レビュー
Amazon Music HDから流れる高音質ユーミンを、デノン「GC25W/25NC/GC30」で堪能! 沼にハマる
2019年11月6日 08:00
Amazonが9月に国内で高音質音楽配信サービス「Amazon Music HD」をスタートした。最大192kHz/24bitのハイレゾでストリーミング配信するという、センセーショナルなニュースは、瞬く間に日本中を駆け巡った。AV Watchでもニュースやレビューでお伝えしており、既に目にした方も多いと思われるが、軽くAmazon Music HDのサービスについておさらいしておきたい。
Amazon Music HDの音質は大きく3種類。最上位は「Ultra HD」で、最大3,730kbps、192kHz/24bitのハイレゾ品質をロスレス(可逆)圧縮で配信する。中位の「HD」は、いわゆるCD品質で最大850kbps 、44.1kHz/16bit。こちらもロスレスでの配信となる。従来と同じ最大320kbpsのロッシー(非可逆)圧縮による配信は、「SD」と名付けられた。曲数は、「Amazon Music Unlimited」で提供していた約6,500万曲の大半をCD品質のHDで提供。そのうち、数百万曲がUltra HDのハイレゾ品質で配信され、残りが従来のSD品質となる。
価格は、Amazonプライム会員が月額1,780円(税込)、非会員は月額1,980円(税込)。Amazon Music Unlimitedの個人プラン/ファミリープランに加入している場合は月額1,000円を追加で支払えば高音質なロスレスオーディオを利用できるようになる。
ほとんどの楽曲がCD品質以上。これで月額2,000円以下
筆者はAmazon Music Unlimited会員で、普段からBluetoothヘッドフォンや完全ワイヤレスイヤフォンで楽しんでいた。Amazon Music HDの発表を目にして気になっていたのだが、プラス1,000円に躊躇して、アップグレードするか悩んでいた。
そんな筆者の背中を押したのが、長年愛聴しているユーミンこと松任谷由実の楽曲たち。もともとSD品質で配信されていたが、Amazon Music HDでは彼女のキャリアを網羅する400曲以上が最新のデジタルマスタリングを経たHDもしくは、Ultra HD品質で追加されているのだ。どんな音なのか、いてもたってもいられなくなり、遅れ馳せながら聴いてみることにした。
設定ページからAmazon Music HD会員にアップグレードする。会員種別が切り替わると、曲名リストに「HD」や「ULTRA HD」のアイコンが付く。これなら、曲ごとの音質レベルが一目瞭然だ。一部、無印のSD品質楽曲があったが、ユーミンの楽曲に限らずほとんどのタイトルがCD品質の「HD」以上で楽しめることが分かった。
再生機器は、GoogleのAndroidスマートフォン「Pixel 3 XL」。10月下旬に後継機種のPixel 4シリーズが登場し、一世代前のモデルとなってしまったが、昨年秋の発売時に最高レベルの性能だっただけあり、今でも一線級でも通用する。BluetoothのコーデックはaptX HDをサポートし、対応したBluetoothヘッドフォンに最大48kHz/24bit相当で伝送できる。
まずは、SBCとAACに対応した手持ちのBluetoothヘッドフォンを組み合わせて、Ultra HD(96kHz/24bit)の「やさしさに包まれたなら」を再生する。Bluetooth経由かつロッシー圧縮での再生にもかかわらず、イントロを聴くだけで、音源の解像度や情報量がこれまでのSD音質と比べて段違いに増しているのが分かる。このクォリティの楽曲をAmazon Music HDは月額2,000円以下で聴き放題できるのか……。驚きで言葉を失うほどコスパフォーマンスが高い神サービスだ。
デノンの「GC」シリーズでAmazon Music HDを聴いてみる
Amazon Music HDでSD品質から飛躍したHD音質のサウンドを楽しんでいたが、聴いていくうちに物足りなく感じるようになっていった。試聴に使っていた手持ちのBluetoothヘッドフォンが楽曲のポテンシャルを引き出していないように思えたのだ。
どんなBluetoothヘッドフォンなら、HDやUltra HD品質、ひいてはユーミンの楽曲と相性が良いのだろうか。考えを巡らせて一つの答えに行き着いた。それが、デノンが今年発売し、人気を博しているモバイルヘッドフォン「GC」シリーズだ。
このヘッドフォンを選んだ理由は2つある。以前、試聴した時に音の印象が良かったのと、Amazon Music HDのPVを見ていたところ、ユーミンが付けているヘッドフォンがGCシリーズだったのだ。どのモデルかまでは分からなかったが、独特なフォルムのアルミダイキャスト製ハンガーは、十中八九デノンのヘッドフォンだ。この発見をきっかけに「Amazon Music HD×ユーミン×デノン」の組み合せを試してみたくなった。
GCシリーズはモバイル用途を強く意識したシリーズでコンパクトに畳んで持ち運べる。スマホで楽しめるAmazon Music HDとのマッチングも良い。シリーズは3モデルラインナップされており、ベーシックモデルはBluetooth接続でノイズキャンセリング(NC)機能のない「AH-GC25W」(実売23,750円前後)、有線接続ながらNC機能を備えた「AH-GC25NC」(同27,750円前後)。上位モデルはBluetooth接続でNC機能付きの「AH-GC30」(36,750円前後)となる。
GCシリーズは発表時に「大人のためのポータブルヘッドフォン」との触れ込みで、洗練されたデザインをアピールしていた。落ち着いたマット塗装のハウジングと、しなやかな曲線で構成されたアルミダイキャスト製ハンガーを組み合わせたスタイリッシュな外観は魅力に溢れる。しかし、本シリーズの真骨頂は音の良さ、さらに言うとピュアオーディオでスピーカーから聴いているかのような広がりあるサウンドにある。
デノンには開発中のオーディオ機器の音をチェックし、最終的な音の方向性を決めるサウンドマネージャーがいる。それが、AV Watchではお馴染みの山内慎一氏だ。山内氏は、「ビビッド」「スペーシャス」をキーワードに掲げ、「2500NE」シリーズや「1600NE」シリーズといった、ピュアオーディオコンポーネントのヒット作を数多く世に送り出している。「GC」シリーズの音作りも山内氏が手掛けており、これらピュアオーディオ同様の伸びやかなサウンドをヘッドフォンで実現している。
3モデルいずれも“山内サウンド”を楽しめるが、Amazon Music HDと好相性だと感じたのは「AH-GC25W」。搭載する40mm径のダイナミック型ドライバーは、計測で得られる性能ではなく、音楽再生における聴感上の性能を突き詰めたチューンニングを施す。これが、適度なダイレクト感から来る“ヘッドフォンらしさ”と、広い空間に音が広がる“スピーカーらしさ”のバランスに優れたサウンドを生み出している。
「GC25W」で音源のポテンシャルを引き出す
まずはAH-GC25WとPixel 3 XLの組合せで聴いた。なお、AH-GC25WはaptX HDに対応する。Ultra HD品質は最大192khz/24bit相当だが、今回の組合せでは最大48kHz/24bit相当での再生となる。試聴曲はもちろん、ユーミンの楽曲を中心に選んだ。
最初に聴いたのは、ユーミンの代表曲の一つで、映画「魔女の宅急便」のエンディングテーマ「やさしさに包まれたなら」。データは96kHz/24bitで、再生は48kHz/24bitだ(以下同じ)。aptX HDの効果か、最初に手持ちのBluetoothヘッドフォンで聴いた時よりも情報量が多く、サウンドが濃密だ。スペック的には96khz/24bit相当で伝送できるLDACに劣るが、実際に聴いてみると、表現力はaptX HDでも遜色ない。
冒頭のギターは音の立ち上がりがキレ味鋭くリズミカル。ベースは明瞭で音に芯があり、ズンズン迫ってくる。軽やかな曲調だが、曲にどっしりと安定感があるのは、このベースのおかげだろう。ユーミンの鼻にかかった独特の声質は、レコードで聴いているようにまろやかで潤いを帯びている。「これぞユーミン」と思わず膝をたたいてしまった。
ワールドカップで日本代表が活躍し、かつてない盛り上がり見せているラグビー。「ノーサイド」は、このラグビーの試合終了後の様子を歌ったバラードナンバーだ。イントロのローズ・ピアノは、どこか愁いを帯びた音が揺らぎながら漂い絡み合う。この曲は、良い音で聴くとボーカルが立って感じられ、歌詞がスッと頭に入ってくる。試聴時もスピーカーで聴いた時と同様に情景が頭に思い浮かび、思わず目頭が熱くなった。
その後も試聴を忘れて、普段レコードで聴いている「あの日にかえりたい」と「海を見ていた午後 」など荒井由実時代の曲から、大ヒット曲「春よ、来い」や「守ってあげたい」、配信限定の最新曲「深海の街」など、とにかく聴きまくってしまった。完全に『ユーミン沼』と『Amazon Music HD沼』に同時にハマった格好だ。デノンのAH-GC25Wが奏でる、Bluetoothヘッドフォンで聴いているとは思えない、鮮度の高い伸びのあるサウンドは魅力たっぷり。音原に収められている情報を余すことなく再現してくれた。
GC25NCとGC30の共通点はNC機能とフリーエッジ・ドライバー
せっかくなので、有線接続の兄弟機AH-GC25NCとBluetooth接続の上位機AH-GC30もチェックしてみた。両機はスペックにおいて大きく2つの共通点がある。
一つは先ほども紹介したとおり、NC機能を搭載していること。前モデル「AH-GC20」から機能を刷新し、ハウジングの内側と外側にそれぞれ集音マイクを備える「フィードバック&フィードフォワード」方式を採用した。耳元と周囲の両方から逆位相の信号を生成するため、高精度にノイズを打ち消せる仕組みだ。
NCモードは、効き具合が強い順に「飛行機」「シティ」「オフィス」の3つがあり、周囲の状況に応じて切り替えられる。今回は室内で試したが、「オフィス」でも効果は抜群。オフでは気になった周囲の物音が見事に消え、静寂が訪れた。また、有線のAH-GC25NCと無線のAH-GC30の両方でNCを試したが、効き具合に大きな差は感じられなかった。
もう一つの共通点が、40mm径「フリーエッジ・ドライバー」の採用だ。同社のフラッグシップヘッドフォン「AH-D9200」や上級機「AH-D7200」で採用された技術で、スピーカーのドライバーと同じようにエッジ部分に柔らかい素材を用いている。振動板をスムーズかつ正確に動かせるようにしたことで、通常のダイナミック型ドライバーに比べて歪みが少ないサウンドを実現する。コストの関係で素材こそ異なるが、最上位クラスの技術を普及価格帯のヘッドフォンに惜しげもなく投入しているのは驚きだ。
フリーエッジ・ドライバーのスピーカー的サウンドは官能的
簡単に両機のインプレッションを紹介しよう。まずは、有線接続のAH-GC25NCだ。MacBook AirにUSB DACモードにしたAstell&KernのDAP「A&ultima SP1000」を接続。SP1000のステレオミニ端子にAH-GC25NCを繋いだ。楽曲は、MacBookにインストールしたAmazon Musicソフトウェアから再生している。なお、SP1000は384kHz/24bitまでの再生に対応しており、Ultra HD品質も本来のクォリティで再生できる。
NCをオフにして「やさしさに包まれたなら」(音源、再生とも96kHz/24bit)をプレイ。さすが有線接続だけあり、音の鮮度がBluetooth接続よりも高く感じられた。フリーエッジ・ドライバーの実力を垣間見られたのは空間表現。ユーミンの歌声が広い空間に伸びていく様は、よりスピーカーライクだ。また、歌声も楽器の音も消え際が最後までクリアーで、一つ一つの音が粒立ちつつも伸びやかで力強い。高域もどこまでも伸びていく印象だ。
「海を見ていた午後」(同96kHz/24bit)は、イントロで流れるローズ・ピアノの揺らいだ音色が左右チャンネルを行き交うのだが、定位に優れているため、音の移動に曖昧さがない。さらに数曲を試聴したが、いずれもスピーカーに近い官能的なサウンドを味わえた。
続いてNCをオンにして聴いてみる。製品によってはNCによって高域、低域とも音域が狭くなり、閉塞感を感じることがあるが、本機では決してそんなことはない。やや空間が狭く感じる場面があるものの、オン/オフで聴き比べれば分かると言う程度。最初からオンの状態で聴いていれば、何ら不満に感じることはなかった。用途がデスクトップオーディオ中心で、音の鮮度や定位感を重視するなら、こちらがベストチョイスだろう。
最後はAH-GC30だ。再びプレーヤーをGoogleの「Pixel 3 XL」にして、Bluetooth接続で試聴した。再生はAH-GC25W同様に、最大48kHz/24bit相当となる。最初はNCをオフにして「やさしさに包まれたなら」と「海を見ていた午後」を再生する。Bluetooth接続のためか、やや音の鮮度がスポイルされているように感じられるが、素直でのびのびしたサウンドは、有線接続のAH-GC25NCのサウンドに限りなく近い。NCをオンにしても再生音の印象は大きく変わらない。フリーエッジ・ドライバーとNCを組み合わせた贅沢なサウンドを外に持ち出したいなら、本機が最適だろう。騒々しい通勤電車の中でも、強力なNCを活かしてAmazon Music HDの高音質なサウンドに没頭できる。
Amazon Music HDは、月額2,000円以下で、6,500万タイトルの大半をCD品質やハイレゾクォリティで聴きまくれる、掛け値なしにコスパフォーマンスの高いサービスだ。そして、そのサウンドの持ち味を、デノンのヘッドフォンGCシリーズが余すことなく引き出してくれた。Amazon Music HDは初回の90日間は無料で試聴できるキャンペーンを実施中だ。この機会にぜひともこの神サービスを体験して、筆者と同じように沼にハマっていただきたい。