AV Watchアワード

2025年のテレビNo.1が決定!有機ELはLG「G5」、ミニLEDはソニー「BRAVIA 9」

読者に本当にオススメしたい、優れた製品を決める「AV Watchアワード」。今回も“No.1テレビ”を決めるべく、4K有機ELテレビ、4K液晶テレビの中から「最上位」「65型」の2つの条件に当てはまるモデルを編集部が選定。7社から11台のテレビを借り、3名の選者による主観評価と、測定器から得られたデータを基に、有機ELテレビと液晶テレビのそれぞれで「AV Watchアワード」にふさわしいモデルを決定しました。

その結果、第3回目のAV Watchアワード2025では、有機ELテレビ部門よりLGエレクトロニクス・ジャパン「OLED65G5PJB」、そして液晶テレビ部門よりソニー「K-65XR90(BRAVIA 9)」が大賞モデルに輝きました!

AVWatchアワード2025 結果

・有機ELテレビ大賞
 LGエレクトロニクス・ジャパン「OLED65G5PJB」

・液晶テレビ大賞
 ソニー「K-65XR90(BRAVIA 9)」

本稿では、AV Watchアワードで審査を務めた西川善司氏(連載「大画面☆マニア」担当)、秋山真氏(元コンプレッショニスト)、そして阿部邦弘(AV Watch編集部)の3名による、大賞・2モデルに対するインプレッションと総評を掲載しました。

文末には、機種の選定方法から具体的な取材方法、そして測定の概要を記載しています。

なお、各モデルについてトークした「アワード座談会」の記事も後日掲載予定です。こちらもご期待ください。

有機ELテレビ大賞:LG「OLED65G5PJB」

LGの65型4K有機ELテレビ「OLED65G5PJB」

超解像処理がとにかくスゴイ。奥行き方向への展開力は圧巻の一言(秋山)

第1回の覇者LGが2年ぶりの返り咲きである。昨年モデルは、MLA(マイクロレンズアレイ)パネルの高輝度性能を前面に押し出し過ぎたのか、チューニング不足な部分が散見されたが、今年はそのあたりを見事に修正してきただけでなく、新パネル「次世代RGB有機EL」(プライマリーRGBタンデム)によって、WOLED方式の泣き所であった色純度にも遂にメスが入った。

しかし、広色域化だけならQD-OLED陣営のブラビアとアクオスがとっくに実現しているし、今年はビエラやレグザもプライマリーRGBタンデムを使っているはずなのに、何でLGが大賞なの?と訝しむかもしれない。そんな読者には是非ともYouTubeにアップしたマスターモニターBVM-HX3110との比較動画をご覧いただきたい。論より証拠である。

4KブルーレイのHDR映像(1,000nits/24p)を、LGの4K有機ELテレビ「OLED65G5PJB」(左、映像モードは「FILMMAKER MODE」)と、ソニーのマスターモニター「BVM-HX3110」(右)に同時に表示し、ミラーレスカメラで4K/HDR収録した映像

※鑑賞時は、HDR対応のテレビ、PC、スマートフォンなどを使用してください。SDR環境では、正しく表示されません。
推奨設定:ガンマ/HDR10、色域/BT.2020、色温度/D65

昨年までは、全体のトーンはブラビア、色味はビエラがマスモニに最も近く、LGはテストパターンによる測定結果と主観評価との間に乖離があったのだが、今年はそんな印象が一変。ここまでBVMに肉薄したテレビを見たのは初めてだ。

もちろん、「マスモニに近い=良いテレビ」ではない。毎年言っているが、それではテレビ大賞ではなく、モニター大賞になってしまう。今年のLGは超解像処理がとにかくスゴイのだ。鮮鋭度とS/Nを見事に両立しており、番組によっては地デジが4K放送に感じられるくらいで、特にテロップの精細感などは感動的ですらある。

これはUHD BD再生時にも同様で、解像感と立体感の向上がハンパなく、特に奥行き方向への展開力は圧巻の一言。『8K空撮夜景 SKY WALK TOKYO/YOKOHAMA』では、遠く埼玉方面までクリアーに見透す驚異の“視力5.0体験”ができる。そこに、正確かつ鮮やかな色再現と、強靭な輝度性能が加わり、そのうえ測定結果とゲーミング機能までピカイチなのだから、このテレビを大賞に選ばずして、他に何を選ぶのかというのが率直な感想だ。液晶部門も含めた今年のナンバーワンテレビとして、自信を持ってオススメしたい。

放送からネット動画、映画、ゲームまで全方位で隙のないテレビ(阿部)

その差、わずか0.5ポイント。パナソニック「Z95B」との有機ELテレビ頂上決戦を今年制したのは、LG「G5」だった。

G5の魅力は、4つに集約される。明るく“適度”にメイクされた放送&ネット動画、原画忠実系のシネマモード、業務用モニター並みの高い色精度、そして業界随一のゲーミング&HDMI性能だ。

LGディスプレイが開発した「次世代RGB有機ELパネル」は今年、LG・パナソニック・レグザの3社のフラッグシップ機に搭載されたが、LGは新パネルの高輝度性能を積極的に活用。500lx程度のLEDランプ下で、SDRの放送番組やYouTubeアニメを見ても、G5がひと際明るく見栄えが良い(しかも明部も飛んでいない)。

特に地デジは、ノイズを抑えながら、文字は驚くほどクッキリ鮮明。NHKのアナウンサーの肌は程よく赤みが乗って、オリジナルよりも血色がいい。個人的には、放送やネット動画はこの程度お化粧がある方が好ましい。

一転、シネマモードは原画忠実志向。基準器としてアワード取材時に活用しているマスモニとも近い画が出ているし、Dolby Vision信号に対しても「FILMMAKER MODE」を発動するなど、監督・製作者らが仕上げたコンテンツをなるたけストレートに伝えようとしていることが伺える。

ただ、ライバルのZ95Bと比べ、暗部の引き込みが早く、ディテールが沈んで見えないのは弱点だ。暗部の豊かな階調描写がキモとなる映画再生は、今年もパナソニックに軍配が上がった。

測定では、色精度の高さが光った。シネマでΔE値「1.7」、FILMMAKER MODEでもΔE値「1.4」をマーク(2以下の数字は、肉眼で見ても色の差を区別することができないレベル)。プレキャリブレーションのEOTF曲線も、ほぼドンピシャでトレースするなど、テレビ用途だけでなくピクチャーモニターとしても使用できる性能を備えている。

そしてゲーミング性能も強かった。全HDMI入力端子での4K/165fpsサポートは業界唯一であり、入力遅延も4K60pで1.4ms、2K120pで0.8msとトップクラスの低遅延性能。G5はまさに、放送からネット動画、映画、ゲームまで、オールマイティに使える有機ELテレビに仕上がっている。

成熟の発色設計に新RG発光層を融合させた、バランスの良い画質(西川)

2022年にサムスンが量子ドット技術を組み合わせた有機EL「QD-OLED」が登場してから、QD-OLED陣営(ソニー、シャープ)と、LG式のWOLED陣営(LG、パナソニック、レグザ)の熱い闘いが行なわれてきたが、今年は、そのじゃじゃ馬なQD-OLEDと広色域を手懐けてきたソニー/シャープと、RG発光層を追加して色域を拡大した新生LG式WOLEDとの対決となった。

かなり良い勝負だったとは思うが、今季は、WOLED陣営の方に軍配が上がった。

WOLEDとの長いつき合いをしてきた分、安心して見られる成熟の発色設計に、追加されたRG発光層で向上した色域性能をうまく融合させた、バランスの良い画質が自分好みとなった。

一般映像の採点の結果としては、筆者は、パナソニックの方を僅差で1位に選んだ。しかし、筆者の場合は、テレビに対して、ゲーミング性能も重視する。そちらの採点では、LGの方が高いスコアとなっていたので、この差でLGをトップと判定した。

スピーカー性能について、LGはあまり高みを目指していないこともあってか、今年のモデルは音質評価は「普通」の判定としている。音響面まで重視するのであればパナソニックの方を良しとする判定にはなると思う。サウンド面については、筆者の場合「どうせ自分の手持ちのお気に入りのシステムを活用する」という目線で評価するので、そこはあまり重視をしない判定である。

筆者の目からは、画質面ではLGとパナソニックは僅差だったので、画質だけで選ぶのであれば、どっちを選んでも失敗はないと思う。その上で、音響性能を重視するならばパナソニック。ゲーミング性能を重視するならばLG。そんな最終評価に行き着いた。

液晶テレビ大賞:ソニー「K-65XR90(BRAVIA 9)」

ソニーの65型4KミニLED液晶テレビ「K-65XR90(BRAVIA 9)」

“本質的な”画質で有機ELと勝負できる液晶は、今年もBRAVIA 9だけ(秋山)

2024年モデルのBRAVIA 9が、今年もそのままスライドして大賞に選ばれた。これで液晶部門はソニーの3連覇。昨年のこの場で、「当分の間、ソニーの独走が続くのではないかと予感させる」と書いたが、その予言通りとなってしまったわけだ。とはいえ、これが私1人の自作自演ではなく、3人の総合得点による結果だということはご理解いただきたい。

選出理由については基本的に昨年と同様なので割愛するが、今回の評価機は前回の個体と測定結果が異なっていて、輝度だけであれば、TCL、ハイセンス、レグザが本機を超える数値を出してきたこともあり、初登場時に「明るさで“高画質”を再定義する」とまで評した圧倒的モンスター感は薄れた。

しかし、ローカルディミングの精度(分割数の話ではない)は相変わらずライバル不在の独走状態で、液晶離れした黒の締まりが安定した放送画質や配信画質に直結。加えて、「令和版PROFEEL PRO」と称したくなるようなソニー伝統のシネマ画質が、制作現場と視聴者を繋ぐ架け橋としての魅力を一層高めている。高価だが、スペックではなく“本質的な”画質で有機ELと勝負できる液晶テレビは、今年もBRAVIA 9だけだ。

「液晶で最も画質のいいテレビが欲しい」なら、今年も迷わずBRAVIA 9(阿部)

圧倒的な輝度とコントラストで選者3名を魅了し、AV Watchアワード2024において“ぶっちぎりのナンバーワンテレビ”と評されたBRAVIA 9。

1年前の総括コメントで「BRAVIA 9に触発されるであろう他社のミニLED液晶テレビが来年どのように進化してくるのか、非常に楽しみ」と記したが、残念ながら(!?)、2025年は間に合わなかったようだ。

確かに、比較した液晶モデル7機種の中で、ミニLEDの分割数や輝度、色域など、スペックでBRAVIA 9に肉薄、もしくは凌駕したモデルも存在した。しかし、ローカルディミングが上手く制御できず盛大にハローが見えたり、明部が飽和していたり、光量を絞りすぎて画面全体が暗くなってしまったり、色が変に濃すぎたり、色がシフトしたりと、画質面における追い込みがBRAVIA 9に届かなかった。

その点、明室・暗室環境を問わず、SDRの放送やネット動画、HDRのアニメや映画など、多くのコンテンツで(しかもデフォルト設定で)終始安定した表示品質を備えていたのは、けっきょくBRAVIA 9だけだった。

製品発売から1年とちょっと。登場時に比べると、実勢価格も幾分だが下がってきている。もし「液晶で最も画質のいいテレビが欲しい」なら、今年も迷わずBRAVIA 9を推す(もちろんゲーマーは除く)。

2024年モデルで液晶部門を2連覇とは、末恐ろしいモデルだ(西川)

2025年のソニーは液晶フラッグシップに新モデルがないということで、今年もBRAVIA 9と再びご対面。

液晶機をしっかり出してきた他メーカー製品とどの程度渡り合えるのか……そこが一番の興味だったのだが「なんだか、他社の最新モデルと比較して、全然、負けてないぞ」ということになってしまった。

そもそも「液晶機に力を入れていないです」というメッセージが伝わってくるような製品もあったので、今期の液晶機にはあまり力が入っていないのかもしれない。このあたりの裏事情は総評コメントの方にて。

結局、審査が終わってみれば、ソニーがハイスコアになってしまった。2024年モデルで液晶部門を2連覇とは、末恐ろしいモデルだ。

しかし、不名誉なこともある。それはソニーの液晶機はゲーミング性能が3年連続ワースト。ゲーム機「プレイステーション」ブランドを掲げるソニーのテレビ製品としては少々みっともない。

選定を終えての総評

大飛躍を遂げた有機ELと、頭打ちのミニLED液晶(秋山)

「2025年は有機ELテレビの当たり年」、その一言に尽きると思う。

昨年はパナソニック、LG、ソニーによる三つ巴の戦いとなったが、今年はそこからソニーが脱落。液晶部門でBRAVIA 9が逃げ切ったのと違い、有機EL部門は2024年モデルでは戦えないということが鮮明となった。

言い換えれば、今回はそのソニー(XRJ-65A95L)が北極星のような役割を担ったわけで、アクオスに搭載されている最新世代QD-OLEDパネルの特性や、プライマリーRGBタンデムのポテンシャルの高さが如実に分かった。

先述したとおり、自分はLG G5をナンバーワンに選んだのだが、他の2人はビエラZ95Bを選んでいて、じつは主観評価の総合得点ではビエラの方が僅差で上回っていた。これはG5の内蔵スピーカーが例年どおりの平凡な音質であり、そこで点数が稼げなかったことも影響しているのだが、最終的には測定結果とゲーム性能でG5がZ95Bを逆転して大賞に輝いた。

ちなみに、私の採点でも映画コンテンツの最暗部の階調性についてはZ95BがG5を上回っていたが、一方で、平坦部分にはカラーノイズも散見されて、普段はヌケがいい有機ELビエラにしては、ベッタリとした質感が気になった。

さらに、シネマプロの明るさのデフォルト値が今年は70になっていて、試しに最大の100にして再測定してみたが、輝度は上がるものの、全体のバランスは崩れてしまう。これが放熱対策なのか、省エネ対策なのかは定かではないが、プライマリーRGBタンデムの使いこなしに関しては、本家LGに一日の長があると言っていい。

有機ELレグザに関しては、正直なところプライマリーRGBタンデムの恩恵はあまり感じられなかったが、昨年に私が「ミカンせいじん」と呼んで物議を醸した「映画プロ」モードの肌色問題はかなり改善されていた。ただし、他の部分にはまだまだクセが残っている。

有機ELアクオスの「映画」モードについても、リビングシアター的な用途を意識しているのは理解できるが、いわゆる完全暗室向けのプロフェッショナル(もしくはモニター)的な画質モードが存在しないため、どうしても我々の採点方法では不利になってしまう。

両社には今一度、測定を重視したフラットな画質モードの新設を検討してもらいたい。そのことの意義は、後日公開される座談会でも語っているので、是非ご一読いただければと思う。

今年の液晶部門については正直、頭打ち感があった。2024年モデルのBRAVIA 9が連覇を果たしたこともそうだが、それよりもビエラW95Bが総合得点で2位になったという事実が重い。なぜなら、このモデルはバックライトが最新の量子ドットではなく、一昔前の白色ミニLEDだからだ。エリア駆動についても動作は限りなく限定的である。

昨年のこの場で、西川さんが「ミニLED×量子ドットという真新しいデバイスは、人類にとってまだまだ荒々しい「じゃじゃ馬」である」と書かれていたが、じゃじゃ馬への騎乗を諦めたパナソニックが、ポニーに乗り換えて2着でゴールインしてしまったわけで、なんとも複雑な気分だ。

おまけに、その立役者になっているのがハイセンスとレグザで、映画系モードの測定結果がグレースケールで2桁台と、年々悪化の一途を辿っている。一体何が起きているのか?これは画作り云々以前の問題であり、個人的にはカラーバーすらマトモに表示できないテレビは評価に値しないと考える。

そうした中で、TCLの健闘ぶりには“敢闘賞”をあげたい。初エントリーとなった昨年モデルは、箸にも棒にもかからないような画質だったが、たった1年での急速な進化に目を見張った。測定値も悪くない。どうやらBRAVIA 9を徹底的に研究しているようで、まだローカルディミングについてはボロボロではあるものの、高輝度表現については大いに将来性を感じた。

また、今年はアクオスの内蔵スピーカーの音にも驚かされた。これまで薄型テレビの音質評価には、「薄型テレビにしては」というエクスキューズが常につきまとっていたが、その壁をついに打ち破ったと思う。これは歴史的快挙といっていい。

そして、年末から年始にかけては、各社からRGB LED搭載の次世代ミニLED液晶テレビが登場することが予想される。私もひと足早くソニーで試作機をチェックさせてもらったが、基礎画質の向上はもちろんのこと、視野角やハローといった液晶の泣き所にも明確な改善効果が認められた。来年の液晶部門の審査が今から楽しみだが、願わくは65V型がラインナップから消えないことを祈る。75V型や85V型では審査会場に搬入できないからだ。

そうそう、1つ言い忘れていた。昨年の審査では、終盤に私が溶連菌に感染してリタイヤとなってしまい、西川さん、阿部さんにはご迷惑をおかけしたのだが、今年は編集部がホテル代を出してくれたおかげで、負担が大幅に軽減。10日間の審査合宿を無事に完遂することができた。山崎編集長、ありがとう!

そして、最後にはなりますが、今年もAV Watchアワードにエントリーしてくださったテレビメーカー各社と、関係各位に重ねて感謝申し上げます。

このアワードも3回目。始めた当初は「オレらみたいな変態に届けばいいよね」くらいのノリでしたが、毎回言いたい放題のコメントやリクエストに、メーカーの皆様が真摯に耳を傾けてくださり、今では早い時期から「今年は大賞狙ってますよ!」という声まで聞こえてくるようになりました。我々としてもモチベーションが上がると同時に、その責任を強く感じております。

「テレビ離れ」が叫ばれる昨今ではありますが、今後とも業界を盛り上げるために、何卒ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

秋山真 プロフィール

20世紀最後の年にCDマスタリングのエンジニアとしてキャリアをスタートしたはずが、21世紀最初の年にはDVDエンコードのエンジニアになっていた、運命の荒波に揉まれ続ける画質と音質の求道者。2007年、世界一のBDを作りたいと渡米し、パナソニックハリウッド研究所に在籍。ハリウッド大作からジブリ作品に至るまで、名だたるハイクオリティ盤を数多く手がけた。帰国後はオーディオビジュアルに関する豊富な知識と経験を活かし、評論活動も展開中。愛猫2匹の世話と、愛車のローン返済に追われる日々。

今年の有機ELの進化が恨めしい。来年の液晶はハイレベルな戦いに!?(阿部)

2023年の年末に77型有機ELテレビを購入してしまった筆者にとっては、今年の有機ELテレビの進化は非常に恨めしい。

まずは輝度の進化。大賞を獲ったLG「G5」だけでなく、今年はパナソニック「Z95B」、シャープ「HS1」、そしてレグザ「X9900R」の4機種が、“全画面輝度”で350~390cd/m2を記録した。これは、去年の最上位機と比べて1.4倍、3~4年前の最上位機で2倍を超える数値だ。ピーク輝度の微増は毎年のことだが、全画面輝度で、しかもわずか1年でこれほど数値がジャンプアップした機種更新は初めてだ。

無論、機種によって画は異なる。しかし、2025年の有機ELモデルは総じて明るく、もっと言えば、最近対比されがちなミニLED液晶と並べても実使用上まったく不足のない明るさになった。むしろ有機ELモデルは、輝度アップによる更なるコントラスト化を果たしたことで、同じ65型サイズでも液晶では得られない精細感・立体感が一層際立った。

次に色域の進化。今年はついにLGディスプレイの新パネルで、色域が大幅に改善した。シャープ「HS1」とソニー「A95L」が採用するQD-OLEDにはまだ届かないが、量子ドット×ミニLED液晶とほぼ同等のBT.2020カバー率まで伸長。これまで白く飽和して色が乗らなかった明部――例えば夜のネオンや車のテールランプ、花火が開いた時の星など――も、LG「G5」やパナソニック「Z95B」、レグザ「X9900R」は色鮮やかに再現してくれた。

もちろんテストした5機種の中でオススメは、オールラウンダーのLG「G5」と映画再生に秀でたパナソニック「Z95B」ということにはなる。しかし今年の有機ELテレビは、従来の有機ELテレビユーザーだけでなく、ミニLEDテレビが気になっている方にも、一度視聴することを勧めたい。有機ELテレビの進化に、きっと驚くはずだ。

対する液晶テレビ。大賞はソニーBRAVIA 9が2年連続の1位に輝いたが、それとは別に気になった製品が2つある。

1つはTCL「C8K」。TCLは昨年「65C855」でアワードに初参戦したが、他ブランドのフラッグシップと比べ、主観評価及び測定結果であまり芳しい結果を残すことができなかった。

しかし今年のC8Kは、3,300nitを超える非常にパワフルな輝度、赤みを帯びた人肌、原画忠実系の映画モードなど、かなり“BRAVIA 9ライク”な画に仕上げてきた(事実、6月の深セン取材でも現地の技術者は「ソニーのテレビの画作りを研究している」と語っている)。

おまけにC8Kの映画モードにおけるΔE値は、BRAVIA 9と同じ「4.3」。測定値だけを見れば、シャープ、ハイセンス、レグザよりもオリジナルの色を再現できているわけだ。画作りやバックライト制御の面で、粗削りな部分はまだ多いが、今後“台風の目”となるポテンシャルは十分備わっていると感じた。

もう1つはパナソニック「W95B」。昨年は「Z95A」が有機ELテレビ大賞に輝いたが、液晶モデル「W95A」の出来は、ハッキリ言って、泣くほど酷かった。暗部はウッキウキで、まるで10年前の液晶テレビ。パナソニックロゴを付けて売っていいのか、とも思った。

しかし今年はかなり改善している。量子ドットを捨てて原点回帰。他社が量子ドットの癖に苦労する中、W95Bは“白を白として表示する”フラットな画作りと、無理のないバックライト制御で、結果として、非常に安牌な液晶テレビに仕上がった。派手さは無いが、個人的には結構好きである。

というわけで、ソニー以外の液晶5社には「来年こそリベンジを!」とエールを送りたいところだが、既報の通り、ソニーは新開発の「RGB LEDバックライトシステム」を搭載した家庭用テレビ――いわゆる“RGBミニLEDテレビ”の投入を2026年に計画している。

先日、このプロトタイプを視聴したが、定評あるソニーのLEDバックライト制御技術と、業務用モニター等で培われた忠実な画作りが融合した圧巻の描写性能には目を見張るものがあった。

RGBミニLEDテレビの日本投入が噂されているハイセンス、レグザ、そしてTCLがどこまでソニーに迫るか、はたまた追い越すか? 来年は液晶テレビ部門でのハイレベルな戦いに期待したい。

阿部邦弘 プロフィール

オーディオ・ビジュアル専門誌の編集に約13年従事した経験を活かし、AV Watchでは主に映像系のネタを担当。自宅では、液晶(BVM)と有機EL(PVM)のソニー製2K業務用モニター、4K HDR対応のキヤノン製モニター、QUALIA 015を夜な夜なシュートアウトさせてニヤニヤしている拗らせ変態。マイブームは華原朋美「storytelling」のソニープレス盤CDをブックオフで探すこと(継続捜査中)。

「観測者メタメリズムの罠」に陥ってはいまいか?(西川)

2022年にQD-OLEDが登場して以降、「色はQD-OLEDの方がいい」と言われてきた。

しかし登場間もない2022年~2023年モデル当時、QD-OLED陣営は、色域が広く、じゃじゃ馬な発色特性を手懐けることに苦労していた感がある。あれから3年。各社の特色が表現された、QD-OLED画質を実現できるようになっているように思う。

QD-OLED製品はソニーとシャープが出しているわけだが、ソニーは2025年モデルがなく、液晶ともども2024年モデルで今年のアワードの参戦することになった。

さすがに液晶機のように「2024年モデルで大賞」とはいかなかったが、画質的には、筆者の採点では僅差で3位。普遍的な画質設計というか、時間を超えて安定感を感じる画作りには感心させられた。

シャープも僅差でこの後に続くが、昨年と比べれば、QD-OLEDの発色をシャープらしい画調に手懐けられていたと思う。とにかく有機EL機としては、かなり明るいモデルなので、明るい部屋で明るい映像を楽しむ……といった向きには良いだろう。

液晶機は、2026年に1チップでフルカラー発色する“RGBミニLEDバックライト”を実用化した製品が出てくる関係で、2025年モデルについては、あまり気合が入っていない印象を受けた。

新モデルを投入しなかったソニーは明らかだが、2025年モデルを投入してきたメーカーの製品においても「普通のミニLEDで出来るのはこのくらいまででしょ」という諦めが感じられた。上で述べたように、普遍的な画作りを得意とするソニーが2024年モデルで液晶テレビ大賞に連覇が取れたのはその証左ではないだろうか。

画質的には、横並びで、ローカルディミングの制御についても、黒浮きを目立たなくするチューニングとコントラストを重視したチューニングの種類があるだけで、そのモデルらしい特徴は見当たらなかった。液晶機の本当の闘いは、2026年に持ち越された感じだ。

ここでちょっと話題を変える。

我々の審査・評価では、特定の製品を見続けることによって、他の審査員のコメントに強く影響されたり、あるいは混乱しないように、“何か違和感を感じたらマスターモニターに立ち返る”ということを心がけている。味審査における“水を飲む”ことと同じような意味合いである。これを怠ると「観測者メタメリズムの罠」に陥ってしまう。

評価でこの罠を実感したのは、あるメーカーの製品を評価していたときだ。液晶・有機の両方で、である。

例えばそのメーカーの有機ELは、他と見比べると、発色が全体的に緑に寄った印象を受けることがあった。単体で見ている分には違和感はない。

しかし評価を進めていくと、シーンによっては肌色もなんとなく違和感を感じることもあった。その都度、マスターモニターで確認すると実際、色が違っている。他社製品と比べても、明らかに違う色を出していることがあった。

液晶機は液晶機で、傾向は違うが、「マスターモニターとなにか違う」「他メーカーとも違う」「自分はこの色が出ていることが正しいとは思えない」……そんなことが頻繁に起きていた。他の審査員も、このメーカーの製品には似たような違和感を感じていた。そのメーカーの画質設計において、何らかの「観測者メタメリズムの罠」に陥っている可能性が高いのではないかと感じる。

これは、誰にでも起こりうる。その道のプロでも。人間である以上は。

映像は、評価する人、そして評価する環境によって見え方が異なる。まずは一度、マスターモニターの画質に合わせる。そしてそこから独自チューニングを行ない、メーカーの個性的な画作りをした方が良いと考える。角が立つため、どのメーカーかは本稿では明記しないが、そのメーカーには伝えてある。

西川善司 プロフィール

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。東京工芸大学特別講師。monoAI Technology顧問。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。

テスト概要

機種選定について

2025年8月の取材時点で、発表・発売済みの4K液晶テレビ、および4K有機ELテレビの中から、「最上位」「65型」の2つの条件に当てはまるモデルを編集部が選定。シャープ、ソニー、ハイセンス、パナソニック、LGエレクトロニクス・ジャパン、TVS REGZA、TCLの7社から11台のテレビを借りた。

市場で販売されているものと同等の量産品を貸し出し依頼しているが、メーカーの都合で試作品も含まれる。設置と並行して、全機種を完全リセットし、工場出荷状態に戻して取材を行なった。

比較したテレビ製品

有機ELテレビ
・LGエレクトロニクス・ジャパン「OLED65G5PJB」
・パナソニック「TV-65Z95B」
・シャープ「4T-C65HS1」
・ソニー「XRJ-65A95L」
・TVS REGZA「65X9900R」

液晶テレビ
・ハイセンス「65U9R」
・パナソニック「TV-65W95B」
・シャープ「4T-C65HP1」
・ソニー「K-65XR90」
・TVS REGZA「65Z970R」
・TCL「65C8K」

審査方法について

「放送画質」「配信画質」「BD/UHD BD画質」「音質」の4項目を重点的に、2025年8月21日から9月1日まで実施。液晶テレビ、有機ELテレビをそれぞれ横一列に並べ、同時に比較視聴した。審査時は、床置きではなく長机に乗せている。

放送は、照明あり(500lx前後)、配信は照明あり/なし、BD/UHD BDは照明なしと、ソースで環境を変えた。明るさセンサーは、動作に応じて入/切の映像を確認している。

テレビ側のモードは、BD/UHD BDのみ「シネマ系」(シネマプロ/シネマダーク/映画プロ/映画など)、放送や配信は「おまかせ系」(AIオート/オートAI/おまかせAI/AI自動/インテリジェントなど)で視聴した。

LGは「標準」で視聴。ソニーの場合は「シネマ/プロフェッショナル」「スタンダード」を選び、「オート画質モード:入」とした。なお、モード内の細かい設定は変更を加えず、デフォルトを基本とした。

視聴は、液晶→有機ELの順番で実施。リファレンスとして、視聴場所の中央にマスターモニターを設置し、適宜差分を確認した。

配線に関しては、放送は分配器を経由させて各テレビのアンテナ端子へ接続。配信は1つのWi-Fiルータから各テレビへ無線接続。BD/UHD BDは分配器から各テレビのHDMI端子(4K120p入力対応ポート)へ接続した。アンテナ線・HDMIケーブルは、同一ブランド・同一型番で統一。電源も、テスターを使って極性を確認した後、同一ブランド・同一型番のタップから供給した。

測定方法について

パネル性能の測定には、キャリブレーションサービスを展開する株式会社エディピットに協力を依頼。

視聴に用いる「シネマ系」「おまかせ系」の2つのモードで、色温度D93/D65のHDR信号を入力。カラースペース(BT.2020)、EOTF、RGBバランス、色精度(デルタE)、10%輝度(ピーク輝度)、全白輝度などをソフトウェア「Calman Ultimate」で測定した。テレビ側の映像モードは「シネマ系」「おまかせ系」ともにデフォルト状態で揃えた。なお、各モードは測定のみで、キャリブレーションは行なっていない。

リファレンスとして、ソニーのマスターモニター「BVM-HX3110」を会場の中央に設置。ソニーマーケティングに協力を依頼し、審査会場で校正作業を実施した上で使用している。

校正作業中の様子

各モデルの測定結果は、以下のページを参照のこと。

ハイセンス
4K液晶テレビ「65U9R」測定データ

LGエレクトロニクス・ジャパン
4K有機ELテレビ「OLED65G5PJB」測定データ

パナソニック
4K有機ELテレビ「TV-65Z95B」
4K液晶テレビ「TV-65W95B」測定データ

シャープ
4K有機ELテレビ「4T-C65HS1」
4K液晶テレビ「4T-C65HP1」測定データ

TCL
4K液晶テレビ「65C8K」測定データ

TVS REGZA
4K有機ELテレビ「65X9900R」
4K液晶テレビ「65Z970R」測定データ

ソニー
4K有機ELテレビ「XRJ-65A95L」
4K液晶テレビ「K-65XR90」測定データ

主に使用した機材・ソフト一覧

マスターモニター
・ソニー「BVM-HX3110」

BDレコーダー/プレーヤー
・パナソニック「DMR-ZR1」

ゲーム機
・マイクロソフト「Xbox Series X」
・ソニー・インタラクティブエンタテインメント「PlayStation 5」

HDMI分配器
・イメージニクス「UHD-19A」
・ラトックシステムズ「RS-HDSP4-8K」

AVプリアンプ
・マランツ「AV10」

HDMIケーブル
・イメージニクス「UHP-5」

アンテナ分配器
・DXアンテナ「8DMLS」

アンテナケーブル
・サンワダイレクト「500-AT001-5BK」

照度計
・横河計測「51011」

分光色彩照度計
・セコニック「C-7000」

照度・輝度計
・コニカミノルタ「CA-410(CA-P427)」

キャリブレーションソフト
・Portrait Displays「Calman Ultimate」

UHD BD
・「マリアンヌ」
・「すずめの戸締り」
・「8K空撮夜景 SKY WALK TOKYO/YOKOHAMA」
・「デューン 砂の惑星 PART2」
・「アリ―/スター誕生」
・「Spears & Munsil Ultra HD ベンチマーク(2023)」

放送
・NHK総合「列島ニュース」「午後LIVE ニュースーン」「首都圏ネットワーク」「NHKニュース7」など

ネット動画
・Apple TV+「F1/エフワン」(Dolby Vision)
・YouTube【公式】アニメ「ポケットモンスター」第1話「ピカチュウ誕生!」(アニポケセレクション)

AV Watch編集部