レビュー

BOSEのノイズキャンセルが大胆に進化。ヘッドフォン「700」のスゴさを実感

家の中でも外でも、好きな音楽に浸れるヘッドフォン。周囲の騒音から解放されて、より音楽へ没頭できるノイズキャンセリング(NC)対応モデルは進化が著しいカテゴリであり、各社がNo.1を競っている。そうした中、人気の高いボーズから「BOSE NOISE CANCELLING HEADPHONES 700」が9月に登場。同社が「新時代のワイヤレスヘッドフォン」と位置付ける最新モデルの実力を、従来機や他社モデルとも比べながらチェックした。

BOSE NOISE CANCELLING HEADPHONES 700

特徴的なのはデザインの変化。ボーズの定番モデルとして根強い人気の「QuietComfort 35 II(QC35 II)」や「Beats Studio」など多くのNCヘッドフォンは、太めのヘッドバンドで存在感のあるデザインが主流だが、新モデルNOISE CANCELLING HEADPHONES 700(NC HP700)は、頭頂部から耳の方に向かって徐々に細くなる形状。頭の形に添って、主張しすぎないデザインへ大胆に変更された。直販価格は46,750円で、カラーはブラックとラックスシルバーの2色。

カラーはブラックとラックスシルバー
NC HP700(左)はQC35 II(右)に比べてスリムなヘッドバンドに

イヤーパッドは立体感があり、QC35 IIよりも表面の手触りが滑らか。装着した時に、より耳にピッタリ吸い付くような感触。周囲のノイズが入らないようにするために重要なポイントと言える。ヘッドパッドは、QC35 IIのスエードのような素材から、ラバー調のものに変わっている。

NC HP700(左)、QC35 II(右)

ハウジング部のボタンは、QC35 IIに比べて削減され、ボタンの形もスリム。ボタン操作が基本のQC35 IIとは異なり、新しいNC HP700はタッチ操作も導入したことで、ボタンを押す操作が少ないのも大きな特徴だ。詳しくは後述するが、これにより操作がよりスムーズになった。

操作ボタン部などの比較。左がNC HP700

折り畳みの形も変わった。QC35 IIはバンド部を折り曲げてケースに収納するが、NC HP700はハウジングを回転してフラットにする形だ。付属ケースへ収納する方法も変更され、ケースの最長部はQC35 IIに比べて少しサイズアップした一方で薄くなった。ビジネス用の薄いバッグでも出し入れしやすくなっている。

ケース収納時

電源をONにすると、使える時間を音声で「バッテリー、4時間15分」などと教えてくれる。Bluetoothでスマホやプレーヤーにペアリングすると、その機器名を読み上げる。今回使ったウォークマンであれば「NW-ZX300と接続済みです」、と音声で案内。iPhoneなら自分で設定しているiPhoneの名前だ。ウォークマンとiPhoneを同時に接続するなど、マルチポイントもサポートしている。ペアリング済みの機器は、次回の起動時からは自動で接続して音声で案内する。

使用中にタッチパッドを長押しすると、電池残量を音声で案内。QC35 IIでは残量をパーセントで教えてくれるが、時間の方が分かりやすいので進化したポイントだ。

Bluetooth 5.0対応で、音声コーデックについては従来モデルと同じく情報は公開されていない。ウォークマンZX300と「音質優先」の設定で接続したところ、LDACやaptX HDではなくSBCに自動接続された。この辺りは従来のQC35 IIと同じだ。ウォークマン接続時はSBCで聴いた。

使ってみて最初に驚いたのは、Bluetooth接続の安定性。QC35 IIの場合、ウォークマンをズボンのポケットに入れると途切れるケースがあったため、カバンや胸ポケットなどに入れて使う配慮が必要だったが、それでも混雑時などは音が途切れることもあった。これは多くのワイヤレスヘッドフォンが抱える課題だが、NC HP700はズボンのポケットでも安定して再生。ポケットのないシャツなど服装を気にせず使えて、音切れで不快になるケースも減ったのは重要なポイントだ。

音質が大きくアップ

再生音質で感じた進化点は、広い音場感。スティングのセルフカバー版「My Songs」の「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」は、QC35 IIで聴いた時に比べて、イントロ部分は「低音の押し出し方が少しおとなしくなった?」と最初は思ったが、そこにボーカルが加わると印象が一変。ただ低域が弱いのではなく、低域/高域問わずに全体の輪郭がくっきりと描写される。音が窮屈なスペースにまとまったり、ボワッと広がり過ぎるのではなく、立体的なイメージが、手に取るように明確に感じられた。

ウォークマンNW-ZX300との接続時

広大な音場の中に、サックスやピアノ、ドラムが「空間上のこの場所にいる」という存在感が、音だけでリアルに把握できる。ヘッドフォンで聴いているのに、頭の中心近くで音がかたまって鳴るのではなく、目の前のステージでの演奏を聴く感覚に近い。QC35 IIも、それ以前のモデルに比べて聴いた時は広い音場で鳴っていると感じたのを覚えているが、さらに一歩進化して、それぞれの定位や輪郭が明確になった。

独自のアクティブEQも搭載し、「聴き疲れを引き起こす低音やボーカル、高音を調整し、原音に忠実な、クリアで自然に、バランスの取れたサウンドを再生可能」とのこと。設定項目などはないので詳細は分からないが、再生音質への効果として表れているのかもしれない。

ノラ・ジョーンズがR&B ソウルの大御所メイヴィス・ステイプルズとコラボレーションした「I'll Be Gone」は、2人のボーカルの熱量は両モデルともしっかり描いているが、ボーカル、楽器の距離感、立体感をより緻密に表現できているのはNC HP700だと感じる。

サラ・オレインが中島みゆきをカバーした「糸」をQC35 IIで聴くと、メインであるボーカルがすぐ近くに感じられて、これも良い音だと思える。一方でNC HP700に変えると、ピアノやストリングスなどボーカル以外の部分も存在感を増しながら、空間上のそれぞれの位置からボーカルの良さを邪魔せず引き立てている。NC HP700の方が全体としての音の厚みが増した印象だ。

NCの大きな進化。ソニーとは違うポイントも

続いて、多くの人が気になるポイントのノイズキャンセリング(NC)性能をチェック。NC HP700は、マイク6基で構成する新たなシステムを採用し、周囲の騒音を大幅に低減、ユーザーの耳にノイズが届かないようにするという。

ソニーのWH-1000XM3(右)と比較

QC35 IIではNCの切り替えがLOWとHIGHの選択だったが、NC HP700は10段階で細かく調整できるようになった。新しいスマートフォンアプリ「Bose Music」で1~10の設定ができるほか、「お気に入り」設定を3つ登録でき、本体ボタンだけで変更可能。初期設定は「0」と「5」、「10」の3つで、左ハウジングのボタンを押すと3つの設定が順次切り替わる。各数値はアプリで変更できるため、「電車の中」や「歩道」、「自宅」など使う場所に応じて最適な数値を事前に登録しておけば、アプリを起動しなくても本体ボタンだけですぐに切り替えられる。

Bose Musicアプリ
アプリのノイズキャンセリング設定

効き具合については、主に騒音の大きな地下鉄通勤で使っているので、常に最大値の10が実用的だと感じる。最大にしても耳への圧迫感は気にならなかった。

ライバルの一つであるソニー「WH-1000XM3」とは、NC機能に関して考え方に違いがあるのもポイント。ソニーの1000XM3は、自動でモードを変更してNCの効き具合などが変わる「アダプティブサウンドコントール」が特徴だが、ボーズのNC HP700は、モードが明確に変わるのではなく、周囲の状況に合わせて知らない間に微調整されるようなイメージだ。

どちらが便利かはユーザーの環境にも左右されるが、ソニーの方式は切り替わり時に音がして音楽が一瞬途切れるのに対し、ボーズは特にユーザーに意識させずに調整が行なわれる。

例えば「電車に乗った時はノイズをしっかり減らしつつ、ホームを歩くときは周りの音が聞こえるようにしたい」など、はっきりと効果を分けてNCを効かせたい人には、ソニーの機能が便利で違いが分かりやすい。

一方でモード切替で音楽が一瞬止まるのが好きではないなら、ボーズの方式が合うだろう。ボーズのNC HP700を着けていると、NCの効き具合が急激に変わるようなことはなく、電車に乗っているとだんだんNCが最適に効いてくるようだ。

都営大江戸線や新宿線、東京メトロ有楽町線などの地下鉄で使うと、最大でNCが効いている状態では、ソニー1000XM3(NCオプティマイザーで自分用に最適化済み)の方がノイズを低減できているように感じた。ただし、これは極端な違いではなく、NC HP700も電車のモーター音から空調の音まで、しっかりノイズを防いでいて音楽に集中できるのは間違いない。両モデルを使っていると、周囲に合わせて適切にノイズを減らす技術はここまで進化したのかと、改めて感じる。

NCをオンにしたままでも周りの音が聞こえるNC HP700の「会話モード」は、左ハウジングにあるNC調節のボタンを長押しすると動作。再生中のコンテンツとノイズキャンセリングを一時停止して、周囲の人と会話をしたり、駅や空港などのアナウンスを聞くことが可能。いつでも停止したところから再開できる。

同モードは、音楽を単に再生/一時停止した時とは違って周りの音もマイクで拾ってハッキリと聞こえる。音楽をミュートする時とは違い、曲の時間が進んでしまわずに、止めたところから再び聴けるのも良い。

AlexaやGoogleアシスタント対応。タッチ&アプリ操作が便利

QC35 IIでも搭載しているGoogleアシスタントやAlexaも引き続き利用可能。Googleアシスタントの場合は、電源/Bluetoothの下側にあるボタンを長押しして、今日の予定や天気などを尋ねる。音声でメールの送信なども可能だ。

アプリでGoogleアシスタント、Alexa、Siriを選んで利用可能

Alexaの場合は、ボタンまたは音声で起動が可能になっており、タッチパッドの長押しで、アプリの設定で「ボタン起動」、「音声/ボタンどちらでも起動」を選択できる。

タッチセンサーは右ハウジングの前側半分(ヘッドバンドがある部分より前)に内蔵。ダブルタップで音楽の再生/一時停止、前方にスワイプすると曲送り、後方で曲戻し、上スワイプで音量増、下で音量減となる。着信時はダブルタップで応答できる。QC35 IIでは、ボタンの位置を手探りすることもあるが、これに比べて素早く直感的に操作できるようになった。

タッチ操作に対応

Bose Musicアプリからでも、再生中の音楽の曲送り/戻しが可能。例えば電車の吊り皮につかまって、もう片方の手でスマホを持ち、再生中のウォークマンを操作したい時は、ヘッドフォンのタッチセンサーよりもすぐに操作できて便利。もちろんウォークマンなどの楽曲だけでなく、スマホのAmazon MusicやSpotifyなどで再生中の音楽も操作でき、曲名なども表示される。

他の機器の再生操作もアプリから行なえ、曲名なども表示

インターフェイスは、主流であるUSB Type-Cに変更された。連続再生は約20時間、充電時間は約2.5時間。15分の充電で3.5時間使えるクイック充電にも対応する。通勤や自宅リスニングなどでほぼ毎日使っていても、頻繁に充電しなくていい。

有線接続も可能。ヘッドフォン側の端子は2.5mmのため、接続には付属ケーブル(3.5mm-2.5mm)を使う。市販のステレオミニケーブル(3.5mm-3.5mm)だとヘッドフォンに挿せない点は注意したい。

もう一つ、ソニーWH-1000XM3との違いとしては、スマホなどをかざして接続できるNFCはサポートしていない。スマホとウォークマンなど、複数のプレーヤーを使い分ける人は、NFCがある方が画面操作なしに素早く確実に接続できる。いつも同じ機器につなぐ場合は、自動接続なのでNFCがなくても問題はないだろう。

デザイン&機能の両方で新しいボーズを象徴

NC HP700はデザインが大きく変わっただけでなく、NC機能も充実して、自動で最適に調整してくれる便利さを実感できた。ソニーWH-1000XM3と、どちらを選ぶかは、前述したNC機能の違いによって好みが分かれるところ。個人的にはNC機能の満足度で1000XM3が少し有利と感じたが、普段使いには、スリムで目立たない形状のNC HP700の方が持ち出しやすいと思う。

既存のQC35 IIもNCヘッドフォンとして優秀であり、NC HP700へと切り替わるのではなく併売という形なので、これまでのデザインが好きな人はそちらを選ぶのもいいと思うが、これから新たに買うのであれば、QC35 II(40,700円)とNC HP700(46,750円)の価格差を考えても断然NC HP700を勧めたい。

機能重視のハイエンドヘッドフォンとはいえ、長く使い続けるには見た目も気に入ったものを選びたいところ。その意味で、NC機能とデザインの両面で一新したNC HP700は、他社とは少し違った形で“これからのボーズらしさ”を表現した最初のモデルといえそうだ。

中林暁