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圧巻「ゾンビランドサガ リベンジ」に「スーパーカブ」、4月アニメ注目曲

フランシュシュ & アイアンフリル/大河よ共に泣いてくれ/Nope!!!!!
(P)2021 AVEX PICTURES INC.

ハイレゾ界にも春が来た。春アニメのアニソンを紹介する本記事、冒頭から明るい話題を取り上げたい。AV Watchをご覧の皆さまは既にご承知のことと思うが、Apple Musicがロスレスオーディオに対応した。これは、多くのオーディオファイルにとって待望の出来事であり、Apple機器のロスレス&ハイレゾ対応という点で歴史的な転換点といえると思う。早速筆者もその挙動や音質について検証を始めている。折を見て記事を書きたいと思っているので、ご期待いただければ幸いだ。

アニソンファンにとって気になるのは、やはり“ロスレス対応の充実度合い”。本稿では従来のハイレゾサブスクに加えて、Apple Musicの対応状況も加えたのでチェックして欲しい。なお、レビューは配信サイトのダウンロード音源で実施している。

本企画は、音楽的にも音質的にも注目のアニソンを紹介するもの。さっそく、今期の注目ソングをみていこう。

「ゾンビランドサガ リベンジ」OP「大河よ共に泣いてくれ」(96kHz/24bit)

TVアニメ「ゾンビランドサガ リベンジ」OPテーマ『大河よ共に泣いてくれ』

佐賀を舞台にゾンビとして生き返った少女たちが御当地アイドルとして活躍するという、オリジナルTVアニメの第2期。物語は、大規模ライブの大失敗から同じ会場でのリベンジを目指すという王道なものであったが、中盤以降はゆうぎりの過去や佐賀の呪い、ゾンビランドサガプロジェクトの全貌など壮大な裏設定が次々明らかとなり、目が離せない展開だった。

被災描写のリアリティは、実際に水害を体験している地元の人々への深いリスペクトを感じさせた。最終回のCM無しぶっ通し30分は、ライブシーンを圧倒的なまでのCGとカメラワークで映像化。これぞ完璧を越えたリベンジ! と思ったら、ラストシーンでまさかの「インデ●ンデンス・デイ」!? 文字通り、全てを吹っ飛ばす強烈な〆のおかげで、未だ放心状態だ。

OP主題歌は、1期と同じ音楽プロデュース集団スコップ・ミュージックが手掛ける。作編曲は所属作家の加藤裕介。オーケストラヒットが炸裂する、90年代の戦隊モノを彷彿とさせるソウルフルなナンバーだ。ハイレゾを聴く。ヘッドフォンとスピーカーで比較してみたが、率直にヘッドフォン/イヤフォン向けかなと感じた。トラック数が多く、ボーカルが多人数でコーラスも入っていると、定位の広がりや緻密さがスピーカーより好ましく感じられる。

一方で、90年代レトロなサウンドメイキングは、スピーカーでも味わいたい。一番印象的なのは、打ち込みのドラム音が当時よく聴いた音色(音源)であること。そして、リバーブやディレイの類いもやはりノスタルジーを感じさせる。楽曲全体に、アナログ的な質感を感じるのもミックス時点でのこだわりだろうか。リバーブの残響は、減衰のグラデーションがスピーカーでこそ滑らかに分かるので、これもひとつの味わいだ。

音圧は結構突っ込んでいると感じたが、90年代オマージュサウンドを支える質感やエフェクトの鳴り具合を忠実に味わうために、ぜひハイレゾでも試して欲しい。

  • mora qualitas:ハイレゾ配信
  • Amazon music HD:ハイレゾ配信
  • Apple Music:ロッシー配信

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「SSSS.DYNAZENON」ED主題歌「ストロボメモリー」(96kHz/24bit)

内田真礼/ストロボメモリー
(P)PONY CANYON INC.

2018年放送の大ヒットアニメ『SSSS.GRIDMAN』とタイトルは似ているものの、世界観や設定、登場人物が一新された完全新作アニメーション。どちらも90年代の特撮ドラマ「電光超人グリッドマン」を原作とする。

お恥ずかしいことに、原作もSSSS.GRIDMANもまったくの未見だった筆者にとって、単に春の新作のアニメの一作品であった。なかなか明かされない謎や設定にポカーンとなりつつも、なぜか引きつけられる。

合体ロボットのダイナゼノンを中心として、普通なら交わりそうもない凸凹メンバーが強い絆で結束していく過程は、繊細な人物の掘り下げ方と相まって魅力的だった。中でも若者同士の独特の距離感がいい。必要以上にベタベタしないし、ぱっと見はドライだけど、いざというときは仲間のピンチに命を賭して行動する。筆者は、人懐っこいゴルドバーンにときめいてしまった。怪獣萌えの開眼とはこれ如何に。

ED主題歌は、声優の内田真礼が歌うミディアムテンポのポップロック。SSSS.GRIDMANのEDに引き続き、シンガーソングライターのRIRIKOが作詞、作編曲を担当する。渡辺シュンスケ氏のピアノは、伴奏の中で一際印象的に映えている。ギターとドラムがガンガン鳴ってるパートでもピアノは結構裏で弾いているのだが、ハイレゾ版だと分離感にやや優れるため、音をギリギリ捉えられるのが良い。ややギター等の歪み方がノイジーなのが惜しい。意図的なサウンドメイクかもしれないが、センチメンタルな本楽曲では、クリーンでシャープな音作りの方が筆者は好みだ。内田のボーカルは、少し憂いを帯びたような声になるときがあって、それを空気感含めリアルな音で楽しめる。大サビ前のブレイクで、ハッと息を呑みたくなるあの感じ。圧縮音源よりハイレゾの方がグッとくるからお試しあれだ。

【MV Full】内田真礼 12thシングル「ストロボメモリー」(TVアニメ『SSSS.DYNAZENON』ED)
  • mora qualitas:ハイレゾ配信
  • Amazon music HD:ハイレゾ配信
  • Apple Music:Apple Digital Masters

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「スーパーカブ」OP主題歌「まほうのかぜ」(96kHz/24bit)

熊田茜音/まほうのかぜ
(P)Lantis

トネ・コーケンによるライトノベルを原作としたメディアミックス作品「スーパーカブ」は、その名の通り、スーパーカブの総生産1億台を記念した作品だ。貧乏で天涯孤独、無趣味な主人公小熊がホンダの原付スーパーカブを購入したことをきっかけに、自分の世界を広げていく青春ストーリー。

草薙による超美麗な背景。クラシックの名曲を交えた穏やかで優しい雰囲気の劇伴。緻密でリアルなスーパーカブの造形やSE。そして、なんと言っても主人公たち主要女性キャラの人物像や関係性がこの作品の魅力であろう。

小熊はラノベのヒロインらしからぬ、低体温なテンション。礼子や椎との関係は間違いなく友達に見えるけれど、付き合い方は驚くほどドライ。なんというかクールなのだ。でも、損得感情で行動するわけではなく、静かで確かな友情というか、最低限の言葉と適度な気遣いによって絆は深まっていった。最終話では、山梨から鹿児島まで三人で桜を見に行くという超弩級のツアーを敢行。その後、椎もリトルカブを購入し、まさにこれからと言うところで1クールが終わってしまった。二期を期待している視聴者は私だけではないだろう。

OPは、声優の熊田茜音が担当。作詞はnano.RIPEのきみコ、作編曲は同バンドの佐々木淳ということで、nano.RIPE好きにはたまらない情緒的なバンドサウンドだ。まず言えるのは、できればスピーカーで聴いてほしい。生々しいバンドオケのサウンドメイクは、アタックを極力残すことで楽器の配置に十分な奥行きを感じさせてくれる。左右に定位するエレキギターやアコギも、音像が立体的で前にグッと出てくるから聴いていて楽しい。

低域の処理は、過不足無くスマートで好印象。中低域が無駄に太っていないので、ベースの音階やバスドラの輪郭が分かりやすい。ボーカルは、ノーリバーブかと誤解するほどドライ目のミックスで、熊田のたっぷりと歌い上げる熱のある声を臨場感たっぷりに聴かせる。

スネアやタムの胴鳴りが意図的なのかしっかりと入っていて、それがライブハウスで聴いているような感覚にさせる。ミックスもかなり出来が良いと思うが、ハイレゾであることも相まって、音場の閉塞感が最小限になっており、バンドらしい躍動を感じたくて自然と音量を上げてしまった。もちろんうるさく感じない。良質な音源の証だ。

まほうのかぜ (TVアニメ『スーパーカブ』オープニング主題歌) / 熊田茜音[Official Music Video]
  • mora qualitas:CD配信
  • Amazon music HD:CD音質配信
  • Apple Music:ロッシー配信

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前書きの続きになるが、Apple Musicでもう一つ注目なのは空間オーディオだ。誰もが気軽にサブスクでサラウンド(Dolby Atmos)を楽しめる、しかもAppleデバイスのみで。

空間オーディオ繋がりではソニーの360 Reality Audioも見逃せない。こちらは、MPEG-H 3D Audioというコーデックを使用した技術であるが、オープンフォーマットのため制作&製作側の利便性は高いと推察される。つまり作る側のハードルが低い。ヘッドフォンだけで楽しもうと思ったら、Deezer Hi-fi等の一部のサービスでしか今のところ対応していないため、今後広がっていくことを期待したい。

制作側の視点としては、360 Reality Audio音源を制作するためのプラグイン「360 Reality Audio Creative Suite」がわずか299$(期間限定の模様)で購入でき、一般的なPro Toolsネイティブ環境で軽快に動作するという点が素晴らしい。プライベートスタジオでもヘッドフォンをモニター機材に360 Reality Audio コンテンツを制作できる。音楽に限らず、ヘッドフォンで楽しむ立体的なボイスドラマ等のコンテンツにも応用が期待されるだろう。

バイノーラル録音よりも、ミキシングエンジニアの創造性が試されるのは間違いなく、ASMRで耳かきや添い寝が流行ったように、ここから新たなフェチコンテンツが生まれるかも知れない。アニメや声優ファンにも意外と見逃せない空間オーディオ。今後の動向を要チェックだ。

【使用機材】

  • NAS「Soundgenic RAHF-S1」SSD 1TB(アイ・オー・データ機器)
  • ユニバーサルプレーヤー(ネットワーク再生)「BDP-103DJP」(OPPO Digital Japan)
  • AVアンプ「AVR-X6300H」(デノン)
  • スピーカー「RUBICON2」(DALI)
  • ポータブルプレーヤー「PLENUE R2」(COWON)/HPH-MT8(YAMAHA)/IE 400PRO(ゼンハイザー)
橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト