レビュー

“買いやすいウォークマン”大幅進化「A50」。バイナルプロセッサーで“アナログ感”

ウォークマンAシリーズがモデルチェンジされ、A50シリーズへと生まれ変わった。ウォークマンの中でも、ハイレゾ対応デジタルオーディオプレーヤーのスタンダードモデルに位置づけされるこのAシリーズだが、実は毎年のようにモデルチェンジが行なわれていて、その都度大きな進化を成し遂げている。はたして、今回のA50シリーズはどのような進化が盛り込まれたのだろうと、実機を手にしてみてビックリ。機能面でも音質面でも、例年にはないレベルでの大きなグレードアップを果たしていたのだ。そんな、A50シリーズの実力を、様々なポイントから紹介していきたい。

ウォークマンA50シリーズ

発売は10月からスタートしており、ラインナップは内蔵メモリ16GBの「NW-A55」(実売22,000円前後)、16GBでイヤフォン付きの「NW-A55HN」(29,000円前後)、イヤフォン付きで32GBの「NW-A56HN」(34,000円前後)、イヤフォン無し64GB「NW-A57」(37,000円前後)となっている。

デザインや素材の変更が高音質化にも効いている

まず、外観を見て気がつくのがボディデザインの変更だ。A50では、アルミ削り出しボディを採用、左右サイドに半円筒型の膨らみを持つ「NW-ZX300G」などの上位モデルに共通するスタイルになったほか、右サイドのボタン類なども大きく分かりやすい、一体感のあるデザインに変更。光沢感の増した塗装処理とも相まって、より上質なイメージを纏うようになった。操作感についても、ボタンが大きくなったためかブラインドでも押しやすくなっている。

左右サイドに半円筒型の膨らみを持つデザインに
背面

ヘッドフォン出力は3.5mmのみ、デジタル接続は独自のWMポート、microSDポートを1基搭載、独自OSによるタッチパネルなど、基本的な部分はA40からそう変わりなく、カラーバリエーションも大きく変化は無いのだが、並べてみると両者はかなり異なった印象があり、圧倒的にA50のほうがひとつ上のグレードにも見える。少なくとも、外観においてA50シリーズはなかなかに完成されたスタイルに整えられた、といっていいだろう。

上部
底部。ヘッドフォン出力は3.5mmのみ

もちろん、アルミ削り出しボディの採用は100%デザインのためではない。2パーツ構成だったA40から一体型の筐体に変更することで、ボディ剛性を高めると同時に抵抗値も下がり、より広がり感のあるサウンドを実現するなど、音質の向上にも貢献しているという。

左は2パーツ構成だったA40の筐体、右が削り出しのA50
一番左はZX300の筐体だが、それと同様にアルミ削り出しとなった

ちなみに、音質面ではその他にもわずかな量の金を練り込んだ高音質ハンダの採用などが紹介されているが、実は基板も新設計だったりと、細部に至るまで徹底した改良が施された様子が窺える。ハードウェアの進化だけを見ても、1年の間隔とは思えない進化ぶりだ。

DSEE HX

一方で、ソフトウェア面でもいくつかの音質的進化が見られる。そのひとつが「DSEE HX」だ。こちら、MP3音源などの圧縮音源やCD音源をハイレゾ相当にアップスケーリングする機能で、これまでのモデルにも採用されてきた物だが、最大192kHz/32bit相当までサンプリング周波数/ビット深度を拡張することで、細やかな音を再現可能とアピールしている。

加えて、新たにAI(人工知能)技術を搭載し、曲のタイプを自動判別して高音域の補完性能も更なる向上を果たしているという。ハイレゾ対応プレーヤーとはいえ、CDや圧縮音源がまだまだ主流となっている昨今の情勢としては、必要不可欠な機能といえるかもしれない。

実際に、その効果を試してみたが、昔のiTunes曲(AAC128kbps)などを聴くと、かなり自然なニュアンスの音に変化していることがわかる。一方、CDからの無圧縮リッピングなど元音源の質が上がれば上がるほど効果のほどは弱まるが、逆にいえば、余計な付帯音を感じない節度あるチューニングに好感が持てた。

アナログレコードの“音の良さ”をデジタルで再現

もうひとつ、注目の音質調整機能がある。それが「バイナルプロセッサー」だ。

こちら、アナログレコードが持つ音の良さをデジタル処理で再現したものだが、単なる音色的演出ではないのが興味深いところ。この機能については、長らくソニーの音作りに携わってきた金井隆氏が中心となって作り上げたことが伝わっているが、彼によると、アナログレコードには特有の“音をより良く楽しく聴かせる要素”があるのだという。ソニーのオフィシャルWebサイトには、「バイナルプロセッサー」に関して金井氏のインタビュー記事が掲載されており、詳しく知りたい方はぜひそちらもチェックして欲しいところだが、ここでは端的にまとめさせてもらおう。

「バイナルプロセッサー」

この「バイナルプロセッサー」は、アナログレコード固有の特徴、可聴帯域外の10Hzあたりに大きな共振を持つ「トーンアームの低域共振」、幅広い帯域に渡って目立たないくらいの微小ノイズを持つ「サーフェスノイズ&スクラッチノイズ」、そして音楽再生中にスピーカーからの音で生じる「レコード盤の共振」の3つを、デジタル技術で再現したものだという。

効果としては、前者2つはスピーカーのキレの良さや躍動感の高さを改善するもの、最後のひとつはスムージングというか全体的な“まとまりのよさ”を作り上げるもの、といったイメージだろうか。

ちなみに、A50では「バイナルプロセッサー」のON/OFFのみが可能だが、上位機種では3つの要素を取り混ぜた「スタンダード」に加え、「アームレゾナンス」、「ターンテーブル」、「サーフェイスノイズ」という3つの設定も用意されており、個別の効果のみを活用することもできる。

筆者もアナログレコードが持つ独特の音の魅力は大好きなので、さっそく効果の程を試してみた。「バイナルプロセッサー」をオンにすると、僅かだがメリハリの良い音に変化する。ドラムなどもキレが良くなり、ノリの良い演奏に変わっている。ヴォーカルもほんのちょっと前に出てきてくれたかのように、声がいつもよりほんのちょっぴり力強く感じられる。ちょっぴりブリリアントな音色で、躍動感も高まっている印象だ。しかしながら、変化の程はそれほど極端なものではなく、静かな環境でじっくり聴き比べても、変化しすぎて違和感を感じるほどではない。

一方、この僅かな変化がポイントとなるのか、電車内など騒音レベルの高いところで聴き比べた時だ。ヴォーカルの声がずいぶんと伸びやかに、よく届いてくるように感じられた。屋外などでは、「バイナルプロセッサー」をオンにするほうが良さそうだ。

余談となるが、「バイナルプロセッサー」の効果をさらに詳細にチェックすべく、ファームウェアのアップデートでバイナルプロセッサーが追加されたZX300とMDR-Z1Rをバランス接続したセットでも試聴してみた。

MDR-Z1R

こちらの組み合わせだと、両者の違いがよりハッキリと分かる。スネアの音が明らかにキレが良くなり、ベースの演奏も弾んだ印象に変化している。チェロやアコースティックギターの演奏が、グッと迫ってきたかのようなリアルさを持つようになった。女性ヴォーカルはややハスキーだが、伸びやかな歌声に変化している。躍動感の良さもさることながら、全体的にのびのびとした、ヌケの良い音に変化した点も好ましい。音色的な変調がほとんどなく、ここまで良質な変化をもたらしてくれる点は素晴らしいといえる。

さらに「スタンダード」以外の設定、「アームレゾナンス」、「ターンテーブル」、「サーフェイスノイズ」も試してみたが、その中ではSN感が良くそれでいて躍動感もある「アームレゾナンス」の使い勝手が良さそうだった。とはいえ、まとまりとバランスのよい「スタンダード」が最もオススメといえる。

“素の音”も良好なA50

さて、ここまで音質調整機能の話してきたが、すっかりA50シリーズの“素の音”を紹介し損ねてしまった。ということで、バイナルプロセッサーは使わず、素の状態で、先代A40シリーズと比較試聴しつつ、実力の程を確認してみた。

左が先代A40シリーズ

ひとこと言えば、“格段に進化したサウンド”だ。A40シリーズに比べて、圧倒的なほどに躍動感が高まり、活き活きとした演奏に感じられる。ノイズ感も払拭され、ずいぶんとクリアなサウンドにも変化した。そのおかげもあってか、男性ヴォーカルがとても印象的な歌声に感じた。とてもパワフルで、しっかりとした厚みも持ち合わせているため、とても魅力的な歌声に感じられるのだ。

このように、音質的にはひとつ上のクラスにシフトした、といっても過言ではないくらいのグレードアップを新しいA50シリーズは実現している。確かに、ZX300などの上位モデルに比べると音質の差はあるものの、この音が2万円半ばから入手できるなんて、なんとも素晴らしい時代になったものだ。格段のコストパフォーマンスを持ち合わせた製品といえるだろう。

このほかにも、A50シリーズには機能面で見逃せないポイントがある。そのひとつがBluetoothレシーバー機能だ。

ウォークマンはSシリーズやWシリーズを除き、LDACコーデックに対応した高音質のBluetooth接続を搭載しているが、このA50シリーズからは、スマートフォンなどからのBluetooth音声送信を受信する機能、Bluetoothレシーバー機能を持つようになったのだ。こちら、SHANLING(シャンリン)「M0」やFiio「M7」「M9」などの他社製最新プレーヤーにも搭載された機能だが、これがA50シリーズにも採用されていて、なかなかに便利だったりする。スマートフォン用アプリが提供されているデジタル音楽配信サービスなどを、より高音質な環境で楽しむことができるのだ。スマートフォンとの接続とイヤホンとの接続、どちらかひとつしか利用できないことからイヤホンは有線接続となるが、「S-Master HX」フルデジタルアンプを初めとする良質なサウンドが、スマートフォンでも手軽に楽しめるのは嬉しいかぎり。また、パソコン内の音楽を聴くことができるUSB-DAC機能や、デジタル接続が可能なスピーカーやヘッドホンアンプなどでも手軽に音楽再生が楽しめるなど、幅広いユーザビリティが用意されていることも魅力のひとつといえる。

このように、ウォークマンA50シリーズは、これまで培ってきた使い勝手の良さを引き継ぎつつ、新たに音質面でも大きくグレードアップ、さらに魅力ある製品へと生まれ変わった。スタンダードクラスのハイレゾ対応プレーヤーとして、最有力候補となる1台といえる。

A50シリーズ

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NW-A56HN

野村ケンジ

ヘッドフォンからホームシアター、カーオーディオまで、幅広いジャンルをフォローするAVライター。オーディオ専門誌からモノ誌、Web情報サイトまで、様々なメディアで執筆を行なっている。ビンテージオーディオから最近、力を入れているジャンルはポータブルオーディオ系。毎年300機種以上のヘッドフォンを試聴し続けているほか、常に20~30製品を個人所有している。一方で、仕事場には、100インチスクリーンと4Kプロジェクタによる6畳間「ミニマムシアター」を構築。スピーカーもステレオ用のプロフェッショナル向けTADと、マルチチャンネル用のELACを無理矢理同居させている。また、近年はアニソン関連にも力を入れており、ランティスのハイレゾ配信に関してはスーパーバイザーを務めている。