藤本健のDigital Audio Laboratory

第756回

ローランド8年ぶりのPCMレコーダ「R-07」で録音。スマホ操作など大幅に進化

 ローランドから、R-05以来8年ぶりとなる新たなリニアPCMレコーダ「R-07」が3月に発売される。最高96kHz/24bitのWAVでのレコーディングが可能という基本部分はR-05と同じだが、新たにiPhoneやAndroidからBluetoothを用いたリモコン操作に対応した。

R-07

 また、Bluetoothイヤフォンなどで再生可能になったり、もしものレベルオーバーに備え、少し小さい音でも同時録音するデュアル・レコーディング機能や、録音状況に合わせて設定を変更できるシーン機能、メトロノーム/チューナなど、新機能満載で登場した。発売より一足早く入手して試すことができたので、実際どんなものなのか、紹介していこう。

iPhone(左)などを、リモコンとして利用可能

机に置いて録りやすい本体形状

 ポータブル型のリニアPCMレコーダは、ローランドが生み出し、大きな市場へと育てていったもので、その後TASCAM、ズーム、オリンパス、ソニーなど日本メーカーを中心に数多くの製品が発売されてきた。そのローランドが最初に出したのはR-1という製品で2004年に発売。続く2006年発売のR-09が大ヒットとなり、その後R-09HR、R-05ときて、今回で5代目となる。その間、もう少し上のクラスのリニアPCMレコーダとして、R-44やR-26といった機種も登場したが、R-05が生産完了となっていただけに、ようやくの登場という感じだ。

 最近はiPhoneやAndroidなどでも、そこそこいい音で録音できるようになってきただけに、コンパクトデジカメと同様、その存在意義が薄らいでいるのは事実ではあるものの、やはりステレオで、しかも内蔵マイクで簡単に96kHz/24bitレコーディングできるという点は、スマホにはできない大きなアドバンテージでもある。

 新製品であるR-07は、ブラック、レッド、ホワイトのカラーバリエーションから好みに合わせて選べるようになっている。今回はホワイトを使ってみたが、シルバーボディーだったR-05と並べてみるとポップになった印象だ。

カラーは3色
左が従来機種のR-05、右が新機種のR-07

 サイズ的には従来のR-05とほぼ同じ。正確にいうと幅と高さが1mm程度、重さが単3電池×2込みで150gと10g程度重くなってはいるが、これだけ機能が増えると同時に、R-05にはなかったスピーカーも内蔵されているので、まったく問題ないサイズといえるだろう。

R-05(左)とR-07(右)
電源は単3電池2本

 まずハードウェア周りから見ていくと、まず一番ポイントとなるのが内蔵マイク。最近のリニアPCMで多いXY型ではなくAB型のマイクであるため近距離でもステレオ感を損なうことなく、レコーディング可能で、横から見ると少し斜めに取り付けられているのが分かる。これは机の上などに置いた際、やや上に向きで音を収録することを可能にするためのもので、ほかのリニアPCMレコーダではあまり見かけない。普段の使用を考えると三脚など使わず机などに置くケースが多いので、なかなかよさそうだ。

マイク部
マイク部が少し斜め上を向いている

 このマイクの中央にはマイク入力兼AUX入力のステレオミニ端子がある。これを使う場合はもちろん内蔵マイクがオフとなるのだが、プラグインパワーにも対応している。R-05同様、ヘッドフォン端子は左サイドにあり、右サイドには電源スイッチそして、R-05にはなかったmicroUSB端子が用意。このmicroUSB経由で電源供給を受けられる。記録メディアはSDカードではなくmicroSDカードになり、microUSBからカード内のデータをPCとやりとり可能になっている。

ヘッドフォン端子は左側面

 microSDカードは、MIC/AUX端子の下部分を開けることで出し入れできる。ただ、実際に使ってみると、かなり出し入れしづらかったのがネック。ほかの機能などについては後ほど細かく紹介していくが、R-07の唯一のウィークポイントは、このmicroSDカードの出し入れのしづらさという感じだった。

microSDカードスロット

Bluetoothでスマホ操作。確実に録れる便利機能も

 電源を入れると、液晶パネルにはレベルメーターのある画面が表示されるが、このUIはバックライトがオレンジでなく白になったくらいで、R-05とほぼ同じ。

液晶ディスプレイ部

 録音ボタンを押せばスタンバイ、再度押すとレコーディングスタートとなる。この際、INPUTの+/-ボタンで入力レベルを手動で調整することができるが、録音する前にREHEARSALボタンを押すと、マイクからの入力をチェックして、それに最適になるよう音量を自動調整してくれる機能もR-05譲りだ。

録音ボタン
録音中の画面

 各種設定はMENUボタンを押して細かく行なえるが、手っ取り早く使うにはSCENEボタンを押して選択するのが非常に便利。画面を見ても分かる通り、すべて日本語で表記されるのも分かりやすいところだが、このシーンとしては音楽HiRes、音楽CD、音楽長時間、大音量ライブ、大音量練習、楽器、ボーカル、会議、野外の9種類が用意されているので、シチュエーションから考えてこれらを選べばたいていは事足りる。

シーン「音楽CD」
シーン「音楽長時間」

 より細かな設定をする場合はMENUボタンを押してから行なっていく。まず入力メニューで、リミッター、ローカット、録音モニタ、プラグインパワーのオン/オフなどの設定をしていく。R-05では、これらについてリアの物理的スイッチで設定していたが、R-07ではメニューで設定するようになった。

詳細な設定ができるメニュー画面
リミッター/ローカット周波数
外部マイクタイプ/プラグインパワーの選択

 ローカットについてはオフ、100Hz、200Hz、400Hzと周波数で設定できるようにもなっている。

ローカット周波数の設定

 録音メニューではサンプルレート(サンプリングレート)、録音モード、プリレコーディング、自動録音開始などの機能が用意されている。前述の通りサンプリングレートは最高で96kHzだが、ほかに44.1kHz、48kHz、88.2kHzの計4モードがある。

フォーマットやサンプリングレートなどを選択

 録音モードとしてはWAVの16bitと24bitのほかにMP3で64~320kbpsまで7段階で設定可能になっている。さらに特筆すべきはWAV+MP3および2×WAV-16bit、2×WAV-24bitという3つが用意されていることだ。

WAV/MP3形式で、音質を選択
WAV+MP3
2×WAV 16bit
2×WAV 24bit

 名前から想像できるとおり、WAV+MP3は同時にWAVとMP3の両方で録音するというモードだが、これはサンプリングレートが44.1kHzか48kHzのときに限られる。一方、2xWAVというのはWAVを同時に2つ録音するというもので、やはり44.1kHzか48kHzのときに使える機能なのだが、これがなかなか便利なのだ。

 バックアップとして録音される2つ目のWAVは、通常のものと比較してかなり小さい音で録音されるため、万が一、1つ目がレベルオーバーした際にも、2つ目はクリップすることなく録れる。マニュアルを見てもどのくらい小さいのか記載がなかったが、波形を比較してみると、約18dBほど小さいようなので、かなり安心して使えそうだ。

同時に録った2つのWAVのうち、1つはレベルを下げた音になるためクリップを防げる

 プリレコーディングは、録音ボタンを押す2秒前からレコーディングを開始するという機能で、「始まった!」というときに録音ボタンを押すと頭が欠けてしまうミスを避けられる。また、自動録音開始機能は、ある一定レベルの音量になったら録音スタートさせたり、指定した秒数が経過すると録音がスタートするというものだ。

 このR-07の最大の特徴ともいえるのは、iOSおよびAndroidのスマートフォンとBluetooth接続した上で、専用アプリである「R-07 Remote」でリモコン操作できるという点だ。正式リリース前のR-07 RemoteをiPhone Xにインストールして試してみたところ、なかなか快適に使えた。使い方は簡単。まずR-07のBluetoothメニューからリモコンを選び、これをオンにした後に、アプリを起動して接続する。

R-07のBluetoothメニューからリモコンを選ぶ
スマホのR-07 Remoteアプリを起動してR-07に接続

 録音画面では録音ボタンや停止ボタンなどがあり、INPUTおよびVOLフェーダーで音量の調整などもすべてR-07本体を触らずにスマートフォンから操作可能。この際、アプリ画面のレベルメーターにリアルタイムに入力レベルが表示されるため、R-07が見えない位置にあっても、現在どのような状況かが一目で分かるのは非常に便利だ。またシーンボタンを押すと、先ほどの9種類のシーンを選択することも可能となっている。

アプリの画面
アプリから録音シーン選択も可能

 画面をスワイプして再生画面に切り替えれば、再生操作も可能だ。ただし、録音中のモニタリングや再生をこのスマートフォン側のヘッドフォン端子から行なうといったことはできない。これはBluetoothのやり取りから考えると仕方がないところなのかもしれない。とはいえ、BluetoothイヤフォンやBluetoothスピーカーを、スマートフォンを介さずR-07と直接接続することは可能。この場合も録音時のモニターはできず、あくまでも再生音を聴くことだけに限られるのだが、この辺も従来のリニアPCMレコーダにはなかった機能だ。

再生画面

実際の音質は従来モデルよりも向上した?

 機能解説が長くなってしまったが、いつものようにこれを持って、外に出かけ鳥の鳴き声を録音してみた。今回はとある家の生垣にたくさんのスズメが鳴いていたので、これを録音してみたのだ。R-07の使い方としては、シーンで野外を選ぶべきところだが、野外シーンだとローカットがオンになってしまう。本来はそれが正しい設定だとは思うが、これまでの多くの機種と横並びで比較したいということから、手動で96kHz/24bitのWAVを選び、ローカットもリミッターもオフの状態で録っている。

【録音サンプル/WAV】
野鳥の声(48kHz/24bit)
r07_bird2496.wav(15.49MB)
※編集部注:ファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 なかなかステレオ感もよく録音できるので、MP3の設定にした上で、線路わきで電車が通る音を録音してみたので、ぜひ聴いてみてほしい。なかなかリアルな雰囲気が伝わるのではないだろうか。

【録音サンプル/MP3】
電車の音(線路わきから)
r07_train.mp3(0.65MB)

 さらに、音楽CDを再生したものも、いつも通りに録音してみた。これも96kHz/24bitで録音したものを編集によって44.1kHz/16bitに変換したものだ。波形分析した結果を以前R-05でテストしたものと比較してみるとかなり似た感じではある、音を聴いてみるとやや違っている。R-05でややこもった感じになっていた低音がかなりクッキリとしているのだ。この辺は好みの問題ともいえるところではあるが、個人的には気に入ったサウンドだったので、今後愛用したいと思っている。

【録音サンプル/WAV】
CDプレーヤーからの再生音
r07_music1644.wav(6.93MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:96kHz/24bitで録音したファイルを変換して掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

再生したCDをR-07で録音、波形分析
従来モデルR-05の結果

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto