レビュー

パイオニア「UDP-LX800」は音響メーカーならではの“徹底ピュア志向”プレーヤーだ

PIONEER「UDP-LX800」

規格の異なる複数のディスクを一台で再生する“ユニバーサルプレーヤー”は非常に便利な存在だが、4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)登場以降は参入メーカーが減り、選択肢が限られてしまった。

特に、SACDまで対応するハイグレードの製品は事実上OPPOの孤軍奮闘という状況が続いていたのだが、今年同社はプレーヤー開発から撤退することを表明。高級ユニバーサルプレーヤー市場は早々に終息かと思われたとき、パイオニアが新製品2機種を導入。OPPO「UDP-205」と拮抗し得る製品群がようやく登場した。

さらに、SACD非対応ながらパナソニックからは「DP-UB9000(Japan Limited)」が登場。廉価モデルながらソニーも「UBP-X800」などを発売済みなので、UHD BDプレーヤーについては選択肢が一気に増えたことになる。

そのような状況の中、今回レビューするのがパイオニアの「UDP-LX800」(365,000円)だ。本機は歴代フラッグシップ機の系譜を継ぎ、UHD BD/BD/DVD/CD/SACDなどのディスクメディアを一台で再生できるユニバーサルプレーヤーの最上位機種である。

音響メーカーならではの、徹底した振動とノイズ対策

基本機能は先行発売された「UDP-LX500」とほとんど変わらないが、LX800は振動対策の徹底など入念なチューニングを施したことが特別で、そこにはパイオニアが歴代ディスクプレーヤーの開発で培ったノウハウが数多く投入されている。メカドライブをハニカム成形のケースで覆ったり、トレイに制振塗装を導入するといった手法はCD/SACDプレーヤーの最上位機種「PD-70AE」から継承したノウハウで、他社ではなかなか踏み込めない領域でもある。

アナログオーディオ専用の電源トランスとデジタルオーディオ基板を制振塗装ケースに格納し、さらにケース上には弦楽器にヒントを得たf字孔やヘ音記号をあしらった。フラットな形状のケースだと筐体内で空気流の定在波が立つことがあるため、それを防ぐのが目的だが、楽器や楽譜をモチーフにした点がユニークだ。伝統ある音響メーカーならではの工夫と言える。

歴代プレーヤーの歴史
筐体内部。トランス、電源、ドライブ/デジタル回路、アナログ回路とブロックで分けて干渉や不要輻射を最小限に抑制する手法を取る
ハニカム成形の鋼板ケース(写真右上)でディスクの共振を抑制。ドライブ底面はダンパーを介し、シャーシからフロートさせている。トランス(写真右下)にはf字孔、電源(写真左下)にはへ音記号をあしらう

振動対策の徹底がどこまで実際上の効果を及ぼすのか疑問に思うかもしれないが、ユニバーサルプレーヤーの場合は他のディスクプレーヤー以上に振動の影響を受けやすいことを理解すれば、ここまでの対策を導入したことにも納得がいく。

BDやUHD BDだけでなくSACDもCDに比べて回転数が高く、それだけ不要な振動を引き起こしやすい。さらに、映画だけでなく音楽ソフトでもサラウンドチャンネルを含むあらゆる方向から大きな音圧がプレーヤーやアンプに到達し、ケースや部品の共振を引き起こすことも見逃すわけにはいかない。その微振動がフィードバックされて音の純度を下げることはオーディオ機器ではよく知られた事実だ。

本体天面。1mm厚の黒色鋼板を採用。リアパネル含め、放熱孔・ファンレス設計としている
側面は制振性の高いアルミ材、そして1.6mm厚の鋼板シャーシを3mm厚のアンダーベースで支えることで剛性と低重心化を実現。インシュレーターには亜鉛ダイキャストを採用した(LX500は樹脂製)
回転振動がドア(フロントベゼル)に伝わらないよう、ディスクトレイとドアを分離させた「アコースティックダンパートレイ」を採用する

デジタル伝送の純度を高めるトランスポートモード搭載。アナログ音声は2chに特化

本機をCD/SACDプレーヤーとしても活用する音楽ファンはオーディオプレーヤーと同様にアナログでアンプにつなぐことも少なくないと思われ、そのためにDACとそれ以降のオーディオ回路の性能にも強いこだわりがある。

DACチップはESS社のES9026 PROをデュアル構成で採用。グレードはES9038 PROを積むOPPOのUDP-205の方が上だが、ESS製DACの使いこなしノウハウを熟知しているため、ES9026 PROでもきわめて高水準の再生音に到達したと設計エンジニアは語っていた。

もう一つのこだわりとして、未使用時に不要な回路を動作させないピュア志向を追求したことが自慢だ。アナログ出力時にデジタル回路を遮断するダイレクトモードに加え、HDMIを中心にしたデジタル出力時にアナログオーディオ回路への電源供給をトランスから遮断するトランスポートモードを新設。特に後者はトランスや電源回路からデジタル回路へのノイズの飛び込みや電磁誘導の影響を抑える効果が期待でき、デジタル伝送の純度改善に貢献するはずだ。

ちなみにLX800のアナログ出力はステレオ専用でマルチチャンネル出力はデジタルに限定されるため、SACDのマルチチャンネルエリアを再生する場合もHDMI接続が基本になる。それを考えるとトランスポートモードが活躍する場面はかなり多いと思われる。ダイレクトとトランスポートの切り替えやオン/オフはリモコンと本体の専用キーいずれでも操作可能だ。

本体前面にある「DIRECT/TRANSPORT」ボタン。ダイレクト機能をオンにすると、デジタル音声・ビデオ出力を遮断、反対にトランスポート機能をオンにすると、アナログ音声とその回路が遮断される
本体背面。2系統のHDMI出力を搭載。ZERO SIGNAL端子はAVアンプなどの音声・映像入力端子と接続することで、信号の基準(グラウンド)を合わせ、信号品位を向上させる
アナログ音声出力はステレオ2ch(RCA/XLA)で、マルチchは搭載しない。端子幅は広く、コネクタが大きい高級アナログケーブルにも対応する
LX800(写真左)とLX500(写真右)のデジタルメイン基板。LX800には、低い周波数から高周波まで広い範囲でインピーダンスが低い「低ESRコンデンサー(水色のマーキングがされたもの)」を数多く搭載。「音質面ではSN感やノイズ感の向上、画質面でもSN感や画面のチラつき軽減などに効果がある」という

映像信号処理のコアプロセッサの仕様はUDP-205とほぼ同等。変更可能な設定項目やその内容には共通点が多く、HDR10とDolby Visionの両方に対応するHDRのサポートも同じだ。HDRについてはリモコンのHDRボタンを押すと自動/オン/オフを変更できるが、BT.2020を保持した状態でSDR出力を行なう「メタデータ除去」モードはメニュー経由でも利用できない(UDP-205は同モードが利用可能)。

HDR→SDR変換出力時の接続ディスプレイの輝度設定は100~700の範囲で15段階調整可能で、ディスプレイの選択(リファレンス/液晶テレビ/有機ELテレビ/プロジェクター)機能などとともにリモコンの映像調整ボタンから呼び出す仕組み。HDR非対応のテレビやプロジェクターで階調の微調整ができるが、前述のディスプレイ選択機能と同様、これさえ調整すれば課題が解決するというものではなく、画質調整を補完する程度の動作にとどまる印象だ。

LX800の映像設定メニュー。明るさ・コントラスト・色合いなどの基本調整に加え、ディスプレイの種類に適した画質設定値をプリセットで備える「テレビタイプ」やHDR→SDR変換調整がある
HDR→SDR変換調整。接続するSDRディスプレイのおおまかな最大輝度値を選択することで、LX800がトーンマッピングを行なう。
リモコンの「画面表示」ボタンを2秒以上押すと、ディスクの詳細情報が呼び出せる
中央部分に「HDR」ボタンを配置、自動/オン/オフの3パターンが選べる。コンテンツがHDRの場合、HDRオンはディスプレイにかかわらず強制的にHDR信号を出力。オフはSDRに変換して出力される

4K/HDR映像が持つ情報量の豊かさと立体的な描写を再現した

画質と音質は自宅シアタールームのサラウンドシステム(プロジェクター:ソニーVPL-VW1100ES)と、仕事場のステレオシステム(有機ELテレビ:ソニーKJ-55A9F)の両方で確認した。手持ちのUDP-205と、パナソニック「DMP-UB900」も適宜見比べながら数日間にわたって検証したのでチェックポイントはたくさんあるが、画質についてはその一部に絞って紹介する。

UHD BD「Planet Earth II」を見る限り、4K/HDR映像の情報量の豊かさと立体的な質感描写において、UDP-205をはじめとする競合機とほぼ同等のクオリティ感を見せる。A9F側で特に画質調整を追い込まなくてもHDR映像ならではの余裕のあるコントラスト感を保持し、ディテール再現にも不満は感じさせない。ディスプレイ選択で「OLED」に切り替えるとジャングルのなかに漏れる自然光の陰影の深さが若干強調されるように感じたので、最終的には「リファレンス」に戻して視聴を続けた。

UHD BD「Planet Earth II」(輸入盤)

「マリアンヌ」はプロジェクターとの組み合わせでBDを再生し、有機ELテレビではUHD BDを再生した。今回チェックしたポイントは、カサブランカのアパート室内に外光が入る日中の場面と同アパートの屋上テラスの暗いシーン。LX800で再生するとテクスチャや表情の描写はやや甘いが、室内の場面ではバストショットでのコティヤールの肌の質感描写がなめらかだ。、

同じ場面をUB900で再生すると柔らかさと同時に肌の立体感が伝わり、フォーカスの良さが感じられて表情の機微を読みやすい。UDP-205はLX800と同じ傾向の画だが、窓からの光を反射した衣服の明るさが際立ち、コントラスト感の高さが強い印象を生む。

同じ場面をプロジェクターで見ても基本的な印象はそれほど変わらないが、LX800のディスプレイ設定をプロジェクターに変更するか、画質調整でシャープネスを1ステップほど上げて精細感を引き出すと、普段見ているテクスチャの印象に近付く。

テラスに上がった場面での周囲の暗さはプレーヤー間でそれほど変化はない。暗部も自然に浮かび上がるのだが、最暗部に近い部分に限定して見比べるとLX800は若干ながら黒の引き込みが強めに感じられる。有機ELテレビの階調表現の限界で、黒つぶれが生じやすい領域ということもあってか、僅かな違いが強調される傾向はあるものの、同じ条件でUB900の暗部再現にはほとんど硬さがなく、明るめの部分とスムーズにつながっていた。UDP-205は両者の中間に位置すると言えよう。

UHD BD「マリアンヌ」 PJXF-1093 5,990円 NBCユニバーサル

音像が明確で空間描写や低域の厚みはフラッグシップ機ならでは

画質の話はこのぐらいにして、ここからはLX500も加えて注目の音質を確認していこう。

まず音楽ディスク(CD/SACD)を再生して、アナログ接続(XLR)とデジタル接続それぞれの音質をチェックした。ジェーン・モンハイトの「The Heart of the Matter」をCDで再生すると、ベースやストリングスの響きが厚くなるフレーズでもヴォーカルの浮遊感が乱れず、声の余韻が消えるまで静寂感をキープしていることに気付く。声の音域が広い曲でも音像の位置が不自然に動かず、ほとんどブレがないことと合わせて、振動対策の効果が現れていると見ていい。

次にアナログ接続から、トランスポートモードに切り替えたHDMI接続で聴くと、ギターやフルートなどアコースティック楽器の質感に柔らかさが加わり、音量を上げても刺激が強くならず心地よい。モンハイトの声の柔らかさもデジタル接続の方が本来の音色に近いように感じられた。

SACDハイブリッド盤で再生したマンゼ指揮ハノーファー北ドイツ放送フィルのメンデルスゾーン《イタリア》は、HDMI接続で聴くマルチチャンネル音源の立体的な音場展開とスケールの大きな空間表現が聴きどころ。

ステレオエリアを再生しても演奏の勢いの強さと躍動感はそれなりに伝わるが、チェロと木管が同時に動くフレーズの両者の位置関係と旋律の噛合いの面白さなど、立体感が印象を左右する部分での表現の深さはやはりマルチチャンネルでないと味わえないところがある。

姉妹機のLX500でも同じ曲を再生したが、低音楽器の重量感と旋律の浸透力の強さなどに想像したよりも大きな差があった。LX800はコントラバスの速い動きが軽くなりすぎず、ドイツのオーケストラならではの下支えの厚さを雄弁に再現してみせた。その差がDACの違いによるものなのか、筐体の剛性の差が原因なのかはわからないが、おそらくその両方が関わっているのだろう。

なおSACDハイブリッド盤のレイヤーとエリアは停止中にリモコンのCD/SACDボタンを押すことで切り替えられる。この仕組みは、レイヤー切り替えのみメニューを経由しなければならないUDP-205に比べると使いやすいと感じた。細かい点だがSACDを聴く頻度が高い場合は使い勝手が大きく変わってくる。

CD「Jane Monheit/Heart of the Matter」(写真左)
SACD/CD「アンドルー・マンゼ&北ドイツ放送フィル/交響曲第4番『イタリア』、第5番『宗教改革』」(写真右)

BD「ロジャー・ウォーターズ/ザ・ウォール」はライヴ空間の音響的な広がりがプレーヤーによって大きく変化する作品だ。特にプロジェクターとスクリーンで再生し、カメラがスタジアム全景やアリーナをとらえた状態で映像と音の広がり感が一致することが肝心なのだが、LX800は今回聴き比べた複数のプレーヤーのなかで唯一その要求を満たす音が出てきた。レンズがとらえた距離感とサウンドのリバーブの長さが一致する感覚があり、ギターとヴォーカルが前に出てきて欲しいフレーズでは期待通りに力強く迫ってくるのだ。

空間の大きさは微小信号の再現性が問われ、音の浸透力はエネルギーや瞬発力と言い換えてもいい。いずれも入念な追い込みと物量の投入が物を言う部分だけに、LX800の有利なポイントとして浮かび上がってきたのだろう。

BD「ロジャー・ウォーターズ/ザ・ウォール」 GNXF-1950 4,700円 NBCユニバーサル

“高品位ディスク再生”を貫いたパイオニアのこだわりを感じた

LX800はLX500とともに、パイオニアとして初めてUHD BD対応を果たしたユニバーサルプレーヤーである。特にLX800は前作の「BDP-LX88」('14年モデル)以上に音質改善に設計の重点を置いた製品と言えるが、その成果を今回はっきり聴き取ることができた。

さらに言えば、機能を拡張して再生メディアの種類を増やすことよりも、あくまでディスク再生のクオリティを重視したコンセプトを貫いている。DLNA対応のネットワーク再生はできるが、ストリーミングサービスには非対応で、USB-DACも省いているのはそうした設計思想が背景にある。ディスクプレーヤーの開発が以前よりも難しい時期にあえてディスク再生に絞り込む姿勢にパイオニアらしさとこだわりが感じられた。

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。