トピック

小さくて高性能なロングセラーDALI「MENUET」。表情豊かな鳴りっぷりに魅了された

DALIのブックシェルフスピーカー「MENUET」。22万円(税別)/ペア。カラーはウォルナット

DALI(ダリ)の「MENUET」(メヌエット)シリーズは、歴代モデルをすべて数えると実に32年に及ぶ歴史を誇るロングセラーである。

息の長い人気の秘密はどこにあるのか。今回はそれを探るために、自宅試聴室にMENUETを持ち込み、じっくり聴いてみることにした。

堅実な設計思想を貫く“生真面目”なDALIが生んだロングセラー

久しぶりに実機に接してみると、こんなに小さなスピーカーだったかと、あらためてその手頃なサイズ感に感心させられる。人気が出る理由の一つは、どこにでも置けるこの絶妙なサイズにあると確信した。

日本のオーディオファンは“小さくて高性能なもの”には目がない。幅15cm、高さ25cm、奥行き23cmしかないMENUETは私たちが大好きなプロダクツの条件にピタリとハマるのだ。

前面
天面

ドライバーユニットのサイズと位置関係も絶妙だ。4.5インチ(115mm)のウッドファイバーコーンと28mmドームツイーターを近接配置し、スリムなフロントバッフルにバランスよく収めている。

28mmのドームツイーター

バスレフポートはリアのターミナル上部に斜め下に向けた開口部を持つ。バスレフ型特有のチューニングで無理に低域を伸ばすことを避け、低音の質感を確保していることにも注目すべきだろう。

背面。バスレフポートの開口部は、ターミナル上部に位置する

能率は86dB。この規模の2ウェイ小型スピーカーとして標準的なものだし、クロスオーバー周波数も3kHzで、どちらのドライバーユニットにも余分な負荷がかからず、声の音域をほぼウーファー側でカバーする良さもある。

スペックを見ていて気づくのは、まさに正攻法でスピーカー作りの基本を押さえているということだ。無理に低域を伸ばしたり、エッジを立てて刺激的な音を狙うようなやり方とは正反対のアプローチで設計していることがうかがえる。

DALIはもともと良い意味で生真面目なところがあるメーカーで、これまでも堅実な設計思想を貫いてきた。

着実な技術開発の積み重ねのなかから、独自組成のウッドファイバーコーン、広帯域で優れた拡散特性を実現するハイブリッド構成のツイーターなど、DALIを象徴する複数の重要な技術が生まれ、今日に至っている。

DALIのスピーカーは、デンマークの自社工場で熟練の職人による手作業で製作されている(写真はOPTICONを製作している様子)

さらに、近年では磁気回路で発生する歪みを顕著に抑えるSMC(ソフト・マグネティック・コンパウンド)の導入が技術的なブレークスルーとなり、低音の透明感と動的な質感を大きく向上させたことが記憶に新しい。

そうした重要な独自技術の集大成として誕生したのがフラッグシップの「KORE」と、40周年記念モデルとして昨年登場した「EPIKORE11」である。

「KORE」。1,500万円(税別)/1台
「EPIKORE11」。400万円(税別)/1台

両モデルには、第2世代のSMCや新開発のドライバーユニット群、高精度な仕上げのエンクロージャーなど、DALIの次の世代を担う技術とノウハウが数多く盛り込まれている。この数年の間に、技術的な進化の積み重ねで基本性能を高めるダリの設計手法の成果が新たな頂点に到達したわけだ。

その成果は再生音からも確実に聴き取ることができ、KOREとEPIKOREの透明感が高く反応の良い低音や雑味がなく素直な中高域からはダリの新しい魅力が伝わってくる。

さらに、今年5月にミュンヘンのHighEndで公開された最新の「RUBIKORE」もそのエッセンスを忠実に受け継いでおり、見通しの良さや立体的な空間表現力にKORE世代共通の新しいポテンシャルを実感することができる。

「RUBIKORE 8」

最先端の技術で質感の高い再生音を獲得しているとはいえ、KORE世代の上位機種いずれも音を聴いた瞬間にDALIのスピーカーとすぐにわかるような共通の美点を受け継いでいることにも注目しておきたい。

フラッグシップのKOREはDALIとしては異例と言えるほどのハイエンドクラスに投入され、EPIKOREやRUBIKOREも少しずつ上位移行を目指しているように見えるが、実は依然としてDALIの中心に位置付けられるのは「OBERON」(オベロン)や「OPTICON」(オプティコン)、そしてMENUETなどのミドルレンジのスピーカー群である。

これらのスピーカーと新しいKOREの音が別物になってしまったという印象は少なくとも私は持っていないし、多くのリスナーもそう考えているに違いない。

具体的に言うと、解像度が上がっても分析的にならず、情報量が増えても線の細い硬質な音にならない良さがあり、リッチで有機的なサウンドを従来のDALIのスピーカーからそのまま受け継いでいるのだ。音楽的で表情豊かな鳴りっぷりの良さは、DALIが創業以来受け継いできた重要な資質の一つだと思う。

基幹技術をベースに完成度を高めた第4世代「MENUET」

そろそろ本題のMENUETの話題に戻ろう。

MENUETはDALIの最新技術の成果を数多く盛り込んだ最先端のスピーカーと言うよりは、従来の同社の基幹技術を元に完成度を高めた製品という方が正しい。

現行の第4世代が登場したのは2015年のことで、もうすぐ発売から10年を迎える文字通りのロングセラーだ。本機が登場した後にクロスオーバーネットワークの部品などをグレードアップした特別仕様の「MENUET SE」が導入されたが、ベースとなったメヌエットも継続して販売されている。今回聴いたのは、その第4世代のオリジナルモデルだ。

特別仕様の「MENUET SE」。26.4万円(税別)/ペア

実際にMENUETの音を聴いてみると、1992年に発売された初代「DALI 150 MENUET」に遡る音の系譜を、いまも脈々と受け継いでいることに気付く。

初代機の2年後に登場した「ROYAL MENUET」や、2009年に発売された「MENTOR MENUET」をいまも愛用している読者もいると思うが、それら従来世代のメヌエットの音は筆者も鮮明に記憶している。特に第2世代のROYAL MENUETの潤い豊かな美しい音色には強い印象を受けた。他の製品では置き換えがたい魅力が当時からそなわっていたのだ。

今回試聴した「MENUET」

日本のトップ奏者たちが結成したブラスアンサンブル「アークブラス」をMENUETで聴くと、最低音域を受け持つテューバからトランペットの力強い高音域まで、エネルギーのバランスに偏りがなく、ハーモニーを正確に再現していることがわかる。

4.5インチの小口径ウーファーを用いた小型スピーカーでテューバの深い低音が出るのかと疑問に思うかもしれないが、少なくともアンサンブル全体を支えるには十分な厚みと正確な音程の再現ができているという点で、ウーファーに求められる役割を正しく演じていることは間違いない。

4.5インチ(115mm)のウッドファイバーコーン

大型スピーカーのように部屋の空気を一変させるような深々とした低音はもちろん望めないが、もう少し低音域に厚みが欲しいという不満を感じることはない。

MENUETの歴代モデルも同じように低音のエネルギーが充実していて、そこがこのスピーカーの重要な魅力の一つになっていたが、最新のMENUETはサイズの制約を感じさない量感に加えて、動きの良さも獲得している。トランペットとトロンボーンの歯切れの良いリズムが際立つのは、低音が必要以上に重くならず、旋律楽器の動きを邪魔しないからなのだ。

各楽器の音が空中で自然に溶け合う柔らかいハーモニーもこのスピーカーの長所の一つだ。カラッと乾いた響きではなく、ホールトーンの存在と空気の密度の高さを伝える充実した響きがとても好ましく感じた。

解像度志向の強い最近のスピーカーのなかには、ハーモニーの密度を引き出しにくいものがあり、特に金管楽器はアタックの力強さや粒立ちの良さが勝ってしまうことが少なくない。MENUETの音はそれとは正反対で、残響の長い空間で互いに溶け合う金管楽器特有の柔らかい響きを聞き取ることができるのだ。

試聴の音源には、CDやレコードのほか、配信サービス「Apple Music Classical」などを使用した

弦楽器のアンサンブルにも同じことが当てはまる。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの3重奏でバッハのゴルトベルク変奏曲を演奏したトリオ・ツィンマーマンのアルバムをメヌエットで聴くと、3つの楽器それぞれの音色の特長を正確に再現しつつ、3本の弦楽器が重なることで生まれる一体感のある柔らかい響きを堪能できる。

もともと一台の鍵盤楽器で演奏することを想定した作品を音域が異なる3つの弦楽器で演奏するスタイルに編曲しているので、一人で演奏しているかのような一体感が生まれるのは狙い通りとも言える。弦楽器の溶け合いの美しさと潤いのある音色は、このスピーカーを選ぶ理由の一つになるだろう。

自己主張よりも音楽のバランスを大切にするスピーカー

“柔らかい響き”と紹介すると、音がくぐもっているのではないかと誤解されることがあるが、そうではない。たしかに尖った鋭い音ではないが、ヴァイオリンよりも弦が太く発音しにくいヴィオラやチェロの低音弦も発音は実に鮮明で、楽器の音像が積極的に前に出てくるし、細かい音符の動きが不鮮明になることはまったくない。

むしろカノンのように各楽器の対比を際立たせる変奏で楽器間の立体的な関係がクリアに浮かび上がるほど、それぞれの動きは良く見える。くぐもった音色のスピーカーではそうした演奏のダイナミックな表現を引き出すのは難しく、なんとなく曖昧なまま音楽が進んでいってしまうのだが、MENUETの音の鳴り方はそれとは対照的で、動的な活発さをしっかり引き出すことができるのだ。

リッキー・リー・ジョーンズの「トラフィック・フロム・パラダイス」をMENUETで聴くと、このアルバムの音作りのセンスの良さが素直に浮かび上がり、ヴォーカルやアコースティックギターの鮮度の高さに強く引き込まれた。このアルバムがリリースされた1993年はダリがメヌエットの初代機を発売した時期に近く、同じアルバムを当時のMENUETで聴いた記憶もある。

そのときに感じたアコースティックギターの鮮烈なサウンドが、代替わりした同じシリーズのスピーカーで再び味わえるのはなんとも楽しい体験だ。特に「スチュワートのコート」のギターとベースの自然なバランス、リッキー・リーのヴォーカルとコーラスの絶妙な関係など、この曲の一番美味しい部分をもらさずリスナーに伝えるところが、このスピーカーの長所だと思う。

この曲や「アルター・ボーイ」でリズムを刻む弦楽器のしっとりとした潤いのある音色も絶品。これらの曲のアレンジでは粒立ちやキレの良さよりも音色を正確に引き出すことの方が重要なのだが、MENUETはその役割を逸脱することなく、曲全体の音調と本来のバランスを素直に再現してくる。最近、自己主張よりも音楽のバランスを大切にするスピーカーが意外に少ないと感じるのは私だけではないはずだ。

ジェーン・モンハイトとマイケル・ブーブレの「アイ・ウォント・ダンス」は、ビッグバンドの伴奏で二人が楽しく歌うデュエット作品。ホーン楽器群の音圧は冒頭から大きめだが、鋭く刺激的な音を出さないのがMENUETの良いところで、キレの良さはあるけど音そのものはトランペットも含めて過度に尖っていない。主役はあくまで二人のヴォーカルで、モンハイトとブーブレの駆け引きのうまさをたっぷり味わいたいというのが聴き手の望みなのだ。

リズムやホーンセクションの金属的で硬質な音が強調されてしまうと、肝心のデュオのやり取りやウォームな空気感が伝わりにくくなるので、ここはやはりそうではなく歌をじっくり聴きたい。そんな期待に確実に応えてくれる柔軟さがこのスピーカーにはある。

そして、少し大きめの音量で聴いてもビッグバンドが意外に飽和せず、各セクションの動きがベースラインとともにクリアに浮かび上がってくることにも感心させられた。それもヴォーカルのうまさを際立たせる重要な要素の一つだと感じる。

再生が難しい管弦楽でも、躍動感溢れるダイナミックな表現

MENUETのような小型スピーカーにとって、最も難しいのが編成の大きな、近現代の管弦楽作品である。

今回はあえてそんな作品も聴いてみようと考えて、スザンナ・マルッキ指揮ヘルシンキフィルハーモニーによるバルトーク「管弦楽のための協奏曲」の第5楽章を選んだ。楽器の数が多いだけでなく、低音から高音まで広い音域で同時進行的に複数の音が交錯するため、どの楽器がどう動いているのか、一度聴いただけでは構造がわかりにくい。

そこまで再生が難しい曲をあえて選んだのは、これまで聴いてきた室内楽やヴォーカルが思いのほか音が良くほぐれていて、細部の見通しがきくことに気付いたからだ。往年の名録音だけでなく、最近の解像度の高い音源を聴いてもけっして時代遅れの音にはならず、演奏の特徴を素直に伝える良さがある。

もちろん同じDALIのスピーカーでもEPIKOREのような最新モデルならさらに解像度の高い音を聴かせてくれるはずだが、発売から10年近い年月を重ねたMENUETにも、予想以上に動的な反応の良い音を引き出す力がそなわっていることに気付いたのだ。

各楽器の関係や細かい音符の音を細部まで描き分ける空間解像度だけでなく、立ち上がりや余韻の切れなど動的な時間解像度についても、現代のスピーカーに肉薄するような反応の良さがある。正直なところ、実際に音を聴くまではもう少し反応の緩い中低域を想像していたのだが、その想像は良い方向に裏切られることになった。

適切な制動を利かせながら小口径ウーファーを絶妙にコントロールしていることをうかがわせるレスポンスの良い低音が得られたのだ。

前置きが長くなったが、バルトークの印象を紹介しよう。MENUETで聴いた「管弦楽のための協奏曲」は、ティンパニとコントラバスの低音に十分な量感を確保しつつ、余韻が過剰に残らず、スコア通りに正確に音の長さを再現した。低音がもたつくことがないので、その上に乗って複雑なリズムを刻む高弦や木管の動きが曖昧になりにくく、金管楽器と打楽器も抜けの良い音をキープして敏捷に動き回る。

各楽器が独奏楽器的にリードしたり、突然伴奏に回ったりと役割をめまぐるしく変えることがこの作品の特徴なのだが、聴き進めていくうちに、その面白さにすっかりハマっていることに気付く。

良い具合に音がほぐれていないと、そんな曲の仕掛けに気付く前に再生を止めてしまいたくなるのだが、MENUETはそうではなかった。今回聴いた曲のなかで一番聴き応えがあったと言ってもいい。このスピーカーの意外な一面を発見した気がする。

最後にヴォーカルをもう一曲聴いてみた。イタリア中心に欧州で活躍するジャズ・ヴォーカリストのペトラ・マゴーニがリュートの伴奏でスタンダードナンバーに挑戦した「オール・オブ・アス」のなかから「悪魔を憐む歌」と「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を再生。

ロックの名曲をリュート伴奏で歌うという発想は奇抜だが、音域の広さを駆使したマゴーニの変幻自在のヴォーカルと端正ななかにパッションの強さを感じさせるリュートが絶妙な相乗効果を生み、強い吸引力を発揮する。MENUETはマゴーニの息遣いをリアルに再現しつつ、最高音域まで密度を失わないヴォーカルを聴かせ、短い間に一気に高揚感が高まる。

リュートは一音一音の発音が鮮明でアルペジオの音形がクリアに浮かび上がり、アップテンポの曲の躍動感がダイレクトに伝わってきた。女性ヴォーカルとリュート一本というミニマムな編成だが、音楽のダイナミックな躍動感はさきほど聴いたバルトークの大編成の作品に聴き劣りすることがなく、心地よいテンションの強さも実感することができた。

サイズ、バランス、そして音楽性豊かな再現が魅力

DALIのMENUETをじっくり聴いたのは久しぶりだが、今回の試聴によって、このスピーカーが根強い人気を維持していることの理由が良くわかった。

まずは冒頭でも触れたちょうど良いサイズ感。置き場所を選ばず、とても扱いやすい。そして、コンパクトなのに帯域バランスが整っていること。音質面での重要な資質の一つであり、シリーズの歴代モデルにも共通する長所だと思う。

そして3つ目の理由は、このスピーカー最大の長所とも言える音楽性豊かな再現力である。音を確認するつもりで聴き始めても、しばらくすると音そのものではなく音楽に集中して聴き込んでいることに気付くということが何度もあったが、それはスピーカーにとってとても重要な資質の一つである。

それとは逆に、音楽を聴きたいのに音の自己主張が強すぎて演奏に集中しにくいというスピーカーも世の中には少なからず存在する。分析的でクールな音を求める人には薦めにくいが、余分なことに気を取られず演奏をじっくり楽しみたいと考える音楽ファンには強くお薦めしたい。

新旧含めて小型スピーカーの選択肢は充実しているが、音楽に寄り添うスピーカーに絞ると意外に候補は多くない。MENUETは数少ない候補の上位に位置する希少なスピーカーである。

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。