レビュー

ついにBA搭載、“TWS最高音質”目指したNoble Audio「FALCON PRO」を聴く

FALCON PRO

ハイエンド有線イヤフォンでお馴染みのNoble Audioが、昨年発売した完全ワイヤレス「FALCON」。その高い音質で一躍人気モデルとなったのは記憶に新しいが、その後継機として今年の10月末に発売されたのが「FALCON2」。弊誌でもさっそくレビューを行ない、初代機からさらに進化した音質を体験した……のだが、話はここで終わりではなかった。突然「FALCON PRO」なる最上位モデルが登場したのだ。

発売されたばかりの「FALCON2」(実売13,900円前後)をベースとしながら、さらなる高音質を追求しており、なんでも「TWS史上最高音質」を掲げて開発されたそうだ。FALCON2の高音質ぶりにも驚かされたが、本当にそれを超えているのか? これは聴いてみないわけにはいかないだろう。

発売日は12月18日。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は26,900円前後。FALCON2と比べると2倍……まではいかないが、1万3,000円ほど高価になっており、価格差はある。ただ、FALCON2自体、音質を考えるとコストパフォーマンスの高いモデルなので、「そんなに音が良いならFALCON PROにしようかな?」と気になっている人も多いだろう。

左からFALCON2、FALCON PRO

結論から言うと、FALCON PROの音質は今までのTWSの世界から頭一つ抜け出た感のある、驚きのレベルに到達している。筆者はけっこう奮発してカスタムIEMを何個も作り、「音質ならやっぱり有線イヤフォンじゃないと」と思っているポータブルオーディオファンだが、ぶっちゃけFALCON PROを聴いていると「なんかもう、これでいいんじゃないか」という気がちょっとしてくる、ある意味危険な完全ワイヤレスだ。

FALCON2とFALCON PROは何が違うのか

FALCON PRO

音の前に、仕様をチェックしよう。先程「FALCON2をベースにしている」と記載したが、それが最も良くわかるのが、心臓部のSoCに、FALCON2と同じ、Qualcommの「QCC3040」を採用している事だ。

このQCC3040は、これまでのチップと比べて高性能化しつつ、低消費電力も実現。さらに、左右のイヤフォンへそれぞれデータを伝送する「TrueWireless Mirroring」にも対応し、接続安定性を高めている。Androidデバイスだけでなく iOSデバイスでも利用できるので、多くの人に恩恵があるのも特徴だ。

また、左右で1つのBluetoothアドレスを共有するため、ペアリングをする時には接続元デバイスには1つの接続先として表示される。ペアリングもわかりやすいわけだ。左右イヤフォンのロールスワッピング機能も備えていて、バッテリーの片減りも防止してくれる。

「FALCON PROが上位機なら、より上位グレードのチップを搭載してもいいのでは?」と思うところだが、Noble Audioによれば「Noble Audioにとっての上位・下位の関係は、音質的に優れているかということが最も重要なファクター」とのこと。前述の通りQCC3040でも性能的には十分で、上位グレードのチップになればコスト的にもアップしてしまうわけで、それよりも“音質に全力投球”な姿勢が、ある意味Noble Audioらしい点でもある。

接続安定性はどのくらいのものか、実際に混雑する駅のホームでテストしてみた。スマホはお尻のポケットに入れたので、胸の前や上着の内ポケットより伝送が難しくなる条件だが、ホームを行ったり来たりしても、途切れる事はなかった。もちろん、もっと過酷な状況では途切れることもあるかもしれないが、普通に使う分では十分な性能を持っていると言えそうだ。

FALCON PROでBAドライバーを搭載した“意味”

そして“音質に全力投球”を体現しているのが、ユニット構成だ。FALCON2は、初代FALCONと同じダイナミック型ドライバー1基のみで、SoCの進化やチューニングの改良で高い音質を実現していたが、FALCON PROはここがまったく異なる。

FALCON PROの内部構造

まず、高域用に米Knowles製の最新世代BA(バランスドアーマチュア)ドライバー「SRDD」を搭載した。このBAの「SRDD」は、2基のBAで構成されており、2つのBAを使用することで、1つのBA時よりも歪みの少ない高出力が得られる利点があるという。このSRDD BAドライバーをノズル先端に配置。ただ取り付けるだけでなく、高い取付精度で効果的な配置をすることで、音導管での信号ロスや反射効果も最小限にとどめられ、きめ細かなチューニングが可能になったという。

中低域用はダイナミック型で、6mm径のチタンコーティング振動版「Tri-layered Titanium-coated Driver (T.L.T. Driver)」を採用している。この「T.L.T. Driver」は、FALCON PROで初めて採用されたもので、ポリウレタンとポリエーテルエーテルケトンという特性の異なる樹脂を組み合わせた複合素材振動版。これにチタンコーティングを施すことで、高剛性・軽量性・高い内部損失をハイレベルに両立させたとする。

つまりFALCON PROは2ウェイのハイブリッド構成というわけで、アナログ方式のクロスオーバーネットワークも内蔵している。再生周波数帯域は20Hz~24kHzというワイドレンジで、ハイレゾ帯域もカバーしている。

左からFALCON2、FALCON PRO

「おお、FALCON PROでついにKnowles製のBAを搭載しているのか」と思った人は、おそらくポータブルオーディオファン歴が長い人だろう。というのも、Noble Audioはもともと、有線イヤフォン「KAISER10」 の頃からKnowles製のBAを採用。Knowlesに特注して作ってもらったBAを搭載したモデルも展開するなど、Knowlesとは付き合いが古く、そして音質を追求する上で欠かせないドライバーとしてこだわってKnowles製を使ってきたわけだ。

そんなNoble Audioが、同社の完全ワイヤレスで初めてBAを採用、しかもKnowles製の最新BAを選んだ……この時点で「Noble Audioがガチで音質を追求したモデルだ」というのがわかるわけだ。

もう1つ、BAを搭載したのには理由がある。それは“機が熟した”ということだ。有線のBAイヤフォンを持っている人は体感した事があるかもしれないが、高能率なBA型イヤフォンの場合、音楽を再生して、音が出るまでの無音部分などで「サーッ」というホワイトノイズが目立つという問題だ。

しかし、前述のようにQCC3040は性能が進化、SN比も良くなっているため、従来のチップよりもノイズが目立ちにくくなっている。もちろん、まったくホワイトノイズが無くなるわけではないが、「BAを採用できるくらい、完全ワイヤレス開発のプラットフォームが進化してきた」というわけだ。さらにまだこれから進化の余地を残したSoCなので、ファームウェアでさらなる改善も期待できるというわけだ。

“Wizard”のチューニング

“Wizard”ことジョン・モールトン氏

ここまではSoCやドライバーなど、ハードの進化を紹介したが、音質面ではここからがさらに重要だ。それらを使って、どのように高音質なイヤフォンに仕上げるか、それはNoble Audioの設立者であり、“Wizard”の異名を持つジョン・モールトン氏によるチューニングにかかっている。

ご存知の方も多いと思うのでかいつまむが、聴覚学の博士号を持つジョン・モールトン博士は、難聴の診断・治療や、予防、リハビリ、補聴器の調整などを行なう専門家として、さらに蝸牛インプラントの外科助手としても活躍。タイの補聴器会社に勤めていた2008年頃に、会社のラボで作成した幾つかのカスタム・イヤフォンの写真を、アメリカのヘッドフォン関連コミュニティであるHead-fiに投稿。その魔法のような技術が話題となり“Wizard”と呼ばれるようになった。そんなWizardが設立したのが、Noble Audioというわけだ。

チューニングと一言に言っても、方法は様々。FALCON PROの場合は、大きく3つのポイントがある。1つは、SRDDとT.L.T. Driverとの帯域分割を担当する専用クロスオーバーネットワークの調整。2つ目は、アコースティック・ダンパーにより空気の流れを調整する物理的な音響特性の調整。そして3つ目が、DSPによる音響特性の調整。この3つをかけ合わせ、音を仕上げていくわけだ。

「DSPによる調整」というと、オーディオ機器でよくある、低域を持ち上げたり、高域を下げたりする“グラフィックイコライザー”を連想するが、開発で使われるのは詳細な設定が可能なパラメトリックイコライザーだ。グラフィックイコライザーは周波数帯域をいくつかに分割し、その帯域ごとにレベルを増減させるものだが、パラメトリックイコライザーではその周波数や、調整時の幅を固定せず、より自由に音を調整できるのが特徴だ。

ただ、料理と同じで、もともとの素材や下処理が悪ければ、あとで調味料で調整しようとしても美味しくはならない。元となるドライバーの音や、内部のアコースティックなチューニング、例えば音の出口のノズルに配置するフィルターにどんな素材を使うか、穴の大きさをどうするかなど、蓄積したノウハウを駆使した改良により高音質化させ、最後の仕上げにDSPで補正する。ある意味ピュアオーディオらしい作り方であり、Noble Audioらしいこだわりと言えるだろう。

ちなみに、ノズルのフィルターを見てみると、FALCON2の方がメッシュの密度が濃く、FALCON PROの方が隙間が多い。FALCON PROの方が、ユニットからの音をダイレクトに届けようという思想なのだろう。一方で、メッシュの隙間が大きく、しかも内部にはBAドライバーを備えているので、防水対応ではFALCON PROがIPX5(あらゆる方向からの噴流水によっても有害な影響がない)であるのに対し、FALCON2はIPX7(水中に沈めても不具合が出ない)と、FALCON2の方が強力になっている。ここにも、「とにかく音質最優先」なFALCON PROの姿勢が現れている。

左がFALCON2、右がFALCON PRO。FALCON PROの方がメッシュの目が荒い

FALCON PROの対応Bluetoothのコーデックは、SBC、AACに加え、aptX Adaptiveにも対応する。これは高音質と低遅延を両立させる新しいコーデックで、通信環境に合わせて、279kbpsから420kbpsの間でビットレートが自動的に調整され、接続安定性を確保。新たな圧縮アルゴリズムによる可変ビットレート方式を採用することで、最高品質時はaptX HD同等の24bit/48kHzの伝送もできるものだ。

オーディオデータのヘッダー内からフォーマットの種類やダイナミックレンジなどの情報を読み取ることで、コーデック側でどのようなパフォーマンスを行なうかも判断。ゲーム利用時にはレイテンシーの確保を優先し、音楽プレーヤー利用時は音質を優先するといった、インテリジェントな処理もできる。タイミングが重要な“音ゲー”やFPSなどのゲームアプリを楽しんでいる人、Netflixなどの動画配信でリップシンクのズレを感じる人などは試してみるといいだろう。ただ、Xperia 1 IIなど、aptX Adaptive対応のスマホでないと使えないので注意が必要だ。

ノイズキャンセリング機能は備えていないが、外音取り込みのヒアスルー機能は搭載。電車内でとっさにアナウンスを聞きたい時などに外の音が取り込める。音楽再生中でも、音楽停止中でも利用可能。本体のタップセンサーの操作で簡単にオン/オフが切り替えられる。

音を聴いてみる

音を聴いてみよう。まず装着感だが、イヤフォンの筐体を見比べてみると、形状は違うものの、サイズ感はFALCON2とFALCON PROであまり違いがない。フェイスプレート部分の形状が、FALCON2が丸っこいのに対し、FALCON PROは三角形に近いので角張った印象を持つが、胴体部分はなめらかなフォルムに仕上げられている。

左からFALCON2、FALCON PRO

この形状は、ユニバーサルのイン・イヤー・モニター(IEM)をデザインモチーフとしたエルゴノミクスデザインだそうだ。ハイブリッド構成になった事で、FALCON PROの方が内部パーツも増加しているハズだが、FALCON2からあまりサイズをアップさせずにBAとダイナミックのハイブリッドドライバーを搭載しているのは見事だ。

そのため、装着もしやすい。耳に入る部分は先端に向かってシュッと細くなっているため、耳穴奥に挿入しやすい。重量配分の良いバランスで、後部が重すぎて抜けてくるような事もない。耳が小さい女性も含め、おそらく多くの人が快適に装着できるだろう。それもそのはず、このシェル形状には“門外不出”というNoble Audioのユニバーサルイヤフォン用3Dモデリングデータが使われているそうだ。こういう細かな部分にも、有線イヤフォンで歴史を持つメーカーの強みが発揮されている。

装着イメージ

イヤーピースは、ePro Audioが新たに開発したTWS専用ホーン形状ピース(大口径タイプ)を同梱。傘の部分が広いので、中でしっかりホールドしてくれる。ちなみに、素材であるシリコンとグラフェンの配合比率を見直したことで、さらに耐久性を向上させながら、耳の形にフィットする柔軟性も持たせている。内側にはリブを設け、装着しやすくするとともに、抜けにくくなっている。

付属のイヤーピース

Xperia 1 IIやPixel 3 XLなどとペアリングし、Amazon Music HDのハイレゾ楽曲などを再生してみた。「ドナルド・フェイゲン/I.G.Y.」を再生すると、思わず「うわーっ! 有線のNobleっぽい」と声が出てしまう。この楽曲は、クールで都会的なサウンドだが、FALCON PROは非常にトランジェントが良く、キレッキレの描写で、そのクールさをバッチリ表現してくれる。ソリッド過ぎてゾクゾクするほどだ。

試聴する前は「FALCON2とFALCON PROはどう違うのかな?」と思いながら再生ボタンを押したのだが、BAドライバーならではの高域の分解能の細かさ、ビートやボーカルの1つ1つの音の輪郭のシャープさ、全体に漂うクリアな気持ち良さは、間違いなく有線のNoble Audioイヤフォンの雰囲気そのまま。それも2万円などではなく、もっと高価なモデルの音に似ている。

「これまでの完全ワイヤレスと比べてどうこう」という世界から、ついに「有線の高級イヤフォンと比べてどうか」という世界に突入したなと感じ、ちょっと感動してしまった。

高域のBAだけが良いのではない。中低域のダイナミック型とのつながりも良く、音色の違いなどもほとんど感じない。「村治佳織/トランスフォーメーション」から「悔いなき美女」、「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」など、シンプルなギターでスタートする曲を再生すると、ギターの弦の金属質な鋭い音と、ギターの筐体で反響した木の温かい響きの音色が、キチッと描き分けられている。Best of My Loveでは、続く女性ボーカルの声も生々しく、体温を感じる。それでいて、口の中を覗き込めるのではないかと錯覚するほどソリッドで細かな描写も同居している。有線イヤフォンでもなかなか難しい表現力を、完全ワイヤレスで実現しているのは見事だ。

クラシックなど、曲の始まりや終わりが静かな曲では前述した通りホワイトノイズがかすかに聞こえる。ただ、興ざめするレベルではなく、「まあ気にしていると聞こえるね」レベルであり、音楽が始まってしまえばまったく気にならない。それよりも、BAドライバーならではのゾクゾクするような微細な描写が楽しめる恩恵の方が遥かに大きいと感じる。

例えば「米津玄師/感電」を再生すると、もう冒頭のトランペットのハイスピードで、勢いがあり、まるで躍り出てくるような鋭いサウンドに完全にノックアウトされてしまう。これはBAドライバーならではの描写だろう。続いて、おもちゃ箱をひっくり返したようなSEの渦が襲いかかってくるが、それらも超細かく聴き取れるので、とにかく気持ちが良い。

FALCON PRO

では、それと比べてFALCON2はどうかというと、これもまた面白い。FALCON2は前述の通り、ダイナミック型のみだが、初代機から分解能やトランジェントの良さ、SN比の良さなどが大きく進化しているので、ダイナミック型のみの完全ワイヤレスとしては、間違いなくトップクラスの音質を持っている。そのため、これ単体で聴いていると、まったく不満はない。

確かに、FALCON PROの非常にシャープな高域描写と比べると、FALCON2はそこまでエッジが立たず、穏やかに聴こえる。ただ決して“輪郭が甘い”わけではない。なんというか、“超細いシャーペンで描く(FALCON PRO)”のと、“細い筆の先端で描いた(FALCON2)”ような違いだ。

ダイナミック型のみのFALCON2の音は、質感描写が非常に自然で、人の声や自然の音などがスッと耳に入り、女性ボーカルなどが本当に美しい。細かい描写ができつつも、ホッとするような音なのに対し、FALCON PROは豊かな部分はそのように再生しつつも、スゴイ勢いでコーナーギリギリを攻めてくるようなキレキレ感があり、一度聴いたら虜になるような、魅惑的な匂いに包まれている。価格差なりの違いはあると個人的には思うが、キャラクターが異なるため、好みで選んでもいいだろう。正直言うと、どっちも欲しい2台だ。

また、前述の通り防水性能にも違いがあるので、「スポーツとか、生活の中でラフに使いたい」という人はFALCON2を選ぶというのもアリだろう。

一方で、FALCON PROの音質は今までのTWSのから頭一つ抜け出た感がある。これまで有線イヤフォンにこだわり、高価なモデルを何台も買ったり、自分でカスタムIEMをオーダーしたりしてきたというポータブルオーディオファンの中には「TWSは便利だけど、音はそれなりだよね」と感じていた人も多いと思うが、そういう人にこそ一度聴いて欲しい。おそらく「お、これはちょっと違うじゃん」と感じるだろう。

既に1万円台や1万円以下のTWSを持っている人も、ステップアップの候補として試聴してみて欲しい。実売約26,900円という価格はTWSとしては高価な部類だが、それも納得の音だと思うかもしれない。

また、コストパフォーマンスの面では“数の力”も無視できない。有線イヤフォンより市場規模が大きいTWSでは、自ずと生産する台数も大きく違ってくるため、例えば2万円台の有線イヤフォンにはコスト的に搭載できないドライバーやパーツでも、TWSであれば搭載できるといった現象もある。「同じ価格であれば、音質はTWSより有線イヤフォンが上」というこれまでの常識が通用しない時代に突入しつつある。

もちろん、専用のハイレゾプレーヤーやポータブルアンプなどでドライブした有線イヤフォンに無条件で勝てるかというと、特に低域のクオリティにおいて、まだTWSには進化の余地がある。ただ、技術の進化により、“音質を追求するポータブルオーディオの世界”に、便利さだけが強みだったTWSが肉薄しはじめた好例として、FALCON PROは多くの人に聴いて欲しいモデルだ。

FALCON PRO

(協力:エミライ)

山崎健太郎