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文化放送が“個人系VTuber”ライブを開くワケ。「ゆくゆくは専用ライブハウスを」
2023年8月3日 07:30
文化放送が7月からVTuberをパーソナリティに起用した深夜ラジオ番組をスタートさせた。そのうちのひとつで毎週木曜日26時30分から放送中の「ぶいかふぇ♪」は、毎週金曜日に秋葉原のライブハウスで開催されるリアルライブ「ライブハウス ぶいかふぇ♪」と連動している。VTuberのリアルライブとはどんなものなのか、またVTuberのリアルライブを文化放送が手掛ける理由は何なのか、直撃した。
毎週木曜日の深夜に放送されている「ぶいかふぇ♪」は、グループに所属せず“個人勢”として活動しているVTuber・南登かなるがパーソナリティを務める番組。“個人勢”のVTuberには横のつながりが大事だとし、毎週3人のVTuberをゲストに招いて番組を進行している。
この番組で特徴的なのは、7月21日より毎週金曜日に秋葉原で開催されている有料のライブイベント「ライブハウス ぶいかふぇ♪」と連動していること。同番組にゲスト出演したVTuberが、金曜夜に秋葉原のライブハウス「秋葉原トークライブBAR from scratch」でライブパフォーマンスを披露する。
もちろんVTuberとして活動しているので、ステージ上には生身の人間ではなくVTuberが立つことになる。実際にどうやってVTuberのステージを構成しているのか。7月21日に行なわれたイベント初回のリハーサルを取材した。
会場となるライブハウスは、ドン・キホーテ秋葉原店より末広町側にある秋葉原Silビルの9階。ライブハウスに入ると、ステージの前には大きなスクリーンがかかっていて、客席からステージ上は見えないようになっている。このスクリーンにプロジェクターから映像を映すことでライブステージを構成している。
そのスクリーンの裏側、実際のステージではライブを行なうVTuberの“中の人”が歌やダンスなどのパフォーマンスを披露する。そして、その動きをキャプチャーし、VTuberのパフォーマンスとして映し出す。
実際の人の動きをキャプチャーするデバイスとしては、HTCのVIVE Trackerやソニーのmocopiなどいくつか手段があるが、このステージで使われていたのはOptiTrackのモーションキャプチャーシステム。映画やゲームのモーションキャプチャーのように、“中の人”は頭から足先までピンポン玉のようなセンサーが付いたスーツを着用し、これをステージに設置された計8基のセンサーで読み取っていた。
「ライブハウス ぶいかふぇ♪」が行なわれるのは毎週金曜日のみだが、キャプチャー用のセンサーは基本的にライブハウスに常設される。企画担当者によれば、「今は3人でステージを構成していますが、技術的にはこのシステムで4人まで対応できる」とのこと。
トラッキング精度もかなり高く、リハーサルの合間に“中の人”が手元のスマホを操作している手の動きも、投写される映像にしっかり反映されていた。また奥行き情報も検知しており、VTuber同士がすれ違うような場面でも、キャラクターが重ならない形で表現されていた。
上述のようにステージと客席の間にはスクリーンがあるため、“中の人”側からは客席の様子を直接確認できないが、ステージ上にはモニターも設置されており、ここに客席の様子を映すことで、観客との“コール&レスポンス”を可能にしている。
そんなステージの裏側には複数台のPCが用意されており、ここでLive2DやOBS Studioなどを立ち上げてステージ映像を作り上げている。このイベントは有料ライブ配信もされているため、ステージ裏のPCで作られた映像は、ライブハウス内のプロジェクターだけでなく、客席後方に置かれている配信PCにもHDMI経由で送られていた。
ライブ終了後には出演したVTuberとのチェキ&お話しイベントも行なわれ、その際の映像生成にも、ステージ上のキャプチャーシステムが活用される。
取材したのがイベント初回のリハーサルということもあり、現場ではゲストとして登場するVTuberと、メインMCを務めるVTuber・南登かなるの登場/退場タイミングについて繰り返しテストが行なわれており、「南登さんは、もう少し立ち位置を下手側(客席から舞台に向かって左側)にしてください。またゲストの表示タイミングを2秒遅らせてください」といったやり取りが行なわれていた。
個人勢にもライブの機会を。「ゆくゆくはVTuber専用ライブハウスを」
いわゆる“歌ってみた”動画を投稿しているVTuberは数多いが、そのなかでライブイベントを開催しているのは、大手グループや事務所に所属しているVTuberがほとんど。そういったグループに所属していない“個人勢”のVTuberでは、あまり例を聞かない。
「ライブハウス ぶいかふぇ♪」の企画担当者は、“個人勢”がライブイベントを行なう上でネックになっているのは、設備・機材にかかる費用だと説明する。
「例えば全身の動きをトラッキングしようとすると、専用の設備を用意する必要があります。大手事務所に所属するVTuberであれば、事務所側がスタジオを用意していることもありますが、個人勢の場合はそうはいかないので、そこに大きな費用がかかります。もちろん、ライブハウスを借りる費用なども必要になります」
「歌を披露するVTuberが増えてきたなかで、そういった個人勢のVTuberでもステージパフォーマンスを届けられる舞台を用意できればと、今回の企画を立ち上げました」
「ゆくゆくはVTuber専用のライブハウスを立ち上げて、毎日VTuberがそこでライブを開催している、そういった環境を作れればと思っています」
画面越しに応援していたVTuberのパフォーマンスを、スクリーン越しではあるものの、実際に空間を共有しながら応援できるのはファンにとって嬉しいもの。
また全身の動きをキャプチャーできる場所でのライブとなれば、歌やトークだけでなく、ダンスや客席の“煽り”などステージパフォーマンスも求められるようになる。VTuberの表現にも新たな幅が生まれ、このライブが浸透すれば、アイドルのように“歌って踊れる個人系VTuber”が続々と誕生するかもしれない。