プレイバック2021

“音に妥協しない完全ワイヤレス”時代の幕開け by 編集部 山崎

もはや“イヤフォンのスタンダードスタイル”になった完全ワイヤレス。今年も様々な製品が登場したが、いずれも音質向上目覚ましく、かつての「ワイヤレスだから音はちょっと……」という負い目から脱却し、「音も良いから完全ワイヤレスを選ぶ」と胸を張って言える製品が増加した。2021年は“音に妥協しない完全ワイヤレス時代の幕開け”と言えるだろう。

今年も多くのイヤフォンを試聴したが、その中でも「これは!?」と印象に残り、今後のTWS市場の行く末にも影響を与えそうなモデルをピックアップしてみたい。

ソニー「WF-1000XM4」

ソニー「WF-1000XM4」

やはり一番最初に思い出されるのが6月に発売された、ソニーの「WF-1000XM4」(オープンプライス/実売33,000円前後)だろう。言わずとしれたTWSの人気機種「WF-1000XM3」の後継モデルで、実売3万円以上とTWSの中では高価ながら、この1000XM4も大きな話題となり、登場当初は品薄状態が続いた。

主な特徴は、本体や充電ケースが従来より小型になり、統合プロセッサー“V1”搭載で処理能力がアップ。音質と共にNC性能も向上し、さらにLDACもサポート。360 Reality Audio認定モデルでもある。アプリではイヤーピースサイズが、ユーザーの耳にマッチしているか測定もしてくれるようになった。

高機能化、NC性能の進化も大事なポイントだが、やはり印象的なのは音質の進化。単に従来モデルより音が良くなったというだけでなく、音の方向性がガラッと変わった。WF-1000XM3は、低域がパワフルで押し出しが強く、メリハリがあり、簡単に言うと“元気の良い音”だった。

それに対してWF-1000XM4は、低域のパワフルさは少し控えめになり、低域から高域にかけて、全体のバランスが良くなった。モニターライクかつ、ピュアオーディオライクな、大人っぽいサウンドに進化した。マニア向けな音になったと言えなくもないが、要するに、市場の人気モデルが「派手さを追わず、ガチで音質を追求する」という姿勢を明確に示した事が大事なポイントだ。

WF-C500

ちなみに、ソニーのTWSというとWF-1000XM4ばかり話題にのぼるが、ノイズキャンセリング機能無しで、お店によっては実売1万円を切っている「WF-C500」も忘れてはいけない。対応コーデックはSBC/AACだけだが、圧縮された音源を高音質に変換するDSEE機能も備え、コンパクトかつ軽量に仕上げており、装着感も良好。

このWF-C500も、WF-1000XM4のようなバランスの良いモニターサウンドに仕上げられており、完成度は高い。3万円オーバーはちょっと……という場合は、WF-C500も忘れずにチェックしよう。

ANIMA「ANW01」

ANIMA「ANW01」

1万円台で注目と言えば、7月に発売されたANIMA(アニマ)というブランドの「ANW01」(16,980円)も良い。「キズナアイ」のキャラクターデザインなどを担当している森倉円氏がパッケージイラストを手掛け、声優のシステムボイス入れ替え機能なども備えているので「アニメファン向けグッズ」「音は二の次」みたいな印象を持っているかもしれないが、実はこのイヤフォン、かなり音が良い。

それもそのはず、高級Hi-Fiイヤフォンで知られるAcoustuneの“サブブランド”がANIMA。独自のミリンクスドライバーはコスト的に使えないが、その知見を活かし、新たに開発したCoClear(コクリア)振動板を使ったダイナミックドライバーユニットを搭載しており、非常に繊細でバランスの良いサウンドを聴かせる。本体も小型で装着しやすい。

また、専用アプリ「ANIMA Studio」と連携する事で、著名ミュージシャンが手掛けたチューニングをイヤフォンに導入し、音の変化を楽しめる、ちょっとマニアックな機能も備えている。

Technics「EAH-AZ60」、「EAH-AZ40」

Technics「EAH-AZ60」

“ピュアオーディオライクなサウンドがトレンド”と言えば、Technicsが10月に発売した「EAH-AZ60」(実売29,000円前後)と「EAH-AZ40」(16,000円前後)も注目だ。AZ60はNC機能搭載でLDAC対応、AZ40はNC非搭載でSBC/AACのみ対応。

どちらも素直かつニュートラルなサウンドで、AZ60は音場も広大。最上位のAZ70と比べると、AZ60の方がハキハキと小気味が良く、聴いていて気持ちの良い音だ。AZ40も低価格ながらドンシャリではなく、バランス重視の大人っぽいサウンド。低音の再生能力も高い。なにより「1万円台でTechnicsの製品が手に入る」というのも、グッとくるポイントだ。

Technics「EAH-AZ40」

この2機種は通話品質にも超こだわっており、カフェなどで周囲の話し声がうるさいような場所でも、装着者の声だけをクリアに届ける「JustMyVoice」テクノロジーが非常に強力。屋外でリモートワークをする機会が多く、オンライン会議などに参加する事もあるという人には、心強い味方になってくれるだろう。

Shure「AONIC FREE」

Shure「AONIC FREE」

ピュアオーディオ系サウンドと言えば、12月に発売されたばかりの、Shureブランド初となる一体型TWS「AONIC FREE」(実売25,960円前後)も注目機だ。

イヤフォン本体や充電器がちょっと大きめだったり、比較的高価ながらNC機能を搭載していなかったりと、ちょっと残念な部分はあるが、クリアで高解像度なサウンドはまさに“Shureらしい”仕上がり。低音はタイトで派手ではないが、深く沈む音は出ており、Shureサウンドが好きな人にはハマるはずだ。

AVIOT「TE-BD21j-ltd」

AVIOT「TE-BD21j-ltd」

AVIOTの新たなフラグシップモデル「TE-BD21j-ltd」(19,800円)も完成度の高いTWSだ。

レイテンシーが少なく、96kHz/24bitまでのハイレゾ音声信号の伝送を可能にするSnapdragon Soundに対応しているのが特徴。ハイレゾの情報量をワイドレンジに再生するために、8mm径のダイナミックドライバーと、バランスドアーマチュア(BA)ユニット2基で構成する「ハイブリッド・トリプルドライバー」を採用。

2基のBAには、米Knowles製品の中から、よりワイドレンジな高品位ユニットを採用。ダイナミック型は、スタジオモニターにも採用されるパルプコーン振動板にヒントを得た、PETチタンコンポジット素材に、高密度パルプを貼り合わせたデュアルレイヤー振動板。3基のドライバーそれぞれの音響特性を精緻に解析し、マッチングさせると同時に、0.1dBオーダーのチューニングも施している。

サウンドはまさに“ニュートラルかつワイドレンジ”。分解能も高く、音場も広大。フラッグシップらしい弱点の無いサウンドで、安心して聴ける。特筆すべきは、これだけのワイドレンジかつ深みのあるサウンドで、搭載ドライバーも多いのに、筐体が非常にコンパクトにまとめられている事。使いやすさと音質の両立が見事だ。

Anker「Soundcore Liberty 3 Pro」

Anker「Soundcore Liberty 3 Pro」

NC機能の強力さという面では、これまた人気ブランドに成長したAnkerが、11月に発売したSoundcoreブランドの新たなフラッグシップ「Soundcore Liberty 3 Pro」(19,800円)も見逃せない。

独自の「ウルトラノイズキャンセリング」機能が「2.0」に進化。周囲の騒音の種類をイヤフォンで検知。そのシーンに最適な強さのNCモードに、自動的に切り替えてくれる。要するに騒音が多い地下鉄に移動したら「NC強モード」、騒がしくない場所に移動したら「NC弱モード」にといった具合で、ユーザーは意識せず、快適なNC効果が得られる。

また、サウンドテストを通じて、再生音をユーザーの耳の形状や聴力に合わせて最適化してくれる「HearID」機能も搭載している。この手の最適化機能は、昨今の高機能TWSでは“当たり前”になりつつある。

サウンドの傾向は“パワフルでソリッドな低域、クリアでシャープな中高域”。悪くいうと“ドンシャリ傾向”だが、低域・高域ともにクオリティが高いので“良くできたドンシャリ”というイメージ。トレンドになりつつある、ピュアオーディオライクなサウンドがイマイチ好きじゃないという人にはSoundcore Liberty 3 Proがオススメだ。

final「ZE3000」

final「ZE3000」

特別な機能があるわけではないが、音質・完成度の高さ、そして価格とのバランスが良いのがfinalの「ZE3000」だ。これまで、agブランドイヤフォンの音質監修などは手掛けてきたfinalが、ついにfinalブランドでリリースしたTWSとして、注目が集まっている。実売は15,800円前後と、finalブランドとしてはリーズナブルな印象。「新しい定番と言える完全ワイヤレスイヤホン」を謳う、気合の入ったモデルだ。

ユニークなのは開発コンセプト。finalの有線イヤフォンエントリーモデルとして高い人気を誇る「E3000」(実売5,480円前後)の音質を、完全ワイヤレスで“超える事”。具体的な仮想的が存在するTWSは珍しい。

右がfinalの有線イヤフォンエントリーモデルとして高い人気を誇る「E3000」

“有線超え”を実現するために、筐体内部の音響空間の圧力を最適化する「f-LINK(エフリンク)ダンピング機構」や、製造方法から全てを見直す事で超低歪を実現した新設計のダイナミック型ドライバー「f-Core for Wireless」を開発。IPX4の生活防水や、コーデックのSBC、AAC、aptX、aptX Adaptive対応など、音質も使い勝手も妥協せずに追求している。

一聴すると「あー! E3000っぽい!」と、驚くほど似ている。全体のバランスが少しだけ中低域が強めであること、そして色付けは少なく、自然なサウンドにまとまっているところがソックリだ。低域はパワフルなだけでなく、沈み込みの深さがキチンとあり、低音の動きも見える解像感も備えている。

ピュアオーディオライクな音作りながら、わずかに中低域をパワフルにすることで、元気よく、気持ちよく音楽を楽しみたいという人も含めて、幅広い人にオススメしやすいモデルに仕上がっている。さすが「新しい定番」を謳うだけはある完成度だ。

驚くのは、有線と比べ、TWSであるZE3000の方が音が良い事だ。音の傾向は似ているのだが、ZE3000の方がSN比が良く、音の背後に広がる空間が広大だ。パワフルな低音が鳴っている中で、パーカッションなどの細かな中高域が重なる時も、E3000はその音が低音に埋もれがちになるが、ZE3000は抜けが良く、中高域の輪郭がよりクリアだ。

E3000の駆動には10万円以下のDAPを使っているが、それよりもTWSのZE3000の方が音が良いのはショックを受ける。10万円を超えるより高価なDAPでE3000をドライブすると、低域のクオリティはZE3000をなんとか超えられるが、逆にそのくらい頑張らないと埋められない差が両者にはある。有線イヤフォンは、どんなDAP/アンプでドライブされるかわからないが、TWSの場合は内蔵アンプでドライブするしかないので、メーカーがアンプまで含めて最適にチューニングできる。その利点を実感できるモデルだ。

デノン「C830NCW」、「AH-C630W」

御存知の通り、耳の奥まで深く挿入しない、スティックタイプの完全ワイヤレスにおいては、2019年に登場した「AirPods Pro」(30,580円)が依然として大きな存在感を放っている。発売からだいぶ経過しているが、装着のしやすさ、質感、音質ともに、まだ第一線で通用する完成度の高さは、さすがアップルだ。

そんなスティックタイプでキラリと光る新モデルは、老舗オーディオメーカーのデノンが10月に発売したNC搭載の「C830NCW」(実売19,800円前後)と、NC無しの「AH-C630W」(9,900円前後)だ。

デノン「C830NCW」、「AH-C630W」
デノン「AH-C630W」

音にこだわる老舗オーディオメーカーがTWSに参入となると、普通のカナル型を想像するが、耳奥まで押し込まないことによる“音場の広さ”を活かすため、あえてスティックタイプを選択。その結果、どちらも開放的で、音の広がりが気持ち良く、それでいて色付けの無さやバランスの良さといった基本的な部分もクオリティが高いスティック型TWSが完成した。

C830NCWはNC効果も高く、スティック型の弱点もあまり感じられない。また、NC無しのAH-C630Wであれば1万円以下で購入できるというのも、見逃せないところだ。

ambie「AM-TW01」

“耳をふさがない”と言えば、“ながら聴き”イヤフォンの代名詞的な存在のイヤカフ型「ambie sound earcuffs」が、ついに完全ワイヤレス化したのも今年のトピック。「AM-TW01」は、12月に一般発売(15,000円)もスタートしたばかりだ。

“低音から高音までバランスの良い音で聴く”というイヤフォンとはタイプが異なり、外の音が、ほぼそのまま聴こえる状態で、そこに必要な音をプラスして耳穴に送り込むような製品だ。

構造として低域が抜けてしまうという弱点はあるが、それでも音楽が楽しめるサウンドにはなっている。例えば、自宅で薄くBGMを流しながら、宅急便などが届いてもすぐ気がつけるとか、屋外でジョギング中でも車の音がちゃんと聞こえるなど、用途がマッチすれば非常に便利に使える。TWS化したことで、“ながら聴き”イヤフォンの気軽さが、さらに進化したとも言えるだろう。

リモートワークの一般化により、音質を追求するだけでなく、このような“日常生活を便利にするツール”として、TWSに注目が集まったのも2021年ならではの現象だ。

Noble Audio「FoKus PRO」

Noble Audio「FoKus PRO」

そんな2021年を象徴するような、超弩級TWSとして12月17日に登場したのが、Noble Audioの「FoKus PRO」。価格はオープンプライスて、店頭予想価格はなんと49,500円。「TWSで5万円!?」とビックリしてしまうが、実物を手にして、音を聴いてみると、「いや、これはこれで安いんじゃないか」と考え込んでしまう危険なイヤフォンだ。

もともとNoble Audioは高級有線イヤフォンブランドだが、2019年に突然TWSに参入し、「FALCON」(発売当初の実売16,800円前後)という非常に高音質なモデルを発売。「TWSの高音質化競争の火付け役」みたいな存在だ。

その後も2020年10月に「FALCON2」(同13,900円前後)、2020年12月には「FALCON PRO」(同26,900円前後)を発売。そして今年の末に、新たなシリーズとして登場したのが約49,500円のFoKus PROというわけだ。

こんなに高価なのだから、さぞや高機能なイヤフォンなんだろうと思いきや、NC無し、防水無し、コストの全てを高音質化に振り切ったという「マジかよ」という思い切ったイヤフォンだが、だからこそ、成熟が進んだTWS市場において、新たな次元を切り開くモデルになる可能性がある。

音は「見事」の一言で、バランスの良さや中高域の分解能・抜けの良さといった部分は当たり前のようにハイレベル。最も驚くのは、低音の深さ、キレの良さで、既存のTWSを超えたクオリティ。この低音実現には、BA×2+ダイナミックというユニットの能力に加え、BluetoothのSoCに搭載しているアンプに、NC機能の騒音キャンセル信号再生などをさせず、アンプの能力を音楽再生だけに100%フルに使っている事も寄与しているだろう。

これまで「有線イヤフォン + 駆動力のあるDAP」でなければ楽しめなかった世界に、FoKus PROは足を踏み入れている。TWSとしては高価ではあるが、“有線イヤフォン + DAP”を揃えるよりは低価格で、利便性も高いという“新たなTWSの見方”を提示する。

このまま高価なTWSがガンガン登場するのは、財布の紐的には悩ましいところだが、趣味としてのポータブルオーディオにとっては、面白くなる事は間違いない。

山崎健太郎