レビュー

4.6万円から楽しめる! FYNE AUDIOスピーカー×デスクトップで始めるオーディオ

FYNE AUDIOのブックシェルフスピーカー。左からF300、F301、F500

長引く巣ごもり生活。おうち時間を快適にするため、「オーディオでもはじめてみようかな」と考えている人は多いはずだ。でも、「お金がかかりそう」「うちにはスペースがないから」なんて思っているなら、大きな間違い。コンパクトながらも確かなクオリティのオーディオ製品を作っているブランドはあり、そうしたブランドを選べば、省スペースで価格以上の満足感を得られる。そんなコスパの面でも最近注目なのが、FYNE AUDIO(ファイン・オーディオ)というブランドだ。

FYNE AUDIOは、2017年初頭にスコットランドで誕生したスピーカーブランドだ。ブランド名の「FYNE」は、スコットランドの美しい湖「Loch Fyne(ファイン湖)」に由来し、創業メンバーの7名全員が、あの老舗スピーカーブランドTannoy(タンノイ)で開発や販売に携わっていたという。そのため、スピーカーへの豊富な知識と経験は、新興ブランドの枠に収まらない。

一般的に新しいオーディオブランドは、売れ筋である手頃な価格の製品からリリースし、徐々に高級機にステップアップしていく。販売戦略もあるだろうが、オーディオ愛好家を満足させられるハイエンドモデルを作るには、音に関するノウハウと技術力が必要で、おいそれとはいかないのだ。

しかし、FYNE AUDIOにはそれは当てはまらない。確かな技術力とサウンドポリシーを背景に、創業当初から400万円を超えるようなハイエンドスピーカー、100万円前後のミドルクラス製品、そしてリーズナブルな入門機と幅広いラインナップを構築。その実力は世界中で支持されており、発売されるや否や各国で高い人気を獲得している。

「でも、そんな高級オーディオブランドの製品ってことは、入門機でもお高いんでしょう?」と、思ってしまいそうになるが、なんとエントリーモデルの「F300」はペアで46,000円(税別)と、“初めてのオーディオスピーカー”にちょうど良いプライス。しかも、デスクトップに置けるほど小さい。

F300

では、実際どんな音がするのか。そして、F300からステップアップしていくと、音にどんな違いがあるのか。F300と、その上位モデル「F301」(税抜ペア67,000円)、さらに上位シリーズの小型モデル「F500」(ペア138,000円~)の3機種を、聴き比べてみる。

F300の定位感に優れた高レスポンスサウンドにどハマり

F300シリーズは、FYNE AUDIOのエントリー層を担い、クラスを超えた高音質をテーマに開発されている。同シリーズで最もリーズナブルなブックシェルフスピーカーが、F300だ。

F300の背面

2ウェイ・2ドライバーながら、サイズは156×211×250mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクト。中低域用ウーファーは、125mm径とサイズこそ小さいが、シリーズ上位機と同じ「FYNEFLUTEテクノロジー」を採用している。

これは、コーン型振動板とフレームをつなぐエッジ部分に、コンピューター解析によって導かれた特殊な形状の溝(フルート)を刻んだもの。写真に写っている斜めの溝がそれだ。この溝が振動板から受けるエネルギーを効果的に緩衝し、明瞭で立ち上がりの速いサウンドを実現するとのこと。詳細は後述するが、実際に聴いてみても、確かにトランジェントが明瞭で、低域から高域までキレの良いサウンドになっている。

写真に写っている斜めの溝がFYNEFLUTEテクノロジー

高域を担うツイーターは直径25mm。強力なネオジム磁石を用いた磁気回路とポリエステル製のドーム型振動板を組み合わせ、滲みのない鮮明な高域特性が持ち味となっている。ツイーターを保護するメッシュプロテクターも要注目。内部に特定領域における時間軸のずれを補償する「フェーズ・コンペンセーター」を備えている。時間軸が揃うと、より自然な音になり、音場表現も良くなるものだが、F300は確かにニアフィールドで聴いても音場が広大でナチュラルなサウンドに仕上がっている。

メッシュプロテクターの内部に、特定領域における時間軸のずれを補償する「フェーズ・コンペンセーター」を備えている

F300は非常にコンパクトなので、広いリビングや専用のオーディオルームが無くても、机の上にある程度の広さがあれば、PCとDAC内蔵アンプを組み合わせて、デスクトップオーディオ環境を構築できる。

PC内蔵のスピーカーはチープで、ボリュームを上げると音が割れるし、小さな音では聴き取りにくい。これを解消できるばかりか、スピーカーとユーザーの耳の位置が近いため、部屋の壁などで発生する音の反射の影響を受けにくく、生々しいサウンドを味わえる。

組み合わせる相手として、ティアックのDAC内蔵アンプ新製品「AI-301DA-Z」(直販52,800円)を用意。幅215mmと小型のプリメインアンプで人気を博したロングセラー機「AI-301DA」の後継モデルで、基本的な性能はそのままに、Bluetoothのコーデックを判別する機能が追加されたり、テレビのリモコンと連動して本機のボリュームを変更できたりと機能強化を果たしている。

ティアックのDAC内蔵アンプ新製品「AI-301DA-Z」

早速、筆者のデスクで試してみる。今回はAI-301DA-ZとF300をスピーカーケーブルでつなぎ、USBでMacBook Air(M1チップモデル)を接続。音を出してみると、1つ1つの音の粒が明瞭で、広がる音場表現が秀逸。左右のスピーカーと自分の間に音場空間ができ上がる。ノートパソコン内蔵スピーカーと、次元の違うサウンドだ。

筆者のデスク
F300とAI-301DA-Zを設置!

ハイレゾ音源から秦基博「ひまわりの約束」を再生すると、ボーカルとアコースティクギターが正面、バンドがその奥で演奏しているというような位置関係が感じ取れる。視覚的に左右にスピーカーが置いてあるのに、中央から音が聞こえてくるような感覚は、まさにピュアオーディオの面白さ。魅力ある呼気を多分に含んだハスキーな歌声は、力強さと脆さを併せ持っているかのよう。

レッド・ツェッペリンの「Good Times Bad Times」は、イントロのギターからエネルギッシュ。力強いサウンドは、音の立ち上がりが遅いスピーカーだと重々しく感じやすいが、トランジェントに優れるF300ではそんな感覚は皆無。何度もリピートして聴きたくなってしまう。このサイズのスピーカーでも音圧がしっかりと感じられるのに驚いた。

もっと手軽に、iPhone 13 miniをペアリングしてBluetooth接続で聴いてみよう。YOASOBIの新曲「ミスター」は、Bluetoothのサウンドとは思えないほど量感が豊か。ベースやドラムといったリズム音を揃えるキメがこの曲の小気味よいサウンドを形作っているのだが、音の歯切れがよいためか、このキメが気持ちよいほど決まっている。

ボーカルもAメロは無機質に、Bメロはやや感情的に、サビは訴えかけるようにと歌詞に合わせて声の表情を描き分けていることが良く分かる。一つ一つの音が立っているため、ジャズやオーケストラのような生楽器との相性もよく、Bluetooth経由で聴いているとは信じられないほど良質なサウンドだ。

音楽は最高だが、最近はPCでYouTubeを楽しんでいる人も多いだろう。このスピーカーで聴くと、いつものYouTubeの音も激変。動画でも、ここでも粒の整ったキレのあるサウンドを味わえる。

PC内蔵スピーカーでは、周囲がちょっとでも騒がしいと音が負けてしまっていたが、本機F300ではそんなイライラする場面はない。アンプの駆動力にも余裕があるためか、小音量でも声や効果音がよく聴きとれる。

アンプとスピーカー、合わせても約10万円。限られたスペースでリーズナブルに構築したデスクトップオーディオだが、こんなに楽しいものだとは思いもよらなかった。

反射の影響が少なく、音がダイレクトに届くからこそ、F300のキレ味抜群サウンドを余すことなく味わえるのだろう。「なぜもっと早くやらなかったのか……」と後悔するほどで、もうPC内蔵スピーカーの音には戻れない。少しでも興味があったら、すぐにでも実践する価値がある。

上位モデル「F301」でテレビの弱々しい音が極上リッチに

上位モデル「F301」

前述の通り、ティアック「AI-301DA-Z」は、テレビとの連携も想定し、テレビとオプティカル端子で接続すると、テレビの電源と連動してAI-301DA-Zも自動でオンになる。

AI-301DA-Zの背面

実際にAI-301DA-Zとテレビをつなぎ、そこにFYNE AUDIOのスピーカーを組み合わせたらどんな体験ができるだろうか。場所をリビングに移し、サウンドを確かめることにした。テレビとの接続に選んだスピーカーは「F301」だ。F300の上位機となり、価格は67,000円(税別)とこちらもリーズナブル。

2ウェイ・2スピーカー構成で、サイズは190×271×300mm(幅×奥行き×高さ)と一回り大きい。ツイーターはF300と同じ25mmだが、ウーファーは150mmと大きいのが特徴だ。セッティングは簡単で、AI-301DA-Zとテレビをオプティカル端子で接続。F301をスピーカーケーブルでつなぎ、テレビの両側に設置したスピーカースタンドに設置した。

リビングのテレビ脇に、F301を設置

F301のサウンドは低域から高域までバランスがよくリッチ。高解像度で活力に溢れている。ドライバーとキャビネットが大きいこともあり、広い範囲まで音がしっかりと届き、約2m離れたソファに座って聴いても定位のある音場が形成されていた。このスケール感に、F300との違いを感じる。

ちょうどスポーツの祭典が行なわれていたので、まずはスポーツ中継をチェック。歓声がテレビ画面を超えてグワッと広がり、まるでリアルで会場にいるかのような感覚だ。

驚いたのが、選手が出す声や道具の小さな音までしっかり聞き取れること。あまりの臨場感に「あれ、5.1chだっけ?」と思うほどで、入門用の2chスピーカーでも立派な音場が楽しめる事に感動を覚えた。

定位が明瞭な理由を考えてみると、スピーカーの性能が良いことはもちろんだが、テレビの両サイドから音が聴こえることが大きいことに気づいた。普段筆者はサウンドバーを使っているのだが、画面の下側に設置しているためか、音の拡がり感は得やすいものの定位感は曖昧になりやすい。その点、今回のセッティングでは画面の両側にスピーカーがあり、視聴ポイントにダイレクトに音が届きやすい。また、音の立ち上がりが速く、歪みの少ないF301を組み合わせたことで、より明瞭な音場が構築できたのだろう。

ダイナミックレンジが広い作品が多い、映画や海外ドラマの再生も好印象。テレビのスピーカーだと、人の声を聞きやすくしようと音量を上げがちで、アクションシーンでいきなり大音量になりびっくりすることがよくあった。それが、F301だと低域から高域までバランスが良いうえに、音がクリアなので、音量をむやみに上げなくても、会話をきちんと聞き取れる。

その音量のまま、音が大きい場面に切り替わっても力強いサウンドで迫力は十分。音量でヤキモキしないですむためか映像に没入しやすく、作品の魅力が大幅にアップして感じられた。テレビ番組やアニメでも、とにかく声が聴きやすく、試聴中にボリューム調整でストレスを感じることは皆無だった。

「F500」なら手の届く予算で本格ピュアオーディオの世界へ

F500

F300の音に驚き、F301の迫力サウンドを体験。十分満足していると同時に、オーディオの魅力とは不思議なもので、より上位モデルの音はどんなものか気になってしまう。F301からステップアップするのに最適なのが、F300シリーズの上位となるF500シリーズのブックシェルフ「F500」だろう。

F500は革新的といえる技術を満載している。まず注目が、ハイクラスモデルにも搭載される同軸2ウェイの「ISOFLAREドライバー」だ。これは、高域を担当するHFコンプレッションドライバーの開口部と、中低域用ウーファーのコーン型振動板を同軸上に組み合わせたもの。さらに、コンピューター解析を活用し、エネルギーが拡散放射するよう設計されている。

同軸2ウェイの「ISOFLAREドライバー」の内部
コンピューター解析を活用し、エネルギーが拡散放射するよう設計されている

同軸2ウェイドライバーが、スピーカーの理想とも言える“点音源”を実現するもので、音像の正確さ、優れた位相特性を持つ。ISOFLAREドライバーではそれに加え、リスニング範囲も広いのが特徴だ。ウーファーのエッジ部にはF300シリーズ同様にFYNEFLUTEテクノロジーも採用し、明瞭でキレのあるサウンドも兼ね備えている。

極めつけは、低域を増幅するBASSTRAX TRACTRIX(ベース・トラックス・トラクトリックス)プロファイル・ディフューザーだ。一般的なスピーカーが備える背面バスレフポートでは、壁との距離によって低域の反射が変化し、音質にも影響してしまう。

BASSTRAX TRACTRIXは、ポートを下向きに配し、その開口部に亜円錐状のディフューザーを置く。低音のエネルギーが360度均一に放射され、設置場所による音質への影響が無くなるため、場所を選ばずクリアで力強い低域再生ができるというユニークな技術だ。

真横から見たところ。底部に備えたポートの先に、亜円錐状のディフューザーが設置されているのがわかる

F500は、これだけの技術を投入しながら、価格はペア138,000円(税別)から、ピアノグロス仕上げはペア152,000円(税別)と、ちょっと背伸びをすれば手が届くプライスに抑えられているのが嬉しい。

F500を、アナログレコード再生環境で鳴らしてみる

F500のサウンドは、アナログレコードを再生して味わってみよう。筆者のシステムは、ターンテーブルがテクニクスの「SL-1200MK3」、プリメインアンプがデノンの「PMA-390RE」といずれも発売当時の入門機。F500を楽しむのにちょうどよいシステムだ。サイズは200×318×325mm(幅×奥行き×高さ)とF301より気持ち大きい。そこで、F301と入れ替える格好でスピーカースタンドに設置した。

荒井由実の1stアルバム『ひこうき雲』から表題曲を再生する。荒井由実の初期作品では、細野晴臣、鈴木茂、林立夫、松任谷正隆がキャラメル・ママというユニットでプロデュースし、演奏にも参加している。この演奏が秀逸で、特に細野晴臣のリズミカルかつメロディアスなベースが気に入っている。F500で聴く「ひこうき雲」は、驚くほど音がきれい。ベースの音は筆致こそ太いものの、音にキレがあり立体的で軽快だ。ボーカルもエネルギッシュで、部屋いっぱいに拡がる。

続けて、大滝詠一の『A LONG VACATION』から「君は天然色」を聴く。イントロからポップで厚みのあるサウンドに耳も心も掴まれる。サビではピュアオーディオでもハイエンドモデルで味わうような、体を突き抜けるような浸透力ある音が心地よい。

F300やF301も価格以上のクオリティだったが、F500のサウンドはそれを上回る。この価格で、ピュアオーディオらしい“旨味”が味わえる。お世辞でも何でもなく、コストパフォーマンスが極めて高いモデルだ。

省スペースからはじめるオーディオライフ

F300

FYNE AUDIOの個性溢れる3製品をじっくり味わったが、筆者のようにリスニングスペースが限られる環境でも、それぞれの持ち味が明確に分かった。

F300はPCのサウンドを充実させたい人や、PCオーディオを始めたい人におすすめだ。スペースも最小限で済むため、デスクトップはもちろん、一人暮らしのリビングや寝室でも活躍してくれるだろう。

F301はテレビの音を充実させつつ、ピュアオーディオも楽しみたいという欲張りな方に最適。見た目もオシャレでリビングに置くと映えるのも嬉しい。

F500は本格的にピュアオーディオに挑戦したい人にぜひとも選んで欲しい逸品だ。部屋中を好きな音楽で満たすという、極上の贅沢を楽しめる。

F500

オーディオは決してハードルの高いものではない。低予算でもデスクほどのスペースがあれば気軽に始められる。あなたに合ったスピーカーを選んで、おうち時間を良音で満たしてみてはいかがだろうか。

左からF300、F301、F500

(協力:アクシス)

草野 晃輔

本業はHR系専門サイトの制作マネージャー。その傍らで、過去にPC誌の編集記者、オーディオ&ビジュアル雑誌&Webの編集部で培った経験を活かしてライター活動も行なう。ヘッドフォン、イヤフォン、スマホといったガジェット系から、PCオーディオ、ピュアオーディオ、ビジュアル系機器までデジタル、アナログ問わず幅広くフォローする。自宅ではもっぱらアナログレコード派。最近は、アナログ盤でアニソン、ゲームソングを聴くのが楽しみ。