樋口真嗣の地獄の怪光線

いろいろスゴイぞ「スクリーンX!」。「ひそねとまそたん」はじまるぞ!

 ちょっと前になるんですけど、2015年の放送機材展、InterBEEに登壇した時に、その直前で講演をしていた韓国の人を紹介されました。なんでも4DXを開発した人だっていうんで嬉しくなって一緒に写真まで撮っちゃいましたが、その時にCJグループの4DPLEX社クリエイティブディレクター、チェ・ヨンスンさんに今開発している、4DXよりもすごい、新しい上映形態を教えてもらいました。守秘義務とかいいのかなと思いながらもその内容聞いて誰も真似できないようなことなのでなるほどこれは平気だなと納得するようなアイデアでした。

 自分で書いてても我が耳を疑うようなことなんですけども、劇場の左右の壁面に別のプロジェクターから別の映像を投射して、通常のスクリーンの左右いっぱいで映画を楽しむシステムで…そこまで聞いたら真っ先に気になることが浮かびますわな。その左右の映像はどうやって作るの? と聞いたら我々が韓国でCGを作る、って胸を張ってるワケですよヨンスン氏。俺の拙い英語力がそう翻訳したんだけどンなバカな! それってめちゃくちゃ大変じゃん! 映画作るのと同じぐらい大変じゃん! と思ってたら、それから2年もしないうちにお台場のTOHOシネマズからユナイテッドシネマに変わったアクアシティのシネコンに去年の夏導入されちゃいました。

その名もスクリーンX!

スクリーンX!
スクリーンX!

 なんて仕事が早い!っていうか、最初に聞いたときの問題ってどう解決したんだ? 気になるからどうせ観るなら、と鳴り物入りの「パイレーツオブカリビアン」の新作ではなく、同じ韓国製の「新感染」を選びましたよ。既存の劇場の左右の天井ぎりぎりにプロジェクター相対する側の壁面……これは正面のスクリーンとは違う材質だけど、多分何かしらの反射特性に優れたモケット様の布地が貼られていてそこに投射されるのだろう。プロジェクターも、正面スクリーン用のDLPに比べたら随分小さいパナソニックの製品が左右2台ずつマウントされています。

ということで「新感染」

 冒頭のデモンストレーションロールで小さい金髪の女の子が佇むヨーロピアンな石畳の広場にCG惑星がボコボコ浮いていて、そこにゆっくり突っ込んで行くカメラがじんわりダッチロールを始めた瞬間、視界いっぱいに広がる映像のおかげで平衡感覚が奪われてちょっとゾクッとしましたよ。なるほどこれがスクリーンXなのか! 3Dよりも効果的といえば効果的かもしれないが、これってアイマックスと同じくレンズの画角が広いのが前提だから映画のすべてのカットでその効果が得られるわけじゃないよね。。。

 で、そのあと始まった「新感染」、左右のスクリーンが全編にわたって投射されるワケでなく、いわゆる見せ場になると左右のスクリーンが広がる、かつて宇宙戦艦ヤマト の劇場版第三作「ヤマトよ永遠に…」で ずっと1:1.85のアメリカンビスタサイズで上映されていた画面がクライマックスの暗黒星雲以降の二重銀河から1:2.35のシネマスコープサイズに左右が広がる仕掛けがあったけど、それ以上に横に広い、というかほとんどの席で視界からはみ出るぐらいの見え方。なるほど「新感染」の場合、その舞台はほとんどが釜山行きの特急列車の車内。なるほど、撮影時にスクリーンXを見越して車内のセットを3Dスキャンしておけば、とりあえず映画の画の左右を延長した映像を作ることができるってことか?

新感染 ファイナル・エクスプレス
(C)2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All RightsReserved.

 注意してよく観るとほとんど気にならないけど左右の画面上の車内には乗客の姿が見えないし。あとは見せ場のほとんどに登場するゾンビにしか見えない未知のウィルスの感染者たちが左右の画面におそらくアウトテイクであろう別のカメラで撮影した別アングルのショットで補填されます。

 これがもうゾンビメイクの韓流アクター&アクトレスのアドレナリン全開の顔芸で、それがまたどアップで劇場左右の壁面に大写しに! 思ったよりも近い!というか視界の端っこにこいつらの顔がビッシリとは、これはたまらぬ気持ち悪さ。効果は抜群だが効果が上がれば上がるほど全然嬉しくないのがこの手の映像表現の難しさ!

 しかもこういう怖さで驚かせる映画、いつ出るかいつ出るか、という緊張が映画の肝なのに、出てくる直前に左右の映写が始まるから観てる側としてはそれでショッキングな展開の予想がついてしまい、これから起きる展開を予想して構えて見てしまうからショックが半減。コレはいかんと思うぞヨンスン氏。

新感染 ファイナル・エクスプレス
(C)2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All RightsReserved.

バーン! と出た瞬間、同時に左右であの気持ち悪いゾンビたちが左右のスクリーンでカットインしたら観客の心臓は確実に爆発させられるのにね!

 でもこういうのは本数重ねてノウハウを蓄積するのも大事だし。

 まだお台場しかないけど応援してるぞヨンスン氏!

 こういうデタラメなイベント感こそ映画興行の醍醐味。

 で、こないだ「ブラックパンサー」をスクリーンXで観てきたら、かなり小慣れてきてて、ワカンダ王国のエスタブリッシュショットやマーベル調のアクションが楽しめました。

 まだお台場にしかないけど、話のタネにぜひ。

みんなで見なきゃ増えないよ!

新感染 ファイナル・エクスプレス
(C)2016 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILM. All RightsReserved.

「ひそねとまそたん」はじまる。

 ところで4月12日から久しぶりのアニメをやります。

 地上波はTOKYO MX、衛星放送はBS-フジ、

 4月13日からはNetflixで配信スタートの「ひそねとまそたん」。岡田麿里さんと一緒に考えたオリジナルです。オリジナルなので好き放題やらせていただきました。

(C)BONES・樋口真嗣・岡田麿里/「ひそねとまそたん」飛実団
ひそねとまそたん
(C)BONES・樋口真嗣・岡田麿里/「ひそねとまそたん」飛実団

 音響も馴染みの山田陽さん野口透さんというヱヴァ新劇場版→シンゴジラの布陣で臨んだんですが、ここでまた立ちはだかるのは「ラウドネス」ですよ!(放送でのラウドネス問題は前回記事を参照)

ダビングの時はお構いナシの爆音で作ったけど、その作った通りの音で聴いてもらえるのか?

地上波、衛星放送、配信とあるのだから一つぐらいあるだろうとタカをくくっていたら、なんと!

私は、我々は、掘ってはいけない穴を穿ってしまったようなんです。。。(つづく)

ひそねとまそたん
(C)BONES・樋口真嗣・岡田麿里/「ひそねとまそたん」飛実団

樋口真嗣

1965年生まれ、東京都出身。特技監督・映画監督。'84年「ゴジラ」で映画界入り。平成ガメラシリーズでは特技監督を務める。監督作品は「ローレライ」、「日本沈没」、「のぼうの城」、実写版「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」など。2016年公開の「シン・ゴジラ」では監督と特技監督を務め、第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。