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スマホのエンタメがSnapdragon 835で加速、進化するDDFA。クアルコムの狙いを聞いた
2017年3月10日 08:00
ハイレゾや4K/HDR再生など、昨今スマートフォンを始めとするモバイル機器におけるAV関連機能の伸長が著しい。そこに欠かせない存在となっているのが、頭脳であるモバイルSoCの「Snapdragonシリーズ」。1月に概要が発表された最新モデル「Snapdragon 835」は、今春以降に発売されるXperia最上位機「Xperia XZ Premium」への採用も発表され、注目が高まっている。
Snapdragon 835は従来モデルとどのように違い、どんな分野に活かされていくのか。そして、クアルコムのオーディオ関連で注目のフルデジタルアンプ第2世代「DDFA」などについても話を聞いた。今回うかがったのは、クアルコムCDMAテクノロジーズでSnapdragonを担当するマーケティングディレクターの島村知氏と、DDFAを含むオーディオ関連技術などを手掛ける大島勉マーケティングマネージャーの2人だ。
モバイルAVやVRに向け、Snapdragon 835の性能と省電力/小型化がさらに進化
Qualcomm初の10nmプロセスで製造されたモバイルプロセッサとなる「Snapdragon 835」。搭載されるトランジスタは約30億個と大幅に高集積化が進んだにもかかわらず、小型化/省電力化を果たしたことが特徴だ。周辺機能も見直され、モデムはギガビット水準にアップグレード、Qualcomm設計のDSP「Hexagon」はGoogleの機械学習ライブラリ(TensorFlow)のサポートを追加するなど大幅に強化されている。
GPUの「Adreno 540」は、Snapdragon 820のAdreno 530と比較すると、レンダリングパフォーマンスは25%アップ。指紋認証や虹彩認証の情報やビデオのコンテンツ保護などを行なうセキュリティプラットフォーム「Heaven」をサポートしている。
Snapdragonのマーケティングを担当する島村知氏は、Snapdragon 820から835における最大の進化点として「消費電力の改善」を挙げる。「2013年出荷開始のベストセラーモデルSnapdragon 801との比較でいうと、消費電力は約半分にまで抑えられました」(島村氏)。
消費電力の改善によりエンドユーザーが得られるメリットの例としては、3,000mAhバッテリー使用時に4Kビデオ(30fps)が11時間以上、4Kストリーミングビデオが7時間以上、連続再生可能になることが挙げられた。4Kビデオ撮影(エンコード、30fps)も連続3時間以上と長時間対応だが、「サーマルシャットダウン(過熱による動作停止)が起こらないこと」がなによりの強みだと島村氏は指摘する。高速なレンダリング能力とGPUパワーが求められるVR利用においても、2時間以上の連続利用に耐える。低消費電力設計されたDSPの働きにより、オーディオ再生は5日以上もの連続再生に対応するとのことだ。
小型化によるメリットも大きい。クアルコムはSnapdragon 820のとき14nmのFin-FETプロセスを採用しており、10nmプロセスのSnapdragon 835はその第2世代。820と比較するとパッケージサイズが35%小さくなったことにより、「集積度を高めたことによりいろいろな機能を実装できるようになりました。たとえばDSDはそのひとつ」(島村氏)と、処理速度のみならず多機能化に貢献しているのだという。発熱の点でも、バッテリを大きくとれる点でも、小さいことはいいことなのだ。
エンターテインメント関連機能では、映像のサポート強化が著しい。2013年にはSnapdragon 800シリーズで4K録画/再生を、翌2014年にはHEVC/H.265のハードウェア再生、2015年にはHEVCの録画、2016年のSnapdargon 820では4K/10bit/60fpsの再生……とモバイルAP(アプリケーションプロセッサ)の最先端を歩んできたSnapdragonシリーズは、今回もその先へ行く。
HDR対応、DSDネイティブ再生など、AV性能が大幅強化された理由
HDR(ハイダイナミックレンジ)の対応強化が、Snapdragon 835の映像関連機能における目玉だ。Snapdragon 820は10bitのデコードには対応していたが、「後段のディスプレイプロセッサが8bitだったため、エンド・ツー・エンドで10bitの映像を表示できるわけではありませんでした」(島村氏)。今回のSnapdragon 835で、ついにHDRの主要規格である「HDR10」を正しく表現できるようになったという。ディスプレイプロセッサの強化と10bitパイプラインを実現したことを強みとしている。
オーディオ関連の新機能も、Snapdragon 835で進展した高集積化に負うところが大きい。「処理をGPUやDSPなどに振り分けるSnapdragon 835を使えば、複雑な演算を伴うオブジェクトオーディオにも対応できます」(島村氏)とのことで、VRの必須要素といえる立体音響への対応強化も期待できそうだ。DSDネイティブ再生に対応するほか、ノイズキャンセルなどの処理を行ない音声命令の認識率を向上させるクリアボイス機能も追加されている。
その核となる存在が「Aqstic Audio(アコースティック・オーディオ)」だ。「Snapdragon 835は豊富なコンピューティングリソースを持ち、なかでもHexagon 690 DSPやAlways-Aware(つねに音声入力を監視する機能)といったハードブロックを含む『Aqstic Audio』により、オブジェクトオーディオやDSDの処理のほか、SNや高周波歪みの改善を担っています」(島村氏)という。Hexagon 690自体もGHz級のクロックで動作する処理能力を持つことから、SoC内に強力なオーディオ用プロセッサを持つとの解釈でよさそうだ。
Aqstic Audioには、サウンドをHi-Fiクラスにする役割もある。ハードウェアの構成要素としては、基本的にコーデックチップ(WCA 934x)とスピーカーアンプ(WSA 881x)の2チップ構成で、Snapdragon 835のベースバンドチップに外付けされる。DSDネイティブ再生を可能とするハードウェア(DAC)もそこに追加される形だ。このスピーカーアンプは、モバイル用スピーカーでもしっかりした音量で聴かせられるという。
DACにはプログラマブルなDSPコアも搭載されており、ここでANC(Adaptive Noise Cancelling)などリアルタイム性の高い処理も行なわれる。特定の言葉に反応するキーワードディテクションも、ここで処理される。対応フォーマットはPCM 382kHz/32bitとDSD 64/128、ダイナミックレンジは133dB以上、THD+Nが100dBとのことだ。
Snapdragon 835でAV関連機能の強化が目立つ理由について尋ねたところ、「ダイの大きさ、集積度、価格、ユースケース、電力、熱、モバイルになにが必要か、といったことからバランスをとり機能の取捨選択を行なっています。今回のAV関連機能強化も意識されたもので、たとえばビデオは4K/HDR対応が進みコンテンツも増えることが予想されています。とはいえ、相当の出荷量が見込まれるチップなだけに、早い段階から顧客と摺り合わせを進めていたことも確かです」(島村氏)と、基本的にはロードマップどおりに進めているという。
長時間4Kビデオ撮影を続けてもサーマルシャットダウンが起こらないなどの特性を見ると、スマートフォン以外での展開も多いにあり得るのではと水を向けたところ、「SnapdragonをIoT向けに展開するという方針で、アプリケーションプロセッサとしてのラインナップ拡充にも力を入れています。最も電力を消費する4Kビデオ撮影を含め過酷な環境で長時間使えるカメラ、DMA(Digital Media Adapter)やセットトップボックスなどへの展開も検討していきたいですね」(島村氏)とのこと。今後はSnapdragonを採用する機器のバリエーションが増えそうだ。
オーディオファンとしては、再生時に使用するクロックが気になるところだが、「Snapdragon 835内部で生成していますが、具体的な数値やシステム構成については公表していません。DSDネイティブ再生をサポートするほどなので、高音質を実現できる精度は達成しています」(島村氏)と、詳細は未公開ながらも自信のほどがうかがえた。どれほどのクオリティなのか、Snapdragon 835によるDSDネイティブ再生をサポートする製品の登場を待ちたい。
DDFAは第2世代でどのように進化した?
2016年11月に発表されオーディオファンの話題を集めたフルデジタルアンプ「DDFA」は、CES 2017で情報をアップデート、いくつかの情報が追加された。'16年11月の発表会で概要は発表されており、今回は追加情報を中心に聞いた。
DDFAやaptX HDなどを担当するマーケティングマネージャーの大島勉氏によれば、第2世代DDFAは「“デジタルアンプで高音質化”のコンセプトは変えずに小型化しました。初代はチップセットによる提供だったためコントロールが難しかったですが、第2世代ではマイクロプロセッサを内蔵したため、扱いやすくなった」ことが最大の特徴だという。
追加情報のうち最もインパクトが大きいのは、DSDネイティブ再生のサポート。第2世代DDFAを採用した既発製品では、現在のところDDFAによるDSDネイティブ再生はサポートされていないが、「PCM 384kHz/32bitに加え、DSD 128までDDFA単体で(外部のDACを使わず)再生できます」(大島氏)とのこと。他社のデジタルアンプにはない機能であり、その点では大きなアドバンテージになるといえるだろう。
大幅な省電力化も、第2世代DDFAにおける大きな改良点だ。「小型化と相まって、従来は難しかったユースケースも視野に入ってきました」(大島氏)とのことで、今後はモバイル分野での展開も期待できそうだ。
いま「CSR8675」が注目されている理由。完全ワイヤレスイヤフォンにも採用
DDFAと同じ旧CSRの系譜に連なるワイヤレスチップ「CSR8675」は、2014年11月発表で、「新製品」ではないものの、最近になって引き合いが急増しているとのこと。Bluetoothイヤフォン市場が急拡大している情勢もあり、このチップについてもあわせて聞いた。
注目されている理由は、その多機能さだ。オーディオコーデックはaptXに加えてaptX HDにも対応可能なうえ、「Bluetooth製品向けでは環境雑音キャンセリングに対応している唯一のSoC」(大島氏)。Hi-Fi再生からノイズキャンセリング(ANC)までワンチップで実現できる点が、Bluetooth/ワイヤレス対応が進むスマートフォン市場にマッチしたのだろう。「ANCはレイテンシが増すと大きくなると扱いにくくなりますが、チップの中に入れることで抑制しました。DSP単独ではカバーできない処理も行なっています」(大島氏)と、単なる小型化・高速化ではないこともポイントとなっている。
プログラマブルということで、Qualcomm以外のコーデックにも対応できるか尋ねたところ、「弊社のエクステンションパートナーかつ対応しうる範囲であれば可能で、すでに運用されています」(大島氏)とのこと。確かに、Webサイト(英語版)を確認すると、ドルビーやdtsなどに加え、LDACのロゴも確認できた。
ところで、昨年来急増している左右分離型(フルワイヤレス)イヤフォンの多くは、Qualcommの技術「TrueWireless Stereo(TWS)」を利用しているという。「クラウドファンディングの形で登場するものも含め、現在流通しているフルワイヤレスイヤフォンの大半はTWS」(大島氏)とのことで、トレンドを生み出す力はQualcommにある。高音質オーディオコーデックへの対応を含め、今後の技術開発・新チップの投入に期待したい。
スマホ、オーディオ、VR……。これから何を向上させる?
最後に、Snapdragon 835など従来のQualcommプロダクトと、DDFAやCSR8675のような旧CSRから始まったプロダクトの今後の方向性について質問してみたところ、「ロードマップとしては、Qualcommと旧CSRはマージする方向にあることは確か。今後はスマートフォンのオーディオ関連機能にしてもBluetoothヘッドフォンにしても、統合的に網羅することになるでしょう」(島村氏)との回答を得た。
スマートフォンなどモバイルAVの分野では、今後どのような展開を目指し、そのためにどんな技術が生み出されるのだろうか。具体的にはこれから出てくる製品で明らかにされることだが、島村氏は次のように方向性を示している。「ハイレゾ/DSD再生に代表されるハイクオリティ、長時間の撮影や音楽再生に耐えるハイパワーを目指し、旧CSRのオーディオソリューションも取り入れ強化していきます。たとえばVRのような“没入できる体験”のためには、CPUやGPUだけでなくセンサーやカメラ、オブジェクトオーディオといった全方位的な技術開発が必要。そこに対応できるのが我々の強みです」。