レビュー
小型で驚異の低音、KEF「KC62」で超コスパスピーカーを強化する
2021年4月20日 08:00
クルマと同じでオーディオ機器も、製品写真やカタログを見て一目惚れしてしまうケースがある。最近だと個人的にはコレ、英国KEFのサブウーファー「KC62」(187,000円)だった。
サブウーファーは、メインのスピーカーが表現しきれない低音を補うもので、内蔵ローパスフィルターの最大値を200Hz前後に設定しているケースが多い(本機の場合は140Hz)。また、サブウーファーで伸びと厚みのある低音を得るためには、ドライバーのサイズに合わせてキャビネット・サイズを大きくしなければならないというのが、これまでの常識。
しかし、このサブウーファーはサッカーボール大。我が目を疑うほど小さいのだ。
実を言うと、自室のサブシステムのLFE(Low Frequency Effect/5.1chの0.1ch)用に、ぼくはコンパクトなサブウーファーを長年探していた。しかし適当なものがずっと見つからず、KC62の製品写真を見て「お、これなら……」とピンときたのだった。
そこで、輸入元にお願いして数日間この製品を拝借し、サブシステムに組み込んでLFE用としてテストしてみたところ、これが予想以上のすばらしさ。こりゃ導入するしかないか……という気持ちに。
サブシステムに導入してみる
自室のサブシステムは、レグザの65型有機EL「65X930」に、独ELACのスピーカー「330CE/310JET」を組み合わせたセンターレスの4.0chシステム。OPPOのUHD/BDプレーヤー「UDP-205」のマルチチャンネル・アナログ出力を、プリアンプのAURA 「VARIE」につなぎ、リンの6chパワーアンプ「MAJIK6100」でELACのペアを鳴らすという構成だ(330CEはパッシブ・バイアンプ駆動)。
このシステムにアクティブ型サブウーファーのKC62を加えて4.1ch構成に変更してみたわけだが、低音が重要な要素となる映画コンテンツ、たとえばUHD BD「1917~命をかけた伝令」を再生してみると、KC62を加えることによって、ドイツ軍の砲撃を受けながら伝令に走る兵士を包み込むオーケストラ・サウンドが俄然生気を帯び、哀しみを帯びたコントラバスとチェロの響きに厚みと力感が加わるのだ。
KC62をオフにすると、とたんに音がさびしくなり、「1917~命をかけた伝令」という映画の抜き差しならない緊迫感が減じてしまうことに気付かされる。
う~む参った。しかし、こんな小さなナリでなぜこれほどの重低音をひねり出すことができるのだろうか。
驚くべきアイディア「Uni-Coreテクノロジー」
KC62に装填されているドライバーは16.5cm口径が2基。この2つのユニットを背中合わせに配置し同相駆動することで、お互いの反力を相殺させ、キャビネットの振動、共振を減退させるように設計されている(フォースキャンセリング技術)。
しかし、2つのドライバーを収めようとすると、必然的にキャビネット容積は大きくなるはず。しかし、そうさせないためにKC62には驚くべきアイディアが盛り込まれているのだ。
それが径の異なる2基のボイスコイルを干渉させることなく一つのマグネット・システムに組み込んで、2基の振動板を駆動する「Uni-Core(ユニコア)デュアル・ドライバー」技術だ。この構造を採ることで、二つのマグネット・システムを採用した場合に比べて(同等の性能を得るのに)キャビネット・サイズを3分の1以下にできるという。
フォースキャンセリングを実現するには、2基のユニット動作の対称性が保たれることが前提になるが、KC62はボイスコイルの捲線の長さを調整するなどして、その対称性を維持しているそうだ。
また、2基のボイスコイルにはジャイロセンサーと収音マイクが搭載されていて、動作電流をリアルタイムでセンシング、内蔵されたDSPにフィードバックし、高調波歪みを大幅に低減する「スマート・ディストーション・コントロール」機能が内蔵されている。
「ミュージック・インテグリティ・エンジン」と命名されたこのDSPはさまざまな機能を持つが、とくに有用なのが「ルーム・プレイスメント・イコライゼーション」機能。波長の長い低音は、部屋の広さや寸法比によってその伝送特性が著しく変化し、サブウーファーは置き場所によってそのパフォーマンスが大きな影響を受ける。
たとえば部屋の隅や壁際にサブウーファーを置くと、壁の反射によって低音域が盛り上がり“ボンつく”ケースが多い。その場合は本機の「ルーム・プレイスメント・イコライゼーション」を<CORNER>や<WALL>モードに設定すると、低音域の盛り上がりを抑えるようにイコライザーが働く。実際に使ってみると、その効果は劇的だ。
この機能には他にROOM、CABINET、APARTMENTモードがある。ROOMは壁から十分に離した場所に置いたときのモードで、フラットな特性が得られる。CABINET はラックなどの家具の中に設置した場合を想定し、低音のこもりを排除するモード。APARTMENTは集合住宅で近隣への音漏れを抑えるために設けられたモードで、サブソニック領域の超低音をカットするようにイコライザーが設定されている。
KC62でもう一つ興味深いのが、振動板のエッジ構造だ。蛇腹のようなプリーツ・デザイン(P-Flexエッジ)が採用されていて、十分な振幅を確保しながらキャビネット内の空気圧を適切に制御する仕組み。歪みを抑えて過大入力にも強い構造だ。
KC62は先述の通り、とてもコンパクトなサブウーファーだが、手に持ってみるとズシリと重い。剛性を追求したアルミ鋳造で、質量は14kg。ゆるくアールがつけられたデザインが好ましく、カラリングはミネラルホワイトとカーボンブラックの2種類。この小ささなので、部屋の目立たないところに隠して置けるが、その仕上げもたいへん美しく、リビングルーム設置を躊躇させないことも重要なポイントだろう。
Q Acousticsの超ハイコスパスピーカーと組み合わせる
5.1chのLFE用としてKC62が優れたパフォーマンスを発揮することはよくわかった。では、2chステレオの低音強化に使ってみた場合はどうだろう。それも合わせて検証してみたいと考え、今度はKC62を2基お借りし、2.2ch再生の実験をやってみた。
もちろんサブシステムで愛用しているELAC「330CE」と組み合わせてもいいのだが、もっと安価なスピーカーの音質強化用として使った場合のパフォーマンスが知りたいと考え、英Q Acousticsの「3020i」を拝借して組合せテストしてみた。
「3000i」シリーズについては、以前、値段を超えたハイパフォーマンスに驚愕したことをお伝えした(記事参照)。ここではその中から3020iを使うことにしよう。12.5cmウーファー搭載のバスレフ型2ウェイ機で、お値段ペア34,700円という超お買い得スピーカーである。
KC62をLFE用として使う場合は、サラウンドプロセッサーのLFE用ライン出力につなげばよいが、プリメインアンプを用いて2チャンネル低域強化用として使用する場合は、バイワイアリング接続時と同じ要領で、プリメインアンプのスピーカー出力からメインスピーカーとKC62両方に接続すればよい。
ちなみに、本機にはスピーカー端子接続用アダプターが付属するが、これがとても小さくてショボく、太いケーブルやYラグやバナナで端末処理したものは繋げられないので注意が必要だ。
または、お使いのアンプにプリ出力が2系統ある、または録音用REC OUTがあれば、それをKC62のライン入力につないでもいい。KC62の背面にはMANUALとLFE の切替えスイッチがあるが、2チャンネル低域強化用として使うときはMANUALに。こうすることで、KC62内蔵ローパスフィルターが動作することになる。
専用スタンドに載せた3020iを65型有機ELテレビ65X930の両脇に置いてまずその音を聴いてみる。
実に真っ当なエネルギーバランスを訴求するスピーカーで、不自然に低音がボンつくこともなく、高音もヒステリックにならない。ヴォーカル帯域が充実した聴き応えのあるスピーカーなのである。何度も言うが、これでペア34,700円というのは驚き以外のなにものでもない。値段相応に、キャビネットの共振によって生じる付帯音を感じないでもないが、それもまたうまい具合に音楽の基音帯域を補強しているようにも聞こえるのである。
一瞬このバランスのよいスピーカーにサブウーファーを加える意味があるのかと逡巡したが、まずKC62を1基L/Rスピーカーの真ん中前方に置いてその効能を確認してみた。ルーム・プレイスメント・イコライゼーションはROOMに設定した。
ローパスフィルターの設定をいろいろ試してみたが、3020iとの組合せでは80Hz近辺がいちばん好ましかった。慎重にレベル設定していくうちに、クラシックの管弦楽やビッグ・バンド・ジャズなどのスケール感が増し、音楽に生気が宿ってくる効果が実感できる。ローパスフィルターの設定は、ヴォーカルが不自然にふくらまず十分な低音の厚みと力感が得られる周波数を見つけるとよい。
1基でも十分なアドオン効果が実感できたが、今度はL/RそれぞれにKC62を充てる2.2ch再生にチャレンジしてみよう。
1基加えただけでも音楽のスケール感が増すと述べたが、2基をステレオで使った場合の効果は劇的だ。1基使用時に比べてサウンドステージがぐんと広がり、幅と高さと奥行きを伴った立体的な音場感が得られるようになるのだ。
それから「KC62、たいしたヤツ」と思わせるのは、いくら音量を上げていっても、まったく歪まないこと、それとメインスピーカーの3020iに対してスピードがピタリと揃うことだった。
ボリュームを上げても歪むことなくクリーンで澄明な低音を聴かせるというのは、先述した「スマート・ディストーション・コントロール」機能や「P-Flexエッジ」が的確に働いているからだろうし、ハイスピードなピストニック・モーションを実現しているのは、16.5cmドライバー2基を駆動するUni-Coreデュアル・ドライバー技術が効いているのだろう。
また、これはむかしから言われていることだが、サブウーファーで低域を強化すると、聴感上、中域から高域のクリアーさが増す。下が伸びたぶん上も伸びたような印象になるのである。
それから、KC62の使いこなしの最大のポイントは、どこに置くか、である。ぼくの部屋でいちばん好ましかったのは、3020iのスタンドの真後ろだった。スタンド前、外横配置に比べてステレオイメージがより良好で、メインスピーカーとの一体感がもっともよい印象だった。スタンド前は後方配置に比べてサブウーファーの存在感が強くなりすぎるし、外横配置はメインスピーカーとの一体感が削がれる感じになった。
音量を上げていってもまったく歪まず、小さなボディからハイスピードで澄明な重低音をひねり出すKC62。現代のオーディオ市場を活性化させるには、こういう意外性のある驚きに満ちた製品が必要だとつくづく思わされたKC62との邂逅だった。