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4K時代本格化。本放送開始のスカパー!と東芝4K録画の狙い

Z10Xは4K放送フル対応。スカパーは124/128度強化

 '14年6月に“実用化試験放送”として4K放送チャンネル「Channel 4K」がスタートした。124/128度CSのスカパープレミアムサービスのプラットフォームを使いながら、世界初となる3,820×2,160/60pの高精細映像の放送が行なわれている。ただChannel 4Kは、官民が一体となって4K/8K放送を推進するために立ち上げたNexTV-Fが主体となっており、あくまで試験的な位置づけ。4K放送が本格化した後は、フェードアウトしていくチャンネルだ。

 そして、3月1日から、スカパーが4K商用放送サービスを開始する。スカパー! プレミアムサービス上において、チャンネル契約者は追加料金不要の「スカパー! 4K 総合」(Ch.596)でJリーグ中継やドキュメンタリー、バラエティなどを放送するほか、映画専用の「スカパー! 4K 映画」(Ch.595)の2チャンネルで展開。映画は1作品500~700円のPPV(都度課金)放送となる。

スカパーJSAT 有料多チャンネル事業部門 事業戦略室 事業戦略部 開発チーム サービス開発主幹の今井豊氏(左)と、東芝ライフスタイル 国内TV商品企画担当参事の本村裕史氏(右)

 現状唯一の4Kチューナ内蔵“テレビ”である東芝のREGZA Z10Xシリーズも、本格放送に先駆けて4K放送録画に対応。2月17日よりソフトウェアアップデートを開始した。Channel 4Kだけでなく、3月にスタートするスカパー!4K 総合も録画可能になる。

 録画対応にあわせて、REGZA Z10X購入者向けのスカパー!加入キャンペーンもスタートするなど、スカパーと東芝が協力し、4K放送の加速に着手した。両社が4K放送に積極的に取り組む理由とはなんだろうか? 担当者にその狙いを聞いた。

Z10Xが「スカパー!4K総合」とChannel 4K録画対応。

 4K放送対応機器は、'14年6月にシャープがチューナ/レコーダの「TU-UD1000」を、10月にソニーが「FMP-X7」を発売。そして、現状唯一の4K放送チューナ搭載テレビが東芝のREGZA「Z10X」となる。ただし、他のレコーダ製品と異なり、Z10Xはこれまで「録画」に対応していなかった。これが17日から録画対応となる。

 REGZAの商品企画を担当する東芝ライフスタイル 国内TV商品企画担当参事の本村裕史氏によれば、「試験放送での対応も検討はしていたが、商用放送での著作権保護仕様の変更なども予想されたため、仕様が固まった商用放送前の録画対応となった」とのこと。このアップデートで、Z10Xが“4K放送フル対応”した、といえるかもしれない。

 実際にアップデートされたZ10Xで、一足先に4K放送録画を試してみたが、これが拍子抜けするくらいシンプル。基本的な操作はほぼ地デジと同じなのだ。

番組表で4K放送を選択して、決定するだけで録画完了

 録画用の別売USB HDDを追加(地デジで利用している場合は、そのHDDを利用できる)。あとは、リモコンの[スカパー!]ボタンでCS放送(スカパー! プレミアム)を呼び出し、番組表からChannel 4K、3月1日以降は「スカパー! 4K 総合」(Ch.596)の任意の番組を選ぶだけ。4K/60pのHEVCで放送される4K番組がUSB HDDに録画できる。放送波をそのまま録画し、フォルダ分けも可能となっている。つまり、地デジ/BSの録画ができる人であれば、4K放送といえども戸惑うことはないはずだ。本村氏も「2Kと同じく、誰でも使える操作にこだわった」と語る。

地デジ録画予約とほとんど同じ操作画面
4K放送番組だけもリスト化できる

 とはいえ、地デジとの違いももちろんある。

 スカパー! 4K総合の番組は基本的に録画可能だが、PPVとなる映画チャンネルの「スカパー! 4K映画」はコピーネバー(コピー不可)のフラグが付与されているため、録画はできない。また、録画したスカパー! 4K総合やChannel 4Kの番組をダビング/ムーブする機能は備えていない。これは、現在の4K放送で、そうした機器間の番組移動に関する規定が無いことに由来する。そのため、Z10Xで録画した番組が視聴できるのは、Z10Xでのみとなる。

 とはいえ、すでにChannel 4Kを含め、これからはじまる4K放送の多くのスポーツやドキュメンタリーなどの番組を録画可能になるというのは大きい。特にChannel 4Kは現状平日は昼間~夜にしか放送していないため、夜が遅めの勤め人には厳しい編成だった。録画対応により、Z10Xのシンプルな操作で、4K放送のタイムシフトが可能になるわけだ。

スカパー!は4K放送2チャンネルをスタート

 スカパー!は3月から、「総合」と「映画」の2チャンネルで、4K放送を開始する。

「スカパー!4K 総合」(Ch.596)では、スポーツ中継は、2015明治安田生命J1リーグの開幕戦となるガンバ大阪×FC東京戦を皮切りに、毎節1試合を4K生中継する予定。その他の番組では、パリ・オルセー美術館を4K映像で巡る番組や、昨年4K収録された谷村新司のライブを放送。その後も、毎月オリジナル新作番組の放送を予定している。

 「スカパー!4K 映画」(Ch.595)では、話題の洋画、邦画や過去の名作など幅広いジャンルの作品を年間50本程度放送予定。3月は、大自然の神秘を最高峰の4K技術で撮影した「ネイチャー」、オリジナルフィルムを4Kスキャンすることで色鮮やかに蘇った、松田優作主演2作品、SFファンタジー「時をかける少女」を編成する。

4K放送「スカパー!4K 映画」と「スカパー!4K 総合」を3月1日スタート

 4Kといえば期待されるのは、やはりハリウッドなどの大作映画だろう。Blu-rayより高画質の4Kを大画面で楽しみたい、という声は多いはずだが、現時点では用意されていない。ただし、スカパーの番組調達方針としては、「間口を広く、世界中から良いコンテンツを集めたい」とのことで、順次放送コンテンツについては強化していく予定だ。

 PPVのスカパー! 4K映画は、3月にはKADOKAWAの「時をかける少女」などの邦画、それから「ネイチャー」のようなドキュメンタリーを用意する。ネイチャーは、もともとフィルムで撮影していたシリーズだが、新たに4Kデジタル撮影され、内容の充実だけでなく、高画質も注目される。基本的に「映画」として権利を買っているコンテンツについては、この4K映画チャンネルでPPVで配信される。

 録画も可能な、スカパー! 4K総合については、総合的な編成で、スカパー! プレミアム加入者向けに無料で放送する。

 スカパーJSATで4K放送の立ち上げを主導する、有料多チャンネル事業部門 事業戦略室 事業戦略部 開発チーム サービス開発主幹の今井豊氏は、「スカパーが自分たちで作っている番組で力を入れているのは、『音楽ライブとスポーツ』。特に、サッカーJリーグは、毎週1試合は4Kで生放送を行ないます。結構な覚悟が必要です(笑)。4KのVODサービスは他にもありますが、4Kで編成して放送しているサービスは、世界中他にありません。それだけでも結構大変ですが、その上に生放送もやる。やはりそこでは“放送”としてやって行かなければいけないという思いがあります」とその位置づけを説明する。

 その狙いとは、やはり放送の特徴を最大限に活かす、ということにあるようだ。

「VODで音楽を見る。時間に縛られずに見る。それはもちろんいいのですが、今現在、ホールでやっているライブを同時に体験できる。そこは視聴者の体験として、VODとは全然違うものだと思います。多くのライブは4K/60p、アーティストによっては24p、30pになるかもしれませんが、やはり60pの臨場感、生っぽさが出てきます。放送の同時性を最大限に活かしていきたい」

 もちろん、「4K生放送」というのは簡単ではない。スカパー!は、過去に番組制作者を対象としたセミナーなども複数回に渡って展開してきた。例えば'14年末の段階でも、「フォーカスの難しさ」や、「膨大なデータ量」などの課題を指摘する声は挙がっていた。

 今井氏も、「フィルムのレンズを使って4K撮影するケースだと、スポーツ用のHDカメラの1/4ぐらいしか被写界深度が無い。だからものすごく難しいのは事実です」と認める。一方で、「カメラマンはプロです。昨年も何回か試験的に撮影していただいていますし、実際に普段サッカーを撮っている人にお願いして撮ってもらうと、できるようになります。野球の打球を追うような“神業”も見られるようになりました」と語り、本格放送をこなすノウハウが、現場に集約されつつあるとする。こうしたノウハウの蓄積、共有こそが、Channel 4Kをはじめとする、昨年来の4K放送への取り組みの成果といえるし、そうした“神業”を見つけるのも4K放送の楽しみとなるのかもしれない。

 Jリーグ中継については、4Kと2Kを別に撮影すること無く、基本的に4Kの収録映像を2Kにダウンコンバートして行なう方針とのことだ(中継機材の都合で4KとHDの順が別になる場合もある)。

 また、収録コンテンツが中心となるChannel 4Kと、スカパー! 4K総合の違いもやはりライブ性だ。

「今日あったイベント、サッカーだったり音楽をライブで見たい、これは違う目的ですね。お客様に4Kの魅力を伝える上で、いま足りないものはそこですから。放送としての楽しさが感じられるチャンネルにしたい」(今井氏)。

4K放送の普及に共同で取り組む。これからのREGZAの4K対応は?

 東芝の立場では、Z10Xの4Kチューナ内蔵は、「4Kコンテンツを家庭で見られる」というセールスポイントとして、販売現場でもわかりやすく差別化しやすいと、支持されてきたという。また販売現場からも“録画”を望む声が多く、今回の録画対応により、4K放送フル対応をアピールできる機会として、積極的に訴求していく方針だ。

 そのため、スカパー! プレミアムサービスの加入キャンペーンも共同で実施。3月31日までのキャンペーン期間中に、Z10Xシリーズのいずれかを購入し、専用のICカード手配後に、購入者がスカパー! プレミアムサービスに新規加入し、プレミアムパック(月額4,093円/税込)を契約すると、もれなく視聴料金が2カ月間無料となるというもの。

 なお、スカパー! の加入には、加入料3,024円(税込/初回のみ)と月額基本料421円(税込)の視聴料が必要。加入の翌月以降に無料キャンペーンが適用される。2カ月無料視聴期間の終了後は自動で加入継続となる。同パックは、4Kチャンネルだけでなく、スカパー! プレミアムサービスの259チャンネルのうち、65チャンネルが見放題になるプランとなっている。

 では、これから東芝の4K REGZAには全て4Kチューナが内蔵されていくのだろうか?

「必ずしも全てが4Kチューナが入っていなければいけないとは考えていません。今すぐ見たい、将来は見たい、いろいろなお客様がいらっしゃいます。そこでサイズ軸、画質軸が違うように、機能軸でも4Kチューナの有無があっていい。ただ、我々REGZAのメインストリームのZシリーズにおいては、スカパーさんの4Kは外せない。だからZ10Xに入れています。拡大を含めて4Kチューナ対応を前向きに考えています」(本村氏)

4K放送とともに「プレミアムサービス」の普及拡大を目指すスカパー!

 では、スカパーは今後の4Kの展開をどう考えているのだろうか?

 もちろん4K放送の拡大は狙っているが、普及目標は特に持っていないとのこと。ただし、JEITAの普及予測では、2017年にはテレビの半数が4Kになると見込まれており、テレビの普及に応じて、4K放送を積極化していく方針だ。

 というのも、スカパーが4K放送を推進するのは、画質などのクオリティ向上だけでない、狙いがある。それは、124/128度CSのプレミアムサービス対応受信機の拡大だ。

 スカパーの衛星放送では、110度CSデジタルの「スカパー!」と、124/128度CSデジタルの「スカパー! プレミアム」がある。

 多チャンネル放送としての歴史が長い124/128は、現時点でも多くのユーザーを抱えている('15年1月現在の加入者数は約126万件)ものの、2006年以降は減少傾向だ。一方、110度CSのスカパー!は、BS対応の一般的なデジタルテレビ(いわゆる3波共用機)であれば、ほとんどの製品にチューナが入っていることもあり、増加傾向で、1月末現在の加入数は約206万件。加入のハードルの低さという意味では110度のスカパー!に軍配があがる。

 これまで、スカパー! プレミアムサービスの視聴には、専用のSTB(レンタル/販売)や専用レコーダなどが必要だった。しかし、4K放送の普及にあわせて、REGZA Z10Xのように、テレビメーカーがスカパー! プレミアムチューナ(124/128度CS)を内蔵すれば、多くのテレビがスカパー! プレミアム標準対応となる。そのことを、4Kの高画質に加え、多チャンネルという特徴を最大限に活かせるスカパー! プレミアムの加入増につなげる。これも、スカパー!が4K放送を積極展開する大きな理由といえる。

 そのため、現時点ではスカパーが自社でSTBを手がけるプランはなく、テレビへの内蔵、もしくはレコーダ/チューナの拡大を目指す。

「REGZAのようにオールインワンに、テレビそのものに内蔵していただけるのが、一番使いやすい。利用する人に最適な形です。今の110度CSのようにどのテレビにもチューナが入っているのが理想ですね。テレビに内蔵すれば、入力切替などもありませんので、地デジと同じようなわかりやすい操作になり、スカパー! プレミアムへの接触頻度も上がります。110度で実現していたことを、4Kを含めて同じような環境を作っていけるのか、それが大きなテーマだと考えています」(今井氏)

臼田勤哉