レビュー
会社帰りに耳型採取、カスタムイヤフォンが身近に。ビックカメラでWestone「ES60」をオーダー
(2014/11/25 00:00)
一見同じようで、よく見ると人によって大きく違うのが耳の形。それぞれの人の耳に合わせて製作されるイヤフォンが「カスタムイヤフォン」、または「カスタムインイヤモニター(カスタムIEM)」と呼ばれるものだ。普通のイヤフォンに比べ高価であり、作るには事前に耳型を採ることも必要。憧れはあっても購入には踏み切れない……という人もいることだろう。この状況が大きく変わったのが今年9月。ビックカメラが、米Westone(ウェストン)のカスタムイヤフォンを取り扱い始めたのだ。家電量販店でカスタムイヤフォンを買える時代がこんなに早く来るとは思っていなかったが、本当に“究極のオーダーメイドイヤフォン”が気軽に作れるのか、ビックカメラ有楽町店を訪ねて実際に注文してみた。
カスタムイヤフォン55年以上のWestone製品が、会社帰りでも購入可能に
「イヤモニター」というだけあって、もともとはアーティストがステージで演奏する際に、必要な音だけを聴き取るモニタリング用に生まれたカスタムイヤフォンだが、最大の特徴である遮音性の高さや、“アーティスト御用達”であることなどを背景に、プロだけでなく、オーディオファンのリスニング用としても少しずつ広まり、対応メーカーの数も増加。10月の「秋のヘッドフォン祭」でもいくつか新規参入メーカーが登場したのも記憶に新しい。とはいえ、耳型を採取してから製作するというのは、まだ一部のマニアだけのもの、と考える人は少なくないだろう。
そんな中、ビックカメラは米Westone Laboratoriesのカスタムイヤフォン製品の取り扱いを9月12日より開始。同一店舗内でデザイン選択から耳型の採取、完成品の受け取りまで一貫して行なえるのは家電小売業界初ということもあり、業界的にも大きな反響があった。取扱店舗は有楽町店、池袋本店、渋谷東口店の3店舗で、対象となるカスタムイヤフォンは、Westone ES60、ES50、ES30、ES20、ES10の5製品。ビックカメラにおける価格は74,800円(ES10)~177,800円(ES60)。これにポイント(現金の場合通常10%)も付く。
Westoneはカスタムイヤフォンで55年以上という歴史を持つメーカー。ナタリー・コール、エアロスミス、ロッド・スチュワート、マドンナなどここで挙げるにはキリがないほど、数多くの名だたるアーティストが同社のカスタムIEMを作成している。日本でもへヴィーメタル界の重鎮・LOUDNESSボーカルの二井原実氏ら多くのミュージシャンが愛用している。同社はカスタムイヤフォンだけでなく、イヤーピースを装着する一般的な“ユニバーサル型”イヤフォンも展開。モニター向け「UM Pro」シリーズや、コンシューマ向け「Wシリーズ」などの幅広いラインナップを持つ。
Westoneのカスタムイヤフォンは、一人ひとりの耳型にあわせて、米コロラド州にあるWestoneの工場で職人により1つずつ手作りされる。バランスド・アーマチュア(BA)×6ドライバのES60からシングルドライバのES10まで選択可能で、取り扱うカスタムイヤフォンは60種類以上のボディカラーや30種類以上のフェースプレート、アートを組み合わせてデザインできる。
カスタムイヤフォン作成のために必要な耳型の採取(インプレッション)は、店内で補聴器などを扱う「ビックコンタクト」で行なう。採取にかかる時間は約30分で、価格は3,980円。一般的に、耳型採取の相場は5,000円前後とされているので、割安感がある。耳型採取の料金にも、ビックカメラのポイントが付く。
店頭でオーダーしてから商品に受け渡しまでの時間は、時期によっても異なるが、だいたい約2~3カ月とのことだ。
モデル名 | ドライバ構造 | 再生周波数帯域 | ビックカメラでの価格 |
---|---|---|---|
ES60 | 6基 3ウェイ (低域×2、中域×2、高域×2) | 8Hz~20kHz | 177,800円 |
ES50 | 5基 3ウェイ (低域×1、中域×2、高域×2) | 8Hz~20kHz | 149,800円 |
ES30 | 3基 (低域×1、中域×1、高域×1) | 20Hz~18kHz | 137,800円 |
ES20 | 2基 (低域×1、高域×1) | 20Hz~18kHz | 107,800円 |
ES10 | 1基 | 20Hz~18kHz | 74,800円 |
ビックカメラでカスタムイヤフォンを作るまで
ビックカメラ有楽町店で説明を受けながら、実際にカスタムイヤフォンを作ってみた。まずは、Westone製品などがある1階オーディオコーナーへ。ここは各社イヤフォンのほかに、ポータブルオーディオプレーヤーやヘッドフォンアンプといった製品も置かれている。オーディオコーナーの大内幸弘主任に話をうかがいながら、実際の購入までの手続きを行なった。せっかくオーダーメイドで作るので、今回選んだのは最上位モデル「ES60」。6ドライバを搭載した究極モデルであり、これが自分に合った形になると考えただけでも気分が高まってくる。
改めてカスタムイヤフォンについて説明すると、イヤーピースなどを介して装着する一般的な「ユニバーサル型イヤフォン」とは異なり、筐体(ハウジング/シェル)そのものを個人の耳穴/耳介の形に合わせて製作するため、その人の耳にピッタリ合ったイヤフォンが作れるのが特徴。前述した通り、アーティストなどがステージ上で音声をモニタリングする際に、周囲の騒音やほかのモニタースピーカーなどに邪魔されず必要な音だけを聴けるように作られている。人の耳の形は様々なため、イヤフォンから出る音が一部が失われたり邪魔な音が入ったりせずしっかり鼓膜まで届くようにするには、耳穴へのフィット具合はとても重要。あらかじめ耳型を採って製作されることから、他の人には使えない、まさに自分だけのオーダーメイドイヤフォンだ。
ビックカメラ有楽町店でのイヤフォン作成までの流れを簡単にまとめよう。まず店頭1Fの受付コーナーで、専用のオーダーシートにカラーやプレート(ハウジングの外側に配する板)の色やデザインなどを選択して書き込む。そのあと6Fのビックコンタクトへ移動して耳型を採ってもらい、1Fで会計を行なう。そこから代理店を経由してWestoneへオーダーされ、できあがったイヤフォンをビックカメラ店頭で受け取るという形だ。
全体の期間は前述の通り2~3カ月だが、ビックカメラ店頭での手続きと、耳型採取は1回の来店だけで済ませられる。大内さんによれば、希望のデザインが決まっていれば、早ければ30~40分ほど、悩む人でも1時間~1時間30分くらいで店舗での手続きは終了するとのこと。
とはいえ、高額な商品でもあるのですぐには決められないという人もいるだろう。大内さんによれば、2、3回の来店で決めるという人も少なくないそうなので、まずはデザインなどをチェックするといった軽い気持ちで来店してみるのも良さそうだ。
さっそく有楽町店内にあるWestoneのコーナーへ足を運んでみると、大きなショーケースを使って、カスタムイヤフォンについて案内しているコーナーがある。そこにはカスタムイヤフォンの作成例や、耳型のサンプルなどが展示されている。シェルのカラーを選べるといった点も案内されている。
ショーケース内には、試聴用にES60と同じBA×6基構成のイヤフォンが置いてある。これは実際のカスタムイヤフォンそのものではないが、誰でも装着できるようにユニバーサル型と同じくイヤーピースを介して装着できるようにしたものだ。ES50など他のモデルを試したいという人には、ユニバーサル型のUMシリーズやWシリーズで、同等のドライバ構成のモデルが置いてあるため、各モデルの傾向の違いなどを確かめられそうだ。
ここからは実際の購入手続きへ。まず1Fの専用カウンターで、同意書などにサイン。オーダーメイドのため、注文後のキャンセルなどはできず、最近、耳の病気にかかった場合などは注文できないので注意したい。通常のイヤフォンとは遮音性などが大きく異なるため、使用上の注意なども案内される。なお、購入後の変更はできないが、作成後に違和感などがある場合は、30日間は無料で調整できるとのことだ。
その次はデザイン選び。シェルは透明な「トランスルーセント」のほか、「オパーク」や「メタリック」、「スパークル」、「スワール」、「アイス」といった種類があり、それぞれに豊富なカラーを用意する。表面にフェースプレートを着ける場合はそのデザインも選択。一部のベーシックなプレートは無料だが、カーボンファイバーやウッド、クリスタルといった素材を選ぶ場合は別料金となり、種類によって料金は異なる。プレートにWestoneロゴを入れることもでき、そのパターンも「W」や「W+Westoneロゴ」、「Westone+モデル名」といったパターンから選べる。
さらにこだわりたい人は、プレートに手持ちのイラストや写真などをデザインすることも可能。あらかじめデータを持ち込んで、追加料金を支払うことで受け付けてもらえる。本体だけでなく、ケーブルもブラック/クリア/ベージュから選択可能。長さは132cmまたは163cm。マイク/3ボタン付きも選べる。有償で、極細ケーブルも用意する。
カスタムイヤフォンならではの楽しみの一つとして、左右でデザインを変えるといったこともできる。例えば右のシェルを赤、左を青にすればモニターっぽい仕上がりにできるし、ロゴだけを左右変えても、パッと見て左右を判別しやすくできる。今回は個人的な好みで、シェルは少し派手に赤(キャンディレッド)にしたが、プレートはオーソドックスにブラックとし、ロゴはオレンジというWestone伝統カラーを選択。ロゴのデザインは右が「W」、左が「Westone ES60」としてみた。シェル、プレート、ロゴと数多くのパターンが選べるので、デザイン的にも“オーダーメイドの満足感”が得られる。
実際の仕上がりを確認したいという人は、来店する前に、Westoneの代理店であるテックウインドのサイトで案内されているものを参考にして欲しい。また、Westoneのサイトにあるカスタムシミュレータ(英語)で試してみるのも良さそうだ。
なお、Westone製品は、12月20日(土)と21日(日)に秋葉原で開催される「ポタフェス 2014」(ポータブルオーディオフェスティバル 2014)にも出展。こういったイベントの会場でも体験可能となっている。
耳型採取は、あっけないほど簡単に
次はいよいよ耳型の採取。ここからは6Fのビックコンタクトへ移動する。担当してくれたのはビックコンタクトの渡部勝行さん。
まずは、耳型を採る前に耳掃除。筆者は今回に備えて家でも一応しておいたつもりだったが、ここでも綿棒を渡してもらって念のために掃除する。耳垢が多く残っていると、正確な型が取れないためだ。ここでの掃除は自分で行なう。渡部さんにチェックしてもらったところ、問題ないとのことだったので、さっそく耳型採取をしてもらった。
型を取るために、素材を耳へ注入するのだが、その前に発泡スチロールでできたブロック状のものを噛む。これは「バイト(噛む)ブロック」と呼ばれるもので、口を開けた状態にすると耳穴もわずかに広がり、それに合わせたサイズの型が採れる。ボーカリストが歌うときもフィット性が損なわれないというわけだ。
ビックコンタクトでは、補聴器とカスタムイヤフォンで、耳型を採るときの基本的な流れは共通だという。大きな違いは、イヤフォンの時のみ前述のバイトブロックを噛むという点と、Westone側のオーダーとして、耳の上部「へリックス(耳輪)」という部位まで型を取るという点。ビックコンタクトは、耳型採取のノウハウを補聴器で既に持っていたが、今回のカスタムイヤフォン受注開始にあたって、テックウインドの協力でイヤフォンの耳型を採るための研修を実施したという。
そして、耳型を採る素材を流し込む工程へ移るのだが、その前に、耳型の素材が耳奥へ入り込みすぎないように栓をする。小さなスポンジのようなものに糸がついており、これを耳穴の奥へ入れてもらう。そして、耳型を採る素材の注入へ。専用の材料を混ぜると粘土のような状態になり、これを注射器のような器具で押し出しながら耳穴へ入れていく。混ぜてから手早くしないと素材が固まってしまうが、これまで補聴器などの耳型採取の経験を持つ渡部さんは慣れた手つきで素早く注入。次第に周りの音が聴こえなくなってきた。実際は片耳しか塞がっていないが、思いのほか大部分の音が聴こえなくなっていくのに驚いた。少し離れた周りで人が話していても、意識をその方向へしっかり向けないと、ほとんど話している内容がわからない。普段は両耳で聴いて理解しているのだということを改めて感じた。
ただ、耳が聴こえない以外は大きな違和感は無い。水に潜っているのに似た状態だとは思うが、もちろん気圧が上がっているのとは違うので特に圧迫される感覚はしない。5分ほどすると固まり、型を抜いてもらう。抜くときには、もしかしたら鼓膜が引っ張られるような感覚になるのかと予想していたが、渡部さんが耳たぶなどを軽く触ったと思うと、拍子抜けするほどあっさりと型が抜けた。
当然ながら同じ人でも左右で耳の形は違うので、左右ともに同じ作業を行なう。Westoneでは、1つのカスタムイヤフォンを作る際に、念のため耳型を左右2個ずつ採っている。こうしておけば、採取中に不意に動いてしまった場合なども、2つの違いを比べることで、より正確な型にできるためだ。採取中に特に気を付けることなどがあるかどうか渡部さんに尋ねてみたが、口などを動かさないようにすること以外は、あまり気にしすぎる必要はないとのことだ。
ビックカメラが、Westoneのカスタムイヤフォン受注開始を9月に発表して以来、新聞などに取り上げられた効果もあって、反響も大きかったという。一般的に、カスタムイヤフォンは店舗で購入する際に、提携する別の補聴器取扱い店などで耳型を採取するというケースも多く、欲しいと思った時にすぐ買える環境はまだ少ないのが現状。
ビックカメラ有楽町店は通常21時まで営業しており、同店舗内にあるビックコンタクトには、耳型を採れるスタッフも常駐。例えば平日の会社帰りに立ち寄っても、耳型から注文まで一括して対応してもらえるというのはかなり便利。カスタムイヤフォン購入のハードルはかなり下がったと言えるだろう。
ご存じの通り、ビックカメラには数多くのメーカーのユニバーサル型イヤフォンも販売されている。商品を大量に仕入れることにより品揃えや低価格を売りとする家電量販店が、購入までに耳型採取も必要なカスタムイヤフォンを取り扱うというのは意外に思えるが、同社がカスタムを始めたのには、いくつかの理由があった。
前述の大内氏によれば「ハイレゾのブームによって、比較的高額なイヤフォンが好調です。それに伴って、より専門店としての幅を広げるための取り組みの一環としてカスタムイヤフォンの取り扱いを始めました。この機会に、多くの方に来店、試聴いただきたい」とのこと。量販店であると同時に数多くのイヤフォンが試せる“専門店”でもある同社は「求められる商品は何でも扱い、コアなファンにも応えたい」との想いからこの取り組みをスタートさせたという。
実際にサービスを始めたところ、最初のほうは、カスタムイヤフォンについて詳しい人が購入していったそうだが、例えば「ICレコーダを使っていて、録音したものをしっかり聞きとりたいから」といった理由でカスタムイヤフォンを注文する人もいたそうだ。ショーケースにあるデザインの豊富なサンプルをカップルが眺めているといった光景も見られるという。
「高音質なものは、以前よりも身近になってきました。特に、昨年発売されたウォークマンF(NW-F880シリーズ)などをきっかけに、より多くの方がハイレゾを聴ける環境が整ってきました。当店ではハイレゾプレーヤーのコーナーも展開しており、値段も5万円前後の製品が増え、前に比べて手に持っていただける機会も多くなってきました。新しいウォークマンA(11月7日に発売したNW-A16/A17)にもかなり手ごたえを感じています。最近はiPhoneでもHF Playerアプリ(オンキヨー製)などで、ハイレゾを楽しむ方も増えてきました。イヤフォンの種類が増えてきたこともあって、そこからカスタムへのランクアップもご案内できると考えています」(大内氏)。ハイレゾの広まりが、店舗の商品展開にもこれまでにない変化を起こしたようだ。
“自分仕様のイヤフォン”を聴いてみた。装着感も予想以上
注文してから、どんな仕上がりになるかと待ち遠しかったが、ようやく出来上がったとの知らせがあり早速受け取った。専用のモニターボルトケースに入っており、オーダーフォームに記入した名前入りのプレートがタグとして付いている。まさに自分専用品を購入したという実感が湧いてくる。
ケースの中には、イヤフォン本体のほか、クリーニングツールやクリーニングクロスなどが同梱。長く使える製品であることが分かる。はやる気持ちを抑えつつ、耳へ装着。普通のイヤフォンよりも耳穴へ入れる部分が長く、曲がっているため、最初はどう入れようかと思ったが、手にもって、若干下へ回転させた状態のまま耳へ入れた後に少し手前側へひねるようにするとうまく入った。耳に塗布する潤滑オイルも付属しているので、最初うまくいかなかった場合はこれを使ってみても良さそうだ。
初めてのカスタムイヤフォン装着だったこともあり、正直なところ「ここまで耳を塞いでも大丈夫なのか? 」と少し落ち着かない感じがした。ところが、しばらくすると違和感がなくなり、耳になじんでくる。単に耳が慣れただけかと思ったが、実はこのシェルの耳穴に入るカナル部分には、耳の温度によって柔らかくなる「Flex Canal」という独自のシリコンを使用。これは他のメーカーには無いものだという。耳から外して、耳穴に触れていた先端部分を指でつまむと形が少し変わるほどに柔らかくなっている。冷えてくるとまた元の固さに戻るので、形そのものが変わったわけではないようだ。いかにも固そうな見た目だが、細かな工夫で装着性を向上させている。イヤモニター専業メーカーとして55年の歴史を持ち、プロに選ばれ続けている理由の一つを実感できた。
最初に驚くのは、今まで味わったことのないほどの遮音性。耳穴にただ栓をするのとは違って、耳全体をフタするように装着することもあって、少しの雑音も入ってこない。エアコンなどの音も聞こえず、シンとしていて不思議と気分も落ち着く。
アクティブノイズキャンセリング(NC)のイヤフォンを着けたときともまた違う。最近のNCイヤフォンは、昔に比べてONにしたときも大きな圧力はないが、それでもOFFからONにすると僅かに感覚は変わる。カスタムイヤフォンの場合は、鼓膜への圧迫感は感じることなく、とにかく雑音の入る隙間を完全にふさいだという状態。
今回は、プレーヤーとして新しいハイレゾ対応ウォークマンの「NW-A16」や、'13年モデル「NW-A887」、iriver Astell&Kernの「AK240」などを主に使用した。
音楽を流すと、プレーヤーを問わずにまず感じるのは、かなり微細な音までしっかり再現している点で、これは遮音性の高さが大きく寄与しているのだろう。また、低域/中域/高域に各2基という計6ドライバが、体の芯に響く重低音から煌びやかな高域まで高い解像度で描き分けている。
クレモンティーヌ「君をのせて」(ドリーム・シネマ -リラクシング・スタンダード・コレクション-より)を聴くと、わずかに変わる息遣いの強弱が手に取るように分かり、耳元で歌っているようなリアルさがある。これは決して音場が狭いという意味ではなく、密閉した空間なのに不思議とゆったりした広さがあり、その中で個々の音が膨らみすぎずタイトに描写されている。山中千尋によるセクステット(6人編成)の「Somethin' Blue」(Blue Note 75周年のアルバム/「Somethin' Blue」より)は、各メンバーが生み出す音の定位が明確ながらも、バラバラにならず広い空間の中で一体化しているのがわかる。
イーグルス「ホテル・カリフォルニア」には、イントロで重低音の沈み込みが一段と深く感じられる。遮音性の高さで低音が逃げないというだけでなく、描写がシャープなことからドラムのキレが一層増したように感じた。
このほかにも、例えば曲によってはギターでスライドするときのキュッという音が、今まで気づかない場所に入っていたのを発見したこともあった。いいヘッドフォンやスピーカーに出会うとよくあることだが、聴き慣れた曲が今までとどう違って聴こえるかを確認するため古い曲を引っ張り出したり、今まで手を出していなかったジャンルのハイレゾ曲をつい衝動買いしたり、このイヤフォンをきっかけとして音楽に多くの再発見ができた。「正確に鳴らす」というモニターイヤフォンに必須の性能だけでなく、広い音場で表現するオーディオ的な要素もしっかり兼ね備えており、音楽ジャンルを問わず、曲の“聴かせどころ”をうまく引き出していることを感じた。
便利な使い方としては、喫茶店などで本を読むときにも、周りの話し声などを気にすることなく、自分の好きなBGMで本に没頭できる。周囲の音が聴こえないため、歩きながらの使用は安全面から推奨されていないが、ちょっとベンチに座った時などに、このイヤフォンを着けると、周りの空間から解放されて落ち着きながら好きな音楽に身を委ねられる。会社で作業しながら聴いた時も、空調の音などが全く気にならずに集中できた。
プレーヤーをいくつか変えていく中で、ES60の良さを活かすには、やはりパワーのあるアンプを備えた製品がベターだと感じる。ウォークマンA(NW-A16)のヘッドフォン出力に比べると、AK240や、USB DAC「UD-301」とパソコンなどの組み合わせで聴いたほうが低音に厚みがあり、より広い空間で音を描き分けているような余裕が感じられる。ただ、ウォークマンAでは鳴らせないかというとそんなことは全くなく、前述のような使い方で音楽を持ち運んで聴くときには十分に楽しめる。コンパクトな本体で約25,000円と低価格ながら、ハイレゾを高いレベルで再生できるウォークマンAの実力を改めて思い知った。また、iPhone 5sとオンキヨーの「HF Player」アプリの組み合わせで聴いても、今までのイヤフォンとの違いはしっかり感じられ、ボリュームを半分より上げなくても十分に聴けた。
今までずっとユニバーサル型のイヤフォンを使ってきて、自分に合ったサイズのイヤーピースで装着していたつもりだったが、単にサイズの問題ではなく、「完璧にフィットする」という意味を、カスタムイヤフォンを作って初めて知ったように思う。個人的な事情を言えば、筆者は耳が少し大きめなため、ユニバーサル型のイヤーピースは最低でもLサイズ、売っていればXLサイズを使っている。遮音性の高い低反発イヤーピースが付属する製品もあるが、その場合も平均的なMサイズのみというのが普通。カスタムイヤフォンは値段だけ見ると決して安くはないが、もう装着感の物足りなさで悩まなくて済み、長く使えると思えば、買い物としては満足のいくものだ。
製品を長く使えるという意味では、イヤフォン側の端子はMMCXなので、ケーブルをいつでも交換できるのも安心できるポイント。購入後のケーブル交換はWestoneのサポート外とはなるが、市販されている様々なMMCX交換ケーブルで音質や見た目の違いも楽しめる。
こうしたカスタムイヤフォンを、ビックカメラでも買えるという選択肢ができたことで、これまでの“憧れの存在”がグッと近くなった。今までのイヤフォンの装着感に不満を持っている人、他の人と同じイヤフォンでは物足りない人なども検討してみてはいかがだろうか。まず「自分ならどんなデザインのイヤフォンを作ろうか」と考えてみるだけでもワクワクして楽しいものだ。
(協力:ビックカメラ、テックウインド)