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東芝が次世代REGZAで狙う“HDR時代の最高画質”の源

7,000nitの超弩級4Kを青梅事業所で見る

 東芝ライフスタイルは、テレビ開発拠点である東京・青梅事業所において、報道陣向けにレグザ先行技術説明会を開催。この年末商戦に発売予定の「次世代ハイエンドREGZA」に導入予定の高画質技術や、その開発プロセスなどを説明した。

次世代REGZAを一足早く公開

 同社が2015年末商戦に投入予定の、REGZA Z10Xシリーズ後継機種「次世代REGZA」。その新製品で導入するHDR対応「パワーディスプレイシステム」や、新開発高画質エンジン、サウンドシステムなどを一足先に紹介するとともに、リファレンス用に制作したという7,000nitの超高輝度55型4Kディスプレイも展示。REGZAの高画質への取り組みをアピールした。

脅威の7,000nit 4Kディスプレイを開発。次世代REGZAに活かす

東芝ライフスタイル 設計統括センター 近江邦夫 技師長

 東芝ライフスタイル 設計統括センター 技師長の近江邦夫氏は、REGZA開発の方向性について解説。「映像視聴の感動を最大化する、リアリティを追求する。感動やリアリティといった言葉は、数値化しにくいが、技術を通じてテレビの本質を高めていく」と語り、「ディスプレイ技術」、「映像エンジン」、「スマート技術」の3点を軸にREGZAを強化していく方針を明らかにした。

 次世代REGZAで狙うのは、「REGZA史上最高のハイダイナミックレンジ高画質」。Ultra HD Blu-rayや映画製作の現場でも対応が進む「HDR」(ハイダイナミックレンジ)時代を見据えての取り組みだが、新モデルでは、バックライト技術を追求し、コントラスト性能を高めた「パワーディスプレイシステム」と、その性能をフルに引き出す新映像エンジンを搭載する。

東芝が考えるテレビの本質
3年の歳月をかけ、HDR時代を見越して開発

 バックライトを含む液晶パネル技術と、東芝が得意とする半導体技術を組み合わせて、高輝度かつ高コントラスト、広色域などHDR時代に必要とされる性能を追求した次世代REGZA。ただ、近江氏が強調したのは、次世代REGZAについてではなく、徹底した検証と長期的な開発計画に基づく、ハイダイナミックレンジへの取り組みだ。

ディスプレイシステムと映像エンジンを一新

 近江氏は、東芝の開発のこだわりは、「次を目指すために“トコトン”やる」と紹介。新モデルの「パワーディスプレイシステム」開発にあたって、リファレンス用に作成した7,000nitの超高輝度4Kディスプレイを披露した。

 このディスプレイは「7,000nit HDRパワーディスプレイシステム」と命名。サイズは58型、解像度は3,840×2,160ドットの4Kで、輝度は7,000nit以上、色域は「BT.2020」カバー率約85%、LED数は18,000個、消費電力は約2,000Wという超弩級のシステムだ。

7,000nit HDRパワーディスプレイシステム

 注目は7,000nitもの高輝度だ。なにしろ通常のテレビは、高輝度な製品でも400~500nit程度。そもそも、従来のHDTVの色空間「REC.709」では最大100nitと規定されており、その元の映像信号を様々な環境で高画質に見られるように、テレビの高輝度化も進められてきた。ただ、元々の映像が100nitなので、数百nit程度でも十分に高輝度といえた。

 HDR時代には、その100nitや色空間の制限がなくなり、UHD BDの場合“規格上”は10,000nitまで収録できる。だが、実際に使われるのは最大でも1,000nit程度となる。実際にこの秋冬発売の次世代REGZAもピーク時に1,000nit超、システムレベルで800nit超と、従来製品に比べれば、圧倒的に高輝度なHDR対応システムだが、さすがに7,000nitには及ばないし、その必要もないはずだ。

左の500nitテレビが暗く見えてしまう
東芝の高画質への取り組み。6年前のCELL REGZAの経験がHDR時代に繋がる

 しかし近江氏は、「例えば、CELL REGZAでは、高輝度/高コントラストにトコトン取り組んだ。結果、ライトエリア調光、ピーク輝度ブースト、自己合同性型超解像、色超解像などの技術が育ち、いまのHDR時代に活かされる。次のレベルを目指すためには、トコトン本気のものを作ることで、やるべきことが見えてくる」とその必要性を強調する。

 実際に7,000nitディスプレイで4K映像を見てみると、とにかく驚異的な画質だ。HDRグレーディングされたコンテンツ(色域はBT.2020)を見てみると、例えば日光に照らされた車道は眩いばかりに光を反射しながらも、それでいて石畳の模様は通常の4Kテレビよりもくっきりと知覚できる。はっきりいって家庭ではまぶしすぎる明るさだ。だが、真夏の海のきらめきには、目を細めてしまうような明るさでありながら、砂粒や海の波頭などのディテールは4Kの先鋭感がくっきり。映像では体験したことのないようなリアリティを感じさせる。

 視聴環境は明るい部屋で、なおかつ隣に約500nitの“高輝度”4Kテレビを置いて、デモが行なわれたが、500nitのテレビがものすごく暗く見えてしまう。とにかく圧倒的に明るいのだが、それでいて、ディテールがしっかり残っていることで、その臨場感はとにかく凄い。

 映像を暫く見てみると、撮影時にカメラが拾ったノイズなど、既存のテレビでは見えなかった弊害もそのまま表示され、必ずしも全ての領域において高画質というわけではない。極端な映像の表示環境を実際に作り出し、製品にはどういうレベルのスペックが必要で、映像制作から表示までの各プロセスにどういう課題があり、そのために何を製品でやるべきなのか。そうした問題の抽出と対策の検討こそが、このリファレンスシステムを作った理由とする。

 この超弩級のリファレンスモデルで得たノウハウは、次世代REGZAに導入する。それが、「パワーディスプレイシステム」、そして新「高画質エンジン」だ。

 なお、このリファレンスシステムを動かすために、水冷/空冷を組み合わせた大規模な冷却システムを用意。消費電力も約2,000Wと圧倒的に高いため、青梅事業所以外で展示することはできないとのことだ。

7,000nit HDRパワーディスプレイシステムの冷却機構

次世代REGZAのHDR

 まもなく発表/発売予定の「次世代REGZA」。その大きな開発テーマが「HDR」対応だ。Ultra HD Blu-rayで採用が決まっている「ST.2084」をサポートし、HDMIからのHDR信号入力を高画質にHDR化して表示できる。

次世代REGZAのHDR対応を紹介する東芝研究開発センター ライフスタイルソリューション開発センター オーディオ&ビジュアル技術開発部AV3 第三担当 グループ長 山内日美生氏

 HDR対応に向け、ディスプレイ側ではバックライト技術を駆使した「パワーディスプレイシステム」を新開発。さらに映像エンジンも一新される。

 パワーディスプレイシステムでは、ピーク輝度で1,000nitオーバー、製品レベルでも800nit以上の高輝度を実現。さらに、新開発のエリアコントロール技術により、コントラスト性能は「CELL REGZAの11倍、Z10Xの15倍」を達成するという。LED配置は当然「直下型」だ。バックライト数や駆動エリア数は非公開だが、Z10Xよりはかなり多くなるようだ。

パワーディスプレイシステム
色域はBT.2020を80%カバー、表面加工もコントラスト向上のために光沢処理に
LEDエリアコントロールも駆動電流制御を取り入れ進化

 大きく手を入れられたのが、LEDバックライトのエリア制御(ローカルディミング)だ。従来はLEDの点灯時間の長短で輝度の制御を行なっていたが、次世代機では点灯時間に加え、駆動電流の調整による輝度制御を併用。これにより、特に暗部側の制御がより緻密に行なえるようになり、従来機より大幅なコントラスト向上を実現するという。加えて、LEDエリア制御自体も、かなりダイナミックに制御を行なうよう変更される。

LEDエリアコントロールの例
LEDエリアコントロールON
LEDエリアコントロールOFF

 実際にHDR映像と通常のSDR映像の比較を見れば、その差は歴然。明るいのにディテールも暗部階調も、より明確に確認でき、視力が良くなったような感覚を覚える。

通常のSDR映像(左)とHDRグレーディングのHDR映像(右)の比較
新映像エンジンを開発

 色についても、BT.2020の色域を約80%カバーする広色域パネルを採用。また、新映像エンジンに搭載した新広色域復元技術による64色軸の高精度色空間処理により、最明色を考慮した自然でリアルな色彩を再現するという。HDRにあわせて色域が拡大する中でも、「物体の色限界を超えない最明色制御」により、自然な色再現が行なえる点を訴求している。

 パネルの表面加工も光沢(グレア)パネルながら、拡散反射を低減する「ハイコントラストブラックパネル」を導入。パネルの透過率向上と、外光の拡散半減により、くっきりとした色とコントラスト再現を実現するという。

色域設定(標準)
色域設定(オート)。色域を自然に向上
広色域復元技術が新世代に
超解像技術も進化
新映像エンジン
映像エンジンは4K第3世代に

 超解像技術は、2段階の再構成型超解像技術や、新開発の自己合同性超解像技術による滑らかなエッジ処理などにより向上。地デジの高画質化処理も一新しているという。また、REGZAの弱点となっていた、倍速フレーム補間についても、「アルゴリズムから一新した。かなり広範囲に探索し、リプロジェクションするようにした」(山内氏)という。

右が「ハイコントラストブラックパネル」

テレビのツィータとサウンドバーを連動する新サウンドも

音響担当の東芝デジタルメディアエンジニアリング デジタルメディアグループ 映像システム技術担当 プリンシパルエンジニア 桑原光孝氏

 また、クラウド活用で見たいコンテンツにすぐにアクセス可能にする「みるコレ」は次世代REGZAでも搭載。ユーザーの視聴履歴や嗜好を元に、番組レコメンド精度の向上に取り組む点は、今後のREGZAシリーズ共通の強化ポイントという。

 加えて音質も強化。本体のスピーカーも新開発のフルレンジユニットとツィータの導入により音質向上を図るが、別売の「新レグザサウンドシステム」との「シンクロ動作」が最大の特徴といえる。

次世代REGZAの背面に新レグザサウンドシステムを設置
REGZAと新レグザサウンドシステムがシンクロ動作
新レグザサウンドシステム。2.1ch構成でREGZAの背面に設置する

 シンクロ動作とは、HDMI接続したレグザサウンドシステムと、テレビのスピーカーを連動させるもの。レグザサウンドシステムは背面に設置するサウンドバーとして、REGZAシリーズで提案しているものだが、新モデルではテレビのスピーカーと連動動作。レグザサウンドシステム自体は2.1chスピーカーだが、加えて、テレビ側のツィータと連動し、高域をテレビのスピーカーを使って出力することで、テレビの背面設置でも高域減衰がなく、繊細かつ迫力ある音場再現を可能とするという。

レグザサウンドシステム利用時は、REGZA側の「スリットツィータ」だけを動作させる

 そのために、新たに音量同期制御技術や、リップシンク技術、タイムアライメント整合技術などを導入。新レグザサウンドシステムは、次世代REGZAと同時に発売予定という。

HDMI CECでREGZAと連携。シンクロドライブに対応
イコライザー
サウンドモード選択
REGZAの音響開発専用ルームも

臼田勤哉