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高画質競争に入った有機ELと8Kの未来。山之内正×本田雅一【'18夏映像機器編】

 春・夏モデルのオーディオ&ビジュアル機器の新製品が出そろった7月。テレビやUltra HD Blu-rayプレーヤー、オーディオなど様々な製品が登場し、見どころは多い。クオリティ重視の製品選びをどう考えるべきか。オーディオビジュアル評論家の山之内 正氏と本田雅一氏に、この夏の注目製品を語ってもらった。前編は、テレビなどのビジュアル機器を中心にお届けする。

山之内正氏(左)、本田雅一氏(右)

液晶テレビ:隠れたおすすめ製品をピックアップ。8Kへの準備進む

本田:ソニーのZ9Dはスーパーカーのような特殊なモデルですが、概ね高画質・最先端を目指して作り込むテレビはOLED(有機EL)、液晶テレビにはコストパフォーマンスや液晶ならではの明るさを活かした製品が望まれるようになりそうです。OLEDの価格もこなれてきましたから、今後はそうした流れが加速するかも知れません。

2016年発売ながら、いまだ液晶のトップに君臨するソニーBRAVIA「Z9D」

 そうした視点で見ると昨今、採用例が減っていたIPS方式の液晶パネルに再びスポットを当てたいところですね。

本田雅一氏

山之内:液晶で高画質を目指すと、どうしてもコントラストの高いVA方式に頼りがちでした。時にHDRのトレンドが始まってからはその傾向が強かったのですが、視野角に問題がありますからね。ファミリー向けに複数人数で観るなら、やはり視野角の広いIPS方式が望ましい。

本田:パナソニックは昨年、VIERA EX850シリーズで「エリアコントラスト制御」という、かなり大胆な映像処理を導入しました。

 シーンごとにフォトショップのレベル調整のようにコントラストを“がーん”と上げてしまう。当然、暗いシーンが少し明るく見えたりと、忠実性という意味では少々疑問なのですが、これとバックライトの部分駆動を組み合わせることで、IPS液晶でも”HDRっぽさ”を出せる。今後、4K放送でHLGによるHDR放送が始まることも考えれば、映画ばかりではなくスポーツ放送などもHDRで楽しめるでしょうから、視野角が広いIPS方式でもHDRを楽しめるよう、こうした割り切りがあっていいかなと。

 忠実再現という面ではOLEDのVIERAがありますから。この春のFX750は、そのEX850の下位モデルでスピーカーの音質こそ落ちますが、むしろバックライトの分割数は増えています。

山之内:VAはソファーに並んで座っていると、肌のホワイトバランスが座っている位置で違って見えてしまいますからね。また少し先まで見すえると、8K放送を楽しむにはまだまだ液晶という技術が必要という部分もあります。解像度だけではなく、明るさやコントラストのバランスを考えたとき、どう追い込んでいくのか。シャープ以外が8Kに、どのように取り組むのかの具体的な話は見えていません。ただ「8Kは次の次の世代」と思われていましたが、いよいよ「次は8K」と思えるところまで進んできていますから、高画質な液晶というのも必要にはなっていくでしょう。

山之内 正氏

本田:液晶パネルメーカーは4Kパネルでは充分な利益を乗せにくくなっていますから、どこも積極的に8Kへと向かっていますね。特に中国のパネルメーカーは、コンテンツの有無とは関係なくガンガン8Kへと向かおうとしている。

 ただ個人的には8K映像にまで対応できるとされているソニーの次世代映像LSI「X1 Ultimate」の方が気になりますね。8Kの画素数で見事な超解像処理やコントラストの最適化などを実現していましたが、4Kで使うとその能力をさらなる高画質化にも割り当てられる。CESで名前まで披露したということは、おそらく年内には搭載製品が出てくるでしょう。

CESのX1 Ultimateデモ。8K液晶パネル+X1 Ultimate(左)と液晶テレビフラッグシップ「Z9D」(右)を比較

山之内:X1 UltimateをOLEDの上位モデルに採用する可能性もありますが、8Kならば液晶ということになりますね。

本田:バックライトマスタードライブ採用のZ9Dの後継として、8Kパネル採用バックライトマスタードライブ、X1 Ultimate搭載の製品などはリアリティあるでしょう。もちろん、4K OLEDへの搭載も期待したいところですが。

 最後に今季、注目の製品をいくつか挙げたいと思います。

 いちばんは最初に取り上げたパナソニックのVIERA EX850シリーズとFX750シリーズ。いずれもIPSでバックライトを分割駆動、エリアコントラスト制御を組み合わせています。暗く照明を落とした部屋で映画を愉しむといった使い方ではなく、明るいリビングで家族で楽しんで欲しい。EX850のスピーカー音質はとても優秀ですしね。

 高コントラストなVAパネル採用の製品を望むのであれば、ソニーのBRAVIA X9000Fシリーズが的確なバックライト制御もあってオススメの筆頭。また台湾、中国系のVAパネルの質がやや下がっていることを考えると、液晶での画質に配慮しているシャープが相対的に上がっている印象はある。バックライト制御に不安定さがあるものの、パナソニックのEX850と並んで高音質なシャープAQUOS UHシリーズも選択肢としてはアリでしょう。

 今後、8K/HDRということを考えれば、シャープにはもう少しバックライトのエリア制御を磨き込んで欲しいですね。

 最後にやっぱり東芝のREGZA M520Xには”お見事”と言いたい。難しいタイミングでBD 4K放送チューナを滑り込みで盛り込んだ。しかも最上位モデルではなく、普及価格帯のファミリーモデル。こういう製品にこそ、外部チューナではなく内蔵チューナが必要。

 あとは、せっかくIPSパネル最大の生産者であるLGディスプレイをグループ内に持つのだから、LGにはもう少しIPSパネルを用いたテレビを訴求して欲しいなぁというのはありますね。

山之内:ピックアップする製品に関しては、私もまったく同感です。

ピックアップ製品(本田)

パナソニックVIERA EX850シリーズ

最新モデルFX750の方がバックライト駆動の分割数は多少多いが、画質面での差違は大きくない。忠実な映像再現よりも、暗部の光漏れが多いIPSで見栄えのいい映像を出すための思いきった画処理がむしろ潔い。あえて昨年末モデルを選んだのは。その音質の良さ。画面中央に定位することや中域の情報量の多さ、バランスの良さなど業界トップの内蔵スピーカーを誇る

東芝 REGZA M520Xシリーズ

4K REGZAとしてはローエンドに位置する価格帯となる本機。VAパネル採用で広い視野角は望めないものの、最新の映像プロセッサによるS/N感の良さは地デジ放送をより美しく視聴するためにうまく機能してくれる。しかしながら、こん製品を取り上げたのは”BS 4Kチューナを内蔵している”から、に他ならない。来年の今頃はチューナ内蔵が当たり前になっているだろう。業界動向や外付けチューナの使いこなしを考えずに使いたいなら、この夏は東芝製以外の選択肢はない

有機ELテレビ:各社の違いが見えてきた

本田:今年は、発売前の東芝以外の製品は、ほぼ同じ仕様のOLED(有機EL)パネルを使ったテレビで各社が製品を作り込んでいます。昨年までは、ちょっとづつ違うパネルだったりでしたが、今年は各社の開発能力が問われますね。

山之内:その通り、昨年までは前面フィルタの仕様などで違いがありました。パネルが同じなのですから、映像エンジンの質やパネル制御の工夫といった、技術的な面でのコンセプトやセンスの違いが、画質の違いとなる。

本田:今回は信頼性能向上がメインで、パネル性能はさして上がっていないなんてことを、LGディスプレイ関係者からは聞いていたんですが、実際にはかなり違いますよね。

山之内:同じ映像エンジンを使っている上、画質コンセプトも同じでブレていないソニーですが、パネルの世代がひとつ違うBRAVIA A1とA8Fでは、やはりA8Fの方が進化して見えました。

本田:ソニー自身は1月にA8Fを発表した時(米ラスベガスのCESにて)、A8FとA1は基本的に同等の製品で、映像エンジンだけでなく画質も基本的には同じだと話していたんですよ。ところが、実際に観てみるとかなり手を加えている。パネル自身も進化していますし、暗部の立ち上がりがスムースになりました。中でも色ノイズの多い映像の代表であるラ・ラ・ランドで、粒状ノイズが強調されて見える現象があったが、A8Fではかなり抑えられていた。しかも、ノイズリダクションによる抑制ではなく、純粋にRGBW構成のOLEDパネルが持つクセを回避したとのことでディテール喪失もない。

山之内:OLEDの場合、映像そのものに含まれるノイズの見え方が液晶とは違う部分があって、そこでA1の数少ない弱点があった。本田さんが言うラ・ラ・ランドは、その差が顕著に出る数少ないコンテンツだったんですよね。明るいシーンでの空や、衣服の輝度の高いところでのノイズの存在が目立っていました。しかし、A8Fではきちんと対策していた。一方でディテールを喪失しているわけではない。ソニーのノイズの抑え方は、僕も感心した部分です。

BRAVIA A8F

本田:ソニーに関しては、もともとOLEDパネルの駆動、絵作りという面ではとても良くて、パナソニックなんかは高輝度部の再現性を高め、明部での描写が深くなったというのだけど、ソニーはA1の時代から暗部、明部ともに再現性の高い絵を出していました。

山之内:真っ黒から光り出す、ギリギリの暗さの部分がOLEDは不得手でしたから、どのメーカーも苦労はしていますね。その点、今年はパネルそのものの改良もあって改善しています。

本田:OLEDに関しては、やはり真っ黒からの光り出しのところで、ムラなく滑らかに表現するのが不得手ということはありますね。個々の画素が異なる発光体なのだから、歩留まりで光量が異なるのは当然ですし、ギリギリの明るさで光らせるとなるとなかなか難しい。メーカーによっては、そうした部分を”一切見せない”という方針で、パツンといきなり真っ黒になります。言い換えれば、そこをどう改善していくかでメーカー間の差が出てきます。

山之内:見せたくない部分はあえてて見えないよう、真っ黒にしてしまうというやり方も、OLEDの特性を考えれば完全に否定できるものではないのですが、当然あってしかるべきディテールが、まったく視認できない場合があることに問題がありました。見えるはずのものが見えないというのは非常にストレスで、だからあえて液晶テレビの方がいいという論調も、昨年まではありましたよね。ところが今年はもうそういった議論はなくなったという印象です。

本田:現在のOLEDはフルで発光(1,000nits)できる条件や、W画素で輝度を高める場合の色純度低下などの制約もあるので、事実は使いこなしでかなり画質が違う。同じパネルなのに、ここまで違うかと。特にHDRの映像はEOTF(記録されてる輝度情報に対して、実際にディスプレイパネル上でどう表現するかの変換特性)や、変換時の色度の処理でぜんぜん違う映像になってしまうこともある。

 今年のパネル、T-CONの変更で全体に明るい絵になりやすいと話しているエンジニアもいたのですが、実際には出せる明るさのスペックや制約値は変化していないとのこと。そんな中で、パナソニックはVIERA FZ1000/FZ950ともに、明部の表現力、具体的には明るい部分の局所コントラストが格段に高くなってました。

 昨年はソニーの方が明部のディテールが深く描かれる傾向があって、これはどういう事なんだろう? あるいは、パナソニックが素直な描写で、ソニーが映像処理でピークを伸ばしているのか? なんて思ったのですが、どうやら違ったようですね。今回、パナソニックはキッチリ改良してきた。

山之内:元々、暗い領域の追従性は良かったのですが、明るい部分の描写は良くなりましたね。スペックや機能面での違いといった部分はともかく、実際に観た映像の改善という面で長足の進歩を遂げています。

 ところで、昨年のEZシリーズと今年のFZシリーズ。少しホワイトバランスの傾向が変わったように見えました。とくに肌色ですね。今年の方が、ほんの少し赤みが強めの肌となるように感じます。本田さん、どうでした?

本田:並べて比較した際、あるいは色表現も僅かに変化していたかもしれませんが、高輝度部の細かなディテールが深くなったことがあまりに印象的で。ただ明暗のコントラストが高くなると、色も濃く見えがちですし、次回の機会があれば、そこは詳細に観ておきたいですね。

 いずれにしろ、映画用に開発されたたモードで、モニタライクにプレミアム映像を楽しむという面では、ソニーとパナソニックの差がかなり小さくなったという印象はあります。

 ではLGも含めていちばん違いが出ているのはどこか? というと、実はあまりキレイではない地デジ放送などの画質だと思います。

山之:映画系の画質モードは、パネル性能・特性をうまく引き出しながら、より正確な描写を目指しますが、普段使いの画質モードは各メーカーの考え方がよく表れる部分ですからね。絵作りのアプローチの違い。

本田:標準系のモードだと、ソニーのBRAVIAは液晶、OLEDともにHDRリマスターがかかるのですが、これの効き目が極めて自然な上、効果的。以前のインタビューでは、そもそもZ9Dのバックライトマスタードライブが開発目標としてあって、そのスペックを標準ダイナミックレンジの映像でも活かすことでリアリティを上げていこうと考えたようです。東芝もこの領域は力を入れていますが、パナソニックとLGは機能をオンにしてみても、効果が感じにくい。LGは、全体が明るく見えるだけでHDRぽくはならないんですよね。

 次世代放送が始まるとHLGを用いたHDR放送が始まりますし、番組によって標準ダイナミックレンジとHDRが混在することになります。すると、”あれ?ソニーだけ妙に元気よい映像でキレイ?”なんて見えることになるでしょうから、標準ダイナミックレンジの映像をHDRっぽく見せる機能は各社力を入れるべきでしょう。

山之内:かなり大きな違いが出ますから、4K放送でデモが行なわれるようになれば店頭でもよくわかるでしょう。

本田:実はソニーのHDRリマスターが出始めた時、騙されたんですよね。いつも彼らがデモしていた”CGでレンダリングした神輿の4K/HDR映像”。当時の新モデルで見せられて、なかなかいい絵だなと思っていたら、実は4K/SDRだって後から言われ。少し強めにHDRリマスターをかけていたようですが、どう見てもHDRのようにしか見えなかったんですよ。きっと気付かないだろうと思って、あえて何も言わずにSDR版を見せたようです。

山之内:私も同じものを見ました。あれは、元の映像がHDRで見慣れていたこともあって、当然、HDRでデモをしていると思いますからね。

本田:LGの最新世代はα9という新しい映像プロセッサをOLEDテレビ用に新規で起こしてきました。インストール形態やスピーカーの違いで3つのモデル+普及型1モデルと、ラインナップが豊富。正直、せっかくIPSパネルをテレビ向けに出しているLGディスプレイを抱えているのだから、LGには液晶テレビにも力を入れて欲しい面もあるのですが(笑)それはともかく、HDMIから高画質な映像を入れた時の画質はかなり良くなっています。以前のような暗部の階調情報が少ないといった問題は、かなり改善されています。

 ただ、内蔵チューナの画質に関してはもう少し追い込んで欲しい。せっかく新規のLSIを起こしたのに、地デジ放送のノイズ対策やアップコンバート(超解像)あたりが、もう少し進化して欲しかった。

α9 Intelligent Processor

山之内:今回はOLED専用エンジンで、HDRの最適化を自動的に行なうHDRオプティマイザーを適用したりしていますね。しかし、もう少しやりようはあるのかな。進歩という意味では、昨年モデルが年末に向けてファームウェアアップデートで大幅に階調表現を改善しましたし、今年はさらにそれが進化してどんどん他社に追いついてきている。改善の速度は速いですし、フットワークも軽いのでさらなる進化を現行機でも期待したいですね。

本田:OLED専用のLSIは、映像の特徴を分析してHDR映像をどのように表示するのか、すなわちEOTFの部分をダイナミックに変えているそうです。ただ、オンになっていると全体が暗い映像や明るい映像、それぞれでかなり色の濃さなども含めて、絵の雰囲気が揺らぐんですよ。画面全体に対するトーンカーブの自動調整を行なっているようなので、オフにした方が安定した映像になりました。映画向けのモードでも(現在のファームウェアでは)オンになっているので再検討してほしいかな。

 あとは東芝が出そろえば比較できますが、実はHDRの自動最適化は東芝もチャレンジしているんですよね。彼らはSDRの時代から同じようなことをやって破綻なく合わせ込んでいるので、いずれ見比べたいところです。

山之内:東芝は私もOLEDの映像をまだ観ていませんが、彼らはBS 4Kチューナ内蔵モデルを用意していますし、タイムシフトエンジンという独自の武器もあります。日本市場向けに特化した開発をしていますから、最終的な完成度に期待したいですね。

ピックアップ製品(本田)

ソニー BRAVIA A8Fシリーズ

OLED BRAVIAのトップエンドモデルA1に対し、スタンド構造、ウーファーなどの設計を変えた普及機と思える本機だが、画質はさらに進化。最新パネルに合わせた低輝度部の高い階調性と、色ノイズが多い映像ソースへの対応で完成度がさらに高まっている。標準ダイナミックレンジの映像を美しく見せるHDRリマスターも秀逸

パナソニック VIERA FZ950シリーズ

シーンを識別して映像ごとに映像補正の参照テーブルを切り替え。高輝度部の局所コントラストを改善した。最新パネルの長所も活かして低輝度部の再現性も高めており、完成度の高い画質を見せる。ディスプレイとしての完成度は極めて高い。やや残念なのはテレビ放送を観る際の標準的な映像モードに対して、どう”魅せるか”の部分。質の高いサウンドバーが欲しいならば同一画質のFZ1000も検討に

ピックアップ製品(山之内)

ソニー BRAVIA A8Fシリーズ

4K映像の精細感にいっそうの現実感をもたらすのがHDRのリアルなコントラスト表現で、そのリアリティを見る者に伝える手法が現時点で最も洗練されているがBRAVIAの基幹モデルであるA1シリーズとA8シリーズである。精度の高いHDRリマスターは期待を裏切ることが少ないだけでなく、SDR映像から思いがけず奥行き感豊かな映像を引き出してくれる

パナソニック VIERA FZ1000シリーズ

有機ELテレビはパネルのバリエーションが多くないのでラインナップの多様化が難しく、デザインや機能の差で作り分ける手法が目立つようになった。パナソニックもFZ950とFZ1000の基本性能は画質に関してほぼ共通。最暗部の階調表現が確実に改善し、最明部の制御も一歩前進しており、輝度レンジの広いHDR作品でも熟成度の高い映像表現を見せる。

レコーダはどうなる? プレーヤーは「OPPO以後」に期待

本田:レコーダ市場は販売台数が落ち続けていますが、一方でパナソニックが全自動DIGAに力を入れていることもあって平均単価は上昇傾向のようですね。ただし“全部録画なんて不要”という意識があるようで、なかなか全録というコンセプトが拡がっていない。実際には”録画保存”ではなく、時間制約からの解放なのですが、消費者に全チャンネル録画の付加価値を理解してもらうのはなかなか大変。

 レコーダというジャンルでは、パナソニックがブルーレイ時代に入ってから1強時代を築いてきましたが、全体にレコーダニーズが減っていることから、全自動だったり、あるいは自宅にメディアを保存してスマートフォンやタブレットで楽しむ「おうちクラウド」のコンセプトを掲げてきました。

 家庭内で大きなサイズのHDDを持つ常時オンで待機する機器ってなかなかありませんから、スマホと接続してどこでも楽しめるというのは、“レコーダ”というジャンルから飛び出していくきっかけになるかもしれません。

山之内:確かに大きな保存領域で多様なデジタルメディアを扱えるという方向はありますね。ただ、もしHDDを中心に自宅保存で多様なメディアを扱うのであれば、洗練されたバックアップの手段が必要です。自らバックアップに気を使わなければならなかったり、あるいはバックアップの手段がないようではダメ。HDDは一時保存のみで、大切なコンテンツ、あるいは思い出となる写真などを”保管する”場所ではありませんから。

本田:“映像作品はクラウドのサービス側にある”という状況がさらに今後は進んでいくでしょうから、消費者側のバックアップへのニーズ、意識が低くなっているのかもしれません。放送コンテンツはその限りではない面もありますが、一方で放送局も配信サービスに積極的に取り組み始めていますね。ただ写真やホームビデオなどの保存なども考えると、悩ましいところではあります。

山之内:USB HDDなどに自動バックアップといったことになると、結局、光ディスクドライブがある意味がよく解らなくなってきますね。最近、BDを焼くことなんてほとんどなくなってきているでしょう。もちろん、映像パッケージの再生という用途はありますから、記録型も同時に扱えるのは自然なことではあるのですが、配信に向かうとすれば光ディスクドライブの価値は相対的に落ちていきます。そうした部分も含めて、商品全体の見直しが必要になってくるタイミングなのかもしれませんね。

本田:見直しという面では、全自動DIGA。私も使っているのですが、普通の”録画機”と”放送時間という制約からの解放”という二つの要素が別々に機能として詰め込まれているんですよ。録画する領域をHDD内で分けているのはいいとしても、チャンネル録画の番組を保存するとわざわざダビングして保管したり、ユーザーインターフェイスも両者でテイストが違ったり。加えて予約録画して視聴を繰り返していても、全自動側からは”利用者がその番組を好んでいる”という情報を受けとることもない。

 まるで異なる二つの録画機を連結したような作りになっているんですが、電源オンで全自動機能のポータル画面を出すぐらいならば、ここはもう新しいジャンルの製品として、ユーザーインターフェイスや機能を整理して組み立て直す必要があるのではと。

ピックアップ製品(本田)

パナソニック お家クラウドDIGAシリーズ(全自動を含む)

“ドラ丸”機能搭載でサムネイルを使ったサーチ機能などシャープのレコーダも秀逸だが、映像出力のクロマ処理なども含めAV機器トータルの性能・画質は、パナソニックDIGAが優れている。長年、トップシェアを走る理由でもあるが、昨年後半に投入した”おうちクラウド”機能が今年は全自動モデルにも展開。レコーダというカテゴリにおいては独走の機能性だ

山之内:機能性を追求するのであれば、そうした方向もありますし、あるいはHDDを内蔵しない画質・音質プレーヤーを中心に多様なサービスへの接続や機能拡張のベースになっていくという方向もあるでしょう。

 OPPO Digitalはプレーヤーの新規開発を行なわないと発表しましたが、彼らが人気を得たのはBDプレーヤーを基礎に、オーディオ&ビジュアルの多様なソースの再生に対応していこうとしたからですよね。

本田:もともと、自分たちがこんなものが欲しいというマニアの発想を具現化したような製品でしたからね。その後のアップデートもAV機器のそれではなく、どちらかというとコンピュータ機材のアップデートに近かった。元々、BDプレーヤーにはパソコンが内蔵されているようなものだったことに加え、AVユーザー向けのネットワークサービスが台頭してきた時期とも重なって、大手メーカーの対応が遅れていたところに踏み込みました。

 とはいえ、現在のUDP-203/205ではネットワークサービス対応の部分は(Fire TVやChromecast等を前提に)簡略化され、USB DAC+プレーヤー+ネットワークプレーヤーといった構成に整理されました。新規のハードウェアも開発しないということですから、新モデルということでは直近はパイオニアの動向に注目でしょうか。

山之内:パイオニアのUDP-LX500はまもなく発表されるはずです。試作機は4K映像の完成度が高く、上位機種も出そうなので、UDP-205との比較に期待が高まります。

本田:OPPOを除くと、デジタル領域での音声信号処理がもっとも納得感あるパナソニックのDMP-UB900が個人的にはいちばんオススメです。HDR映像のEOTF特性を自分が使っている機材や視聴環境に合わせて微調整できる。もちろん手動で合わせ込むのですが、視聴環境はひとりひとり違うものですから、特にプロジェクターで映画を観る人にはお勧めしたい。

 パイオニアの製品にも、そうした痒いところに手が届く要素を盛り込んで欲しいところですが、パナソニックは欧州向けに高級機のDMP-UB9000を発表済みなんですよね。日本向けも考えてはいるようですが、プレーヤーのままなのか、それとも高級レコーダという形にアレンジした、いつものパターンなのかがまだ不透明です。

山之内:個人的には現在、UDP-205を使っていますが、やはり映像を楽しむ機材としては高級プレーヤーとして出して欲しいですね。そこからシステムの機能、接続できるサービスを拡大していけば良い製品になるでしょう。

(編集部)ところでOPPO Digitalの事業撤退はどう受け止めてますか?

山之内:OPPOに関しては実際にプレーヤーを使っていることもあり、大変残念に思っています。今後、ハードウェアの開発はしないということですが、今のハードウェアのまま、まだ進化させる余地はあるでしょう。すでに撤退を発表した後、バージョンアップをしていますから、もっと使いやすいプレーヤーに仕上げてほしいなあとは思っています。

本田:UDP-205は僕も使っていますが、BDP-105などの時代は「アナログ音声はいいけど、HDMI音声の質はイマイチ」とか、いくつかの面で惜しいところがあったんですが、UDP-205ではよくHDMIによるオーディオ伝送を研究して解決策を見つけ出し、高級DACでアナログ出力も頑張ったけれど、実はHDMIの音もいいんですよ、ジッターを減らすことに成功したんですと。このあたり、できるとは思っていなかったので、ちょっと驚いたんですよ。

 HDRの映像のEOTF変換特性の調整などはパナソニックの方が一枚も二枚も上手なんですが、ここも何度か手がすでに入っていて、そのうちまたソフトウェアのアップデートで対応しようとするんじゃないでしょうか。撤退は驚きましたが、ソフトウェアのエンジニアは追加で雇うなど、アップデートを今後もやっていくということなので、“OPPO最後のハードウェア”を熟成させて欲しいです。

山之内:OPPOが撤退し、ハードウェアの追加生産もないとすれば、今、流通がガバッと残りの台数を確保しているものが最後になりますから、今度出るパイオニアをはじめ、日本メーカーが、OPPOが切り拓いてファンを獲得していた領域で、期待にこたえる製品を出してほしいと思います。

(「オーディオ編」に続く。12日掲載予定)

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。  AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。  仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。