【レビュー】スマホ充電対応のソニー手回しラジオを試す

非常時だけでなく普段から使える「ICF-B03」


ICF-B03(オレンジ)

 電子情報技術産業協会(JEITA)の統計によれば、ラジオ受信機の国内出荷台数は2011年2月は前年比74%だったのに対し、3月は105%、4月は153%に急増。さらに5月は223%、6月は227%まで伸びた。以降も1月現在まで2桁伸長が続いている。

 これは言うまでもなく東日本大震災の影響であり、3月以降に家電量販店の売り場から多くのラジオ製品が姿を消したのを目にした人も多いだろう。

 電力危機も重なり、その時に見直された製品の一つが、ソニーの手回し充電ラジオ「ICF-B02」だった。ラジオ/LEDライト/携帯電話の充電という非常時に欠かせない機能を持ち、メーカーの予想を上回る大幅な販売増になったという。


本体カラーは全3色

 そのICF-B02の後継機種として2月10日に発売されたのが「ICF-B03」(オープンプライス/店頭予想価格6,000円前後)だ。基本機能はB02と共通だが、新たにAndroidスマートフォンも充電可能になったことが大きな特徴。市場にスマートフォンの割合が急増したことへの対応で、充電ケーブルにスマートフォン用のmicroUSB変換アダプタを同梱している。なお、iPhoneの充電には対応しない。

 ラジオ/LEDライト/携帯電話充電というシンプルな製品で、本誌でよくレビューするAV機器とは違うジャンルのものだ。しかし、読者の多くにとっても身近になったと思われるスマートフォンを、非常時にも使えるかどうか、震災から1年を迎える前に確認してみたい。



■ スマホに1%充電するのは思ったよりタイヘン

 基本機能からおさらいすると、本体に充電池を内蔵し、備え付けのハンドルを回すことで充電が可能。ラジオやライトなどの電源として利用できる。また、単4電池2本でも動作する。

 ラジオは側面のスイッチでOFF/AM/FMを切り替える。上側のノブでチューニング、下側のノブで音量調整が行なえる。天面には伸縮式のロッドアンテナも備えている。チューニングはアナログだが、チューニングノブの回転には適度な重みがあり、細かい調整もしやすい。イヤフォン出力端子も備えている(イヤフォンは別売)。

 外形寸法は130×52×77mm(幅×奥行き×高さ)、重量は285g。片手で簡単に持てるが、「ポケットサイズ」というほど小さくはない。少し前のカセットテープレコーダと同じくらいといった印象だ。

正面スポットライト部側面にボリュームや選局用のノブを備える
ロッドアンテナを伸ばしたところ選局すると同調ランプが点灯電池収納部

 LEDライトはスポットライト/ソフトライトの2種類を搭載。天面のスイッチで切り替えられる。懐中電灯のように前を照らしたい場合はスポットライトを、周囲を全体的に照らしたい場合はソフトライトが有効だ。

スポットライト点灯時ソフトライト点灯時

 そして、もう一つの機能が、携帯電話/スマートフォンへの充電。スポットライトの下部にあるジャックに専用の変換プラグを挿し、スマートフォン用、ドコモ/ソフトバンク用、au用のいずれかを接続して携帯電話などにつなぐ。あとは、ハンドルを回すだけだ。

 充電機能について説明すると、ハンドルは左右どちらの方向に回しても充電が可能。充電中は緑色のランプが点灯する。前述の変換プラグを挿さずに回すと、本体の内蔵充電池へ充電。プラグを挿すと、接続したスマートフォン/携帯電話へ充電する。スマートフォン/携帯電話の充電対応機種は、ドコモ/ソフトバンク/auのほかにディズニーモバイルやイー・モバイル端末も含まれており、詳細は製品情報のサイトで案内している

スマートフォン用のケーブル変換アダプタ。microUSB端子になっている写真上は、ICF-B03に接続するケーブル、下はスマートフォン/携帯電話用の変換アダプタスポットライト部の下に充電用の端子(左側)がある。右はイヤフォン出力
GALAPAGOS 003SHへ充電してみた

 試しに、Androidスマートフォンのソフトバンク「GALAPAGOS 003SH」を充電してみた。接続してICF-B03のハンドルを回すと、すぐに充電状態を示す赤いランプが点いた。

 スペックでは、手回しで5分間充電(1秒にハンドル2回転した場合)すると、スマートフォンでは約3分の連続通話/約30分の待受けが可能。もちろんこれは端末の消費電力によって違う数字になるだろう。

 とりあえず、1%上がるまで回し続けようとしたのだが、思ったよりもなかなか難しい。画面をOFFにした状態で、1秒に約2回のペースで3分間回しても、5分回してもなかなか進まない。結局、1%上がった(24%から25%)のは、8分20秒ほど回した時で、腕もすっかりくたびれてしまった。

 今回使った「GALAPAGOS 003SH」は最新モデルではないが比較的ハイスペックなので、他の機種だともっと違う数値になると思うし、電池のパーセント表示もあくまで目安だとは思うが、少なくともちょっと頑張ればフル充電できるようなものではないことはよく分かった。

 なお、手回しを途中で休んでも充電は行なえるとのことで、ソニーでは「3分間ごとに1分程度の休みをはさんで回すことをおすすめする」としている。無理をして回し続けるのは体にもよくなさそうなので、あくまで補助的な手段としてとらえるべきだろう。

 もちろん、スマートフォンに比べ消費電力が一般的に低いフィーチャーフォンの場合は同じ充電時間でももっと長い待受けが可能。スペックでは、約1分間の手回し充電で、連続通話はスマートフォンと同じ約3分だが、連続待ち受け時間は約90分としている。

 また、別売の単4電池からスマートフォン/携帯電話へ充電することも可能。背面のスイッチで、手回し充電か、電池からの充電かを選べるので、この2つを交互に行なうのが効率的だ。なお、手回しで単4電池へ充電することはできない。また、完全に放電しきった携帯電話/スマートフォンへは充電できない。

 細かい点だが、本体のバッテリへ充電している時と、スマートフォンなどへ充電している時は、わずかにハンドルを回すときの負荷が違うのが感じられた。変換プラグを挿すと、やや軽く回せるようになっているようだ。ラジオなどを聴くときに比べ、スマートフォン充電は長く回し続けることになると思うので、負荷を軽くして長い時間でも回しやすくしているのは、配慮が行き届いたポイントといえるだろう。

 気を付けたいのは、スマートフォンなどへの充電と、ラジオ受信は、スイッチが選択式になっているため同時に行なえないこと。試しにラジオを聞きながら充電用ケーブルを挿してみたが、ケーブルがアンテナの役割をしてしまうためか、大きなノイズが入って聞こえにくくなってしまった。これ以外の「ライト+ラジオ」、または「ライト+携帯充電」という組み合わせなら同時利用は可能だ。

 手回し充電を試していて少し気になったのは、手回しの時に「キュッキュッ」というプラスチックが擦れる甲高い音が混じること。コツをつかめば、そうした音がなるべく出ないように回すこともできたが、長い間ずっと出ないように回し続けるのは難しい。これは個体差もあるかもしれないが、静かな場所でも周りに不快な思いをさせないように改善してもらえるとうれしい。

手回し充電しているところ

 手回し充電については、予想以上にラクではなかったというのは正直な感想だ。普段は“コンセントに挿しっぱなしで、いつの間にか充電されている”というスマートフォンの充電がここまで大変だとは、使うまで思わなかった。

 ただ、これをもって「手回し充電はあまり効率的ではない」というよりも、「スマートフォンは何もしていなくても毎日電気をけっこう使っている」と再認識させられたのも事実。地震などに備えるのはもちろん、子供に携帯電話を持たせている人が「普段当たり前のように使っているけど電気をそれなりに使っているんだよ」ということを、自分の手で回して知ってもらうのにもいいかもしれない。

背面のスイッチで手回し/電池を切り替える底面付属品。緊急用のホイッスル(写真右下)も同梱する


■ 非常時でなくても使えるラジオ

 前述の通り、ICF-B03の充電機能はiPhoneには使えないものだが、iPhoneユーザーとしては、何とか充電する方法がないか探したいところ。まずはmicroUSBからUSB-Aに変換して、Dockケーブルに接続できないものか変換ケーブルを探してみたが、microUSBのメスからUSB-Aのオスというプラグは一般的ではないようで、今回探した範囲では見つからなかった。もっと探せばどこかにはあるのだろうが、それで見つかったとしても、一般的な商品でなければ参考にならないと思うので、選択から外した。なお、iPhoneは、Androidスマートフォンよりも強力な充電機能が必要という話も聞いたことがあるので、プラグがあったとしても充電はほとんどできないかもしれない。

iPhone充電対応のエレコム製バッテリ「DE-A01L-1810」へ手回しで充電

 そこで、周りくどい方法ではあるが、iPhoneに直接充電するのではなく、外付けバッテリへ充電する方法を探したところ、microUSBから充電できるものがいくつかあった。そのうちエレコムの「DE-A01L-1810」は、付属のケーブルでmicroUSB端子から給電し、USB-A端子でiPhoneなどに充電できる製品。容量は1,800mAhで、iPhone 4の場合80%まで充電できるとしている。

 このバッテリのmicroUSB端子に、ICF-B03のケーブルを挿して手回しで充電したところ、充電中の赤いランプが点灯した。これで、バッテリに充電できたようだ。バッテリの残量は数値で表示されないため、実際どれほど貯まったかは分からないが、一度バッテリを放電した後に手回し充電すると、しばらくはiPhone 4Sへも充電できたので、少なくとも充電されていないということは無さそうだ。ただし、あくまで対応機器外なので、メーカーや編集部が動作を保証するものではない。

 ソニーの手回し充電ラジオとしては3世代目ということもあり、そういった細かい点を除けば、完成度が高く大きな不満は無い。スマートフォンへの充電はバッテリを貯めようと思うと大変だが、緊急時の一時しのぎとしては十分に使える性能だった。

 予想以上だったのは、ラジオの受信感度が良いこと。ロッドアンテナだけで問題無くクリアに聞くことができ、チューニングのノブも大きくて細かな調整がしやすい。操作系もシンプルで、幅広い年齢層にわかりやすそうなので、これを機会に自分の親へプレゼントしようと思った。こうした安心感も、国内メーカーならでは。緊急時だけでなく、ライト付きのラジオとして普段から手元に置いておきたい製品だ。

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ICF-B03


(2012年 3月 6日)

[ Reported by 中林暁 ]