レビュー

ヤマハが“ガチ”にTRUE SOUND追求。使いやすさも光る「TW-E5B」

ヤマハ「TW-E5B」グレー

すっかり“当たり前のもの”になった完全ワイヤレスイヤフォン。製品数が増えて切磋琢磨される事で、“便利だけど音は二の次”だった時代から“音の良さで選ぶ”時代に突入している。そうなると注目されるのが、高音質化のノウハウを持つ老舗オーディオメーカー。ヤマハもそんなメーカーの1つだが、特に3月25日に発売された「TW-E5B」は“ヤマハの新時代TWS”を予感させる注目製品に仕上がっている。

国内メーカー、しかもオーディオブランドのTWSは高価なモデルが多いが、TW-E5Bは実売16,500円と、そこまで高価ではないのも注目ポイント。高音質なだけでなく、耳の健康にも配慮した「リスニングケア」など、ヤマハ独自技術も魅力だ。

実際に、どのような音に仕上がっているのか。開発者インタビューも交えながら、TW-E5Bを使ってみた。

「TW-E5B」

TRUE SOUNDとは何か

音を聴く前に、TW-E5Bの概要を振り返ろう。

これまでのヤマハTWSイヤフォンと少し印象の異なるデザインで、大人っぽくて落ち着いた雰囲気。自宅での使用はもちろんのこと、カフェで装着したり、通勤でスーツ姿のビジネスマンが使っても違和感がなさそうだ。

開発の背景について、ホームオーディオ事業部HS開発部HP・EPグループの製品企画担当・有田光希主任は、「COVID-19の流行により、テレワーク実施率が2倍に、そして余暇の過ごし方もレジャーが減り、動画鑑賞やゲームが増加するなど、イヤフォンをとりまく環境の変化がある」と説明。仕事でのビデオ通話機会も増加している。

そこで、製品のターゲットとして「独身27歳 社会人で首都圏近郊で一人暮らし」、「通勤中/在宅勤務中/プライベートな時間にイヤフォンは欠かせない」、「スマホやゲームや動画なども楽しんでいる」、「現在使用中のネックタイプBTイヤフォンからTWSへ買い換えたいと思っている」といったユーザーを想定。

そうした人に向け、オンライン会議から音楽、動画視聴、ゲームまで、様々な場面で活用できる“ON/OFF問わず、 1台のイヤフォンで、最高の音体験ができる”モデルとしてTW-E5Bを開発したという。

耳側の形状

仕事でもプライベートでも活用するとなると、長時間装着しても負担が少ない事が重要となる。そこで、耳穴に挿入する内側を楕円形状とした。耳穴の“対珠”にフィットするように、くぼみをつけた形状だ。耳に入れた後で、イヤフォン自体を少し回転させると、ピッタリとハマる。4サイズのイヤーピースも付属するので微調整も容易だ。

密着感やホールド力はかなり高い。遮音性も高いため、装着するだけでかなり静かな環境が得られる。アクティブノイズキャンセリング(ANC)機能は搭載していないが、それもあまり気にならない遮音性の高さだ。なお、ANCは無いが、外音取り込み機能は備えている。これも利便性を重視した結果だ。

ゲームや動画視聴でも活用してもらうため、遅延を抑えるゲーミングモードも搭載した。通常は、イヤフォンが音声データを受け取ってから実際に音楽を再生するまでの間にワンクッション時間がかかる。一度イヤフォン側でデータをしっかりと受け取って伝送するためで、安定性は高いものの、映像に対する音の遅延は大きくなる。

ゲーミングモードでは、音声データを受け取ったら即再生することで、遅延量を抑えている。なお、気になる電波の安定性だが、ゲーム中はスマホを手に持って使っている状態を想定されるため、イヤフォンとスマホの間に障害物が無く、音が途切れる要因も少ないというわけだ。なので、使い方によってON/OFFを切り替えられるようになっている。

遅延を抑えるゲーミングモードも搭載

内蔵ユニットは、振動板に硬度の高いPEEK素材を使った7mm径のダイナミック型ドライバーとなっている。

気になる音質だが、そもそも“イヤフォンの音質”と言っても、メーカーによって目指すゴールは異なる。例えば、重低音再生を追求したり、モニターライクな音を目指したり……といった具合だ。

TW-E5Bは、この“高音質化”アプローチが実に明快かつユニーク。キーワードは“TRUE SOUND”だ。

AV Watch読者であれば、ヤマハと聞けばピュアオーディオのコンポやAVアンプを連想するだろう。だが、そもそもヤマハは“総合楽器メーカー”であり、アーティストが演奏する楽器から、音楽を収録するスタジオ機器、さらに言えば“スタジオ自体の設計”まで手掛けている。要するに、“音楽が生まれる現場”から“音楽をユーザーの耳に届ける機器”まで一貫して手掛けている珍しいメーカーであり、それが同社の強みでもある。

TW-E5Bの音質・メカ機構設計を担当した森智昭主事は、「TRUE SOUNDとは、“アーティストの意図する表現や、作品に込められた想いをありのままに再現すること”です。我々ヤマハだからこそ、アーティストの想いをお客様に届ける“TRUE SOUND”を実現できていると思ってます」と語る。

取材で話を伺った開発メンバー。上段左がホームオーディオ事業部HS開発部HP・EPグループの森智昭主事、中段左が製品企画担当の有田光希主任、右がホームオーディオ事業部 マーケティンググループの田中郁夫グループリーダー、下段左がデザイン研究所プロダクトデザイングループの大塚生奈主任、右がソフトウェア担当の増井英喜主事

具体的に、TRUE SOUNDは以下の3つの要素で成立している。

  • 楽器や声を鳴らし切る“音色”
  • 静と動の対比が明瞭な“ダイナミクス”
  • 作品のニュアンスやムード、空気感を含む“サウンドイメージ”

上記を見て、「ああ、オーディオ製品のカタログとかに書いてある売り文句みたいなやつでしょ?」と思う方も多いだろう。筆者も最初はそう思っていた。だが、森氏に詳しい話を聞くと、これが想像以上に“ガチ”なのだ。

一般的に、オーディオ機器の開発は“こんな製品を作ろう”という商品企画からスタートし、そのアイデアをもとに技術者らが製品を試作。音決めの段階では、企画と開発スタッフがチームとして試聴を繰り返し、全員が「これでいいよね」と納得するまでクオリティをアップさせて完成。商品として販売される。

しかし、近年のヤマハのホームオーディオ開発体制はそうではない。“TRUE SOUNDチーム”と呼ばれるチームが編成され、彼らがまるで“音の門番”のように、ヤマハ内の各開発チームが作っているAVアンプ、Hi-Fi機器、サウンドバー、今回のようなイヤフォンも含めて、部門横断的に、音質設計に関与しているという。

森氏によれば、イヤフォン開発の各段階で、TRUE SOUNDチームが試作機をチェック。先程の“3つの要素”を満たしているかどうかを判断し、ダメとなった場合は、容赦なく「やり直し」となる。つまり、そのチェックに合格しないと、次の開発段階まで進めないのだ。

このように、開発チームで試作機を改良し、TRUE SOUNDチームがチェック。合格となったら次の段階へ進み、新たな試作機をTRUE SOUNDチームがチェック……を繰り返し、最終的なOKが出てやっと商品として完成する……という流れだ。

森氏は「各段階のチェックをクリアしていくのはとても大変でした」と笑う。一方で、「“ヤマハのAV機器というのは、こういう音質で作っていこう”というのを、TRUE SOUNDというカタチで明文化し、一つの道として表したことは、音質設計にとって大きな支えになっています」と語る。

つまり、従来は属人的に行なっていたサウンドチューニングを、TRUE SOUNDとして言語化し、音質の指針としてヤマハ内で共有。そのゴールに向けて、音を作っていく体制が構築されたということだ。これにより、イヤフォンだけでなく、Hi-Fi機器からAVアンプ、サウンドバーまで、どの開発チームが手掛けた製品であっても、“アーティストの思いを伝える音”という軸で評価され、それをクリアした“TRUE SOUNDを再生できる製品”だけがお店に並ぶようになるわけだ。

この“TRUE SOUND体制”、オーディオメーカーとして非常に面白い取り組みだ。御存知の通り、オーディオ製品は“作る人による”部分が多い。熟練の開発者が音にこだわった製品を生み出し、その製品を聴いたユーザーが、その開発者のファンになり、新作を期待する……という流れだ。

これ自体は“オーディオ業界の伝統”みたいなものだが、例えばその熟練開発者が辞めてしまうと、「音がガラッと変わってしまった」なんて事も起こる。しかし、TRUE SOUNDチームが存在すれば、例え中の人が変わったとしても、“高音質化ノウハウの継承”や“サウンドクオリティの維持”が実現できる。これも大きな利点だ。

高音質化への道は“ストレートかつダイレクト”

話を製品に戻そう。TW-E5Bには、このTRUE SOUNDを実現するため、様々な技術が投入されている。

前述の通り、7mm径のダイナミック型ドライバーを搭載しているのだが、単に内蔵するのではなく、その“配置”にこだわった。ユニットと、そこから出た音が通る音導管が、ユーザーの鼓膜に対して、全て直線的になるよう設置しているのだ。

要するに、音導管がグネグネ曲がっていたり、ユニットがぜんぜん違う方を向いている……なんて構造ではなく、ユニットから出た音を、とにかくストレートかつダイレクトに鼓膜へ届けている。

中央に見える丸い銀色がユニット。音導管に対して、直線的に配置されているのがわかる

「そんなの普通では?」と思うかもしれないが、実は普通ではない。完全ワイヤレスは、小さな筐体の中にユニットや音導管に加え、バッテリーや基板、アンテナなど沢山のパーツを内蔵しなければならない。例えばアンテナは、筐体内の電波を受信しやすい部分に配置するなど、制約もある。

ユニットと音導管を“直線的に配置したい!”と思っても、そのスペースが確保されていなければ、曲げたりしないと入らなくなる。要するに、TW-E5Bは“まず音質ありき”で、ユニットと音導管の直線的なレイアウトを決め、それを崩さないように開発されたわけだ。

振動板の素材には、硬度の高いPEEK素材を使用。入力された信号に対する反応を良くしている。さらに、ドライバー背面側の筐体に空気孔を開けることで、ドライバーが駆動した時に発生する背圧をコントロールした。厚みのある低域を再生するための工夫だ。

“本当の使いやすさ”を追求する

機能面でのTW-E5Bの特徴は“本当の使いやすさ”を追求している事だ。例えば、「リスニングケア」という機能をTW-E5Bは搭載している。これは、簡単に言うと“人間の耳の弱点を補う技術”だ。

実は、人間の耳は、音量によって聴こえ方が異なる。経験した事がある人も多いと思うが、ボリュームを小さくすると、低域と高域が聴きづらくなる。逆に言うと、低域と高域をしっかり聴きたいと思うと、つい音量を上げ過ぎてしまう。イヤフォンの場合、必要以上の大音量で聴いていると、難聴のリスクが増える事になる。

リスニングケアはこれを踏まえ、“音量毎に最適なバランスになるように補正”してくれる。これをONにすると、小音量でも全帯域が聴き取りやすい音になるため、自然と音量アップも抑えられ、耳への負担も軽減される。

実際にどんなものか試してみよう。アプリ「Headphone Control」をダウンロードすると、リスニングケアのボタンがあるので、これをON/OFFするだけだ。

アプリ「Headphone Control」
リスニングケアのボタンがある

「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」の冒頭、アコースティックベースが「グォーン」と深く沈み、そこに繊細なギターのメロディが流れる。迫力と重厚感満点のシーンだが、小音量ではベースの低音がサッパリ聴こえず、ハッキリ言って“ショボい”。

だが、リスニングケアをONにすると、低域がグッと持ち上げられ、「グォーン」や「ゴーン」といった深くて重い低音が感じられるようになる。もちろん音量は一切変えていないのに……だ。面白いのは、低域の迫力が増しても、ギターの高音がそれに負けずにキッチリとバランス良く聴き取れる事。小音量では聞こえにくい帯域を個別にうまく補正し、音源が本来持っている正しいバランスを保ちながら再生されるので、結果として小音量でも満足感が得られ、「別にボリューム上げなくてもいいや」という気分になる。

ちなみにソフトウェアの開発をメインで担当した増井英喜主事によれば、このリスニングケアのアルゴリズムは、従来のヤマハワイヤレスイヤフォンに搭載されていたものと同じだという。しかし、TRUE SOUNDチームは、このリスニングケアをONにした状態の音まで厳しくチェック。その結果、「TW-E5Bでは、リスニングケアをONにした状態でより自然に、そしてどんなボリューム値でもTRUE SOUNDチームが納得する音質になるように調整を繰り返しました」とのこと。イヤフォンの“素の音”だけでなく、リスニングケア適用後の音までチェックするとは、TRUE SOUNDへのこだわりは、かなり“ガチ”だ。

ホームオーディオ事業部 マーケティンググループの田中郁夫グループリーダーは、「リスニングケアは、アーティストと深い関わりがあるヤマハだから発想されたユニークな機能です」と語る。「アーティストのように長時間音楽と深く向き合っていると知らず知らずのうちに難聴リスクにさらされていることも事実です。一方で、難聴のリスクはまだ広く認知されていないのも事実です。お客様に、より長いあいだTRUE SOUNDを楽しんでいただくためにも、我々が全社として取り組む意義のあるサステナビリティのテーマだと考えています。もちろん、リスニングケア機能だけで解決できるものではありません。しかし、“この機能があるから音を下げてみようか”と思うキッカケにはなるかもしれない。“耳を大切にしながら音楽を楽しむ”事は、これからも意識的に発信していきたいと考えています」。

このリスニングケアを手掛けた増井氏は、外音を取り込む“アンビエントサウンド”機能も担当しているが、こちらのこだわりも面白い。単に“外の音をマイクで取り込む”のではなく、「定位感にこだわりました」という。

「アンビエントサウンドにおいて、どんな音をユーザーさんが期待しているかというのを分析した上で開発しました。目指したのは“周囲に気を配りながら、音楽を楽しめる音”です。音質だけでなく、位相にも着目してチューニングする事で、周囲のアナウンスや通知音、自然に聴こえるだけでなく、定位感も向上するように取り込んでいます。例えば、“クルマの音が聴こえる”だけでなく、“クルマが横から来たことがわかりやすい音”を実現しています」(増井氏)。

アンビエントサウンド機能を体験

これも道路を歩きながら実際に試してみた。前述の通り、TW-E5Bは遮音性が高いので、装着していると、クルマや歩行者がすぐ近くまで接近しないと、なかなかその音に気が付かない。しかしアンビエントサウンドをONにすると、確かに「クォオオ」というようなクルマの走行音が背後から聞こえ、その音像がこちらに近づいてくるのがよくわかる。

クルマだけでなく、自転車のようなあまり音がしないモノでも、しっかりと聞こえる。そのため、急に何かが目の間に現れてビックリするような事が無くなる。これは非常に便利だ。

もう1つ凄いのは、アンビエントサウンドをONにしても、流れている音楽の音質にはほとんど影響がない事だ。“外の音が聞こえるけど、音楽は変な音になりました”では使う気にならないが、TW-E5Bではそんな事にはならない。また、聞こえるクルマや自転車の音、人の話し声も自然で、むやみにエッジを立たせた音だったり、機械的な音だったりもしないので、ストレスが少ない。個人的にアンビエントサウンド機能には“外の音を聞きたい時だけONにするもの”という思い込みがあったのだが、TW-E5Bを聞いていると「常時アンビエントサウンドONでもいいかな」と思えてくる。

ただ1点だけ注意したいのは、風が強い日だと、風切り音が少し聞こえてしまう事。そうした場合はOFFにした方が良いだろう。

イコライザーも搭載

ちょうどHeadphone Controlアプリを起動しているので、これに搭載されているイコライザーの話もしよう。周波数帯域を選んで、好みのサウンドに調整するイコライザー機能は他社製品にもよくあるので、ぶっちゃけ珍しさは無い。

だが、実際に自分で調整してみるとビックリする。かなり思い切ってイコライザーをグイグイ動かしても、低音が膨らみすぎたり、高域が破綻したり……といった事が起こらないのだ。皆さんも経験があると思うが、この手の機能はいじっても“なんか変な音”になり、結局「デフォルトがいいや」と使わなくなりがちだ。しかし、Headphone Controlアプリでは、かなりイメージ通りの音が作れる。

「イヤフォンの筐体設計に応じて、“ここをいじったら音が破綻してしまう”というポイントがわかります。そこで、破綻してしまう場所は変えずに、それでいてユーザーが思った音質に調整できるように作り込んでいます」(森氏)。つまり、素人が操作しても“音が破綻しない範囲内”での調整なので、「こんな音にしたい」というイメージを、実際の音に反映させやすくなっているわけだ。

リスニングケア、アンビエントサウンド、イコライザーを触っていて感じるのは、単に機能を搭載するだけでなく、それらがユーザーにとって“本当の使いやすいものにしよう”という姿勢だ。それが貫かれているため、どの機能も「積極的に使おうかな」と思わせるものに仕上がっている。

“イヤフォンは主役ではない”から始まるデザイン

機能もそうだが、毎日活用するとなれば“使いたくなるデザイン”も重要だ。

デザイン研究所プロダクトデザイングループの大塚生奈主任は、「なるべくさりげないデザインを心がけました」という。「ヤマハは楽器やPAから、ホームオーディオまで手掛けていますが、共通するデザイン・フィロソフィーとして“出しゃばらない事”というのがあります。主役は楽器やオーディオ機器ではなく、“それを演奏する人”や“聴いている音楽が主役”という考え方です。TW-E5Bでは、シンプルかつ幾何学的で、ミニマルな、ヤマハらしさを大切にしました。耳に装着した際、自然に見える、耳に沿うようなフォルムを追求したのも、“さりげなさ”を重視しているからです」。

カラーはブルー、ブラック、グレー、ブラウン

カラーバリエーションにもこだわりがある。「カラーは服装などにマッチする色を意識しています。ブラックとグレーはいろいろな服に合いますが、単なるブラックやグレーではなく、さらに馴染むように色味を調整しています。ブルーはデニム、ブラウンはレザーの鞄や腕時計の革ベルトなどを意識したカラーです。表面の一部にはシボ加工を施して、指で触れた時の質感が優しくなるように、光があたった時にギラギラせず、ソフトに見えるようにしています」(大塚氏)。

ブラック
ブルー
ブラウン

再生可能時間はイヤフォン本体で8.5時間、充電ケースを併用すると最大30時間使える。大容量バッテリーを内蔵している事もあるが、充電ケースはやや大きめだ。しかし、ここにもこだわりがある。

“飯ごう”のような形状の充電ケース

ヤマハがユーザー調査をしたところ、実は充電ケースの小ささを重視する人はあまり多くなく、鞄に入るサイズであれば、“手に馴染む形状”や“持ちやすさ”の方が大事と考える人が多かったという。確かに、薄さ、小ささを重視するあまり、つかみにくい充電ケースというのは結構存在する。

「ですので、持ちやすい形状であると同時に、手を添えた時や、蓋を開けた時に“綺麗な所作”になるようにこだわりました」(大塚氏)。

TW-E5Bが奏でるTRUE SOUNDを聴いてみる

では実際に聴いてみよう。音の変化は前述しているので、ここではリスニングケアやアンビエントサウンドはOFFの状態で聴いている。

「藤田恵美/Best of My Love」の冒頭では、ギターのソロからスタートし、ボーカル、そしてアコースティックベースと音が増えていくが、それぞれの音色がキッチリ描きわけられており、ダイナミック型ドライバーらしいナチュラルなサウンドだ。

ギターの弦が細かく震える様子や、ボーカルが歌い出す瞬間の「スッ」と息を吸う音など、細かな音もクッキリ聴き取れ、解像感も良好だ。

驚くのは、ベースの低域だ。音が低く沈むだけでなく、音圧が非常に豊かでパワフル。「グォーン」と地面から這い上がるような低音は迫力満点だ。とても7mm径のユニットから出る低音とは思えない。

特筆すべきは、これだけパワフルで音圧豊かにもかかわらず、タイトさを兼ね備えている事だ。ベースの弦の動きや、ドラムのキレもクッキリと聴き取れ、フォーカスの甘さがない。「フォープレイ/Foreplay」のような、低音が豊富な楽曲を聴くと、迫力と情報量の多さが共存しているので、聴いていてとにかく気持ちが良い。

さらに、これだけパワフルな低音が出ているのに、中高域が埋もれたり、負けたりしていないのも凄い。ボーカルはクリアなまま聴き取れ、低音は出しゃばりすぎず、音楽全体を下支えしている。「宇多田ヒカル/One Last Kiss」でも、ビートは鋭く深く沈む一方で、ボーカルやコーラスは抜けが良く、広い音場に気持ちよく広がっていく様子が見通せる。ヤマハらしい、ニュートラルさがありながら、音楽の美味しいところも味あわせてくれるサウンドだ。

ちなみに、試聴期間中、外を歩くだけでなく、混雑する電車内や駅のホームなどでも使ってみたが、音が途切れる事は無かった。屋内では、木造2階建ての2階にスマホを置いたまま、1階をウロウロしても、音楽を聴き続けられた。

田中グループリーダーはTW-E5Bの開発にあたり、接続の安定性に特に注力したという。「首都圏の中でも特に厳しい環境と言われる品川、新宿、渋谷でフィールドテストを長期間行ない、電車内でもテストを繰り返しました」(田中氏)。

既報の通り、2020年に発売したTW-E5A/E7Aでは、充電の不具合で回収・返金もあったが、田中氏によれば、その反省も踏まえ、TW-E5Bではチーム一丸で信頼回復を図るべく品質改善を進め、特に充電に関する部分は開発プロセス初期から厳しくチェック。接続・充電という基本的な部分の品質を高め、クオリティをしっかり担保できるものに入念に仕上げたという。

本当の意味で使いやすいTWS

TW-E5Bを使用して感じるのは、“本当の意味で使いやすいTWS”であるという事だ。

音が良いので、日々連れ出したくなるというのが基本だが、それだけでなく、「今日はこのロックを、もっと迫力ある音で聴きたいな」と思った時に、イコライザーを調整すると、音を破綻させずに、実に“いい具合”の低音迫力サウンドに変えてくれる。

散歩中に、外の音も聴きながら、開放的な気分でポップスを楽しみたい時は、アンビエントサウンドをONにすると、外の音も、音楽も自然な音で奏でてくれる。

深夜、家の中で、仕事に集中したいので耳栓代わりにTW-E5Bを装着。小音量でBGM的に音楽を流す時でも、リスニングケアをONにすると、音楽の“美味しいところ”が小さな音でもしっかり聴き取れる。

TWS市場では“多機能化”がトレンドになっているが、ぶっちゃけ「一度使ったら二度と使わないだろうな」という機能も少なくない。そんな中でTW-E5Bを使うと、「あ、これいいわ」という瞬間が多い。“本当の意味で使いやすいTWSのカタチ”を体現したような、納得感の多いイヤフォンに仕上がっている。

そして何より、ニュートラルながらも、音楽の美味しい部分をしっかり届けるサウンドが一番の魅力だ。田中氏によれば、現行機種「TW-E3B」のユーザーからも、「音がとても自然」「楽器の音が良く聴こえる」といったコメントが多く寄せられたという。「これこそ、我々がお客様にお伝えしたいことなんだと再認識しました。今回のTW-E5Bでも、楽器メーカーヤマハがつくったイヤフォンでTRUE SOUNDを体感いただき、お気に入りの音楽をより深く楽しんでいただきたいです」(田中氏)。

(協力:ヤマハ)

山崎健太郎