2009年のヘッドフォン/イヤフォン事情を振り返る

-超高級ヘッドフォンからiPodデジタル出力まで


 

 2009年もヘッドフォンやイヤフォンに新製品が相次ぎ、ヘッドフォンアンプなどの関連製品でも新たな動きのある1年となった。ここでは代表的な商品を振り返りながら、今年一年の動きをまとめてみたい。


■ ヘッドフォン/イヤフォン

 ヘッドフォンでは、10万円を超える高級モデルが相次いで登場したのがトピック。オープンエアーを得意とするゼンハイザーは、上位モデルの「HD650」が定番化していたが、6月に新ハイエンド「HD800」(オープン/実売15万円前後)が登場。オープンエアの1つの到達点を感じさせてくれるモデルだ。

 一方、ULTRASONEからも5月に「edition8」(オープン/実売15万円前後)が登場。「S-Logic Plus」や「ULE」など、独自技術を投入しつつ、屋外での利用も想定した小型&密閉型を実現した。用途や思想が異なる超高級ヘッドフォンが同時期に登場したのは興味深い。

左がULTRASONE「edition8」、右がゼンハイザーの「HD800」edition8HD800

T1

 さらに、beyerdynamicも10月に、実売14万円前後のセミオープン「T1」を発売。1テスラを越える磁束密度を持ったマグネットを用いた高能率モデルだ。こうした現象は、家でもヘッドフォンをメインに楽しんだり、屋外利用時の音質にこだわるなど、新しいオーディオライフスタイルの広がりを象徴するものだ。

 また、この価格帯では各社の技術や思想、追求している音質などが明確化した、個性的なモデルが多い。試聴機を見かけたら一度聴いてみると下位ラインナップを購入する際にも参考になる事が多いはずだ。


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 ハイエンド以外にも注目機種は多い。“新しさ”という意味では、11月にヘッドフォン市場に参入した米Shureが印象深い。ラインナップの中でも「SRH440」(実売1万円前後)と「SRH840」(実売2万円前後)の低価格ながらバランスの良い再生音が光る。特にナチュラルな「SRH840」は、このクラスのスタンダードになりそうな1品。

SRH840SE840ハウジングSRH440

SRH750DJ
 また、DJ用とされている「SRH750DJ」(実売16,000円前後)も低音が強調され過ぎないバランスで、ポータブルプレーヤーなどとの接続でも十分活躍できる要注目モデルである。


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 オーディオテクニカも精力的に製品を投入。11月にはチタンハウジングを採用したポータブル用密閉型の高級機「ATH-ES10」(47,250円)が登場。木製ハウジングの高級ヘッドフォン「Wシリーズ」の第10世代モデル「ATH-W1000X」(grandioso/71,400円)も独自の魅力に溢れるモデルだ。

 キレのある低音を得意とする「SOLID BASS」シリーズ初のヘッドフォン型として12月に発売された「ATH-WS70」も、12,600円という低価格ながら凄みと解像力を兼ね備えた低音を聴かせ、サイズもコンパクトにまとめた力作である。

ATH-ES10ATH-W1000XATH-WS70

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 低音に特徴と言えば、完実電気が取り扱う米Monster Cableの「Beats Solo by Dr.Dre(MH BTS ON SO CT)」(実売26,000円前後)もコンパクトながら、パワフルな重低音が楽しめる1台だ。アクティブノイズキャンセル機能も備えた「MH BEATS PI OE(BK)」や「MH BTS OE WH」なども用意されている。

 ほかにも、多数のラインナップで国内本格展開を開始したフィリップスや、韓国Cresyn製「PHIATON」のヘッドフォン/イヤフォンなども、今後の動向が気になるブランドだ。

Beats Solo by Dr.Dre
(MH BTS ON SO CT)
フィリップス「SHL9560」Cresyn
PS 500 HEADPHONES

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 カナル型(耳栓型)イヤフォンには個性的なモデルが多く登場した。インパクトが大きかったのは、金属削り出し筐体を使い、実売20万円の「FI-DC1601SC」を含むラインナップで登場したファイナル・オーディオデザイン。もちろんABS成形で実売29,800円、19,800円といった購入しやすいレンジも揃えているほか、イベントではバランスドアーマチュア搭載モデルも参考展示するなど、今後の展開が気になるメーカーだ。

「FI-DC1601SC」筐体にABSを採用した「FI-DC1350M2」(実売29,800円前後)

 ほかにも、ダイナミック型ながら2基のユニットを搭載し、2ウェイとしたラディウスの「W(ドブルベ)HP-TWF11」(実売15,000円)。ヘッドフォンで知られるGRADOが初投入したイヤフォン「GR8」(直販28,000円)や、オルトフォン「e-Q7」(29,400円)など、新規参入も相次いだ。

 1万円程度の価格帯では、大量ラインナップで日本市場に本格参入したフィリップスの上位モデル「SHE9850」(バランスド・アーマチュアのシングル/実売12,800円前後)、独beyerdynamicのダイナミック型「DTX 100」(13,650円)、「DTX 80」(10,500円)など、コストパフォーマンスの高い製品が増加した。

W(ドブルベ)HP-TWF11オルトフォン「e-Q7」

フィリップス「SHE9850」


 アクティブ・ノイズキャンセリング(NC)でのトピックは、ソニーがデジタルノイズキャンセルタイプのイヤフォン「MDR-NC300D」(30,975円)を投入したこと。騒音をデジタル信号化して高速処理し、より高精度な逆位相の音で打ち消すモデルとして注目を集めている。一方、ボーズも9月にNCヘッドフォン「QuietComfort15」(直販39,900円)を投入。強力なNC性能により、同市場の先駆者として確かな存在感を示している。

ソニー「MDR-NC300D」ボーズ「QuietComfort15」

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■ ヘッドフォンアンプ/USBオーディオDACなど

 据え置き型のヘッドフォンアンプでは、7月にDAC内蔵ヘッドフォンアンプの定番「DR.DAC」の新モデル「DR.DAC2 DX」(直販46,800円)が登場。OPAMP交換で音質の違いが楽しめるのが特徴だ。ラックスマンも8月にヘッドフォンアンプのリファレンスモデル「P-1u」(189,000円)を投入。2002年以来、7年ぶりのフルモデルチェンジとなった。

 ほかにも、McAUDIの「M-81」(バランス型:39万9,000円)やC.E.C.の「HD53N」(78,750円)など、バランス接続型のヘッドフォンアンプも増加。C.E.C.では低価格なフルバランス型ヘッドフォン「HP-53FB」(34,650円)も発売しており、バランス接続の音質が手軽に楽しめるようになった。通常の3極プラグで接続するヘッドフォンはアンバランス接続だが、左右のユニットそれぞれに、プラス極に正相、マイナス極に逆相を流すXLR端子のバランス接続を行なうことで、コードの短いヘッドフォンでも、外来ノイズの低減やヘッドフォン駆動能力の向上、クロストークの低減などの利点を堪能しようという動きだ。

WiseTechの「DR.DAC2 DX」ラックスマン「P-1u」C.E.C.のフルバランス型ヘッドフォン「HP-53FB」(右)と、ヘッドフォンアンプ「HD53N」(中央)。セット販売「HDフルバランスシステム」(99,750円)もある

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【7月3日】WiseTech、DAC内蔵ヘッドフォンアンプ「DR.DAC」新モデル
-USB/光出力搭載の「DR.DAC2 DX」。直販46,800円
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【7月17日】ラックスマン、ヘッドフォンアンプ最上位をモデルチェンジ
-約19万円。独自帰還回路を最新に。スルー出力追加
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20090717_303163.html
【7月13日】McAUDI、バランス構成で約40万円のヘッドフォンアンプ
-TI製24bit DACバランス使用などDAC内蔵プリアンプも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20090713_301909.html

 また、フューレンコーディネートが2010年1月から発売する、米NuForceのヘッドフォン出力付き小型USB DAC「Icon uDAC」(13,650円)や、WiseTechのAudinst製「HUD-mx1」(実売22,800円前後)、フォステクスの32bit DAC採用「HP-A3」(2010年1月7日発売/38,850円)など、年末にかけてUSB接続対応のDAC/ヘッドフォンアンプの新製品発表が相次いでいる。

 小型筐体で似たようなデザインが多いため、どの製品も同じように見えてくるが、PCとUSB接続してUSBオーディオとして動作するもの、光/同軸デジタル入力を備えて、CDプレーヤーやiPodトランスポートと接続して単体DACとしても使用できるものなど、機能が細かく異なる。ソースとして何を接続するのか、そしてドライブ先としてヘッドフォンのみを使うのか、アンプやアクティブスピーカーも接続するのかなど、使用環境を考慮した上で選ぶ必要がある。

Icon「uDAC」フォステクス「HP-A3」Audinst「HUD-mx1」

 また、USB接続時の音質改善も1つのトレンドだ。ラトックシステムの「RAL-2496UT1」(56,700円)は、USBオーディオコントローラにオリジナルファームウェアを用いて、アシンクロナス(非同期)モードとオーディオ専用クロックでオーディオ信号を作り、音質に影響を与えるサンプリングクロックのジッタを大幅に低減している。

 前述の「Icon uDAC」も受信したUSBオーディオデータをI2S信号に変換し、その後DACにより2Vアナログ信号に変換。また、zionoteはイタリア「M2TECH」の「hiFace」(19,800円)という、アンプを排したUSB-同軸デジタルコンバータ(DDコンバータ)を1月に発売。これもオリジナルドライバでUSBから高音質デジタル出力を得るもので、USBながら最高24bit/192kHzに対応している。光/同軸デジタルと比べて音質が悪いと言われていたUSB接続も変わりつつある。

ラトック「RAL-2496UT1」イタリアM2TECHの「hiFace」

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【12月15日】フューレン、13,650円の小型USB DAC「Icon uDAC」
-出力を2倍に強化した小型アンプ「Icon Amp」も
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【12月10日】フォステクス、32bit DAC内蔵ヘッドフォンアンプ
-38,850円の「HP-A3」。USBバスパワーで動作
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【12月14日】ラトック、24bit/96kHz対応USBオーディオトランスポート
-独自ファームウェアでジッタ低減。56,700円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20091214_335838.html


 ソース面では、iPodトランスポートの存在が外せない。Wadiaが切り開いた市場だが、オンキヨーが9月に発売した「ND-S1」が、実売13,000円程度という驚異的な低価格で話題となった。iPodを乗せるだけで高音質トランスポートとして機能し、ピュアオーディオやヘッドフォン環境に組み込めるほか、USBオーディオとしても動作するため、PCとの親和性も高いというマルチな存在だ。

Wadia 170 iTransportオンキヨー「ND-S1」

 人気の高さから、“最初からiPodトランスポートとの接続を想定した製品”という、新分野を開拓する存在にもなっている。ミックスウェーブが扱う「Red Wine Audio」のDAC内蔵ヘッドフォンアンプ「Isabellina(イサベリーナ) HPA」(実売30万円前後)は、自身の動作だけでなく、「Wadia 170 iTransport」や「ND-S1」へのクリーン電源供給もできる。電源ケーブルを接続しないヘッドフォン環境が実現でき、音質にも優れるという、面白いコンセプトの商品だ。今後もこうしたパターンが増える可能性がある。

 また、オーディオテクニカからは2010年春に、iPodトランスポートとヘッドフォンアンプを合わせた「AT-HA35i」(50,400円)が登場する。iPod Dockを備え、Dock端子から取り出したデジタルデータを内蔵DACで変換し、増幅するヘッドフォンアンプとして使えるほか、同軸デジタル出力とアナログ音声出力も装備。外部DACやアンプとも組み合わせられる。

 

Red Wine Audioの「Isabellina」「Isabellina」の背面オーディオテクニカ「AT-HA35i」

【8月10日】オンキヨーのiPod/PCトランスポート「ND-S1」を試す
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【11月27日】ミックスウェーブ、バッテリ駆動のヘッドフォンアンプ
-Red Wine Audio製。iPodトランスポートに電源供給
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20091127_331948.html
【10月15日】オーディオテクニカ、iPodのデジタル伝送対応アンプ
-デジタル出力付でトランスポート利用も可。5万円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20091015_321842.html


オーディオテクニカ「AT-PHA30i」(左)、FiiOの「E1」(右)
 iPodのライン出力を増幅するポータブルタイプのヘッドフォンアンプにも大きな変化があった。海外メーカー製品が多く、どちらかと言うとマニアックだったジャンルに、オーディオテクニカが「AT-PHA30i」(12,600円)で参入。Dock接続のラインケーブルとアンプ、リモコンを一体化しているのが特徴だ。

 バッテリを内蔵しているため、筐体が大きく、別途Dock接続のラインケーブルも必要なこれまでのポータブルヘッドフォンと比べ、価格が手頃で、サイズが小さく、使い勝手が良い製品として注目を集めている。同時期に小柳出電気商会(オヤイデ)が中国FiiOの「E1」(3,675円)を投入。こちらはより低価格な入門モデルとなっている。2010年は使い勝手や取り回しの良いポータブルアンプの充実により、市場拡大が見込まれる。

 バッテリ内蔵の従来型モデルにも、NuForceの「Icon Mobile」(13,650円)、ALO Audio製の「Rx amp」(実売48,000円前後)など新顔が登場。Qables.comの人気クラスDアンプ「iQube」も「iQube V2」(実売75,600円程度)に強化され、USB DAC回路を内蔵した。

Icon MobileALO Audioの「Rx amp」「iQube V2」。左は数量限定ホワイトバージョン

【12月18日】【新プ】小型&低価格。ポータブルアンプ期待の2機種比較する
-「オーディオテクニカ AT-PHA30i」、「FiiO E1」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/np/20091218_336505.html
【10月20日】ALO、薄さ12.7mmのポータブルヘッドフォンアンプ
-実売48,000円。純銀線採用のオーディオ用USBケーブルも
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20091020_323006.html
【3月11日】フューレン、NuForceのポータブルヘッドフォンアンプ
-USB DACとしても利用できる「Icon Mobile」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20090311_43333.html
【7月7日】タイムロード、ポータブルヘッドフォンアンプ「iQube」新モデル
-USB DAC機能搭載。オランダQables.comプロデュース
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20090707_300549.html


(2009年 12月 25日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]