され、一旦空高く上昇するのではなく、最短でエネルギー効率が最大となるコースを自動的に演算するようになった。これもまた、飛行時間の延長に繋がっているという。

前面と背面のセンサーはハの字に広げられており、横方向のセンシングも兼用しているようだ。上下にもセンサーを備えるのは言うまでもない。トラッキングシステムはActiveTrack 5.0に刷新され、被写体がフレームアウトしてもビジョンセンサー側で追跡してフレーム内に収めるなど、障害物検知システムと撮影機能の連動が強化されている。

「顔つき」が変わった前面センサー

本体背面にUSB-C端子とmicroSDカードスロットがある。標準版の内蔵メモリーは約8GBだが、Mavic 3 Cineでは1TBのSSDを内蔵する。

背面センサーと端子類
底部のセンサー

では注目のカメラ部を見てみよう。カメラユニットとしては1つだが、上がズーム可能なカメラ、下が4/3型センサー搭載のメインカメラとなっている。

カメラユニットは2段積み

まずメインカメラだが、35mm換算で24mm/F2.8の単焦点レンズを備えている。センサーは4/3型CMOSで、有効画素数は2,000万画素。静止画の最大画素数は5,280×3,956となる。撮影可能な動画の解像度とフレームレートは以下の通り。

モード解像度フレームレート
5K5,120×2,70024/25/30/48/50fps
DCI 4K4,096×2,16024/25/30/48/50/60/120fps
4K3,840×2,16024/25/30/48/50/60/120fps
FHD1,920×1,08024/25/30/48/50/60/120/200fps

録画コーデックは標準版ではH.264またはH.265のみだが、Cine版ではそれに加えてApple ProRes 422 HQ/最大3772Mbpsで撮影可能となる。よって1TBものSSDを内蔵するというわけだ。またAFについては、機体の複数のビジョンセンサーで取得した距離情報と連動するため、フォーカス速度が向上したという。

NDフィルタも4枚同梱

望遠カメラは、35mm換算で162mm/F4.4となる望遠レンズを備えている。センサーは1/2型CMOSで、有効画素数は資料にないが、静止画が最大4,000×3,000で撮れるので、有効画素数1,200万画素といったところだろう。光学+デジタルズームのハイブリッドズームで、28倍の拡大が可能。こちらの動画撮影機能は以下の通り。

モード解像度フレームレート
4K3,840×2,16030fps
FHD1,920×1,08030fps
デュアルカメラだが全体としてはコンパクト

Mavic 2 Proで採用されたハッセルブラッド ナチュラルカラー ソリューション(HNCS)を引き続き採用し、忠実な色合いを再現するという。

コントローラは、Mavic Air 2で導入されたものと同タイプ。ただ映像伝送機能が強化され、1080/60pでのライブ映像を伝送する。また伝送距離も最大15km(障害物や電波干渉がなく、FCCに準拠している場合/日本国内では最大8km)と大幅に向上した。

見た目は同じだが、コントローラも機能向上

また別売の4Gネットワークドングルを装着すれば、4G回線を使っての映像伝送も可能になり、強い信号干渉がある場所でも安定した映像伝送が可能になる。ただこの機能はまだ実装されておらず、来年1月ごろの対応となる。

コンボに同梱されるキャリングバッグも良くできている。付属品すべてが収納できるのはもちろんだが、コンパクトにまとまるだけでなく、フタ部分に収納されているベルトを取り出すと、リュックにもなる。

コンパクトに収納できるキャリングバッグ
ハンディなバッグだが…
ベルトを取り出すとリュックタイプに

また背面に収納されているベルトを取り出すと、ウエストポーチ的な使い方もできる。このバッグだけ別売で売って欲しいぐらいである。

背面から別のベルトを取り出すと、ウエストポーチ型に

高画質に振った撮影機能

では実際に撮影してみよう。今回お借りしたタイミングではまだファームウェアが最終ではないため、動作しない機能がある。具体的には、ターゲットを指定して追いかけるActiveTrack 5.0および自動で様々なタイプの映像を撮影してくれる「マスターショット」が動作しない。したがって今回は、マニュアル飛行による撮影がメインとなる。

「マスターショット」を選択すると「近日公開予定」のアラートが

まず気になるのは、メインカメラの4/3型センサーを使った、5.1K撮影である。5,120×2,700はアスペクト比1.896:1となり、16:9に収めると縦が少し短いことになる。この解像度をそのまま使うというより、4Kにクロップするなり縮小するなりして使用するという事になるだろう。

今回は晴天ということで、ND16を装着して撮影している。D-Log撮影にも対応しており、ラティチュードは上々だ。今回のサンプルはD-logで撮影したものをにカラーグレーディングを加えている。参考までに、D-Logの映像も左上に掲載しておく。

5.1Kで撮影後、4Kにダウンコンバートしたサンプル

4/3型ということはマイクロフォーサーズと同じという事になるが、いくらミラーレスとはいってもこのサイズの機体ではマイクロフォーサーズのカメラは持ち上がらないので、やはり独自開発の小型カメラならではの映像ということになる。ただ24mmの広角レンズのドローンで被写体に近接して撮影するケースはあまりないため、被写界深度によるボケが出るような撮影は、実際には難しいだろう。

解像感もかなり高いのは確認できるが、空撮はどうしても細かいディテールが多くなるため、H.264/H.265での記録では自ずと限界がある。このカメラをフルで活かすには、やはりApple ProRes 422 HQでの記録に期待したいところだ。

静止画を撮影すると、レンズおよびセンサーの性能がよくわかる。発色、ダイナミックレンジ、ディテールともになかなか良好だ。

静止画モードで撮影した写真

続いてズーム機能を試してみる。アプリ画面の双眼鏡マークをタップすると望遠カメラに切り替わると思っていたのだが、どうやらメインカメラも含めての「探索モード」となるようだ。

「AF」の上にある双眼鏡アイコンが「探索モード」

このモードに切り替えると、D-Log撮影がキャンセルされ、解像度が4Kとなる。等倍から4倍まではメインカメラ側のデジタルズームで対応、7倍から望遠カメラに切り替わり、そこから4倍、すなわち28倍までデジタルズームで対応ということのようだ。ハイブリッドズームとあるので、単純なデジタルズームではなく、撮像素子のクロップも併用しつつズームするのだろう。

1倍から28倍までズーム

サンプルを見ていただくとわかるように、4倍と7倍を比較すると、7倍のほうが高画質である。今回はアプリの設定に応じて段階的にズームしているが、画面のピンチアウトで任意のズーム倍率にすることもできる。

7倍望遠レンズは画質的にもそれほど悪くない。近寄れない被写体の撮影などでは十分使えるだろう。また望遠レンズで機体の方向を確定しておき、メインカメラに切り替えてそちらへ進む映像を撮影するといった組み合わせでの使い方も考えられる。

スロー撮影では、4K/120pでの撮影が可能になるため、30p再生すれば4倍スローとなる。前作Mavic Air 2では4K/60p撮影が最高だったので、4Kでのスロー撮影対応は大きな進歩だ。

4K/120pによる4倍スロー

高い安全性を両立

カメラ以上に本機の強みは、障害物回避機能が大幅に強化されたことである。今回は松林の中に入って撮影してみたが、これは単にコントローラを前に倒しただけで、手動で障害物を回避していない。すべて自動で木の枝を避けて前進している。正面に葉っぱがあり、それ以上前進できなくなったところで自動停止しているのがわかる。

障害物を回避しながら飛行。後退も同様に障害物回避する

これまでドローンで森や林の中で撮影するには、相当高度な技術を要したところだが、Mavic 3があれば簡単に撮影できる。ただ、どっちにどう退避するかを指定できるわけではないので、狙い通りに飛ばすにはマニュアルコントロールと自動回避をうまく組み合わせてフライトする必要がある。

現時点では被写体をトラッキングさせてフォロー撮影させるという使い方ができないが、最終ファームでActiveTrack 5.0が使えるようになれば、森の中を歩く様子を横から並走するといった撮影も可能になるだろう。ドラマや映画だけでなく、昨今はバラエティでも冒険・開拓モノが増えている。カメラマンの安全を確保する上でも、森や林の中での撮影でドローンが使われていくかもしれない。

最後に、この障害物回避機能を使ったアドバンストRTHを試してみる。これまでのRTHは、いったん障害物がなさそうな上空高くまで上昇したのち、離陸地点に戻るという動作だったが、このRTHを実行するための電力を十分に残した上で自動帰還していた。

一方アドバンストRTHでは、帰還ルートを障害物を回避しながら最短ルートで戻ってくる。障害物のない場所とある場所2箇所でRTHしてみたが、林の中でも自動的に枝葉を避けて最短コースで帰還してくるのにはビックリだ。

前半は障害物がない場所からの帰還、後半は障害物がある場所からの帰還

総論

今となっては映像の総合商社的な立ち位置になってきたDJIだが、ドローンも毎年進化させてきている。今回のMavic 3は、1型センサーを搭載したMavic 2 Proと、ズーム可能なカメラを搭載したMavic 2 Zoomのハイブリッドのようなカメラを搭載した。

もちろんそれだけではなく、機体性能のほうも大きく進化した。これまで障害物回避機能は、マニュアル操作時のサポートとして使用するようなものだったが、Mavic 3ではこの機能を当てにした撮影もできるようになっている。撮影者は被写体のフォローに専念できるという点でも、撮影のクオリティが1段上がることは間違いない。

バッテリーの持続時間も十分で、1本あたり46分はフライト計画にも余裕が出る。20分ぐらい空中でタイミング待ち、みたいなことも余裕でこなせる。コンボにはバッテリーが3本同梱されており、合計で2時間も飛べる。ロケ現場で継ぎ足し充電とフライトの繰り返しみたいな作業から開放されるだろう。

今回はトラッキング機能がテストできなかったが、動き回る被写体をフォローする際に障害物回避機能がどのように働くのか、機会があればまたそのあたりもテストしてみたいところだ。

価格的にはかなりの高級機になるが、シネマも含めたプロユーザーも視野に入れての価格設定と思われる。単に空撮用途だけではなく、一般のカメラでは撮りにくいショットをドローンで撮るという使い方も、どんどん広がっていきそうだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。