レビュー

“やり過ぎ重低音”に理解が追いつかない!! ソニー「ULT WEAR」を使ってみた

え? Extra Bassシリーズ終了??

終わった……

筆者が長年愛してやまないXB(Extra Bass)シリーズが終わってしまった。どうしてなんだ、ソニーさん……ついこの前XB700への愛を語って、復刻を切望してるって書いたばかりだってのに……うぅ……

と、失意のどん底に居るような気分になっていたところ、同時にXBシリーズに代わる新しい重低音特化のシリーズが出たという情報も耳に入った。どうやら「ULT POWER SOUND」(アルトパワーサウンド)というらしい。

初代XBシリーズを15年近く使い続けている、筆者のような古参ユーザーも満足できるものなのだろうか? というか、XBシリーズを終わらせてまで新しいシリーズを出したというのだから、ユーザーを納得させられるだけの何かがあると信じたい。

そんな思いを伝えたところ、AV Watch編集部からワイヤレスヘッドフォン「ULT WEAR(WH-ULT900N)」が送られてきたので早速使ってみた。

重低音ブーストボタンが特徴だけど、ノイキャンもすごいらしい

送られてきた「ULT WEAR」。その実力や如何に……

基本情報を簡単に整理すると、店頭予想価格は33,000円前後で色はオフホワイト、ブラック、フォレストグレイの3色となっている。今回借りたものはブラック。Bluetooth 5.2準拠で、コーデックはSBC、AACに加えてLDACにも対応しているので、ワイヤレスでもハイレゾ相当の再生ができる。

詳しい内容は後述するが、一番の特徴は重低音のレベルを変えられるという「ULTボタン」。左ハウジング部に着いているので、簡単にモードの切り替えができる。

そして、ノイズキャンセリング機能にもこだわりがあるそうで、ワイヤレスヘッドフォンのフラッグシップ機「WH-1000XM5」と同じ「統合プロセッサーV1」を搭載。左右4基のマイク(フィードフォワードマイク×2、フィードバックマイク×2)で的確にノイズを除去してくれるとのことだ。

と、聞きかじった基本情報をまとめてみたが、筆者は実のところ、ワイヤレスヘッドフォンをガッツリと使ってみるのは今回が初めて。1度はワイヤレス機の購入を考えて探してはみたものの、しっくりくるものに巡り合えず、徐々に手を出す頻度も下がっていって今に至る。

ここ3、4年の機種はほぼチェックできていない、完全に浦島太郎状態で、ぶっちゃけ「なんだかもうすでにすごそう」という薄っぺらい感想しか出てこない。

ワイヤレスヘッドフォン、めっちゃ便利じゃん……

そんなこんなで早速、ULT WEARに触れてみた。結論を先に述べてしまうと、家に居る時でも、外出中であっても、場面を選ばず活躍できるオールラウンダーというのが率直な感想だ。最近のワイヤレスヘッドフォンはこんなに進化していたのかと驚いた。これはワイヤレス機に対する考えを改めたほうがよさそうだ。

ゲームや通話、イコライザー(EQ)を切り替えて楽曲を気持ちよく聴いたりと、まるでヘッドフォンを複数台使っているかのようにこれ1台で幅広く、あれもこれもができてしまう。だが、決して器用貧乏ではない。”重低音に特化”したヘッドフォンという個性はハッキリとしていて、その独自の強みを持ちながらも広くのことをカバーできる。そんな優等生なヘッドフォンという印象だ。

では細かく見ていこう。まずは外観から。普段使っているお気に入りのXB700(XBシリーズ初代/約15年前のモデル)と見比べると見た目がまるっきり違う。ヘッドアーム部分は厚みがあるが、イヤーパッドは半分くらいの厚さになっている。XB700のようなゴツイのも好きなので、どうなのかなと思っていたが、実物を手にしてみると、このスマートなデザインもカッコイイ。

愛用のMDR-XB700と並べてみた。ゴツいのも復活してほしい

しかし大事なのは実用性だ。実はこのイヤーパッドの薄さが懸念していた部分で、以前似たような形状のヘッドフォンを試したときは、耳が擦れたり、メガネをかけた状態での側圧など、あまり着け心地の良いものと巡り会えなかったのだ。

そんな先入観を一度頭から取っ払ってULT WEARを装着してみる。すると、ヘッドアーム部分の厚みが頭にフィットして安定するほか、重量はMDR-XB700(約295g)よりも軽量な約255gということもあるのだが、その重さも良い感じに分散されて長時間着けていても疲れない。

イヤーパッドは、見た目では薄く感じたが、内側の空間が思っていたより広く、耳の入るスペースがしっかりと確保されている。パッド自体も柔らかく、メガネのツルの部分との干渉も気にならない。そのまましばらく使ってみたが、耳の痛みも出ず、まったくストレスなく使えてしまったので、筆者の懸念していたことは全て杞憂に終わった。

使い心地でいうと、NCオンでも30時間再生できる長時間バッテリーなのも嬉しいところ。細めな充電がいらないし、バッテリー残量はスマホアプリで確認できるので、ズボラな筆者でも充電切れを起こすことなく使えそうだ。実際、1日2時間ほど、長い日だと8時間ほど使ってみたが、1週間は充電いらずだった。さらにいざとなったら有線接続も可能だ。

ノイズキャンセリング初体験! こんなに快適だったとは!?

前述したとおり、このモデルにはソニーの1000Xシリーズ等にも使われている統合プロセッサーV1が搭載されており、NC性能も強力だという。

どのくらい強力なのか体験するために、電車移動で使ってみた。外でヘッドフォンを着けることはあまりないのだが、ワイヤレスはどこか気軽に持ち出せる気がする。

電車内は、普段であれば周りの人や車内アナウンスの音に少し気を張ってストレスを感じてしまうのだが、ULT WEARを装着してNCをオンにすると走行音も気にならないくらいに遮音性も抜群。この、周りの人との間に音のクッションが挟まってるような感じがとても落ち着く……。おかげで筆者はこれはもうかつてないくらい公共の場でリラックスしていた。外出先で集中して作業したい人にもオススメだろう。

一方で、ここまで聞こえなくなると目的地を乗り過ごしてしまうのでは? とも思うのだが、そこで活躍したのが外音取り込み機能だ。その名の通り、周囲の音を取り込んでヘッドフォンで聞こえるようにしてくれる、NCとは真逆の機能なのだが、これを切り替えられるのがすごく便利だったのだ。

しかも、イヤーカップを手でおさえるだけで外音取り込みに切り替わるので、アナウンスが鳴っているなと思ったときに手をかざすだけで、その内容が聞き取れる。おかげで、「今どこ? 降りる駅までどのくらい?」と気になってそわそわすることなく目的地に辿り着けた。

筆者が長年愛用しているXBシリーズは15年以上前のモデルなので、もちろんノイズキャンセリング機能は付いていない。確かこの頃は、ウォークマンの本体側などにNC機能が付いていて、専用のマイク付きイヤフォンを使っていたと思うが、今となってはイヤフォン、ヘッドフォン単体にノイズキャンセリングが付いているのだから技術の進歩を感じる。

側面のタップで操作できる「クイックアテンションモード」が便利!!

タッチで操作できるし、有線も刺さる。良いじゃん

とても便利で気に入った機能が「クイックアテンションモード」だ。ヘッドフォン側面にタッチセンサーがついており、2回タップで再生・停止、滑らせれば曲を移動できたりと簡単に操作ができてしまうのだ。さきほどの軽く耳に押し付けれると外音取り込みの切り替わるのもこの機能だ。なんて便利な……

「ええっ!? そんな機能まで付いてるの?! ハ、ハイテク~!」と、15年前から環境が変わっていない筆者は驚きを隠せない。まるで新しいおもちゃを与えられた子供のように色々試してしまう。スマートなデザインにこれだけの機能が詰め込まれてるなんて……すごい、カッコイイ///

スマホアプリの「Headphones」を使えばより細かい設定も可能で、ヘッドフォンのバッテリー残量の確認やノイズキャンセリングと外音取り込みの切り替えも画面の表示を見ながらできるので、今どの機能がオンなのか一目で判断できて、悩まずに済む。

EQを使って音を自分好みにカスタマイズできるのも楽しい。プリセットがいくつか入っているので、モードを切り替えることで簡単に、聴いている曲や気分で音を調整できる。

低音やボーカルを強調したモードで疾走感のあるアニソンも一段とテンションが上がる。"Relax"モードで筆者が大好きな「ARIA」のサントラもゆったりめでいつもより情景が鮮明に浮かび、気分はもうネオヴェネツィアだ。ARIAが好きで作中のモデルとなったヴェネツィアに行った時のことも思い出す。普段気付けない細かな音の発見もあって、聴きなれた曲の新しい一面にちょっと嬉しくなる。DAPとかじゃなくてヘッドフォンでできてしまうの、本当にすごいな。

こんな音初めて! 今までになかった重低音に理解が追い付かない

そして何よりも重要なのが、重低音ブースト機能。そう、ここからがこのULT WEARの本領発揮だ。

モードは「ULT1」「ULT2」の2つ。さらに「オフ」も選択できる。「ULT1」がデフォルトとなっていて、このULTモードは左ハウジングの後ろ側に搭載されたULTボタンで切り替えが可能だ。

ちなみにこのボタン、別名「快感ブーストボタン」。大丈夫なのか? ヤバいやつじゃないのか?

さっそく「ULT1」を聴いてみると、全体を通して重低音とボーカルのバランスが良く、重低音が強調されつつも、ボーカルがクリアに聴こえる。普段使っているXBシリーズは胸の若干下らへんから低域が響く感じなのだが、このモデルは肩と胸の中間辺りから響いてくる印象だ。ここまでの重低音を味わえるとは思っていなかったので驚いてしまう。

正直、今まで試聴したワイヤレスヘッドフォンでここまで身体の内側の方から低域が響くような感覚を味わったことは無く、それが物足りなさを感じていた原因なのだなと理解できた。

ここでふと思う。「ULT1」でこの満足感だったんだ。じゃ、じゃあ、これよりもっと重低音に特化した「ULT2」は一体どうなってしまうのだろう? 恐る恐る「ULT1」から「ULT2」に変えてみる……

「うはぁぁぁぁぁwwwwww⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴⤴ えっ!?!?wwwwww な、えっ???wwwwwww なにこれ!! www めっちゃ楽しい!!!wwwいや、いやいやいや、え? やり過ぎじゃない?やっぱりヤバいやつじゃないかっ! 凄い面白い音出てるじゃん!! いやもう、笑っちゃうくらい楽しいし面白い!」

筆者の脳内のテンションがまさにこのような感じ。今まで味わったことのない重低音に興奮を隠せない。ヤァバい。この音はクセになってしまう。

冷静さを取り戻してしっかり説明すると、「ULT1」でライブ会場で少し後ろのほうの席に居た感覚だったのが、「ULT2」に変えた瞬間、急に最前列に飛ばされたような感覚に陥る。「ULT2」では背後にブワッと広がった重低音の厚にグッと背中を押されるような感覚になるほど音の広がりが強くなる。例えるならば、"音による追い風"を受けているような感覚だ。

"1"・"2"とナンバリングされてはいるものの、この音の変化はもはや段階を踏んでない。景色が一瞬でガラリと変わる。「重低音に特化した」とは聞いていたが、これは二郎系ラーメンのマシマシのビジュアルに似たものを感じる。濃い重低音マシマシだ。先に優等生だと表現したが、正しくは奇才かもしれない。

「ULT」シリーズに納得。背中に感じる重低音の圧が忘れられない

重低音好きの方々にはもちろんのこと、いいヘッドフォンはないかな……と探している方にも、このクセになる重低音を味わってみていただきたい! この音は忘れられない。もう返却してしまったが、あの背中に圧を感じる重低音の感覚が忘れられない。

XBシリーズとはまた違った魅力的な重低音を味わえる「ULT」シリーズにはもう納得をせざるを得ない。このシリーズの刷新には意味があったのだと理解できた。

ULT WEAR単体でも、ワイヤレスヘッドフォンとして、様々な機能をしっかりカバーする優等生的な一面も備えつつ、しっかり尖りまくった個性が出ていて、1度聴けば、その重低音の沼から抜け出せなくなるだろう……。購入すればきっと、手放せない"お気に入り"の1つになってくれるに違いない。

小山葵

“こわさび”と呼ばれている、関東の隅っこに生息する兼業イラストレーター。ひょんなことからライター業も始めたが普段は飲食店勤務。最近の趣味は10年ぶりくらいに再熱した某カードゲーム。