レビュー

ソニー的究極タッグ!! 最上位ヘッドフォン「MDR-Z1R」を超弩級アンプ「TA-ZH1ES」で聴く

 ソニーが「ヘッドフォンによる音楽体験を“聴く”から“感じる”領域へ革新する」というキーワードを掲げ、昨年後半に投入した4つのフラッグシップ製品群、ウォークマン「NW-WM1A」、「NW-WM1Z」、ヘッドフォンの「MDR-Z1R」、ヘッドフォンアンプ「TA-ZH1ES」。ウォークマンは昨年末にレビューしたが、今回は据え置きの組み合わせとなるヘッドフォンの「MDR-Z1R」、ヘッドフォンアンプ「TA-ZH1ES」を聴いてみる。

左からヘッドフォンの「MDR-Z1R」、ヘッドフォンアンプ「TA-ZH1ES」

 価格はオープンプライス。実売は「MDR-Z1R」が20万円前後、「TA-ZH1ES」が278,000円と、どちらも20万円オーバーの高級モデルだ。

 ヘッドフォンの注目ポイントは、特殊な“レゾナンスフリーハウジング”。ヘッドフォンアンプはデジタルアンプ「S-Master HX」を進化させつつ、新たなアプローチとして、「D.A.ハイブリッドアンプ」を採用している事だ。

 また、2機種に共通する特徴として、バランス接続の端子として4.4mm 5極を採用している事が挙げられる。4.4mm端子はJEITAが昨年の3月に規格化し、ウォークマンのWM1A/WM1Zにも採用。今後、新たなバランス接続用端子として普及するか注目されているものだ。

4.4mm 5極のバランス端子

ヘッドフォンの「MDR-Z1R」

 仕様をおさらいしよう。ドライバは70mm径と超大型で、それゆえヘッドフォン自体のサイズも大きい。屋外で使用できないこともないだろうが、このサイズだと屋内専用と言っていいだろう。

ヘッドフォンの「MDR-Z1R」

 ドライバが大きいと、平面に近い波面が耳に届くようになる。ソニーによれば、これが「スピーカーで音楽を聴いているかのような自然な響きが実現できる」仕組みだそうだ。

ドライバは70mm径と超大型

 振動板は2つの素材で構成されており、軽量さと高剛性が求められる中央のドーム部分は薄膜のマグネシウム、柔軟さが求められる周囲のエッジ部分にはアルミニウムコートを施したLCPを採用している。このユニットにより、再生周波数帯域は4Hz~120kHzと超広帯域を実現。感度は100dB/mW。インピーダンスは64Ω(1kHz)。最大入力は2,500mWだ。

 ユニットの高性能具合はハイエンドモデルらしいポイントだが、ユニットの前に配置されるグリル形状まで凄い。単なるメッシュ的なものではなく、花びらが渦巻いているような形状で、“フィボナッチパターン”と呼ばれるものだそうだ。これは、フィボナッチ数列を参考にした曲線で、ひまわりの中央部分など、自然界によくある形状なんだとか。空気の伝搬を阻害せず、なめらかな超高域特性が可能になるという。名前もカッコイイし、豆知識的に誰かに自慢したくなる。

左はよく見るタイプのグリル。右が“フィボナッチパターン”を採用したグリル

 注目はレゾナンスフリーハウジングだ。一見するとメッシュのように見えるが、3つの層で構成されている。まず、網目状の骨組みを採用したハウジングのフレームがあり、その上にかぶせるように“音響レジスター”というパーツを配置。さらにその上から、このレジスターを保護するためのメッシュプロテクタを装備している。

レゾナンスフリーハウジングの構造

 ユニークなのは真ん中の音響レジスターだ。素材は、カナダ産の針葉樹を原料としたパルプを立体的に成型して使用。日本の雪解けの地下水で抄き上げており、内部損失が高く、色付けのない音が楽しめるという。

 この“内部損失の高さ”は、よくスピーカーのユニットでも登場するワードだが、簡単に言えば“内部損失が高いと素材固有の音がしにくい”わけだ。例えばプラスチック製のコップを口の前に当てて喋ると、その声に“プラスチックっぽい響き”が乗った音になる。プラスチックが振動する事で発生した固有の響きが、声にプラスされたわけだ。

 レゾナンスフリーハウジングの音響レジスターはパルプが原材料だが、口の前に当てて喋るとカサカサした“紙っぽい音”はまったくしない。このハウジングを使うことで、色付けを抑えた自然な音が聴き取れるようになる。

左は通常のプラスチックハウジング、右はレゾナンスフリーハウジング。口に当てて喋ると、色付けの少なさがよくわかる

 また、プラスチックなどと異なり通気性があるため、ハウジング全体で通気度をコントロールできる。通気性が無く、ポートとして穴を空けた密閉型ハウジングでは、それが不要な共鳴を発生させる原因になるが、全体に通気性があるため、特有の共鳴を限りなく除去できるという。なお、オープンエアほどではないが一般的な密閉型ヘッドフォンよりも音漏れはする印象だ。

上部には横長のポート
ハウジングは中央が盛り上がったのようなフォルムになっている

装着感は良好

 ヘッドバンドはチタン製で、メガネフレームにも使われるベータチタンという素材。軽量かつ弾力性があるという。カバーの外装は牛革で高級感がある。

ヘッドバンドはチタン製。イヤーパッドには羊革を使っている

 イヤーパッドは羊革。表面は日本でなめし加工を施したそうだ。ソニーおなじみの立体製法で、厚みのある低反発ウレタンフォームを使うことで、圧力を均等に分散させている。

 大きい見た目からすると、重量(ケーブル含まず)は約385gと思いのほか軽い。装着感は良く、耳の周りをソフトに包み込むようなパッドの感触も良い。また、前述の音響レジスターの効果と思われるが、音を出していない状態でも、密閉型ヘッドフォンを装着した時の音のこもりというか、閉塞感があまり感じられない。サイズ的に室内で利用するヘッドフォンだが、この閉塞感の少なさは、長時間使う際の“気持ちの良さ”や“開放感”に寄与するだろう。

 ハンガーとスライダーにはアルミ合金を仕様。表面には硬度を2倍に高めた特殊なアルマイト処理を施し、傷つきを抑制している。

 高級モデルだけあり、付属のハードケースが凄い。宝石を散りばめたネックレスでも登場するのではと思うほどのラグジュアリー感で、しまい込むのはもったいない。普段もこのケースに収納して使いたいところだ。だが、ケース自体のサイズがかなり大きいので邪魔になってしまう場合もあるだろう。

ラグジュアリー感たっぷりの収納ケース

 なお、この製品はZ1Rは、多くのレコーディングスタジオで使われているコンデンサマイクや、モニターヘッドフォンなど、プロ向け音響製品を長年生産している、大分県のソニー・太陽で製造。熟練作業者が手作業で仕上げているという。

4.4mm 5極のバランス接続に対応

 このヘッドフォンにはもう1つ、大きな特徴がある。ケーブルの着脱が可能で、バランス駆動用のケーブルも同梱しているのだが、それが4.4mm 5極のバランスケーブルである事だ。JEITAが昨年規格化したもので、サイズは4.4mm、プラグの長さは19.5mm。5極で、アサインは先端からL+/L-/R+/R-/グランドという並びだ。

ケーブルの着脱が可能
通常のステレオミニ入力プラグのケーブル
4.4mm 5極のバランス接続用ケーブルも同梱している

 ウォークマンの上位モデル「NW-WM1A」と「NW-WM1Z」や、今回紹介する据え置き型のヘッドフォンアンプ「TA-ZH1ES」が対応している。まだ、新しい端子であるため、リケーブル製品が今後市場にどれくらい出てくるか、今後のバランス接続のスタンダードになるかは未知数だ。逆に言えば、これらの対応機種の人気がどれだけ高まるかに、4.4mm 5極の今後はかかっていると言えるだろう。

ウォークマンの上位モデル「NW-WM1A」とバランス接続したところ

 なお、リケーブル用製品としては、ソニーからZ1RとZ7向けのオプションとして、キンバーケーブルが手掛けた4.4mmバランスケーブル「MUC-B20SB1」も発売されている。価格は26,000円と高級である。このサウンドも聴いてみよう。

キンバーケーブルが手掛けた4.4mmバランスケーブル「MUC-B20SB1」

ヘッドフォンアンプ「TA-ZH1ES」

 前述の「MDR-Z1R」や、発売中の「MDR-Z7」など、、高級ヘッドフォンをしっかりドライブできる据え置き型のヘッドフォンアンプとして開発されたのが「TA-ZH1ES」だ。

ヘッドフォンアンプ「TA-ZH1ES」

 まず外観に圧倒される。高さは65mm、横幅は210mmとそれほどでもないが、奥行きが314mmもある。ノートパソコンの横にちょこんと置いて……というよりも、かなり“本気”なヘッドフォンアンプで、机のスペース的に、ノートPCと一緒に置けないパターンもあるだろう。デジタルアンプのS-Master HXを採用しているのが特徴だが、デジタルアンプ=コンパクトというイメージからはだいぶ異なる。

 筐体には、ソニーのオーディオ機器「ES」シリーズで培われたFB(frame/beam)シャーシに、W(Wall)を追加したFBWシャーシを採用。インシュレータも本格的なものを採用しているほか、付属の電源ケーブルも極太。“本気っぷり”を感じさせる。すぐに手が届かない場所に設置した場合でも、付属のリモコンで操作可能だ。

奥行きが314mmもある
筐体には、ソニーのオーディオ機器「ES」シリーズで培われたFB(frame/beam)シャーシに、W(Wall)を追加したFBWシャーシを採用。インシュレータも本格的なものを採用している
付属のリモコン

 実は、このサイズに、この製品の特徴が隠されている。というのも、単純にS-Master HXだけを使うのではなく、補正用のアナログ回路も搭載している。S-Master HXの高情報量・高解像度な特徴を活かしながら、アナログ回路で信号補正をして音に磨きをかけた「D.A.ハイブリッドアンプ」構成になっているのだ。

 一般的にスピーカーのインピーダンスは4Ωや8Ωなどだが、ヘッドフォンには300Ω、600Ωなどのハイインピーダンスなモデルが存在する。そうした製品をしっかりとドライブするには、電源電圧をかけてパワーを上げる必要があるが、S-Master HXのような半導体では、大きなパワーを出すと素早い応答性が両立できず、パルスの波形が“なまって“しまい、理想波形に対して実際の出力波形にわずかな誤差が生じる。

 そこで、S-Master HXから出力された“理想の信号”を、S-Master HXのMOS FETドライバーに入力する前に分岐。そのままMOS FETドライバーに入った信号は、高出力(電源電圧)の際に、MOS FETの限界によって信号に誤差が生じ、誤差を含んだ信号が出てくる。通常であれば、それがヘッドフォンに向かって、その音を聴くのだが、D.A.ハイブリッドアンプでは誤差の訂正を行なう。

 方法はこうだ。先程分岐しておいた理想信号を、ローパスフィルタを通して、アナログ回路のマイナスに入力。プラス側には、先程の誤差を含んだ信号から分岐した信号を入力する。すると、それぞれが打ち消し合い、アナログ回路からは“誤差の信号だけ”が出力される。

 その誤差だけの信号を、ヘッドフォンのマイナスに入力。プラスには、先程の誤差を含んだ信号を入力。その結果、ヘッドフォンで再生すると、誤差がキャンセルされた音が聴ける……という仕組みだ。「S-Master HXの良さを出しつつ、弱点をアナログ回路で補う」仕組みと言えるだろう。

 これにより、高いパワーを備えながら、高音質を実現。バランス接続時で1,200mW×2ch(32Ω)、アンバランスでは300mW×2ch(32Ω)を実現した。ヘッドフォンの対応インピーダンスは8~600Ω。周波数特性は4Hz~80kHz(-3dB)。再生周波数範囲は4Hz~200kHz。2段階のゲイン切り替えも可能だ。

豊富な入出力端子。4.4mm端子 5極もサポート

 入出力端子は豊富だ。背面にUSB-B、同軸デジタル、光デジタル、ウォークマン/Xperia向けの端子を搭載する。USB DACとしては、DSD 22.4MHz、PCMは768kHz/32bitまで対応。入力信号をDSDに変換して処理する「DSD Remastering Engine」の最新版も搭載。入力されたPCMを、DSD 11.2MHzに変換して再生できるもので、ON/OFFも可能だ。Windows向け再生ソフトとしては「Hi-Res Audio Player」を提供している。

 また、非ハイレゾ楽曲を384kHz/32bitへと変換し、ハイレゾ相当の音質で再生できる「DSEE HX」も装備している。

前面の出力端子部分
背面

 ウォークマン/Xperia向けの入力端子ではPCM 384kHz/32bit、DSD 5.6MHzまで対応。同軸デジタルはPCM 192kHz/24bit、光デジタルは96kHz/24bitまでサポートする。

ウォークマン/Xperia向けの入力端子も備えている

 ヘッドフォン向けの出力として、前面にバランスのXLR4、4.4mm 5極、ステレオミニ×2を搭載。アンバランスは、ステレオミニと標準ジャックを各1系統備えている。XLR4はゼンハイザーのHDシリーズなど、ステレオミニ×2はMDR-Z7などで利用するためのものだ。

 特性は4Hz~80kHz(-3dB)。再生周波数範囲は4Hz~200kHz。2段階のゲイン切り替えも可能。

 RCAのアナログ出力も備えており、可変出力も可能。アクティブスピーカーなどを接続して、TA-ZH1ESをプリアンプとして使うこともできるわけだ。

音を聴いてみる

 今回は「MDR-Z1R」と「TA-ZH1ES」の組み合わせで試聴する。

 まずは、アンバランスケーブルで接続。音を出した瞬間に、ZH1ESのドライブ力の高さに驚く。Z1Rの70mm径ドライバをキッチリ駆動できている印象で、 コーネリアスの「Beep It」で低音をチェックすると、ヘッドフォンとは思えない、低音の壁が押し寄せてくるようなスケール感に驚かされる。同時に、雄大なスケールの低音が俊敏で、ズバッと押し寄せて、次の瞬間にシュン! と消える。ボワついたり、不明瞭な部分は一切ない。ドライバをしっかり駆動でき、ふらつくような余分な動きをしていないのがよくわかる。

 また、音場も深く、スケール感の大きな音と組み合わせると「ヘッドフォンで音を聴いている」というよりも「部屋に音が満ちている」という感覚に近い。ヘッドフォンの閉塞感が苦手という人も、気持ちよく長時間聴けるようなサウンドだ。

 Z1Rの音に、色付けはほとんど感じられない。また、ハウジングの機構的な特徴が、そのまま音にも活かされており、“密閉型のような中低域の力強さ”と“オープンエアのような音がハウジングの外まで広がっていく開放感”が同居している。

 高域の伸びも良く、爽やかだ。響きの美しさで魅せるタイプではなく、余分な響きは出さないという感じ。スカッとした高域が“オープンエアっぽさ”を高めているのかもしれない。ただ、女性ボーカルのサ行など、楽曲によっては高域がキツく感じることもあるだろう。このあたりはエージング時間にも影響されそうだ。

 アンバランス接続から、同梱の4.4mm 5極のバランスケーブルに交換すると、そこからさらにブワッと音場が広がる。「オープンエアのような」という表現から「ような」がとれて、本当にオープンエアヘッドフォンになったかのよう。「藤田恵美/ Best of My Love」の声の余韻が、サーッと部屋の奥へと広がり、消えていく様子が本当に遠く感じる。

 駆動力にも磨きがかかるのか、低域の分解能もアップ。ベースの太い音の中の、細かな弦の震える様子が良く見える。同時に、最低音の沈み込みもより深くなったように感じる。その影響からか、高域の伸びも、さらに良くなるように聴こえるから不思議だ。前後左右だけでなく、上下にも世界が広がるようだ。

 アンバランス接続に戻すと、ボーカルやギターなどの音像が、グッと自分に近寄ってきて、バランスの時よりも開放感が低下する。先程はアンバランス接続でも「開放的で良い音だなぁ」と思っていたのに、一度バランス接続を聴くと、もう戻れない。

キンバーケーブルでバランス接続

 それならばもっと追求してみようと、キンバーケーブルが手掛けた4.4mm 5極バランスケーブル「MUC-B20SB1」で接続。26,000円と、高価なケーブルだが、音の変化も凄い。

 空間の広がりもアップするのだが、低域のパワー感が大幅に向上。沈み込みも深くなる。なんというか、音を描く線が太く、1つ1つの音に勢いがつく。こう書くと、「野太くて大味なサウンドになるのでは」と思われがちだが、大味にはならない。繊細さを保ったまま、野太い迫力をまとう。この相反する感覚が共存しているところが凄い。

 Z1Rのヘッドフォンとしての実力もさることながら、ドライブしているZH1ESのサウンドのクリアさ、精密さ、そして駆動力の高さもこのサウンドに貢献しているだろう。

 一方で、ZH1ESではなく、例えばポータブルのウォークマン「NW-WM1A」でZ1Rをドライブすると、悪くはないのだが、圧倒的な空間の広さや、ワイドレンジ感などはややスポイルされてしまう。据置き型ヘッドフォンだからという面もあるが、やはり、Z1Rはしっかりとした据置きアンプでドライブしてこそ真価が発揮されるヘッドフォンだ。もっとも約20万円のヘッドフォンを買おうという人は、そのあたりは承知のことではあるだろう。

アナログ感をアップさせる「DCフェイズリニアライザー」

 ZH1ESとZ1Rを組み合わせたサウンドは、非常にクリアで色付けが少ない。それはそれで良いのだが、もう少しキャラクターというか、グッとくる特徴が欲しいという場合は、ZH1ESに搭載されている「DCフェイズリニアライザー」という機能が面白い。

DCフェイズリニアライザー

 低域の位相をコントロールして、アナログ方式のパワーアンプと同じ位相特性を再現するというもので、要するに「デジタルアンプながら、アナログアンプに近い十分な低音感を得られる」というものらしい。

 ONにしてみると、中低域のパワー感というか、ググッと前に押し出す強さがアップする。アナログ録音時代のロックやジャズの名盤では、中低域の音圧が強め気持ちが良い楽曲が多いが、DCフェイズリニアライザーをONにするとその感覚に近くなり、“音楽の熱量”が増し、グルーヴに乗って思わず体が動いてしまう。

 フォーカスが甘くなったり、響きが増えたりはしない。あくまで低域の“出方”の変化だ。個人的にはONにした方が音楽が“美味しく”感じられるので、常時ONで使ってもいいなと感じたほどだ。

 PCM音源もDSD 11.2MHzに変換して再生する「DSD Remastering Engine」をONにすると、やや硬質な音のPCM楽曲が、マイルドでアナログっぽいサウンドになる。女性ヴォーカルでは艶っぽさがアップするのでわかりやすい。DSD Remastering EngineをONにしつつ、DCフェイズリニアライザーもONにすれば、よりこってりと、濃厚なサウンドが味わえるだろう。どちらの機能も、Z1RとZH1ESの組み合わせにピッタリだ。

DSD Remastering Engine

平均点がものすごく高い優等生

 ソニーらしいと言えばらしいのだが、Z1Rには誰にでもわかりやすい特徴というのがあまり無い。色付けの少なさ、ハウジングからの不要な響きなどを徹底的に排除した結果なので当然なのかもしれないが、なんというか「平均点がものすごく高い優等生」なサウンドだ。例えば「低音がとにかく凄いよね」とか「美音で女性ボーカルが最高に艷やかだよね」などの、1つの特徴に絞りづらい。

 ZH1ES+Z1Rのサウンドは、悪くいうと“もの凄いけれど地味”だ。この“凄さ”を実感するためには、他の高級な密閉型、オープンエアヘッドフォンを幾つか使ってきた経験が必要だろう。「密閉型はこんな音、オープンエアはこんな音。それぞれに弱点と利点がある」といった概念が、もう頭の中で出来上がっている人が聴くと「おおっ! これは凄い」と感動できるだろう。

 極めて個人的な感覚だが、20万円もするヘッドフォンを購入する場合、基本的な再生能力の高さに加え、“惚れる”要素も重要だと感じる。テストの点数が良いからその製品を選ぶというよりも、抗いがたい魅力というか、寝ても覚めてもそのヘッドフォンの事を考えてしまうような熱意が、高価な製品を買う時に“背中を押してくれる”。

 その点では、ZH1ESのDCフェイズリニアライザーが“グッとくる”。超高精細なZH1ESのサウンドと、それをストレートに描写するZ1Rに、ちょっとコッテリとした魅力がプラスされると、情報量の多さと、音楽を聴いている楽しさが、高次元で融合したような新しい世界が開ける。組み合わせて試聴する際は、ぜひDCフェイズリニアライザーのON/OFFも試して欲しい。

 高いクオリティを誇るZ1Rだが、室内用でドライバが巨大である事もあり、ヘッドフォンとしたはかなり“大きい”。ZH1ESも、機能やサウンドは素晴らしいが、パソコンの近くで使うにはやはり奥行きの長さが気になるところ。どちらも、物量と技術をフル投入したハイエンド感はヒシヒシと伝わるが、これらの機種で培った技術を投入した、もう少しコンパクトで低価格な製品にも期待したいところ。

 いずれにせよ、「ヘッドフォンによる音楽体験を“聴く”から“感じる”領域へ革新する」という強気なキーワードを掲げるだけはある、ソニーの1つの到達点を感じさせるサウンドだ。

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山崎健太郎