レビュー

ペア2万円台から“驚きの音”、Q Acoustics「3000i」スピーカーを聴く

Q Acoustics 3020i

欧州から、ペア10万円以下で良いスピーカーが続々登場

今年の7月、スピーカー出力端子が付いた東芝レグザの65型有機ELテレビ「65X9400」の内蔵アンプで、JBLの「L82 Classic」を鳴らすという記事を掲載した。20W+20Wの内蔵デジタルアンプでL82 Classicを鳴らした音は、当方の予想をはるかに上回る本格的なものでおおいに感心させられたが、この記事を読んだ何人かの知人から「もう少し安いスピーカーで、いいものがあったら教えてほしい」という連絡をもらった(L82 Classicはペア25万円)。

そう言われてみれば、近年アンプを内蔵していないパッシヴ・タイプのスピーカーで、ペア10万円以下の好製品が増えている。

思いつくまま挙げてみると……。ダリ「OBERON1」(5万7,000円) 、KEF「Q150」(5万7,000円)、モニターオーディオ「Bronze50-6G」(6万円) 、エラック「DBR62」(8万円) 、ソナス・ファベール「Lumina1」(9万9,000円)などである。

ダリ「OBERON1」
KEF「Q150」

すべてコンパクトな2ウェイ機で、なぜか全モデル欧州のスピーカーメーカーの製品だ(ダリはデンマーク、KEFとモニターオーディオは英国、エラックはドイツ、ソナス・ファベールはイタリア)。

生産地は中国をはじめとするアジア地域だったりはするが、なぜヨーロッパのスピーカーメーカーが安価で音のよい製品を次々に登場させることができるのだろう。不思議といえば不思議な話。

やはり欧州は西洋音楽誕生の地であるがゆえに、エンジニアたちが小さな頃からナマの音楽に慣れ親しんでいて、音楽再生の勘どころを自然に感得しているからだろうか。また家具など長い伝統を持つ木工技術がそのバックボーンにあることも見逃せないだろう。

21世紀に入るあたりまで、日本メーカーのオーディオ機器、とくに普及価格帯の製品は世界を席巻していた。しかし、エレクトロニクスは世界中で受け入れられてもオーディオ機器の中でもっとも楽器に近いスピーカーだけはうまくいかなかったのは、やはり日本人の西洋音楽受容の歴史の浅さがその要因の一つだったかもしれないとも思う。

ペア2万円台と低価格ながら、美しいQアコースティクス「3000i」シリーズ

さて、ペア5万円台以上のスピーカーならば、本格的な音楽再生が楽しめる時代になったのだナよかったナ……と考えていた筆者に、もっとショッキングな驚きを与えてくれた製品に出会った。ペア2万円台から快音を奏でるQアコースティクスの「3000i」シリーズである。

QアコースティクスはKEFやモニターオーディオと同じ英国のスピーカーメーカーで、ケーブルやフォノカートリッジなどのブランドで構成される「アーマーグループ」というオーディオ複合企業の傘下にある。

3000iシリーズは3モデル構成で、価格の安い順に3010i(ペア2万4,000円)、3020i(同2万9,000円)、3030i(同3万9,700円)というラインナップだ。

3010iウォルナット
3020iブラック
3030iウォルナット

3モデルともに2ウェイ構成のバスレフ型で、高域を担当する22mmソフトドーム・ツイーターは共通。ウーファー口径が10cm(3010i) 、12.5cm(3020i) 、16.5cm(3030i) と徐々に大きくなっていき、それに合わせてキャビネット・サイズの容量も増えていくが、それにしてもテレビ台とか家具の上に載せて使えるコンパクト・サイズである。

3010iのツイーター
3030iのツイーター。3モデル共通だ
3010iのホワイト

仕上げはホワイト、ブラック、ウォルナットの3種類。3030iには、その3色にガンメタっぽいグラファイトが加わる。

興味深いのは、ドライバーユニットを守るサランネットがマグネット着脱式になっていることで、バッフル面にはいっさいネジ穴が切られていない。ラッカー塗装も質が高く、とても安価なスピーカーだが、仕上げがひじょうに美しいのである。

バッフル面にはネジ穴が無く、ラッカー塗装が美しい

また、3000iシリーズには専用スタンド(1万9,000円)が用意されているので、本格的なセッティングで音を詰めたいという方には、このスタンドに載せて聴くことをお勧めする。

3000iシリーズの専用スタンド

不要共振を抑えた、そのサウンドはいかに

さて、Qアコースティクスの音決めを行なっているチーフ・デザイナーは、ドイツ系のカール・ハインツ・フィンクという御仁。欧州のオーディオショーに出かけた際、彼にインタビューしたことがある。

彼がスピーカー設計時にもっとも留意していることは、キャビネットの不要共振を抑えること。無駄なハコ鳴きを排除し、ドライバーユニット本来の魅力が引き出せるように注意深くシステム設計することを自分に課しているという。

3000iシリーズの上位には、Conceptシリーズがあるが、これは同社がパテントを持つ二重構造キャビネット・デザインの"Gelcore(ジェルコア)”と呼ばれる技術が採用されている。これなどまさにフィンク氏ならではのスピーカーと言っていいだろう。

上位モデルの「Concept 20」。キャビネット間にゲル状の膜を挟み込んだ2重構造で、このゲルが再生時に発生するスピーカー本体の共振を吸収し、熱に変化させる「Gelcore」技術が使われている

3000iシリーズは非常に安価なスピーカーなので、キャビネットにふんだんなコストをかけることはできない。そこでレーザー振動解析技術を用いて、キャビネットのどこを補強すればいちばん良い結果が得られるかを調査、なるべくお金をかけないで不要共振の少ないキャビネットをデザインしたとのことだ。

3010iから3020i、3030iと順番に聴いてみた。3モデルに共通しているのはエネルギーバランスが真っ当で、どんな音楽を聴いても違和感を抱かせない「普通の音」を訴求することだ。

これは当たり前のようで、実はむずかしい。小型スピーカーには、バスレフのポート・チューニング等によって低音の量感を強調したり、高域にアクセントを持たせてワイドレンジ感を際立たせたりした製品が多い。パッと聴きで「おっ、すごい低音!」「わっ、すごくワイドレンジ!」と思わせて購入行動に結びつけようという考えからだろう。

しかし、そういうチューニングでまとめられたスピーカーは、電子楽器を使ったポップスは小気味よく鳴るけれど、アコースティックな音楽を聴くとどこかしら金属質な響きがしたり、ヴォーカルが不必要に膨らんだり……などということになりがちなのである。

3010iのホワイト

3000iシリーズ最大の魅力は、1mくらいの至近距離で音量を上げて聴いても、ほとんど不自然さを感じさせないその音調にあると言っていいだろう。

3モデルの音調は共通しているものの、ウーファー口径の違いはやはり、音の余裕度に直結する印象だ。いちばん小さい3010iは、音量を上げていくとピークリミッターがかかったような苦しげな表現となる。しかし聴取距離が1m前後で、音量を欲張らなくても済む狭小空間であれば、あまり問題にならないのではないかと思う。

3030iウォルナット

やはり音の余裕度に優れるのは3030i だ。むかしからヴォーカル再生にもっとも相応しいドライバー・サイズは6ハン、すなわち6インチ半(16.5cm)と言われてきたが、まさに本機で聴くヴォーカルや映画のダイアローグは艶と潤いがあり、聴き応え満点だ。

3020iウォルナット

コストパフォーマンスの高さで推したいのが3020i。ウーファー口径は3030iに比べて4cmほど小さいが、出力音圧レベル(感度)は3030iと同じ88dBと高く、鳴りっぷりではさほど大きな違いはない。低音の厚みと実体感で3030iの後塵を拝する印象だ。

いずれにしても、音が下から聞こえてきて映像と音像位置が合致せず、歪みっぽい音のするサウンドバーなんぞを買うくらいならペア3万円前後で入手できるこの3000iシリーズにぜひご注目いただきたいと思う。

では、どうやって鳴らすか。東芝レグザのX9400シリーズのように、スピーカー出力端子を備えた高級テレビが増えることを願いたいが、残念ながら現行製品では他に存在しない。

マランツのM-CR612

そこで3000iシリーズ駆動用アンプとしてお勧めしたいのが、税抜き価格7万円のマランツのM-CR612だ。8チャンネル・デジタルアンプ・モジュールを搭載し、LRチャンネルそれぞれパラレルBTL駆動するCDレシーバーである。光デジタル入力を備えているので、テレビの同出力とつなぐことで、テレビとHDMI接続されたソース機器の音をすべて本機で駆動できる。

CD再生機能の他にマランツ独自のネットワークオーディオ機能「HEOS」を搭載しており、今話題のハイレゾ対応定額制音楽ストリーミングサービス「Amazon Music HD」が楽しめ、もちろんBluetooth対応なのでスマホの音源も本機で自在に再生可能だ。

実際に3020iを本機で鳴らしてみたが、じつに伸び伸びと音楽を再生してくれるではないか。Blu-rayプレーヤーで再生した映画の声の再現もリアルこのうえない。一度この音を体験したら、二度とテレビ内蔵スピーカーの音を聴く気がしなくなるだろう。

M-CR612と3020iを組み合わせて約10万円。"STAY HOME" を強いられる現在にあって、これほど対投資満足度の高い組合せはないのではないかと思う。

3030iのホワイト
  • Q Acoustics 3010i black パッシブスピーカーペア
  • Q Acoustics 3020i ウォルナット パッシブスピーカーペア
  • Q Acoustics 3030i ブラック パッシブスピーカーペア

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。