レビュー

ありがとう奈美恵! 世界初ソニー4層BDで12時間の”非圧縮安室盤”爆誕!!

民生用としては世界初となる4層構造を実現したBD-Rメディアが、ソニーから発売された。4層の規格成立から約8年の歳月を経て、BD1枚に地デジ番組が920分(15時間20分)、BSデジタル番組であれば660分(11時間)もダビングできる“欲張り”な光ディスクがいよいよ誕生したのだ。

BNR4VAPJ4(パッケージ表面)
BNR4VAPJ4(パッケージ裏面)

筆者には、少し前からBDでやってみたいと思っていたことがあった。それは、昨年秋から今年にかけてWOWOWで放送された安室奈美恵の特別番組3本を、1枚のBDに非圧縮のままダビングすることだ。3本の合計は12時間にも達するため、既存のBDでは非圧縮のままダビングすることが叶わなかった。

複数ディスクへの録り分けや番組編集、AVC再圧縮などを行なえば、4層に固執する必要は無く、既存BDにダビングできる。ただ、非圧縮かつ無編集で3つの番組を1枚に収めた“安室奈美恵×WOWOW特別盤”が作りたかったのだ。

そんな執念(?)が通じた、、、わけではないだろうが、突然舞い込んできた「4層BD発売」の知らせ。筆者にとっては思いがけない吉報だった。引退で傷心のアムラーは、まだ見捨てられてはいなかったのだ……。

というわけで早速、10日の発売日にヨドバシ秋葉へ向かい、4層BDを捕獲。WOWOW 3番組・計12時間を非圧縮ダビングする“安室奈美恵補完計画”を発動することにした。

4層BDは東北生まれ。裏面からわずか「0.0535mm」の深さに記録

今回発売された4層BDは、追記型と呼ばれる1回録画用メディア(BD-R)だ。4倍速記録に対応し、容量は128GB。1層につき約32GB分のデータが記録できる。

単品販売される製品の型名は「BNR4VAPJ4」。ヨドバシでは1,590円(税込)で購入した。今や100円ショップでもBDが買える時代、「高すぎ」と一蹴されてしまいそうだが、1層、2層、3層BDの初値に比べれば、だいぶ財布に優しいと感じたのは筆者だけだろうか? ちなみに、単品以外には、3枚パック(3BNR4VAPS4)と5枚パック(5BNR4VSPS4)が用意されており、3枚が4,190円(税込)、5枚が6,450円(同)で発売されていた。

左上から時計回りに世界初の1層BD(BF23G)/3,500円、2層BD(LM-BRM50)/7,500円、BDーRE3層(LM-BE100J)/10,000円、3層BDーR(VR-100BR1)/5,000円。こうしてみると4層の初値は、安い??

なお3層と4層はBDの拡張規格「BDXL」に属するため、ディスクの再生・記録には対応機器が必要となる。ただし、BDXL規格は2010年から存在しており、ここ数年に発売されたBDレコーダーやPC用のBDドライブであれば、ほとんどの製品がBDXLに対応している。

4層BDの使用にあたっては、ソニーが自社のWebサイトで対応レコーダー一覧を公開しているので、購入前に一度確認するといいだろう。

中国や台湾で製造されるBDも少なくないが、4層BDは日本生産だ。ソニーの記録メディア製造を請け負うソニーストレージメディアマニュファクチャリングの多賀城サイト(宮城県)で作られている。

同社は東京通信工業(現ソニー)初の地方製造事業所として、1954年に設立された仙台工場が原点で、オーディオテープやベータマックスビデオカセット、業務用ビデオなどの磁気テープ生産を手がけてきた記録メディアの老舗。磁気テープの他、医療用プリントメディアや光ディスクの製造も行なっており、世界初の1層BD「BF23G」や業務用の4層BD「PFD128QLW」もここから出荷された。

ディスクの基本仕様は通常のBDと変わらない。4層BDも直径12cmのプラスチック円盤からなる。表面はホワイトレーベル仕様で、油性・水性ペンでの情報書き込みやインクジェットプリンターを使ったピクチャープリントにも対応。内径22mm、外径118mmなのでワイドプリントも可能だ。

ワイドプリント対応のホワイトレーベル仕様。ディスクの縁に「Sony Corporation BD-R XL 128GB 4X」の印字されている

外観で違うのは“裏面”だ。センター穴をつかんでディスクを返すと、薄い黄色の記録面が現れる。現在発売されている他のBDXLディスクとはだいぶ異なる色味で、最初LTHディスクかと勘違いしてしまった。

ソニーによると「記録膜を構成する元素を反射率や透過率などの機能特性ごとに選択し、加えてその構成比率を4層すべての層でそれぞれ最適化。保存信頼性にも配慮し、記録膜以外においても4層ディスクの各層間用に新たに開発した樹脂材料(中間層レジン)や誘電体材料などを採用する事で、初期の記録品質のみならず長期保存にも優れる」とのこと。

ケミカルの難しい話は分からないが、この記録面こそ4層の肝となる部分であり、薄い黄色の輝きは他とは少し違う“証”なのだと解釈した。ちなみに「業務用の4層BDとも一部使用する材料が違う」(ソニー広報)らしい。

フォーマット・記録前の4層BDの記録面。色は薄い黄色
現在発売されているBDXLディスクの記録面。左上から時計回りにソニーの4層BD-R(薄い黄色)、ソニーの3層BD-RE(濃いグレー)、三菱化学メディアの3層BD-R(やや暗い銀色)、同Mディスクの3層BD-R(やや黄色がかった銀色)。
以前発売されていたLTHタイプのBD-R(写真左)と4層BD(写真右)の比較。LTHは黄色と言うよりも、金色に近い印象

波長の短い青紫色のレーザーが記録面を照射し、データの読み取りや書き込みを行なうというBDの基本動作は4層でも変わらないが、データ書き込みの場所(深さ)に違いがある。

1層目は裏面から0.1mmの深さに書き込まれ、2層目は0.0845mm、3層目は0.065mm、4層目は0.0535mmの部分に記録される。2層BDの場合は0.075mm(2層目)、3層BDの場合は0.057mm(3層目)なので、BDの中では4層が最も浅い場所までデータを書き込むことになる。

なお、1層目は内周から外周に向かって、2層目は外周から内周に向かって、3層目は内周から、、、というように書き込み方向が層で切り替わり、一番奥の層から手前の層にデータが書き進むようになっている。

4層までデータを書き込んだディスクの裏面。データの書き込み痕がうっすらと見える

記録場所の深さ以外に通常BDと異なるのが「ピット」(データ書き込み時にできるマーク)の長さだ。ソニーによれば、2層BD時の最短長0.149μmと比較して、約78.5%も縮めた「0.117μm」を実現。ピットの長さをより短くすることで、1トラックに書き込める情報量を増やし、1層32GB、4層で128GBの大容量化を実現している。

4層のBD-Rが出てくると、4層のBD-REは? という疑問が出てくるが、BDXL規格は3層のBD-R/BD-RE、そして4層のBD-Rの3タイプしか存在しない。現在、3層のBD-Rは三菱化学メディア、そして3層のBD-REと4層のBD-Rはソニーが製造している。

4層BD以外で現在購入できるBDXLディスクは、写真の右半分のみ。パナソニックやTDKもBDXLを製造していたが、現在はソニーと三菱化学メディアの2社だけになってしまった

以前に比べ、BDやDVDなどの光ディスクにデータを残す方はだいぶ減ってしまったが、録画番組をディスクに保存するメリットは間違いなくある。

内蔵HDDや外付けHDDはBDよりも大容量で、ディスクの入れ替えもなく、読み出しや消去も手軽で利便性に優れる。ただそれらHDDは、あくまで一時保管場所であって保存場所ではない。レコーダー本体やHDDのどちらかが壊れた場合、録画番組は二度と見られない。もちろんBDだって永久保存の方法ではないにせよ、常に稼働するレコーダーのHDD寿命に比べれば、ディスクが再生不可能になるまでの寿命は長いと思われる。またBDにダビングしておけば、i/p変換や4Kアップコンバートなど、より成熟した画質・音質性能を持ったレコーダーやプレーヤーで再生することも可能だ。

保存目的だけでなく、高品位再生という点でも「BDダビング」には意味があるのだ。

いざ安室奈美恵補完計画発動。非圧縮・無編集で4層BDにダビングする!

前置きがだいぶ長くなってしまったが、実際に4層BDへのダビング作業に移ろう。

ダビングするのは、WOWOWで独占放送された下記の3番組だ。6月放送の「Finally~Finally~ 福岡公演」は、現在発売されているパッケージ版と制作テーマ・ディレクターが異なる別バーション。また8月放送の「Music Video Cellection」は、パッケージ化・HD化されていないMV含めた全106本を網羅した、ファン感涙ものの内容である。

  • 安室奈美恵 25th ANNIVERSARY LIVE in OKINAWA ('17年10月22日 19時00分~20時59分)
  • 安室奈美恵 Final Tour 2018 ~Finally~ 福岡公演 ('18年6月17日 20時00分~22時00分)
  • 安室奈美恵 Music Video Collection Special 2018 ~Finally~ ('18年8月12日 10時00分~17時55分)

今回は、6年前に発売されたパナソニック製レコーダーのDIGA「DMR-BZT9300」を使って、無圧縮(高速ダビング)・無編集ダビングを行なう。

ダビングに使ったパナソニックの「DMR-BZT9300」
ダビング前に、ディスクのホコリはブロアで飛ばそう

4層BDを挿入し、しばらくすると「かんたんダビング」「BD管理」の選択画面が現れる。かんたんダビングからは内蔵HDD内の録画番組しか選択できないため、ここではBD管理を選択し、ダビングができるよう4層BDをフォーマットする。フォーマットは1分ほどで完了する。

BD管理を選択
ディスクをフォーマット
フォーマットは1分ほどで終了。画面上にはディスク残量が「11時間18分」と表示されている

ディスクのフォーマットを終えたら、スタート画面から「ダビングする」を選択し「詳細ダビング」画面を呼び出す。ダビング方向で「USB-HDD → BD/DVD」、録画モードで「高速」を選択し、あとはリスト作成で対象の3番組を選ぶ。

3番組・約12時間の合計容量は102,150MB。3層では容量オーバーの警告で涙を飲んだが、4層BD(実使用容量116,487MB)では問題なく番組を納めることができた。12時間分の番組を選択しても、使用領域87%なので、まだ1時間以上は追記できそうだ。

詳細ダビングを選択
BSデジタル放送12時間は、3層BDには収録しきれないが……
4層BDなら1枚に入る! しかもまだ空きがある!
WOWOWのようなコピーワンス番組は、ダビング完了と共に元データが消える。万が一を考え、安室奈美恵の再放送は欠かさず録画しておこう

4倍速対応とはいえ、12時間番組のダビングにはそれなりの時間を要すると覚悟していたのだが、ダビング開始ボタンを押してから完了するまで、わずか1時間41分だった。

ダビング開始。あとはただ待つのみ
1時間半経過。安室奈美恵×WOWOW特別盤の完成までもう少し
12時間のダビングが終了。実際に掛かった時間は1時間41分20秒

また高速回転と長時間書き込みで、盤面がある程度熱を帯びるのでは? と心配していたのだが、その熱も一時的なもので杞憂に終わった。むしろ盤面や筐体の発熱は、UHD BD再生の方が高いと言えそうだ。

ダビング前の表面温度は約23度
ダビング完了直後の表面温度は約34度。10度近く上昇しているが、トレイ取り出し後2~3分で通常の温度に戻る
ダビング中の騒音レベルは、ドライブそばで計測しても40dB前後だった

かくして補完計画は無事に終了。前置きが長かった割に作業はシンプルで、正味2時間で念願の「特別盤」が完成した。

さっそく、ダビングしたディスクを再生し、安室奈美恵と12時間を過ごしたが、エラーやノイズといった問題も無く、誰にも邪魔されない至福のひとときを過ごすことができた。やはりディスク1枚に収めるのは気持ちがいい。ありがとうWOWOW、ありがとうソニー、そしてありがとう、安室奈美恵!

4層BDのダビングリスト。しっかり3番組が収録されている
ディスクを再生。再生はもちろん、早送り・早戻しなどの操作も通常BDと変わらない

対象番組の放送と4層BDの発売がずれたため実験はできなかったが、次回WOWOWで再放送される際には、放送波をリアルタイムで4層BDにダイレクト記録し、今回仕上がった盤との品質比較を楽しみたいと思っている。

時代はパッケージから配信に移行しつつあり、光ディスクにとってはますます状況が厳しい世界になりつつあるが、録画番組をディスクに残したいユーザーは少なからず存在する。そんな録画ユーザーを見捨てず、4層BDを発売してくれたソニーの英断? に筆者はただただ感謝である。

今回は2K放送をダビングしたが、12月から始まる新4K衛星放送の番組であれば、4層BDに約8時間の記録ができる。4K放送をBDに残せるレコーダーはまだ数が少ないが、HDD容量を逼迫するであろう4K放送時代の到来を前に登場した4層BDは、大容量ディスクの真打ちといえる。そして4K放送はもちろんのこと、ゆくゆくは実現するであろう8K放送のダビング用途としても、録画ユーザーには手放せない記録メディアとなることだろう。

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阿部邦弘