レビュー

東芝レグザ「65X9400」内蔵アンプで、JBL本格スピーカーを鳴らしたら驚いた

東芝レグザ「65X9400」とJBL「L82 Classic」を組み合わせた

6月に発売された東芝映像ソリューションのレグザ・65型有機ELテレビ「65X9400」を約一週間お借りして、自室でじっくりとその性能をチェックした。画質についてはもちろんだが、スピーカーターミナルを備えているのも特徴なので、JBLの本格的なスピーカーを接続し、テレビの音を大幅にレベルアップさせる試みも行なっている。

X9400とX8400シリーズの違い

これまでぼくは、2016年に発売された東芝製有機ELテレビの第1号機「65X910」を使ってきた。2016~2017年に発売された各社の有機ELテレビのデビュー・モデルを比較視聴した結果、X910シリーズが画質ナンバーワンであることを確信して導入したのである。

特に他社製品を大きく凌ぐ放送画質のハイクォリティぶり、「おまかせ」モードと「映画プロ」モードの完成度の高さ、そして映像マニアにとって痒いところに手が届く映像調整機能の懐の深さ、この3つがぼくにとってX910の最大の魅力だった。

それから3世代を経て登場したのが本シリーズということになるわけだが、今夏のレグザの有機ELは、(昨年に引き続き)X9400とX8400の2シリーズ展開となった。

「65X9400」

両シリーズの最大の違いは、タイムシフトマシンの有り無しだ。ちなみに、“地デジ全録”機能を有するX9400の地デジチューナー数は9基で、X8400は3基。2KのBS/110度CSチューナー3基と、4Kチューナー2基は、X9400/X8400とも共通だ。

X9400シリーズは、すでに店頭に並んでいる55型と65型のほか、この秋発売予定の「大きすぎない」48型、「超大画面」の77型がラインナップされている。X8400は55型と48型の2サイズ展開だ。

「65X9400」

また、映像信号処理回路については、2チップのX8400に対して、X9400は3チップ構成で、「ダブルレグザエンジン Cloud PRO」と命名された。具体的には、放送プログラムを対象に、きめ細かなフレーム超解像処理やノイズ除去処理を行なう回路が加えられている。

それから、今夏のX9400とX8400最大の注目ポイントは、クラウド連携で放送コンテンツに最適な画質処理を加える「クラウドAI高画質テクノロジー」が実現されたことだろう。

東芝は以前から照度環境や入力されるソースの画質傾向に合わせて画質を自動的に最適化する「おまかせオートピクチャー」機能を搭載してその画質を磨いてきたが、「クラウドAI高画質テクノロジー」は、文字通りクラウド上に用意した映像調整用データを本体メモリーに格納、各番組に応じて画質を最適化していくという手法に進化したのである。

「65X9400」の映像設定メニュー

つまり東芝の画質エンジニア自らが、各番組の画質傾向を調査して導き出した最適な画質調整データを、映像モード「おまかせAI」選択時に反映させるというわけだ。

担当エンジニアによると、日々データをアップロードしているそうで、現在、地デジ、BS、BS4Kの民放番組(2K/4K変換)のデータ処理が終わったところだという(最大2,000番組分の調整データ管理が可能)。特に画質に難があり、クセの強い地デジ番組でその効果が大きいとのことだ。

それから、X8400にはないX9400ならではのフィーチャーで、個人的に大注目しているのが、外部スピーカー出力端子の採用だ。

「65X9400」の背面。スピーカーターミナルがある

X9400にはTI製2ch用デジタルアンプ・モジュールを6つ内蔵しており、そのうちの一つを外部ステレオ・スピーカー用に充てているわけだ(他5つは内蔵スピーカー用)。

出力は20W+20W(6Ω)。外部スピーカー駆動時は他の5つのアンプをスタンバイ状態にさせ、142Wの電源すべてを外部スピーカー用に使う仕様だ。

この内蔵アンプで、英国モニターオーディオの高級スピーカー「PL300II」(ペア160万円)を鳴らして好感触を得たことがあり、今回の自宅視聴では、よりテレビとマッチする価格やサイズを考慮し、現在大ヒット中のJBL「L82 Classic」をお借りし、65X9400の内蔵アンプで鳴らすことにしたが、その音の見事さに大いに驚かされることになった(詳細は後述)。

まずは画質をチェック

愛用している湘南・葉山のホームシアターショップ「カデンツァ」オリジナルのTVボードの上に載せて、65X9400の画質をさっそくチェックしてみよう。

3世代前の65X910に比べて、まず驚かされたのは、その明るさと発色の鮮やかさだった。

X9400の55型と65型は、有機ELセル(発光層)を部品として調達し、東芝で組み立ててオリジナル・パネルに仕上げている。放熱用のインナープレートは独自開発品で、前モデルのX930に比べて中間輝度に余裕が生れているとのことだが、白ピークもいっそう伸びている印象を受ける。

自社開発専用設計の高放熱プレート(65型と55型のみ)

掃き出しの窓から外光が入る昼間、地デジのバラエティ番組などを「標準」モードで観て驚いたのは、明るさと色のヴィヴィッドさ。これなら高級液晶テレビに「パワー感」で負けることはないだろう。

しかし、65X910に目が慣れている筆者には、「標準」モードの画質はギラつき気味でちょっとドギツイ印象を受ける。そこで、映像モードを「おまかせAI」に変更すると、すっと画が落ち着いた。

十分なコントラスト感を維持しながら、記憶色に振られ過ぎていたスタジオの調度品などがナチュラルな色合いとなり、女性アナウンサーのスキントーンも上品でたおやかな質感となるのである。

緊急事態宣言下、自宅に籠もって様々な放送をチェックして番組ごとの画質傾向を精査、映像調整用データを仕込んでいったというエンジニア氏の努力と研鑽が、みごとに「おまかせAI」モードに活かされていると思った。

クラウド連携で映像調整用データを仕込んでいくのは業界初の試みだと思うが、画質エンジニアの経験と知見がこれほど活かされる手法はないだろう。凄腕ベテラン・エンジニアを擁する東芝レグザならではの発想をおおいに讃えたいと思う。ちなみに、番組情報が採取できないHDMI入力時は、このクラウド連携は機能しないことに注意しよう。

部屋の照度を落とし、「映画プロ」モードで観る映画UHDブルーレイとブルーレイの画質も、文句なしにすばらしかった。

フランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録 ファイナル・カット」の漆黒の闇の表現や暗部階調の描写は、ドルビーシネマ体験を大きく上回るすばらしさで、これはいくら高級機でも液晶テレビでは再現できない、自発光タイプならではの峻烈なコントラスト表現だと思った。

外出自粛要請が出てからというもの、各メーカーの新製品の画質をチェックする機会が奪われてしまい、パナソニック、ソニー、LGなどの有機ELテレビの新製品の真の実力をつかみきれていないが、こと画質の完成度に関して言えば、東芝X9400がそのトップをうかがう位置にいることは間違いないだろう。そんな確信を得た1週間だった。

テレビのアンプで、オーディオスピーカーを鳴らしてみる

この十数年、大型テレビの高画質化は著しいが、こと音質について言えば、はかばかしい成果を得ることができなかった。ディスプレイの薄型化が進むにつれ、スピーカーの収納場所が限定されていくので、仕方ない側面があったことは事実だろう。

「それならば、スピーカー出力端子を付けて、外部ステレオスピーカーを鳴らせるようにすればいいのでは? ちょっといいテレビだと、それなりにハイパワーなアンプを積んでいるわけだし、スピーカー出力端子を付けるのってたいしたコストじゃないでしょ、パイオニアのKUROや遠いむかしブラウン管時代のソニーPROFEEL には付いていたし……」と、この数年テレビメーカー各社の企画担当者に会うたびに提案していたのだが、今回東芝がそれに応えてくれて、個人的にはとてもうれしいのだ。

まあそうは言っても、実際に鳴らしてみて納得できる音を聴かせてくれるかどうかがいちばん重要なのだが……。

というわけで、先述したようにJBLの「L82 Classic」(ペア25万円)を本機のスピーカー出力端子につないで、その音を聴いてみることにした。

JBLの「L82 Classic」
レトロなデザインも魅力だ

L82 Classic は、20cm・パルプコーンウーファーと、25mmのチタンドーム・ツイーターを組み合わせた2ウェイ機。3色(ダークブルー/ブラック/オレンジ)のレトロ感覚が横溢した井桁状フロントグリルが用意されていて、ここではぼくの部屋のインテリアに映えそうなオレンジ・タイプを拝借した。

フロントグリルを外したところ

20cmと比較的大口径なウーファーを搭載しているが、きわめて軽量なパルプコーンなので、fゼロ(最低共振周波数)がさほど低くないこと、また感度(能率)が88dB/2.83V/mと比較的高いこと、そして公称インピーダンスが8Ωであることが、ここで起用したポイントだ。

3点すべてが「鳴らしやすい」スピーカーの要件なのである(インピーダンスが低いスピーカーほど電力供給能力が問われるので、アンプには厳しい)。

25mmのチタンドーム・ツイーター
20cm・パルプコーンウーファー

65X9400の背面にあるスピーカー出力端子はワンタッチ式。ぼくがふだん使っているYラグやバナナプラグ端子の高級ケーブルは使えないので、安価で細い並行2芯ケーブルを用いた。

テレビ裏のスピーカーターミナルに、JBLのスピーカーを接続!

L82 Classicを適切な仰角が付けられるスチール製専用スタンドに載せ、TVラックの両サイドに置いて、その音を聴いてみた。

4K放送をエアチェックした「東京ジャズ2019」からMISHA(ミーシャ)のステージ、「ザ・カバーズ・フェス2019」からスターダスト・レビューのステージ、映画「ダークナイト」の冒頭部など(すべてNHK BS4K) をパナソニックの4Kレコーダー「DMR-SUZ2060」で再生してみたが、低音の充実したピラミッド・バランスの本格サウンドが飛び出してきて、心底驚いた。テレビ内蔵アンプでドライブした音とは到底信じられない見事な音なのである。

黒田卓也バンドを従えた、MISIAの伸びのある力強い歌声には身震いするほどの感動を覚えたし、「木蓮の涙」を歌うスターダスト・レビューの根本要の情感豊かなヴォーカルも、落涙しそうなほどの訴求力。

あまりのすばらしさにオーディオマニアの友人の一人に連絡し、この音を聴かせてみたが、やはりハゲシク驚いている様子。「ホントにテレビ内蔵アンプの音か? そこにあるリンのパワーアンプをつないでるんだろ?」となかなか信じてくれなかったという事実を、特筆大書でお伝えしておきたい。

SUZ2060でMPEG4 AAC音声をデコードし、5.1chを2chにダウンミックスして65X9400にHDMI出力した「ダークナイト」のエフェクティブなLFE(Low Frequency Effet)の効果にもキモをつぶしそうになったし、ダイアローグの質感もきわめてよい。

ステレオのスイートスポット(L/Rスピーカーを結んだ線を底辺とする正三角形の頂点)に座って聴くと、画面上に台詞がシャープに結像し、画面に映し出されている人物がほんとうにしゃべっている、歌っているという確かな手応えが得られる。これは、アンダースピーカー・タイプのテレビ内蔵スピーカーやサウンドバーのたぐいでは絶対に得られないステレオ・スピーカーならではのメリットでもある。

試しに、画面下に前向きに配置されたテレビ内蔵スピーカーに切り替えてその音を聴いてみたが、十分な音圧が取れず、音が痩せて声が聞き取りにくい。その音質差にガクゼンとした。

テレビスピーカーと外部スピーカーはメニューから切り替えられる

音質担当エンジニアが厳しい条件の中で一所懸命チューニングしたであろうその努力を否定するものではないが、外部スピーカーとの違いを体験してしまうと、もう二度と内蔵スピーカーの音を聴こうなんて思わなくなるだろう。

では、この外部スピーカーでいい音を得るための調整法について触れておく。

65X9400の「音声メニュー」には「ダイナミック/標準/クリア音声/映画」とあるが、L82 Classicのような本格スピーカーを使用する場合は、“標準”がベスト。

L82 Classicのような本格スピーカーを使用する場合は“標準”がベスト

音声メニューの中には「イコライザー」があり、150Hz/500Hz/1.5kHz/4kHz/10kHzで±20の微調整ができるが、L82 Classicではまったく調整する必要がなかった。安価な小型スピーカーと組み合わせたときには、このイコライザーの150Hz 、500Hzあたりを動かして様子をうかがうといいだろう。

イコライザーも搭載している

「サラウンド」「オートボリューム」はオフ、「サウンドリマスター」は“オート”で。オート設定にしておけば、音声信号に合わせてオン/オフしてくれるので、音質的に問題がある信号のときだけリマスターが働く仕様となる。

「音声メニュー」でとくに有用だったのが、「外部スピーカー音質補正」。「小型スピーカー」、「中型スピーカー」、「大型スピーカー」の3つが用意されるが、小型はウーファー口径が10cmより小さい場合、中型は同10~20cm、大型は20cm以上と説明されている。

原理的に位相回転の生じないFIRフィルターを用いて、スピーカーの低域再生能力に応じた周波数特性を与える補正機能というわけだ。3ポジションを切り替えた結果、L82 Classicは「中型スピーカー」設定がベストだった。

試しにぼくがふだんセカンド・システムで使っている、公称インピーダンス4Ωのエラック「330CE」という2ウェイ・スピーカーも鳴らしてみたが、音量を上げていってもまったく問題なし。L82 Classicに比べると、だいぶ細身の音にはなるが、このスピーカーらしい緻密なサウンドを聴かせた。

エラック「330CE」

この内蔵アンプとL82 Classicの組合せで音楽CDも再生してみたが、これまたリッパなハイファイ・サウンド。テレビを見ないときでも、インターネットラジオを聴いたり音楽ストリーミングサービスを利用したり、この音質ならば内蔵アンプを様々な局面で活かすことができるだろう。

ここではL82 Classicというペア25万円の高級スピーカーでテストしたが、最近は安価なスピーカーでもすばらしい音を聴かせてくれる製品が増えている。

ぼくのお勧めはQアコースティクスの「3010i」(ペア2万4,000円)、「3020i」(ペア2万9,000円、KEFの「Q350」(ペア6万8,000円)、ダリの「OBERON3」(ペア8万円)など……(すべて欧州ブランドですね。日本のスピーカーメーカーもこの価格帯でぜひ勝負を!)。

Qアコースティクスの「3010i」
KEFの「Q350」
ダリの「OBERON3」

また、もう使わなくなったスピーカーが部屋の片隅に眠っているのであれば、X9400オーナーになったら、まずそれを活用してもいいかもしれない。

いずれにしても、鳴らしてみればX9400の内蔵アンプの実力の高さに誰もが驚かれることは間違いない。

3密を避けなければならない現状なので実現が難しそうだけど、X9400内蔵アンプでここで採り上げたスピーカーを鳴らすイベントとかやって、みんなをビックリさせたいなあ……と思う今日この頃です。

山本 浩司

1958年生れ。月刊HiVi、季刊ホームシアター(ともにステレオサウンド刊)編集長を務めた後、2006年からフリーランスに。70年代ロックとブラックミュージックが大好物。最近ハマっているのは歌舞伎観劇。