【レビュー】BluetoothとNC搭載「Parrot Zik」の実力は?

独自の操作と上質なデザイン。スマホ連携で実力発揮


Parrot Zik

 フランスのParrot(パロット)から、Bluetoothやアクティブノイズキャンセル(NC)機能を搭載したヘッドフォン「Parrot Zik」(ズィク)が7月27日に国内で発売される。

 特徴は、アクティブノイズキャンセル機能(NC)とBluetoothの両方に対応している点で、スマートフォンなどの音楽や通話に利用可能。NCとBluetoothの両方に対応しているヘッドフォン/イヤフォンはゼンハイザー「PXC 360/310 BT」や、ソニー「DR-BT150NC」、12日に発表されたばかりのデノン「AH-NCW500」など、既にいくつか存在するが、まだ選択肢としては多くない。

 Zikは、建築/プロダクトデザインなどで知られるフィリップ・スタルク氏が手掛けた形状も大きな特徴。iPhone/Androidアプリを使った音質設定など、スマートフォンとの連携機能も充実している。価格は39,900円で安価とは言えないが、ちょうどボーズのQuietComfort 15と同じ、ソニーの「MDR-NC600D」の現在の実売価格と同等で、Bluetoothも備えていることを考えれば機能面で引けをとっていない。スマートフォンとの接続を中心に、Zikの使い勝手や音質などを試した。



■ デザイン性の高さが魅力。タッチパッド操作、NFC対応

装着例

 手に取って最初に分かるのは、ハウジングとヘッドバンドのマットな仕上げや、イヤーパッドの肌触りなど、この価格帯にふさわしい質感の高さ。デザインしたフィリップ・スタルク氏が「体の延長線、体の一部のような製品を作りたかった」とした通り、滑らかな曲線と、各所のつなぎ目を意識させない一体感のあるフォルムが特徴的だ。全体的にシンプルな形状だが、手軽さ優先のチープなBluetoothヘッドフォンとは一線を画している。

 本体のハードウェアボタンは電源のみで、それ以外の操作は右ハウジングのタッチパッドまたはスマートフォンアプリで行なうという思い切った仕様。NCやエフェクト機能はデフォルトでONになっており、アプリ無しでは調整できない。Bluetooth搭載機種であっても、Androidではないウォークマンなど、スマホ/タブレット以外の機種では操作が制限されるので注意が必要だ。なお、記事執筆時点でAndroidアプリは公開されていないが、同社によれば、8月初旬ごろには公開されそうだ。

 ハウジングは密閉型。アラウンドイヤー型だがサイズは小さめで、耳の大きい筆者だとオンイヤーに近い装着感になる。ドライバユニットにはネオジウムマグネットを使っている。重量は325g。ヘッドバンドは金属を使っており重量感があるが、装着して疲れるほどではなく、バンドが細いので首に掛けていても負担にはならない。

 スマートフォンとワイヤレス接続するには、一般的なBluetoothヘッドフォンと同様にペアリングを行なう。Bluetoothのバージョンは2.1で、PINコードを入力することなくiPhone 4Sと接続できた。なお、Bluetooth以外に付属のステレオミニケーブルを使った有線接続もできる。

 BluetoothのプロファイルはA2DP/AVRCP/HFPに対応。SCMS-Tの著作権保護はサポートしないため、ワンセグ音声をワイヤレスで聴くことがはできない。また、Bluetoothのapt-Xコーデックにも対応しない。

ハウジング、ヘッドバンド部ともに光沢の無い落ち着いたデザインで高級感があるイヤーパッド部


 

NFC対応のGALAXY NEXUSでペアリングしようとしたが、エラーになった

 ユニークなポイントとして、Android端末とのBluetoothペアリングにはNFCを使うことも可能。対応端末を左ハウジングの外側にかざすことで認証できる。

 試しにグローバルNFC対応の「GALAXY NEXUS」をかざしたところ、認識はされたようだが「タグの種類が不明です」と表示され、ペアリング完了には至らなかった。同社によれば、先日発表されたばかりのAndroid 4.1(Jelly Bean)からの対応とのことだ。ただ、ペアリングは1度行なえばいいものなので、NFCが使えなくても、通常通りBluetoothをONにして検出された機器からZikを選べば問題は無い。

 特徴となるタッチ操作は、右ハウジングを利用する。音楽再生時は、ハウジング外側を上/下になぞるとボリューム増/減、前/後になぞると曲送り/戻しを行なう。ボリューム増減はiPhoneなどのプレーヤー側を操作するのではなく、ヘッドフォン側で音量を増減するものだ。また、1タップすると一時停止/もう一度タップすると再生に戻る。

 さらにユニークなのは、Bluetooth接続したままヘッドフォンを耳から外すと、再生が一時停止すること。イヤーパッドにあるセンサーが耳から離れると止まり、また装着すると自動で再生するという仕組みだ。

 タッチ操作のボリューム増減や曲の送り/戻し、一時停止については、どの操作をしても操作音が同一なので、実際に一時停止したのか、曲を送ったのか、ボリュームを下げたのかがわかりずらいときもある。また、ハードウェアのボタンを無くすという意図があったとはいえ、NC機能のON/OFFボタンはあっても良かったと思う。なお、NCのON/OFFには後述するスマートフォンアプリを利用する。


ボタンは電源のみ。ステレオミニ入力と、充電/ファームアップ用のUSBも備える右ハウジングをタッチして操作ヘッドフォンを外すと再生が一時停止する


■ NCと音質の特徴

 装着すると、側圧は適度だが、イヤーパッドの柔らかさもあって密着感が高く、電源を入れる前から「耳を塞いだ」と強く感じられるほどの遮音性がある。ヘッドバンドにはクッションが設けられているものの、そのクッションは一般的なヘッドフォンより固めの感触だ。電源をONにするとNCが動作。それまで聴こえていた空調などが聴こえなくなる。NC用のマイクは左右ハウジングの内側と外側、計4個搭載。外部の騒音だけでなくハウジング内部に侵入した騒音にも対処することで、最大98%までノイズを低減可能としている。

アプリでNCのON/OFFなどが行なえる

 NCヘッドフォンの多くは、ONにしたとき鼓膜に多少の圧迫感が生じるが、最近のウォークマンなど一部製品では圧迫感が驚くほど無くなってきた。こうした最新機種に比べると、ZikのNCで起きる圧迫感は強めで、NCに慣れていない人には違和感があるかもしれない。ただ、長時間で負担になるほどではなかったため、地下鉄などの騒音下に比べれば、十分に快適な中で音楽が聴けるだろう。地下鉄乗車中は、騒音の大部分を占める低いモーター音はほとんど聞こえなくなり、車輪の擦れる音など高域のノイズが時々入ってくる程度。ホームで動いているエアコンやエスカレーターの音もほとんど聞こえなくなり、NC無しのヘッドフォンではかき消されてしまう音楽の低域部分が、しっかりと感じられた。

 なお、NCはデフォルトでONになっているが、iOS/Androidアプリを使ってOFFにすることも可能。また、音楽を聴かずにNCだけをONにすることもできる。NC機能とBluetoothの両方をONにすると、連続使用時間は6時間とあまり長くないが、NCのみなら約18時間。飛行機などで長時間移動する時にも片道で使えなくなることはなさそうだ。なお、ボーズ「QuietComfort」は単4電池1本で約35時間、ソニー「MDR-NC600D」は内蔵バッテリで約15時間。

 iPhone 4Sの楽曲で、Bluetooth接続、NCやイコライザなどをOFFにした状態から音質をチェックした。音のバランスは、低域がやや強め。女性ボーカル・Sara Gazarekのアルバム「Return to You」にある「Hallelujah」は、しなやかながら芯の強いハスキーなボーカルと、徐々にせり出してくる厚めのストリングスが魅力だが、Zikではその両方が損なわれず伝わってくる。ただし、最低音が深いというよりも「力で押してくる」印象が強い。高域はというと、それに負けて足りないわけでは無く、John McLaughlin「To The One」の1曲目「Discovery」で刺さるようなシンバル/ハイハットの早打ちなど、要所をきちんと鳴らしているところも感じられた。

 ただ、どの音楽ジャンルにおいても「ここまでベースやバスドラムが出てこなくても……」と思う部分はあった。また、ボーカルの息づかいや、弦1本1本の解像感といった細かな描写では、聴きなれている曲だと物足りなさも感じた。一方、テクノ/ダンスミュージックなどの電子音を気持ち良く鳴らし、音楽に没頭できるパワーはある。この製品は静かな室内よりも外で聴くことが多いと思うので、このような音質のバランスは理解できる。特に、手持ちのヘッドフォンの低音の迫力に不満があるという人は、店頭などで一度その実力を試してもらいたい。

 有線で聴くこともできるので、試しに付属のステレオミニケーブルを挿して聴いてみた。Zikの電源がONの状態だと、有線/無線どちらにしてもプレーヤーとは独立したボリューム調整ができる。同じヘッドフォン側の回路を通しているためか音の違いはほとんど感じられない。しかし、電源をOFFにすると、それまでの曲全体を包み込むような分厚い低音ではなく、各帯域がより素直に聴こえてくる。騒音があまり無い場所なら、有線で聴く方が個人的には好みだ。


動作中は電源ボタン部が白く光る。この光の明る過ぎないところは好感が持てる装着して上から見ところ付属品のケーブルやポーチなど


■ スマホアプリを使って独自の音質調整が可能

 基本的な音の傾向は上に述べた通りだが、この製品は、スマートフォンアプリによってすべての機能が使えるようになる点も特徴。パロットが無償提供しているiOS/Androidアプリ「Parrot Audio Suite」を使えば、独自機能の「Concert Hall Effect」により音の聴こえ方を調整可能。7バンドのイコライザも利用できる。なお、アプリは英語だが、アイコンやイラストも多いので操作に迷うことは無いだろう。

 「Concert Hall Effect」は、ヘッドフォンに搭載するDSPを用いて、左右の音の広がりを調整できるもの。一般的なヘッドフォンの“左右から聴こえる音”を、前方から聴こえるように再現することで、「コンサート会場にいて目の前で奏でられるような感覚を味わえる。自然な聴こえ方のため、長時間利用した場合の聴き疲れも抑えられる」とのこと。デフォルトではONになっているが、OFFにすることも可能。なお、前述の音質チェック時はこの機能もOFFにしていた。

 このエフェクトがONの状態だと、OFF時に比べて音像がやや上に持ち上がり、さらに上下へ広がったように感じる。プリセットはSilent Room、Living Room、Jazz Club、Concert Hallの4種類で、この順で音場がだんだん広くなっていく。さらに、各プリセットモードで左右音源の仮想位置を30度~180度(Silent Roomは150度まで)の範囲で、30度単位で調整できる。180度だと音が真横から聴こえるが、狭くしていくと音が前方からになり、頭内定位も真ん中に近くなる。あまり広げ過ぎるとぼやけてしまうので、個人的には60度~90度あたりがちょうどよく感じた。

Concert Hall機能の画面。これは180度方向に広げた場合30度という狭い範囲にすることもできるプリセットのSilent Roomモードで、90度の範囲に指定Jazz Clubモードで120度に指定

 イコライザはプリセットでVocal、Pop、Club、Punchy、Deep、Crystalという6種類があり、Userモードでは7バンドを個別に調節できる。この調整は音楽以外の動画やゲームなどのアプリでも適用できる。特定のジャンルを聴くときや、音のバランスを変えたくなった場合などに利用するといいだろう。

 そのほか、このアプリにはZikのバッテリ残量表示機能や、各機能のヘルプページなども用意されている。前述の通りNCのON/OFFはヘッドフォン本体では行なえず、アプリ側からのみなので、Zikを使う場合は必須のアプリと言えるだろう。

 Zikはマイクも内蔵し、スマートフォンで通話も可能。ハウジングには通話用のマイクのほか、骨伝導センサーも内蔵。通話時にマイクからの声だけでなく、骨伝導による振動を分析して話し声と合成して相手に伝えられる。同社がZikを「スマートフォンの延長」と称した通り、音楽/通話ともにスマートフォンに最適化されたヘッドフォンといえる。

プリセットイコライザ画面の例
ユーザーモードで調整/登録することもできる
Zik本体のバッテリ残量を確認できるアップデータの有無などを確認可能ヘルプページに操作方法も載っている

 Zikは操作系も独自だが、使っていると、耳から外した時に再生が止まる機能が便利だ。人から話しかけられた時や、買い物でレジをしている時など、外している間だけ止まるというのが分かりやすい。外した瞬間に止まるわけではないが、外して1秒強で止まり、つけるとまた1秒ほどで再開する。NCヘッドフォンは飛行機でもよく使われるが、とっさに外すことも多いので、いちいち再生を止める必要が無いのはうれしい。

 専用アプリのユニークさや操作の工夫もあり、使っているうちに、ただのNC/Bluetoothヘッドフォンにはない魅力がところどころに感じられる。音質は、原音への忠実さを追求するのとは違ったアプローチだが、街中や電車内など「悪条件下でも音楽の良さを損なわない」と考えればこれも一つの解だろう。シンプルながら高級感のあるデザインで、出張などの長時間移動時にもスマートフォンと合わせて持ち運びたくなる製品に仕上がっている。



(2012年 7月 27日)

[ Reported by 中林暁 ]