【レビュー】ウォークマンEで“iPhoneと2台持ち”を試す

-デジタルNCで「スマホ音楽」から乗り換えられるか?


新Eシリーズ(NW-E060シリーズ)

 ソニーが2月11日に発売するウォークマンの「Eシリーズ」(NW-E060シリーズ)は、エントリーモデルながら、上位モデルと同様にデジタルノイズキャンセル(NC)機能を搭載したことが大きな特徴だ。

 Eシリーズは、液晶ディスプレイを持つウォークマンでは最も低価格で、2GBモデルなら実売9,000円前後。イヤフォン一体型のWシリーズも手頃だが、こちらはスポーツなども想定した形状と再生機能を持ったモデルなので、ポータブルオーディオとしてベーシックな形はEシリーズといえる。なお、海外ではスティック型のBシリーズという製品も展開されているが、日本では販売されていない。

 ソニーは、Eシリーズで「エントリー層にもいい音を訴求する」、「スマートフォンとの併用促進」という2つの狙いを持っている。同社は独自の「クリアオーディオテクノロジー」に代表される高音質に注力しており、Eシリーズでも低価格だけではない魅力をアピールしている。その進化の大きなものが、今回のデジタルNCの搭載。これで上位モデルにも近づき、各シリーズの差がだんだん縮まってきたようだ。

 想定ユーザーとして、学生などの若年層のほか、スマートフォンでの再生に不満を持つ幅広い年齢層も視野に入れているとのこと。初心者だけに狙いを絞った製品ではなさそうだ。

 「スマートフォンとの2台持ち」となると、楽曲管理などがやや面倒だが、スマートフォンで音楽を聴くのは、バッテリの残量が気になるという人も多いだろう。こうした人に、せっかく別のプレーヤーを持つなら“いい音”のものを、とソニーは提案している。筆者は普段iPhone 4Sを使っているので、Eシリーズは“スマートフォンとの2台持ちで快適に使えるか”を中心に試した。今回、スピーカーが付属したNW-E060Kシリーズを試用している。



■ さらに小さくなった本体。メモリ容量は不満

 Eシリーズの魅力の一つは、コンパクトな本体に必要最低限のボタンを備えた、まとまりの良さだと思う。他にももっと小さなプレーヤーは多いが、Eシリーズの場合、冬に手袋をしていてもほぼ正確にボタン操作ができ、ポケットに入れたまま本体を観ずに操作できるぎりぎりくらいの小ささだ。

 外形寸法と重量は、約77.5×35.5×9.35mm(縦×横×厚さ)、約37g。従来のE050シリーズも小さかったが、さらに小型/軽量化してきた。薄くなったことで、胸ポケットなどに入れてもさらに目立たなくなった。他社製品でいうと、ビデオカメラを搭載していた第5世代iPod nano(90.7×38.7×6.2mm/36.4g)がサイズ的に近い。

 ディスプレイは1.4型/160×128ドットで、従来モデルと同じ。動画は非対応だが、アルバムのジャケットは小さいながらも表示できる。さらに、歌詞表示機能「歌詞ピタ」や、曲調に応じた自動プレイリスト作成/再生機能の「おまかせチャンネルにも対応している。

 エントリーモデルなので仕方ないところもあるが、メモリ容量は2GBまたは4GBと最近のプレーヤーにしては、かなり少ない。もちろん、大容量が欲しければ上位モデルのSシリーズ(8~32GB)などを選べばいいのだが、メモリ容量で分かりやすくクラス分けするのではなく、多少価格が上がっても、このサイズで大容量のモデルがあってもいいと思う。せっかく対象ユーザー層を広げているのに、このメモリ容量だと選択肢から外す人が多くなりそうだ。

 価格は、スピーカー無しのモデルなら4GBでも実売11,000円前後だ。2GBなら実売9,000円前後。スピーカー付きなら、2GBモデルが11,000円前後、4GBモデルが13,000円前後。

左が新Eシリーズ、右が従来モデル(E050シリーズ)。やや薄くなったのが分かるイヤフォン入力/WM-PORT部は底面背面


x-アプリ。ウォークマン本体の色に背景色を合わせることも可能

 ウォークマンへの楽曲転送には、PCソフトの「x-アプリ」、または「Media Go」、「Content Transfer」が対応。そのほか、USB接続したウォークマンの「MUSIC」へのドラッグ&ドロップでも転送でき、8階層までフォルダ作成が可能。Content Transferを使った場合もドラッグ&ドロップで転送できて便利。しかし、前述の歌詞表示や、おまかせチャンネルといった機能に対応しているのはx-アプリだけなので、全ての機能を使うなら、転送はx-アプリで行なったほうが無難だ。なお、本体操作だけでもファイルの削除は可能だ。

 そのほか、moraと連携する「ちょい聴きmora」も搭載。moraにある試聴曲をまとめたもので、x-アプリとの同期時にウォークマンへ転送され、再生できる。


Media GoContent TransferウォークマンのMUSICフォルダへ直接転送することも可能
x-アプリの転送設定画面ウォークマンなどへの転送設定Media Goのセットアップ画面。iTunesフォルダなどからインポートできる

 再生できる楽曲ファイルはMP3/WMA(DRM非対応)/ATRAC/ATRAC Advanced Lossless/リニアPCM/AAC(DRM非対応)/HE-AAC。従来モデルと同様に、FLACには対応しない。

 iTunesでリッピングした楽曲を転送する場合は、ウォークマンはApple Losslessに対応していないので注意したい。Apple Losslessでリッピングしたファイルは、他のAACと同じ拡張子「.m4a」となっているが、x-アプリで読み込もうとすると非対応ファイルとして転送できなかった。フォルダへのドラッグ&ドロップだと、再生できないファイルと表示される。

 ただし、Media Goを使ってApple Losslessファイルを転送したところ、さすがに使えないだろうと思っていたが、ウォークマンで再生できてしまった。なぜだろうとウォークマンでファイル詳細を見ると、自動でMP3/128kbpsに変換されていた。非可逆ファイルにはなってしまったが、ファイル容量が小さくなって再生はできるので、手元にCDなどの音源がもうない場合など、最後の手段としてはアリだ。なお、Media Goではm4aの高ビットレートのままで再生もできた。

 筆者の場合は普段、Apple LosslessとWAVの2種類でリッピングしているので、容量は気になるがWAVファイルを転送した。この点と、iTunes StoreのDRM付き楽曲が転送できないこと(iTunes Plus楽曲は再生可能)を留意しておけば、iPhoneとのライブラリ共有はそれほど難しくは無い。転送方法がいろいろあるのは分かりにくいと感じるかもしれないが、高機能かシンプル操作か、自分に合ったものを選んで使っていくといいだろう。



■ 効果が感じられるNC機能

 Eシリーズは、ウォークマンのクリアオーディオテクノロジーのうち、高域をクリアに再生する「DSEE」、チャンネルセパレーションを向上する「クリアステレオ」、低音の歪みを抑える「クリアベース」を搭載する。この点でみれば、スペック上はSシリーズと同じになったといえる。なお、A/Zシリーズなどとは異なり、デジタルアンプのS-Master MXは搭載しない。

 付属のカナル型イヤフォンで聴いてみる。比較的味付けの薄いiPhoneでの再生に比べると、元気の良さと音の厚みが際立つ。iPhoneに比べて輪郭もはっきりと感じられ、低域の豊かなロックやポップスなどが特に気持ちよく鳴ると感じた。本体/イヤフォンともに、やや全体のバランスが低域寄りだが、イコライザはプリセットの他にカスタム(6バンド)に対応するなど、好みのバランスに近づけることは可能だ。なお、付属イヤフォンは単体販売されている「MDR-NC33」と同等とのこと。

付属イヤフォンは、NC用マイクをハウジングに備えている


デジタルNCの画面

 次は、新機能のデジタルNCを試した。上位シリーズと同様に、NCモードは「バス/電車」、「飛行機」、「室内」の3モードを用意。NCをONにしても鼓膜への圧迫感はほとんどない。「バス/電車」モードを騒音の大きい地下鉄で試したところ、騒音の大部分を占める低いモーター音はほとんど消え、車輪のこすれる高い“きしり音”が時折わずかに聞こえるだけだ。このモデルだけの長所ではないが、改めてウォークマンのNC性能の高さを感じる。これが低価格なモデルにまで導入されたことは大きな進歩といえるだろう。

 例えばPCで録音したラジオを再生した場合も言葉が聴き取りやすく、語学学習にも使えそうだ。また、騒音の大きい中でもボリュームを上げずに聴けるので、耳にも優しい。なお、NCの効き具合を-15~+15の30段階で調整することもできる。

 また、スマートフォンで音楽を聴いているユーザーにとって“奥の手”といえるのが、NCの外部入力モード。これはウォークマン以外のプレーヤーで音楽を再生して、ウォークマンを経由することでNC機能だけを使うという方法。利用には別売の録音ケーブル「WMC-NWR1」(直販1,280円)が必要だが、このケーブルは本来ウォークマンへのダイレクト録音に使うものなので、ユーザーなら持っていてムダでは無いアクセサリだ。

 外部入力自体は、'08年モデルから導入されている機能だが、小型のEシリーズに搭載したことで、他のシリーズなどに比べ取回しやすくなった。それでもケーブルを複数使うので煩わしくはあるが、これで他のプレーヤーでもデジタルNCが使えることはうれしい。なお、衣服などにウォークマンを留められるクリップ「CLP-NWE060」も別売(実売1,500円前後)で用意している。NC機能では、音楽を聴かずにノイズだけを消す「サイレントモード」も用意しており、飛行機などで重宝しそうだ。

 便利なNC機能だが、できれば、必要ないときに簡単にNCをOFFできる操作が欲しい。もっとも、どの画面の時でも本体左側のBACKボタンを長押しするとミュージックのトップ画面に移行するので、そこから十字キーの下を2回押してNC機能に移動、ON/OFFを切り替えるという操作は慣れれば画面を見なくてもできるが、電車を降りた時などにすぐOFFにできて、バッテリを節約できるとさらに便利だろう。

NCのモード選択NCは細かくレベル調整も可能「外部入力モード」を使えば、別売の録音ケーブルを介して、iPhoneの音楽もNC付きで聴ける

 なお、ウォークマンのイヤフォンをiPhoneで使う場合は一つ注意がある。ウォークマンEの付属イヤフォンをiPhone 4Sに挿して聴くと、プラグが正しく接触せず、音が片側からしか出なかったのだ。プラグをわずかに引っ張るとステレオで聴こえるようになるが、完全に挿した状態だと接点がずれているようだ。手持ちの3GSなど、他の機器ではこの症状は無かったが、他のスタッフの4Sでも同じ状態になった。NC用のイヤフォンではあるが、見た目は普通のステレオミニプラグなので、iPhone 4Sユーザーはご注意いただきたい。

 FMラジオも搭載。そのほか、前述した録音ケーブルを使えば、CDプレーヤーなど他の機器からのダイレクト録音も可能で、外部入力と連動するシンクロ録音とマニュアル録音から選べる。



■ スピーカーも改善。小さくても侮れないオーディオプレーヤーに

 NW-E060Kシリーズに付属するスピーカーも試した。このスピーカーはウォークマンの電源で動くポータブルスピーカーとして利用できるほか、付属ACアダプタをつないで再生ながらウォークマンの充電も可能。場所も取らないので、コンパクトな充電台としても重宝しそうだ。

 筐体は小型だが、見た目に比べて迫力のある音が出る。従来モデルのスピーカーに比べ出力をアップ(0.5W→1W)したほか、ワイドレンジ化、明瞭度のアップが行なわれたという。従来はユニットが下向きだったが、新モデルでは前向きになり、前面にグリルを備え“スピーカーらしい”デザインとなった。

 スピーカーのバッフル面はやや上向きの角度がつけられており、机などに置いたとき、音が耳に届きやすくなっている。単体販売しているドックスピーカーなどと比べてしまうとさすがに見劣りしてしまうが、普段は充電に使えて、電源不要で持ち運ぶこともできるので、出張などちょっとした外出にも使えそうだ。なお、ウォークマンのFMラジオを付属スピーカーで聴くことはできない。

NW-E060Kシリーズに付属するスピーカーウォークマンを装着したところ。外部電源無しで再生できるACアダプタをつないで、ウォークマンを充電可能。バッフル面はやや斜め上に向いている

 こうして見てきたように、新EシリーズはNC搭載などで上位モデルに大きく近づき、小型ながら満足できる製品となった。Sシリーズとの違いは、前述したメモリ容量と、動画/静止画/ポッドキャスト再生機能やBluetoothをEシリーズが搭載していないこと。これらよりも本体サイズや価格を重視すれば、Eシリーズは十分魅力的な選択肢だ。

 特に、デジタルNCについては、旧来のアナログNCイヤフォンなどで「耳が圧迫される感じが嫌だ」と思っていた人にも試してほしい。ON/OFFを切り替えても、再生音にはかつてのような大きな変化はない。NC機能が与える音の変化よりも、外部ノイズを減らせるメリットの方が、トータルでは大きいと感じられた。加えて、本体で細かな音質調整も可能なところは、オーディオプレーヤーならではのメリット。ここまでできてこのサイズなら、スマートフォンとの2台持ちも現実的になったといえるだろう。

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ウォークマンE
NW-E062
(2GB/ブラック)
ウォークマンE
NW-E062K
スピーカー付き
(2GB/ブラック)


(2012年 2月 3日)

[ Reported by 中林暁 ]