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“美味しすぎる音”を至近距離で、DALI「MENUET」をデスクトップで使ってみる

DALIの「MENUET」

クルマやバイク、カメラなど趣味の世界で「上がりの1台」という言葉を耳にする。高価な憧れの1台を購入する時に「これで終わりにするから」と、自分で自分の背中を押す言葉……のはずだが、ほとんどの場合「上がり」にはならず、1台、もう1台と増えていく事になる。

以前、Bowers & Wilkinsのオリジナル「Nautilus」にあこがれ、「804 D4」を買ってしまったと記事に書いたが、このスピーカーは「上がりの1台」と言いながら購入したものだ。だが、その舌の根も乾かぬうちに、1台のスピーカーに心を揺さぶられている。その原因は「美味しすぎる音」だ。

Bowers & Wilkinsの804 D4

B&Wのスピーカーに憧れていた理由は、特有の音場の広さ、そこに定位する音像のリアルさ、目の覚めるような高解像度サウンドといった部分。804 D4で、そういった魅力は存分に味わえるし、ぶっちゃけ何の不満も無いのだが、人間は恐ろしいもので、毎日聴いていると「ちょっと違う音」が聴きたくなってくる。

そんな時に脳裏に浮かぶのが、DALIの「MENUET」というブックシェルフスピーカーだ。

そもそもDALIとは?

実は、B&Wのスピーカーに憧れるのと同時に、木目を活かしたエンクロージャーを採用し、味わい深い音を奏でるDALIやSonus faberのスピーカーにも昔から惹かれていた。

中でもDALIは、かつてはZENSOR(センソール)、現在はOBERON(オベロン)シリーズという、リーズナブルなシリーズも用意しており、現行で最も低価格なのはペア74,800円の「OBERON 1」と手が届きやすい。“オーディオ入門者に心強いブランド”だ。

とはいえ、“安いスピーカーのブランド”ではなく、上を見ればなんとペア1,500万円(税抜)の「KORE」という超弩級モデルまで揃える幅広いラインナップも特徴だ。

DALIのハイエンドスピーカー「KORE」

そもそもDALIは、DynaudioやBang & Olufsenなど、世界的なスピーカーメーカーを多く生み出しているデンマークのブランド。1983年に誕生し1986年に現在のノーアエに拠点を構え、40年以上の歴史を持つ。

同社がユニークなのは、スピーカーに対する哲学が明確で、それを現在まで貫いている事。誕生当時は、BBCモニターのような放送局用モニタースピーカーが憧れとされる時代だったが、DALIはその波に乗らず、あくまで「家庭でリラックスして音楽を楽しむためのスピーカー」にこだわり、そして今でもその哲学を変えていない。

1992年の初代MENUET「DALI 150 MENUET」

その哲学を、特に色濃く反映していると思うのが「MENUET」シリーズだ。初代「DALI 150 MENUET」が1992年に登場してから、30年以上の歴史を持つシリーズで“DALIの顔”と言っていい。設置しやすいコンパクトなブックシェルフながら、「美味しい音」を奏でるスピーカーとして、日本のオーディオファンの間でも人気があり、世代を重ね、現在のMENUETは4世代目となる。

現行の「MENUET」

ソフトドームツイーターにこだわる理由

MENUET(ペア220,000円、10月1日から価格改定で264,000円)の構成は2ウェイ2スピーカーで、リアバスレフだ。まず目を惹くのが、本物のウッドパネルを用いた仕上げが美しいエンクロージャー。実物を目にすると、上質な雰囲気だけでテンションが上がる。インテリアに併せて、仕上げがウォルナット、ブラック、ロッソ、グロスホワイトから選べるのもポイントだ。

「MENUET」ロッソ

一見シンプルな箱に見える筐体だが、フロントバッフルとリアが少し湾曲している。音の回折を抑えたり、音の拡散と強度アップが目的だろう。

フロントバッフルとリアが少し湾曲している

MENUETの特徴というか、DALIのスピーカー全体に共通する特徴はツイーターにあり、いすれのモデルも“ソフトドーム”のツイーターを採用している。

名前からもわかるように、しなやかさを持つソフトドームは、不快な音を出しにくく、どちらかというとウォームで優しいサウンドが持ち味だ。一方で、ハードな素材のツイーターと比べて、変形しやすいため、超高域再生には限界がある。MENUETの周波数特性(±3dB)は59~25kHzだ。

MENUETの28mm径ソフトドームツイーター

では、より剛性の高い振動板を使ったハードドームが理想なのかというと、そうとも言い切れない。ハードドームはピストンモーションしている範囲では正確な再生ができるが、あるところでモードを維持できなくなると、共振が盛大に発生するという欠点がある。それが聴こえてしまうとダメなので、共振ピークを可聴帯域外に持っていこうと、よりハードな素材を追い求める必要がある。前述のB&W 804 D4などはその代表例と言え、ダイヤモンドを使っている。当然コストが非常に高くなってしまう。

ダイヤモンドを使っているB&W 804 D4のツイーター

MENUETの28mm径ソフトドームツイーターには、そうした急峻な共振ピークがないため、スペック的には可聴高域限界を少し超えるくらいまで再生できれば構わない。不快な音を出さず、あくまで「家庭でリラックスして音楽を楽しむため音」を出す事を重視する。ソフトドームへのこだわりに、“DALIの哲学”が垣間見える。

一方で、昔ながらのソフトドームをそのまま使い続けるのではなく、その長所を活かしつつ、短所をカバーするような進化も続けている。具体的には、ソフトドームながら、ハードドームのような低損失性を実現するため、振動板の素材にシルクを使うことで、できるだけ薄く、軽くしている。さらに、磁気回路の磁性流体にも、低粘度のものを使うといった細かな部分も改良している。

ウッドファイバー・コーン

ソフトドームツイーターと共に、DALIの代名詞と言えるのが茶色いウッドファイバー・コーンだろう。MENUETにも、115mm径ウッド・ファイバーコーンのウーファーを搭載している。

この振動板は、微粒子パルプに木繊維(ウッドファイバー)を混抄したもので、ツイーターと同様に、低損失と軽量化を両立するための工夫だ。ソフトドームツイーターとウッドファイバー・コーンの“組み合わせ”にも意味があり、より低い周波数への対応を高めるためにツイーターの口径を大きめにした場合、相手がウッドファイバー・コーンであれば、より自然なクロスオーバーを構築しやすいそうだ。

なお、仕上げをよりエレガントなワイルド・ウォールナット・ハイグロスフィニッシュとし、内部のクロスオーバーネットワークに独ムンドルフ製コンデンサを使うなどした、よりハイグレードな「MENUET SE」(ペア264,000円/2024年10月1日より308,000円)もラインナップしている。

ハイグレードな「MENUET SE」

デスクトップで鳴らしてみる

では、MENUETの音を聴いてみよう。より至近距離で味わおうと、パソコンのデスクトップに設置してみた。というのも、MENUETは外形寸法が150×230×250mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクト。特に奥行きがそこまで長くないので、デスクにも設置できるサイズ感なのだ。実際に、奥行き65cmのデスクに設置してみたが、圧迫感は無い。

また、MENUETはリアバスレフだが、バスレフポートは背面の奥まった部分の斜め上にあり。ポートは斜め下に向かっている。このため、背後の壁に近づけても、影響が出にくいのもポイントだ。

背面
スピーカーターミナルはシングルワイヤリング
斜め下に向かってバスレフポートが開いている

USB DAC機能を備えたデノンのプリメインアンプ「PMA-A110」とMENUETを接続。アンプとパソコンをUSB接続し、Amazon Musicなどからハイレゾファイルを再生してみた。

「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生すると、冒頭のピアノが鳴った瞬間から「ああ~いいわ」と口元がニヤけてしまう。ピアノの高音がとにかく美しく、うっとりしてしまう音なのだ。

ボーカルが入ってくると、魅力がさらに高まる。声がとても自然で、目の前にボーカルが存在しているかのような実在感にドキッとする。高い音だけでなく、お腹から出ている低い声も肉厚に響く。音像も立体的で肉厚。“血の通った人間がそこにいる”感覚が強く、吐息から温度まで感じられそうだ。

女性ボーカルとの親和性の高さは白眉で、「手嶌葵/明日への手紙」も絶品。静かな空間に、ピアノやストリングスが静かに広がっていき、手嶌葵のボーカルが中央にスッと登場するが、その歌声が本当に美しく、一瞬で意識を持っていかれ、メモを取る手が止まってしまう。音に惚れるというのは、まさにこの感覚を言うのだろう。

まさに“美音”を体現したようなMENUETだが、聴き込んでいくと“美しさ”の中身が見えてくる。

傾向としては「ホッとするウォームな音」なのだが、こう書くと「フォーカスの甘いボワっとした音なのでは?」と思う方もいるだろう。ただ、実際に聴いてみると、非常に描写は繊細で、音像もシャープ。例えば手嶌葵の歌声も、声にならないブレスが口から漏れる微かな音まで描写されており、美音に聞き惚れながら「こんな音まで入っていたのか」という発見がある。ソフトドームツイーターの美音を活かしつつ、低損失と軽量化も追求している効果だろう。

セッティングを変更すると、それが音にも即座に反映される反応の良さもある。

最初は机に直接置いて聴いていたのだが、少し低域が膨らみがちで、音像の定位も滲みがちだったので、手持ちのインシュレーターを3点支持で配置したところ、音が激変。

音像がよりシャープになり、定位がビシッと決まると共に、膨らみがちだった低域もスッと下まで素直に伸びるようになり、全体としてよりスッキリとした音になった。デスクに反射する音が減り、スピーカーの振動がデスクに伝搬するのを防ぐことで、デスク自体の鳴きが抑えられたためだろう。

デスク直置きから、インシュレーターを使うと音が激変

ピアノやボーカルが空間に広がる様子も、より色濃く見える。おそらく、インシュレーターで机から浮かせた事で、エンクロージャー底面がしっかり響くようになったためだ。MENUETのように、エンクロージャーの響きも含めて音作りをしているタイプのスピーカーでは、インシュレーターを積極的に活用した方がいい。

ボーカルだけでなく、ヴァイオリンの神尾真由子「バッハ:パルティータ 第1番」や、クラシックギタリストの村治佳織/ドミニク・ミラー「悔いなき美女」も素晴らしい。弦楽器の木の響きが、自然な音で楽しめつつ、弦が震える細かな音までしっかり伝わってくる。クラシック・ギターも、弦の金属質な鋭い音と、豊かな木の響きがしっかり描きわけられている。

スタンドにも設置。レコードとの相性抜群

デスクトップで魅力を味わった後、MENUETをスタンドにも設置してみた。

スタンドにも設置

置き場所を変えただけなのだが、音はそんなに変化しないかなと思っていたが、「手嶌葵/明日への手紙」を再生した瞬間に、空間描写の進化具合に圧倒される。

ピアノやボーカルの余韻が広がる空間が圧倒的に広くなり、スピーカーの後ろの空間へと音が広がりつつ、スーッと消えていく様子が良く見えるようになる。ボーカルなどの音像が前に定位し、その背後にしっかりと空間がある事が、より聞き取れるようになり、立体感がアップする。この音場の広さ、立体感、定位の良さこそ、MENUETのようなブックシェルフスピーカーの強みと言えるだろう。

もちろん、フロア型のスピーカーと比べると、地鳴りのような低音は出ない。ただ、MENUETもバスレフで、量感のある中低域はしっかり出ているので、MENUET単体で聴いている分にはまったく不足感は無い。「月とてもなく」のアコースティックベースも、筐体の豊かな響きがちゃんと味わえる。

そもそも低音は出過ぎると、周囲への騒音被害も気になってくるので、防音室でない通常の部屋で使うのであれば、MENUETのようなスピーカーの方が使いやすいと思う。

しばらく美音に聴き惚れていたが、ふと「アナログレコードを聴いたらハマりそうだなぁ」と思いつき、レコードも聴いてみたが、ハマるどころではなく、MENUETとレコードの音はドンピシャだ。

「フランク・シナトラ/Come Fly With Me」、「キャンディス・スプリング/Talk To Me」などをMMカートリッジで聴いてみたが、レコードならではの耳馴染みの良いナチュラルなサウンドとMENUET美音は相性抜群。人の声がとにかくウォームで味わい深く、それでいて心の奥までスーッと浸透するような聴きやすさがある。聴きながら「これは反則だ……」と、頭を抱える美味しさだ。

ハイレゾファイルの情報量を洪水のように浴びる804 D4も良いのだが、仕事が終わって疲れた金曜日の夜に、グラスを片手に、細かいことを考えずに聴きたいのは間違いなくMENUET×レコードのサウンド。ああ、欲を言えばスピーカー2台体制にしたい……は、さておき、「家庭でリラックスして音楽を楽しむためのスピーカー」というDALIの哲学を身を持って実感した。

「合理的な理論以上のものが世の中には存在する」

7月の「東京インターナショナルオーディオショウ」で来日したDALIのラース・ウォーレCEOとも会うことができた。

DALIのラース・ウォーレCEO

ラース氏は、DALIというブランドが日本人と親和性が高いと考えているそうで、「私たちは日本のオーディオファイルの皆様のことを、音楽愛好家でもあると考えています。日本の皆様は、最先端の機能や流行りのソリューションよりも、質が良く、シンプルで、どちらかといえば保守的なものを好む傾向にあると思います。それは、デンマーク人が持つ、デザインや技術へのアプローチと一致すると考えています。つまり、いい音についての根本的な考え方が、非常に似ているのです」とのこと。

DALI創設当時、音楽ソースと言えばレコードやカセットやFMチューナーだったが、1984年頃にCDが登場。デジタル革命が起こり、音楽制作だけでなく、音楽の販売方法も様変わり“デジタルこそがすべて”という風潮もあった。DALIもその波にもまれ、「まるで加速し続ける暴走特急のような時代でした」とラース氏は振り返る。

しかし今、その流れに変化が起きた。レコードの復活だ。

このムーブメントが、昔からのレコードファンだけで起こっているのではなく、「若者たちの手によって巻き起こっているのが、驚くべきことです」とラース氏。

「テクノロジーにとらわれすぎた業界のムーブメントにより、ある面では、音楽制作と再生におけるある種の有機的なニュアンスを見失ってしまいました。またそれは、良質で本物の、カタチのあるものを集めるレコード・コレクションのような趣味や儀式、そして“音楽のあるライフスタイル”を失ったことを意味していました」。

ラース氏は、レコードが復活した流れは「世の中のすべてのイノベーションをひとつの形式に当てはめることはできないことの現れ」だという。「言い換えれば、優れたオーディオ再生においては、合理的な理論以上のものが世の中には存在するということを、思い起こさせてくれます。そういった考え方について、敬意を払いたいですね」。

「音楽を前にしたときはいつも、自分の耳で聴き、感覚を働かせ、そしてその感覚を信じることを忘れないようにしたいです。合理的な結論に飛びつきたくなるときは、特に。ここまでで、DALIの設計理念や大事にしていることについては、もうお分かりいただけたと思います」。

山崎健太郎