レビュー

スマホ通知を声で読み上げ。「Zeeny TWS」は“イヤフォン以上”に面白い

イヤフォンは音楽鑑賞に使うものだが、スマートフォンの周辺機器として捉えると話は少し変わってくる。曲操作のリモコン機能はすでに当たり前、音声通話用マイク&スピーカー、SiriやGoogleアシスタントなど、期待される機能はこのところ増えていく一方だ。

音声UI対応の完全ワイヤレスイヤフォン「Zeeny TWS」

今回紹介する「Zeeny TWS」は、ヒアラブルデバイス開発を手掛けるNain(ネイン)が開発した、完全ワイヤレスイヤフォン。Bluetooth SoC(System on a Chip)にクアルコムの「QCC3026」を採用、高音質コーデックaptXをサポートするほか、6mm径のダイナミック型ドライバーを備え、最大9時間の連続再生やIPX7の防水性能などが特徴だ。6月に一般販売が開始され、価格は15,000円。

充電ケースに収納した状態

Zeeny TWS最大の魅力は「音声UI」。“届いた通知が人の声になりイヤフォンで聞ける”というと容易そうにも見えるが、なかなかどうして、実際に利用してみると一朝一夕には実現できそうにない奥深さがある。本稿では、その音声UIを中心に、Zeeny TWSというイヤフォンの実力と可能性を探ってみたい。

装着例

スマホアプリのZeenyで、使える機能が広がる

Zeeny TWSは、スマートフォンとの組み合わせで利用されることが前提のイヤフォンだ。もちろん、Bluetoothロゴを背負う製品だけあってPCやポータブルプレーヤーで使うことも可能だが、その場合は音声UIの機能は使えず(普通の)完全ワイヤレスイヤフォンになる。

そこで必要となるのが、専用アプリ「Zeeny」だ(以下、Zeeny APP)。iOS版とAndroid OS版が用意され、各OSの通知機能と連携する形で動作する。iOS版とAndroid OS版で多少挙動が異なるのはそのためで、ここから先は混乱を避けるためiOS版を前提として話を進めたい。

アプリ「Zeeny」。Android版はaptXに対応

通知の読み上げは、OSレベルで受信したものをZeeny APPに転送し、Zeeny APPの機能で読み上げるというフローになる。Zeeny APPにとって初めての通知を受信したアプリは、Zeeny APPに登録され、以降も読み上げ対象とするかどうか選択できるようになる、という仕組みだ。

システムに届いた通知はZeeny APPに転送され、読み上げ対象とするかどうか決定できる

通知が届くとき同様、読み上げは突然始まる。メールが届けば「メールからの通知。海上忍(送信元) 明日の会議(件名) 3時からでお願いします(本文)」、LINEのメッセージが届けば「ラインからの通知。忍(送信元) じゃあまたね(本文)」などと声で教えてくれる。そのとき音楽を再生中であれば音楽のボリュームを下げ、そこにミックスした形で通知の読み上げが行われるため、唐突な印象はない。しかも読み上げの音量はZeeny APP側で調整できるため、消え入るほど小さな声にすることもできる。

読み上げの速度や(システムボリュームに上掛けする)音量を調整できる

一度Zeeny APPが認識したアプリの通知は、以降すべて読み上げ対象となる。メール(標準装備のメールアプリ/Gmail)やLINE、Facebook MessengerといったSNSアプリ、ニュースアグリゲーションアプリなど、多種多様なアプリの通知を読み上げることが可能だが、Zeeny APPが動作しているときでなければならない。だから、システム起動直後やZeeny APPの強制終了後に"新顔アプリ"の通知が届いても、読み上げ対象にはならない。

iOSの場合、原則として一定時間使用されていないアプリは強制終了の対象になる。音楽再生や音声通話アプリ同様、通知の監視はその例外として扱われ、長時間バックグラウンドで動作(常駐)することが許されているが、それでもシステムにより終了されてしまうときはある。Zeeny APPも例外ではなく、通知が読み上げられないなあと思い調べてみるとアプリが(バックグラウンドでも)起動していないことがある。この点は留意しておかねばならない。

Zeeny APPのバックグラウンド起動を終了させると、音声UIも停止してしまった

Zeeny TWS(およびZeeny APPが対応するイヤフォン)が切断されているときは、通知は読み上げられないが、Zeeny APPへの転送は実行される。だから、iOSの通知センターのように過去に遡って通知を確認することは可能だが、操作時点以前に届いた通知が読み上げられることはない。久しぶりに起動したら延々と通知が読み上げられるのでは? という心配はいらなそうだ。

読み上げが煩わしく感じた通知は、アプリ全体で通知を止めるか、「除外ワード」に登録して同じタイトルの通知を止めるかを選択できる。除外ワードはメールの送信相手を特定する目的でも、LINEであれば(LINE Payなど)メッセージの到着を知らせる以外の通知を止めることにも利用できる。

Zeeny APPへ通知が転送されたアプリはすべて読み上げ対象になるが、かんたんな操作で除外ワードとして登録できる

1カ月ほど継続利用したうえでの印象でも、利便性の高い機能であることは間違いない。対応イヤフォンを装着していることが前提としてあるものの、音楽を聴いていようがゲームで遊んでいようがスマートフォンがBluetoothの通信圏内にありさえすれば、リアルタイムに通知の到着を知ることができるのはありがたい。このアプリを使いたいがためにZeeny TWSを使う、という選択肢は大いにアリだろう。

肝心な「音」の性能は?

では、Zeeny APP抜きのプレーンな完全ワイヤレスイヤフォンとしてのZeeny TWSの実力はどうだろうか。

完全ワイヤレスのスペックとしては、最新で強力なものだ。Bluetooth SoCにはクアルコム「QCC3026」を採用、左右ユニットの親機/子機の役割を適切なタイミングで入れ替える機能により、省電力と、音の途切れにくさを実現する。装着し続けることが前提の音声UIにとってバッテリーのもちが重要なことは言うまでもなく、一度の充電で音楽連続再生9時間というタフさは大きなメリットになる。

ケースの充電ピンにはマグネットでぴたりと嵌まる
バッテリー残量を知らせるインジケーター付き

装着感は、まずまずといったところ。ユニットの大きさは(完全ワイヤレスとしては)一般的な水準だが、付属のイヤーピースが筆者の耳には少々きつく感じられたため、サードパーティーのイヤーピースをいくつか試した。幸い、(イヤーピースを装着する)ステム外径も実測約5.8mmとよくある大きさなので、「ePro Horn-Shaped Tips」に落ち着いたが、IPX7の防水性能を備えるスポーツ利用も視野に入れた製品であることを考慮すると、付属のイヤーピースのバリエーションも増やしてほしいところだ。

音質は、完全ワイヤレスとしては納得できる水準に到達している。搭載されているドライバーのサイズは6mm径と(完全ワイヤレスとしては)まずまずの大きさ、レスポンスも小気味よく音がダマ状につながることはない。アコースティックギターのアルペジオは爪弾きの感触に倍音成分を添え、心地よく響く。Bluetoothの音声コーデックはSBC/AACのほかaptXにも対応するため、iPhone XとAndroid端末moto g6の両方で試聴したが、ロスレス音源の透明感と瞬発力の描写はaptX適用時が頭ひとつ抜けていたことを書き添えておく。

アプリの操作で好みの音質に調整できる「Spicetone」機能も

音声UIで高まる価値。アップデートの楽しみも

Zeeny TWSには「完全ワイヤレスイヤフォン」と「音声UI」という2つの大きな要素がある。前者はQCC3026を採用するなど、最初にクラウドファンディングで登場した2018年の時点では最新といっていいスペックだが、同じQCC3026を積む競合製品と比較すると、1万円台半ばという価格設定はやや高めに映る。やはり製品としてのバリューは、後者の音声UIにあると考えるべきだろう。

結局、その音声UIにプレミアムを認めるかどうかという話になるが、筆者としては肯定的に捉えている。届いた通知を音声で読み上げる機能と言ってしまえばそれまでだが、スマートフォンをバッグに入れ音楽を聴いているときでもメールの到着に気付くし、号外級のニュースを後で知るということもない。家族とのコミュニケーションをLINEに、仕事のちょっとした連絡をFacebook Messengerに依存している身としては、使用した1カ月間かなり助けられた。

アップデートの楽しみもある。一般的なBluetoothイヤフォンは、イヤフォンとしての機能は購入時点で打ち止めとなるが、Zeeny APPはZeenyシリーズ共通のアプリであり継続した開発が見込めるため、時間が経過すればより多機能・高機能になる。たとえば、2019年8月現在対応する音声アシスタントはiOS版がSiri、Android版がGoogleアシスタントに限定されているが、将来的にはAlexaにも対応予定という。

ただし、いくつか気になることもあった。iOSのリマインダーアプリで最寄り駅にジオフェンス(特定エリアへの出入りを検出すると通知)を設定したが、なぜかリマインダーアプリの通知がZeeny APPに認識されなかった。ローカル通知は音声UIの対象外かとNainに問い合わせたが、ローカル通知も対象だという。この機能が実現されれば、周囲に迷惑をかけることなく電車の乗り過ごしに対処できるだろう。なるべく早く問題解決することを期待したい。

もう一つ、Bluetooth LE(BLE)のペアリングという、他の完全ワイヤレスイヤフォンにはない難所もある。Zeeny TWSは音声がClassic Bluetooth(Ver.3.x以前)、通知内容がBluetooth LE(Ver.4.x以降)で転送される仕様で、システムから通知を取得する必要上BLEでもペアリングしなければならない(一般的にBLEデバイスはペアリング不要)。特にiOSはこのBLEのペアリングにクセがあり、周囲にBLEデバイスがある場所ではなかなかうまくいかない。BLEの特性にも関係する部分のため、必ずしもZeeny TWSの責任ではないが、ここでつまずくユーザーは少なくないはずだ。

ペアリングはBluetooth ClassicとBluetooth LEの2段階ある
iOSではBluetooth LEのペアリングが難しい

完全ワイヤレスというスマートフォンと好相性のフィーチャーに加え、通知を音声で行なう機能を備えたZeeny TWS。前述したクセを持つ部分もあるが、音声UIはウェアラブルに必須のはずで、そのメリットを先取りできるという他にない面白さがある。

海上 忍

IT/AVコラムニスト。UNIX系OSやスマートフォンに関する連載・著作多数。テクニカルな記事を手がける一方、エントリ層向けの柔らかいコラムも好み執筆する。オーディオ&ビジュアル方面では、OSおよびWeb開発方面の情報収集力を活かした製品プラットフォームの動向分析や、BluetoothやDLNAといったワイヤレス分野の取材が得意。2012年よりAV機器アワード「VGP」審査員。