レビュー

金が注目される今“ゴールドCD”に再注目。普通のCDと音が違う?

「ゴールドCD」ってご存知ですか?

安定した資産としてこの数年“金”の価値が高まっている。相場では浮き沈みはあるものの、金が貴重な金属であることには変わりあるまい。我が家にもこの金資産はないものかと、探ってみたのだが……。そうそう、ありましたよ、CDラックの中に。CDの反射膜が一般的なアルミではなく金を用いた「ゴールドCD」が!

ゴールドCDは、音楽CDそのものが生まれて間もない1980年代に登場。主に特別な限定盤の付加価値を高めるべく反射膜に金蒸着を用いたゴールドCDが採用されたケースが多いようだったが、リマスター盤が注目されるようになった90年代以降、高音質ディスクとして採用例も増えていった。

一般的なCDと比べ、ゴールドCDは何が違うのか。

CDは、デジタル音声信号を記録した粒状の溝”ピット”を転写したポリカーボネート基材であり、ピットを読み込むピックアップレーザーを反射させるための反射膜を蒸着させた構造になっている。この反射膜の素材をアルミではなく、粒子が細かく反射特性に優れ、さらに酸化にも強い金を用いたものがゴールドCDだ。

さて、ゴールドCDは金として取り扱ってくれるのだろうか。CMをバンバン流している全国チェーンの某貴金属買取店に行って聞いてみた。

岩「ゴールドCDって、買取できますか。24K蒸着なのですが……」

店:「ゴールドCDといっても、金としての価値は難しいですね。CDとしてなら枚数があれば買取できますが、CDだけではなく、カメラとか一緒にあればまとめて高めに買取できますよ」

岩「いえ、カメラはいいんですが、ゴールドCDは限定盤として出ているものが多いので、プレミア的な価値は……」

店:「すみません、付加価値があるかどうかはこちらではわかりかねます……。ですが、使われていないカメラとかあれば一緒に買取しますよ」

どこまでカメラを買いたがるのか……と圧を感じつつも、まぁ、それなら音楽専門のCDショップの方が良いかと思いつつ、お仕事の邪魔もしてはいけないと考え、丁重に買い取りを辞退して店を後にした。

とはいえ、ゴールドCDは思い入れも強いので、なかなか手放せないという結論に至り、それならばこのゴールドCDにしかない魅力を探すべく、改めて今聴き直してみようと考えた次第である。

そもそもゴールドCDとは

ちなみに今手元にあるゴールドCDで多いラインアップは……

  • モービル・フィディリティ系
  • ソニー・20bit SBM(Super Bit Mapping)リマスター系
  • 93年発売の『カラヤン・ゴールド』
  • 名手スティーブ・ホフマンがマスタリングした「DCC Compact Classics」や「Audio Fidelity」系

……といったところ。

特に所有数が多い、上から3つの種類のゴールドCDについて少し説明していこう。

まずは現在でも精力的にリマスターCD/SACDを手掛けているモービル・フィディリティ(Mo-Fi)。90年代にリリースしたポップス/ロック系の盤には後年高音質盤ではあまり見かけないHM/HR系なども存在していた。以前はユキムが取り扱っていて、取り扱い当初は解説書なども別に用意するなど、高付加価値盤としての存在を強く放っていた。

ソニーのゴールドCDは、国内では『THE COLLECTORS ITEM SERIES』として20bit・SBMリマスター盤が94年に発売された。SBMは、当時最新の機材を用いて20bit精度でリマスタリングしたデータを16bitに落とし込んでいる。

この時期アメリカでは、かつてのレコード時代にも存在したものと同じネーミング『MASTER SOUNDシリーズ』として、ボブ・ラディックらによる20bit・SBMリマスター音源を用いたゴールドCDが日本よりも先行して登場していた。

ソニー系SBMリマスターのゴールドCD、国内盤『THE COLLECTORS ITEM SERIES』。完全シースルーなケースとピクチャーレーベル仕様が特別感を演出。発売当時もう少し欲しいタイトルもあったが、予算が足りず断念…。中古でもあまり見かけないので見つけたら即ゲットと心に決めている

しかし、『MASTER SOUNDシリーズ』のものがすべて国内盤でゴールドCD化されたわけではなく、翌95年に日本では紙ジャケ&一般アルミCDの『SBMマスターサウンドシリーズ』が展開され、こちらにアメリカ盤『MASTER SOUNDシリーズ』の音源が用いられていた。

『THE COLLECTORS ITEM SERIES』の帯とラインナップ一覧。こちらも20タイトルあるが、『MASTER SOUNDシリーズ』と違って、1アーティスト名義で1タイトルに絞って選ばれているようだ
ソニー系SBMリマスターのゴールドCD、アメリカ盤『MASTER SOUNDシリーズ』。こちらは紙スリーブ付きで、その都度外すのが面倒なので別にして保管していたら大半のタイトルで紛失……。国内盤ではゴールドCDにならなかったジャーニー『インフィニティ』やボストン『ドント・ルック・バック』など、魅力的なラインナップが揃う

カラヤン没後に発売された『カラヤン・ゴールド』は、海外では一般アルミCDだったが、国内盤のみ24KゴールドCDとして展開された。

このシリーズの特徴は、録音時のマルチトラックテープに収録された音源を元に、各マイクの距離をデジタル処理で時間的に補正したうえでリミックスを行なう「オリジナル・イメージ・ビット・プロセッシング」が導入されていること。この処理は21bit精度で行なっていたそうで、CD用に16bitへ変換する際にはオーセンティック・ビット・イメージングという処理によって、21bitの精度とダイナミックレンジを収められるよう工夫されている。

オーセンティック・ビット・イメージングはアルゴリズムこそ違うものの、手法はソニーのSBMに近い技術といえる。しかし本シリーズはリマスターではなく、一つ工程を遡ったミックスダウンからやり直しているため、音の純度も高く、シームレスで滑らかなサウンドを堪能できる。

これらゴールドCDは高校時代に少しずつ揃えていったものだが、地元長野県内のCDショップにはアメリカ盤『MASTER SOUNDシリーズ』なんてものはなかなか入荷しない。そこで資格試験や学校見学で上京する折、秋葉原の石丸電気ソフトワンに立ち寄り、高音質CDコーナーにかじりついて予算と相談しながら購入していた。

音が変わるのはなぜか

一般的なアルミ蒸着のCDと同じように、ゴールドCDも記録された1か0のデジタル信号情報が変わるわけではないのに、なぜ音質が変わるのか。これは19年ほど前から登場している高音質CD、SHM-CDやBlu-Spec CD、HQCDとも同じ疑問がわくところである。

ゴールドCDは反射膜素材を変えたものだが、後者となるSHM-CD類はポリカーボネート基板の素材やその純度、製法にこだわり、ピックアップの読み取り精度を高めることを可能にしている。いずれもCDの基本的構造を守りつつ、構成部材のクオリティを上げている。従ってピットに記録された信号が変化するわけでも、読み取ったデータの階調が細かくなるというような変化はないはずだ。

SHM-CDが誕生したばかりのころ、同じデータを従来素材とSHM素材、それぞれでプレスした2枚組サンプラーが登場。聴き比べした折には音質の違いも体感したが、この時感じた音質差はどこからくるのか。

AV Watchでも話題となった秋山真さんと編集部の阿部さんによる、一連の宇多田ヒカルのプレス工場による音質差のレポートの中でも触れられているが、読み込んだデータが違うことで音質が良くなるというわけではなく、ゴールドCDをはじめ、SHM-CDなどの高音質CDは、反射率を向上させることでピックアップの動作、レーザーの読み取り時の負担軽減に繋がり、余分なサーボ電流が流れないことで電源供給も安定して、アナログ回路への悪影響が減るという好循環の上で結果的に音質が良くなると考えられる。

ゴールドCDのサウンドをチェック

比較試聴に用意したのは、同じ時期にリマスタリングを行なったと思われる、ジャーニー『インフィニティ』の国内『SBMマスターサウンドシリーズ』アルミ盤と、アメリカ『MASTER SOUNDシリーズ』ゴールドCDだ。

『MASTER SOUNDシリーズ』のジャーニー『インフィニティ』折り込みジャケットの端に小さく、“Master Sound Edition Mastered by Bob Ludwig”の表記が
同じ20bit SBMリマスター音源を使ったと思われる国内盤とアメリカ盤のジャーニー『インフィニティ』。国内盤『SBMマスターサウンドシリーズ』の方は紙ジャケシリーズとしては最初期のもの。SBMロゴの入った透明スリーブケース付きだ

しかし、試聴をはじめてすぐに問題にぶち当たった。音質傾向は2枚とも近い印象である一方、音量差があり、厳密な検証が困難なのだ。

アメリカ盤ゴールドCDの方が高音圧で、中低域の密度が濃く、エレキギターやベースのむっちりとした艶感がよりリッチに出てくる。

一方の日本盤は音像のキレが良く、リヴァーブの余韻まで見通せる音場の透明感も高い。音量を上げることでアメリカ盤に近しい中低域の厚みが出てくるものの、各パートの輪郭表現は日本盤の方がよりクッキリと出る傾向となる。

SHM-CDのサンプラーのような同一マスター音源を同じ工場、同じマシンでプレスした一般CDとゴールドCDではなく、厳密な検証ができない。仮に同一マスター音源を基にしていたとしてもプレス工場の違いを聴いている可能性が高い。音の善し悪しではなく、音質変化があるということは判明したが、なんとも歯切れの悪い結果となってしまった。

国内盤『SBMマスターサウンドシリーズ』の解説書に、SBMとPDLS(Pure Digital Link System)の説明があった。PDLSはパイオニア製AVアンプとBDプレーヤー間で使われていたもの(PQLS:Precision Quartz Lock System)とは違い、録音から編集、マスタリング、カッティング行程までデジタル信号を高精度に伝送する手法。その取り組みの一つであるULTレーザー・カッティング・システムは、原信号を大容量個体メモリーにバッファさせて回転系の影響を排除する仕組みだ
レコード時代を彷彿とさせるデザインの『SBMマスターサウンドシリーズ』帯。こちらにもSBMとともにPDLSのロゴが誇らしげに記されている

このジャーニーの2枚のディスクを入手したのは、高校生の頃。その当時使っていたCDプレーヤーをソニーCDP-XA5ESへグレードアップした時にもこのディスクを比較試聴したのだった。より上級なCDプレーヤーならゴールドCDの音の違いもはっきりするだろう!と思って聴き比べしたのである。

今回の試聴で問題となるのは、CDP-XA5ESが秋山さんと阿部さんが試聴に用いた「CDP-X5000」と同じ、光学系固定方式のピックアップを搭載したプレーヤーであった点だ。ソニーの光学系固定方式やエソテリック/ティアックのVRDS、パイオニアのターンテーブル方式など、CDの面ブレを抑えたり、ピックアップに負担の少ない機構を搭載したプレーヤーでは、高音質CD系の音質差を感じにくいという。

実際、当時自分自身も何度か同じ曲を繰り返して聴き比べしたものの、幾分ゴールドCDの方がいいかも……という程度の感想しか得られなかった。

ところが、この高校時代の比較試聴で、音質差を明確にする前に気付いたことがあった。

『TOTO Ⅳ』のゴールドCDとリマスター前の通常盤で「アフリカ」を聴き比べていた時のこと。イントロのパーカッションの部分(冒頭3秒ほど経った箇所)で笑い声が聞こえるのである。リスニングポジションでは違いが判らないからとスピーカーの側で聴いていた時に気付いたのだが、よく耳にする心霊現象かと思い、肝を冷やしながらもう一度聴き返しても聴こえてくる……。

この笑い声に関しては通常盤にも入っているし、後年SACDなどで確認しても入っていたので、マスター由来ということなのだろう。ネットでもこの笑い声についての情報を散見するが、スタジオの和気あいあいとした状況をわざと残したのか、実際のところはわからない。

そして現在、改めて色々とゴールドCDを聴き直す中、また新たに気付いたことがあった。Mo-Fi盤のボストン『サード・ステージ』の2曲目「We’re Ready」の後半にあるギターソロ(3分03秒前後)がSHM-CD盤やハイレゾ版と違うのだ。ここも音質差云々ではないのだが、元となるマスターが違うのか、演奏そのものが違うのか……。

ご存じの方も多いと思うが、ボストンのリーダーであるトム・ショルツは完璧主義者で、レコードとライブで全く同じ演奏ができるほど、何度も初めから繰り返して録音を行なっていたという…。この2曲目だけ違うテイクなのかとも考えたものの、そうした事実を確かめるすべはなく、まったくの謎である。

ちなみにボストンに関してはこの『サード・ステージ』まで3枚のアルバムがゴールドCDになっている。4枚目『ウォーク・オン』については、ゴールドCDはおろか、近年までリマスター盤が出ることはなかったのだが、実はMo-Fi盤『サード・ステージ』と同じように、通常CD盤・ハイレゾ版とアナログ盤とで1曲目のイントロにおけるギターが違うのである。

こちらも長年謎だったが、シングル盤を聴いた時にすべてが判明した。アナログ盤の1曲目はシングル盤と同一であったのだ。この4作目は94年発売なので、アナログ盤を聴いたことのある方が少なく、身の回りで誰もこのことを知る人がいなかったのだが、いやはや、ボストンというグループはなかなかに罪作りである。

もしかしたらMo-Fi盤『サード・ステージ』についても「We’re Ready」はシングル化されているので、Mo-Fi盤にはシングル音源が使われているのかもしれない。そう考え、7インチ盤を入手したのだが……。結果、予想的中。Mo-Fi盤とシングル盤は同じミックスのようだ。とはいえ、なぜMo-Fi盤はそうした仕様になっているのか、その真意は未だ不明である。

結局のところ、ゴールドCDは音質が良かったかどうか、はっきりとしたことはわからずじまいであったが、楽曲やアルバムにまつわる気付きを得るきっかけには繋がった。そして何よりゴールドCDの強みは耐久性が高いことにあるだろう。

一般のCDは登場から40年以上経過し、古いものの中にはアルミ蒸着が酸化して反射層が消え、読み込めなくなるというケースが散見される。しかし今のところゴールドCDでそうしたことが起こったという話は聞いたことがない。大事な思い出と共にある音楽を、長年保存できるパッケージとして、まさに値千金といえるゴールドCDの存在は、今後も価値が衰えることはないだろう。

なお、ギターのミックス違いを見つけたMo-Fi盤のボストン『サード・ステージ』他、いくつかのゴールドCDと、通常のリマスターCDとの比較について、6月21日(日)の11時より、『OTOTEN 2026』、ティアックブース(ガラス棟6F G604)での講演で披露する予定である。ハイレゾとも違う当時のリマスターによる音の個性を楽しめるゴールドCDの魅力の一端を会場にて体感いただきたい。

OTOTEN 2026
岩井喬

1977年長野県生まれ。中学生でオーディオに目覚め、高校時代には管球アンプを自作。その後音響系専門学校へ進学し、レコーディングエンジニアを目指す。都内スタジオやゲーム会社での勤務を経て、オーディオ雑誌への執筆を開始。現在は『MJ・無線と実験』『Stereo』『オーディオアクセサリー』『analog』『ステレオサウンド』にて執筆。スタジオ勤務経験を生かした録音現場取材やエンジニアへのインタビュー、またアニメ、マンガのメイキング雑誌での編集・執筆も担当。2010年には萌えイラストとオーディオとの融合を果たした著書『サウンドガール デュオ-音響少女-』も刊行した。