レビュー

ソニー新世代ノイズキャンセルが音楽へ引き込む。ヘッドフォン1000XM3に満足

どんな場所にいても好きな音楽に浸れるヘッドフォン。音質やデザイン、装着性、価格など、製品選びの基準は色々ある中、ワイヤレス&ノイズキャンセリング(ノイキャン/NC)の快適さと、音質の両方に妥協したくない人に待望のモデルがソニーの「WH-1000XM3」だ。

WH-1000XM3(右)

筆者はソニー1000Xシリーズ初代の「MDR-1000X」(2016年発売)を愛用してきたが、結果的に今回の第3世代モデルへと買い替えた。同じ1000Xユーザーには文句なく勧められるし、NCやワイヤレスヘッドフォンを使ったことがない人も、試してみると普通のヘッドフォンとの違いがすぐわかるほど、基本的な性能が大幅に進化した。購入に至った理由を、実際の使用感とともにお伝えしたい。

MDR-1000X(右)とWH-1000XM3(左)

包み込むような装着感で、バンドが広がりすぎない

ソニーが10月6日に発売した「WH-1000XM3」は、高音質なワイヤレス伝送と強力なNC機能で定評のあるソニー1000Xシリーズが、第3世代になってさらに機能強化されたモデル。注目のポイントは、「音質&NC機能」と「装着性」の向上。ヘッドフォンの基本的な性能進化により、全体的な満足感が従来機に比べて大幅にアップしている。価格はオープンプライスで、実売4万円前後。カラーはプラチナシルバー、ブラックの2種類。

重量は255gで、従来モデルの275gから軽量化。手に持ってみると、数値の差から想像する以上に軽い。ハウジング部などがコンパクトで、凝縮されたデザインに変わったのが分かる。

なお、ライバル機といえるボーズのQuietComfort 35 wireless headphones II(QC35 II)は234gなので、これに比べるとやや重いことになるが、1000XM3が変わったのは重さだけではない。

WH-1000XM3は255gに軽量化

手持ちの初代1000Xや、'17年発売の2世代目モデル「WH-1000XM2」は、ヘッドバンド全体が円に近い形状だが、それに比べると1000XM3は頭頂部に触れるあたりが少しとがったタマゴ型に近い。ヘッドパッド部が1000XM3のほうが厚いことも、この形を作る要素になっているようだ。装着するとバンドと側頭部の隙間が小さく、バンド部が余計に広がりすぎないスッキリしたシルエットになるのが良い。表面のマットな仕上げも落ち着きがあって好印象だ。

左が第2世代の1000XM2、右が新しい1000XM3

なお、耳が収まるハウジング内側の空間の広さは従来から維持したとのことで、装着しても耳が強く押さえられるような窮屈さはない。

新たに備えた低反発イヤーパッドも快適で、装着時に耳をぎゅっと押さえず、じわじわと優しく包みこむ。左右の耳を両側から挟むというより、ヘッドバンドとイヤーパッドで頭全体をそっと覆われるような感触で、長時間装着する場合にも、圧迫感なく着けていられる。

低反発イヤーパッドを採用
1000XM2
1000XM3

着けるとすぐ静寂、音楽に浸れる。作業の集中にも

特徴であるノイズキャンセリング(NC)機能は、第3世代になって大きく進化。新開発の高音質ノイズキャンセリングプロセッサ「QN1」を搭載し、前モデルのプロセッサよりも4倍の処理能力を備え、NC性能をさらに向上させている。

その効果は想像以上で、音楽を再生する前から、初代と比べてNC静けさが全く違うのが分かる。アクティブなNC性能だけでなく、ヘッドバンドやイヤーパッドの改良による遮音性の高さも寄与している。

ウォークマンのNW-ZX300とBluetooth接続して音楽を再生。ペアリングはNFCでタッチして行なえる。Bluetoothのコーデックは、SBC/aptX/aptX HD/LDAC/AACに対応しており、今回は主にLDAC(音質優先)で接続した。NFC非対応機器の場合は、1000XM3の電源ボタン長押しでペアリング待機状態になる。

ハウジングにウォークマンをタッチしてペアリング

初代1000Xも、情報量の豊かさ、深く沈む低域、シャープな輪郭の音など当時のヘッドフォンとして高い実力だと感じていたが、今回の1000XM3は、音の密度感や、低域のキレ、ボーカルの力強さと繊細さのコントラストなど、変化を挙げればキリがないほどで、“次元が違う”と感じる。もう同じシリーズとは思えない大きな進化だ。

ヘッドフォン自体の音の良さを、NC性能の高さがさらに引き立てている。新プロセッサのQN1は、高い処理能力を活かし、ノイズを分析して逆位相信号を生成。その逆位相成分と音楽データをミックスする部分の処理を、32bitで高精細に行なうため、より効果的なノイズ削減につながっているようだ。地下鉄の中でも騒音が大きいと感じることが多い都営大江戸線でも、明らかに初代1000Xよりノイズを低減していることを実感した。

当たり前のことだが、ヘッドフォンでもスピーカーでも、うるさい場所より静かな空間で鳴らしたほうが、細かな音や全体の広がり感までしっかり聴こえる。その環境を、どこにいても装着した瞬間に手に入れられるわけだ。手嶌葵や井筒香奈江のボーカルが、音量を上げなくても周りのノイズに埋もれずに聴けて、熱の込もった芯のある力強さ、歌い終わる時の聴こえるか聴こえないかギリギリの部分まで、歌い手による表現の違いがしっかり伝わる。ドラムなどの低域のキレ、トランぺットの明るい音色もしっかり描き分けされている。

オーディオに重要な“静寂さ”を高いレベルで実現したことにより、演奏が始まる瞬間のインパクトも従来と大きく違う。それでいて、防音された狭い部屋に入った時のような窮屈さはない。NC機能の進化が、音源が持っている良さを活かすことに役立っている。

外に持ち出して仕事中にも使ってみた。幕張メッセで行なわれたCEATEC JAPANプレスルーム内で記事を書いていた時は、周りの騒音がキレイに消えて、自分の作業へ一気に集中できた。不要な情報を遮断することが、集中に重要だと改めて分かる。1000XM3からは、音楽再生しない時(Bluetooth接続切断時)に、自動的に電源がOFFになるまでの時間がカスタマイズできるようになり、自動電源OFF機能を切れば、音楽を聴かずNCだけを使える。

良いNCヘッドフォンを使うと実感するのは、身の回りにノイズ源となるものは結構多いということ。駅でエスカレーターにのっている時や、電車を待つ時、静かな住宅街を歩く時など、NCをオフにしてみると、空調や、遠くを走る車など、実はいろいろと騒音が出ているのが分かる。そうした場所でNCを使うと、気分的にも音楽へ没頭できるモードにパッと切り替わる。

折り畳んでキャリングケースで持ち運べる

個人の装着状態や、大気圧への最適化を行なう「NCオプティマイザー」も引き続き搭載。電源ONの状態でNC/AMBIENTNCボタンを長押しすると、メガネの有無など個人の装着状態を測定してNCの効き具合を調整。飛行機に乗っている時など、大気圧の変化にも対応しており、海外旅行や出張にも心強い味方となりそうだ。

NCオプティマイザー画面。アプリからも測定開始できる

行動に合わせて、自然なNCの使い分け

あまり外で音楽へ没入しすぎると、周りの音が聞こえなくなると不安に思う人もいるかもしれないが、ヘッドフォン装着時でも、アナウンスや車の走行音などを聞き逃さないようにできるのが「外音取り込み機能」。

とっさの時には右ハウジングに手を当てると、音楽をミュートして外側のマイクで拾った人の声やアナウンスなどをしっかり聞ける「クイックアテンションモード」と、音楽を聴きながらも自然にアナウンスなどの音も聞ける「アンビエントサウンドモード」が使える。

右ハウジングに手を当てると周りの音が聞こえるクイックアテンションモード

そして、ノイズを強力に除去するNCと、アンビエントサウンドモードの使い分けを自然にできるようにするのが、「アダプティブサウンドコントロール」。スマホアプリのHeadphones Connectと連携すると、止まっている時/歩いている時/走っている時/乗り物に乗っている時の4パターンの行動を検出。行動に合わせて、あらかじめ各パターンで設定しておいたNCや外音取り込みのモードに自動で切り替わる。自分で設定を切り替える必要なく、快適にNCの使い分けができる。

アプリで「アダプティブサウンドコントロール」のON/OFFを切り替えられる

この機能は第2世代の1000XM2から採用されたものだが、スマホのGPSや加速度センサーからの状況で、電車に乗っているのか、歩いているのかなどを判断。切り替わると「ポーン」と音が鳴って、外音の取り込み量が変わる。

ノイズキャンセリングON/OFFのほか、外音の取り込み方のレベルを22段階で調整可能なため、地下鉄やJRなど、通勤する路線によって違う騒音レベルに合わせておけば、外音の取り込み量を好みに合わせられる。例えば、電車から降りてホームを歩くと、何の操作をしなくても、周りのアナウンスが聞こえるようにモードが切り替わり、再び乗車すると、外音を取り込まず音楽だけを聴くようにできる。

左が止まっている時、右が電車に乗っている時の表示

手で操作しなくても最適化できるのは便利で、細かく調整された外音取り込み機能により、自分のいる環境や好みに合わせてカスタマイズできているのが実感できる。ただ、切り替わり時のポーンという音は、できれば手動でオフにできるとよかった。

自動で切り替わって欲しくない場合は、アプリで「アダプティブサウンドコントール」をオフにできる。ハウジング部のNC/AMBIENTボタンを押すと、NCとアンビエントサウンドモードを手動で切り替え可能だ。

Googleアシスタント対応。ウォークマンの操作もアプリで

音楽再生中は、右ハウジング部をスワイプして、上下で音量調整、前後で曲送り/戻しも可能。また、接続したスマートフォンのGoogleアシスタントやSiriを利用でき、ハウジングを長くタップするとSiriが起動。Googleアシスタントを呼び出す場合は、アプリ上の設定で、NC/AMBIENTボタンから起動するように指定する。

ハウジングをスワイプして操作

Googleアシスタントを利用する時は、NC/AMBIENTを押したまま「今日の天気は?」などと話しかけると答えてくれる。外出先で「OK,Google」と呼びかける必要はないので、より自然に音声アシスタントが使える。iPhoneなどとの接続時は、右ハウジング長押しでSiriが起動、話しかけて使える。

スマホ連携で便利だったのは、Headphones Connectアプリをスマホ内の音楽だけでなくウォークマンのリモコンとしても使えたこと。曲送り/戻しは、前述の通りハウジングのスワイプでもできるが、片手にカバン、もう片手にスマホを持っている時などはアプリ画面で操作したほうが早い。曲名も表示されるので、何曲も続けて送りたいときは、スワイプよりも少ない動作で済んで快適だ。

再生中の曲送り/戻しやボリュームの操作、曲名表示も可能

連続音楽再生時間は、Bluetooth接続/NC ONで最大30時間。この仕様は第2世代の1000XM2と同じで、米国や欧州などの長時間フライトも余裕で使えそうだ。充電所要時間は3時間。クイック充電機能が強化され、従来の1000XM2は10分充電で70分再生だが、新しい1000XM3は10分充電で5時間再生が可能になった。ポータブル製品は、いざ使いたいときにバッテリー切れということもあるので、出勤前などの短時間でも往復分の充電ができるようになったのはうれしい。

充電は今回のモデルからUSB Type-Cに変更。なお、USBオーディオ入力には対応せず、充電専用だ。有線で音声入力したい場合は、付属のステレオミニケーブルを使用。試しtにPlayStation 4コントローラのDUALSHOCK 4に接続してみると、ノイズキャンセルを利用しながらゲームが楽しめた。

インターフェイスはUSB Type-C

“ノイキャン”は当たり前の機能に?

使ってみて実感したのは、音質について「騒音のある外で聴くから仕方ない」、「ワイヤレスだからこの程度で十分」といった“何となくの妥協”を、もうしなくていいと思えたこと。さらにいえば、有線か無線かといった違いをあまり意識しなくなってくる。

今やNC機能は一部の高価格モデルだけのものではなく、国内外の様々なメーカーが幅広い製品に搭載している。左右分離のワイヤレス型や、低価格でもいい音のヘッドフォン/イヤフォンが増えている中で、ここにきてソニーの1000XM3は、この分野のトップを走るシリーズとして“ワイヤレスノイキャン”のレベルを一段押し上げた。使っていると、快適なリスニングのためには、NCは常にONにし続けるのが当たり前と思えてくる。

さらに改善を続けて欲しい点もあり、例えばアダプティブサウンドコントールの認識の正確さ、切り替えのスムーズさは、精度向上を追求して欲しいし、LDACなど高音質コーデック接続でも途切れが完全になくなれば、有線と無線を全く気にしなくなるだろう。もう一つ欲を言えば、筆者の周りには既に愛用している人が何人かいるので、ブラックとプラチナシルバー以外の本体カラーもあったらとは思う。そんなことを求めたくなるほど、基本的な音質、使い勝手の面で文句のつけようがない製品に仕上がっている。

初代1000Xのユーザーである筆者は、昨年の1000XM2登場時に、うらやましく思いつつも「毎年買い替えるのは……」と思って躊躇したが、今回の1000XM3は迷いなく購入に至った。約4万円という以上の価値と、手放せない愛着を感じている。旧モデルユーザーには強力なNCと音質の進化が間違いなく分かると思うし、初めてのNC/Bluetoothヘッドフォンとしても、満足度の高い選択になるだろう。

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WH-1000XM3

中林暁