藤本健のDigital Audio Laboratory

第773回

iPhone向けLightning-ヘッドフォンアダプタは製品によって音質が違う? 波形で検証

 iPhone 7/7 Plus世代で、ステレオミニのヘッドフォンジャックが廃止されてから2年。その間、Bluetoothヘッドフォンやイヤフォンが幅広く普及するようになったのと同時に、Lightning接続のイヤフォンもラインナップも増えてきた。とはいえ、いまも3.5mmステレオミニ端子の使い慣れたヘッドフォン/イヤフォンを使いたいということから、iPhone付属の変換アダプタを利用している人も多いようだ。

Lightning-ステレオミニの変換アダプタ

 ただ、とても小さいだけに、よく紛失してしまうのが困ったところでもあった。そうした中、先日エレコムからLightningを3.5mm端子に変換するアダプタ「MPA-L35DS01」が発売された。もちろん、サードパーティー製はこれが初ではなく、多くのメーカーから販売されているが、気になるのは、こうしたアダプタによって音質が変わるのかという点。先日、秋葉原で、この手のアダプタを4種類ほど購入し、Apple純正品と比較してみたのでレポートしたい。

5つのアダプタを比較検証

Lightning端子からヘッドフォンに変換する様々な製品

 昔のiPhoneの30pin-dock端子には、アナログオーディオ信号の入出力があったが、Lightningはピン数が8つということもあって、直接アナログの入出力があるわけではない。詳細な仕様は公開されていないものの、基本的にはUSBの亜種といわれていることを考えれば、Appleの「Lightning-3.5mmヘッドフォンジャックアダプタ」は非常に小型のDACである、と考えるのがよさそうだ。

Apple「Lightning-3.5mmヘッドフォンジャックアダプタ」

 正確にいえば、単にヘッドフォン出力へ変換するだけでなく、マイクの入力にも対応しているのだから、ADCも備えているので、オーディオインターフェイスといったほうがいいかもしれない。よく、こんな小さいアダプタで、そんなことを実現できたものだと感心するが、そのオーディオインターフェイスが900円で売られているという点も改めて考えてみれば驚くべきところだ。

 でも、これがオーディオインターフェイスであるならば、製品によって音質が変わる可能性は高い。どんな部品を使っているのか、その部品をどう配置していて、どうワイヤリングしているのかによって、違いも出てきそうだ。そこで、先週の金曜日、この手のアダプタ=オーディオインターフェイスをいくつか適当に買ってみた。

 絶対入手しようと目的を持って買ったのがエレコムのMPA-L35DS01。量販店で展示されているのを見たところブラック(BK)/ゴールド(GD)/シルバー(SV)/レッド(RD)/ピンク(PN)と5色もあるので、どれにしようかと迷ったが、無難そうなシルバーを選んでみた。一方、“バッタモノ”と呼ばれる品も含め、いろいろなものを揃えている某ショップをのぞいてみたところ、案の定この手のアダプタも複数置いてあった。数百円で売ってるのではと期待していたが、思っていたより高価。全部買い揃えたらかなりの金額になってしまうので、3つほど購入してみた。

エレコムのMPA-L35DS01

 ひとつはアメリカのPCアクセサリメーカーであるbelkinの3.5mm Audio+Charge RockStarというもので、ヘッドフォン端子に変換すると同時に、充電用のLighting端子も装備しているのが特徴。これなら、充電しながら音楽を聴くことができる。またMFi認証(Made for iPhone)のロゴもあり、Appleの認証が取れているのも大きなポイントだ。

belkinの3.5mm Audio+Charge RockStar
充電用のLighting端子も装備

 2つ目はMAG-LABというメーカーの、AUDIO ADAPTER with LIGHTNINGという製品。これは一色しかなかったもののシルバーだったため、購入したエレコム製品と見た目がソックリになってしまった。購入した中では一番安かったけれど、Made for iPod/iPhone/iPadのロゴがついていたのも安心できたところだ。

AUDIO ADAPTER with LIGHTNING

 そして3つ目は、Made for iPhoneのロゴがない、Listen Musicと書かれたパッケージのMade in Chinaの製品。非認証製品なので、接続しても使えない可能性もあり、買うべきかどうかやや躊躇したのだが、先ほどのbelkin製品と同様に充電しながら使えるほか、リモコン機能も備えているということだったので、購入してみた。

Listen Music
今回使用した5製品の比較

気になる音質の違いは?

 今回、iPhone Xでテストを行なったのだが、まず最初に心配で試してみたのは、MFi認証のないListen Musicという製品が使えるかどうか。パッケージにはiOS 10.3で使えるということが記載されていたが、現在筆者のiPhone Xは最新版にアップデートしているからiOS 11.4。この手の機材、OSのアップデートで使えなくなることも多いので、ちょっと心配だったが、とくに問題はなさそうだ。

 ほかの機材も動作チェックを行なうとともに、しっかり記載のない機材も多いマイク入力対応しているのかもチェックしてみた。その結果が先ほどの表のマイク入力の項目だ。Listen Musicは非対応だった一方、MAG-LABは使えたり、使えなかったりして、あれ? と思うことがあった。何度か試してみて分かったのは、Lightning端子の挿す向きによって、使える場合と、使えない場合があるというだった。しかも、使える場合、モニターしたときのマイク音量が大きくなる。きちんと測定したわけではないが+6dB(倍の音量)という印象だった。もしかしたら個体不良だったのかもしれないが、そのままテストを継続していった。

 テストというのは、以前にもiPhone 7sやiPhone Xが発売されたときに行なったのと同じもの。具体的には、iPhoneに1kHzのサイン波のWAVファイル(48kHz/24bit)および20Hz~20kHzのスウィープ信号のWAVファイルを転送しておくとともに、これらを再生した音を解析してみた。

iPhone Xで再生した音を解析

 解析するにあたっては、アダプタのオーディオ出力をオーディオインターフェイスを介してPCに取り込むのだが、そのオーディオインターフェイスには、以前と同様にSteinbergのUR22mkIIを用いた。サイン波もスウィープ信号も-3dBのWAVファイルだったのだが、アダプタによる変換で出力されるのはヘッドフォン用の信号であってラインではない。そのため、オーディオインターフェイスのプリアンプ側での増幅が必要となる。とはいえ、あまり大きく増幅するとこのプリアンプによるノイズやひずみの影響が大きくなりそうなので-6dBまでの増幅とした。

 製品によって、出力レベルに結構バラ付きがあるだろうと予想していたのだが、実際に試してみたところ、その予想は大きく裏切られた。まずApple純正品で-6dBになるように調整した上で、ほかの機材を試してみたところ、どれもピッタリ同じで、機種ごとの調整がまったくいらなかったのだ。ただし、MFi認証がとれていないListen Musicのみは例外。これだけが他と比較して4dBちょっと音量が小さかったのだ、そのためListen Musicのみプリアンプ設定を上げてもよかったのだが、十分測定できる音量ではあったので、そのまま録音してみた。

Listen Musicは、他と比較してやや音量が小さかった

 このようにして5機種、計10回の録音を行なった結果を、efu氏開発のフリーウェアの周波数解析ソフト、WaveSpectraを用いてサイン波のSN特性を見るとともに、スウィープ信号の周波数特性を比較した。

【サイン波】

Apple
belkin(左)、エレコム(右)
MAG-LAB(左)、Listen(右)

【スウィープ信号】

Apple
belkin(左)、エレコム(右)
MAG-LAB(左)、Listen(右)

波形で分かるわずかな違い

 上記の結果を見る限り、Listen MusicだけがSNが悪く、周波数特性も高域が欠けているのが見受けられるが、そのほかの4つはいずれもほぼ一緒という結果だった。筆者が聴いた感じでも、Listen Musicだけはやや音が小さく、音の伸びに欠けるという印象をもったくらいで、ほかは大きな差はないように感じられた。ここはあくまでも筆者の感想であって、ヘッドフォンを替えたり、再生する音楽を変えることで、違ってくる可能性はある。

 一方で、サイン波を再生したものをSound Forge Pro 12でレコーディングしている際に、一つ気づいたことがあった。それは冒頭がゆっくり立ち上がるケースと、即立ち上がるケースがあるということ。改めて、波形を少し拡大してみると明らかに違いがあった。エレコムとbelkinが即立ち上がっているのに対し、残り3つはゆっくりと立ち上がっている。

Apple
belkin
エレコム
MAG-LAB
Listen Music

 まあ、ゆっくりといっても、3つとも立ち上がるまでの時間は25msec程度。コンデンサなどによるアナログ的なフェードインなのか、DACもしくはプリアンプ側による制御なのかはハッキリしないが、そんな違いはあった。これは曲頭の瞬間的な音色に違いが出る可能性はありそうだが、そう気にするほどのものではないだろう。一方、最後のところは5つともフェードアウトなどはかからず、そのまま終了していた。

曲の最後の部分はいずれの製品も共通だった

 以上、5つのLightning オーディオ変換アダプタの特性を見てみた。これらの結果だけを見る限り、やはりMFi認証をとった機材を選ぶのが無難だと思うが、基本的にこれで大きく音質が変わるということはなさそうだった。

 もしかしたら、MFi認証をとった製品は、規定に沿ったチップを搭載するので、結果的にあまり変わらない音になっているということなのかもしれない。音がほぼ同等なら、例えば「Apple純正品より、もう少し丈夫なものを」という基準で選ぶのも良いだろう。とはいえ、これら5つの中ではApple純正品が一番小さいし、価格も900円と安いことを考えると悪くない選択肢だとは思う。一方で、belkin製品のように、充電しながら再生できる製品を持っておくのも悪くはないはず。デザインや色なども考えて選んでみるのもよさそうだ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto