西田宗千佳のRandomTracking

第479回

価格決定から“日本同時発売”、SIE ジム・ライアンCEOに聞く「PS5発売までの軌跡」

ソニー・インタラクティブエンタテインメントのジム・ライアン社長兼CEO

PlayStation 5(PS5)の価格と発売日が(ようやく)発表された。この記事が公開される頃には、発売日入手分の予約が始まっているはずだ。

PS5の価格がいくらになるのか? 結果的には、ネットワーク利用専用の「Digital Editon」が3万9,980円、ディスクドライブありのバージョンが4万9,980円と発表された。日本でのPlayStationの価格としては「おなじみ」という印象もあるが、アメリカでの価格が399ドル・499ドルであることを考えると、日本での売価はかなりがんばったものだと感じる。

そしてなにより、PS4の時とは違い、PS5は日本もアメリカなどと「同じ日に発売」になった。

PS5の価格
PS5は日本もアメリカなどと「同じ日に発売」になった

こうした決断がどのような経緯でなされたのか? ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のジム・ライアン社長兼CEOに急遽インタビューした。

なお、ライアン社長はロンドン在住のため、インタビューはオンラインで行なわれた。

価格は「399・499」を当初より想定、「まったく同じ」であることに意味がある

――まず、価格決定の背景を教えていただけますか? この時期までかかった理由、そして、なぜこの価格になったか、という点です。

ライアンCEO(以下敬称略):確かにもう発売日までかなり近いタイミングです。

今年は信じられないほど難しい年でした。

通常、新ハードウェアの発売などをする場合には、年初には価格決定をしています。そして、年の半ばくらい……、たいていはE3などのイベントの時期に発表しますよね。でも、ご存知の通り、今年はそれが難しかったんです。

ソニー本社とも価格戦略についてずいぶん議論しました。私たちは、初期から399ドル・499ドルで行く戦略でした。PlayStationのユーザーベースを最大化し、ゲーム開発者に素晴らしい環境を提供するためには、常に可能な限り、低価格を重視する必要があったからです。ですから、399ドル・499ドルという、シャープな価格帯が好まれていました。

COVID-19の流行により、今年は極めて困難な年になりました。本当に困ったんですよ。3月、4月の流行開始時には、思った通りのローンチタイミングで実現できるかもわからなかった。PlayStation 5の生産に入れるかどうかも不安だったんです。

その後、COVID-19による経済的な影響が明らかになり始めました。(ロックアウトが終わって)店舗も営業を再開し、経済的に余裕がある方は、家の外に出てゲーム機を買うこともできるようになりましたからね。

それを待つためにも、我々は可能な限り、できるだけの情報を集め、決断の時間を遅らせないといけなかったのです。一方その中で、私たちは、「399ドルが正しい価値提案である」という考えに確信を深めました。

――今回は、ディスクレスの「Digital Edition」も同時に発売することで399ドルを実現しています。特に日本での売価(3万9,980円)は安い。この決断の背景は?

前面にUltra HD Blu-rayドライブを備えたスタンダードな「プレイステーション 5」が4万9,980円、それを省いた「プレイステーション 5 Digital Edition」が3万9,980円。写真はDigital Edition

ライアン:とても重要なことは、Digital Editionも「まったく同じPlayStation 5だ」ということです。同じ機能を持ち、同じアーキテクチャで、同じ性能です。唯一の違いが「ディスクドライブの有無」です。

Digital Editionの導入決定には 2つの理由があります。

1つ目は「399ドル」という価格帯が非常に重要だ、ということ。2013年にPS4を発売した時に「399ドル」という価格帯でしたが、それを再現したいと思いました。「399ドル」は私たちにとって非常に特別な数字なんです。

2つ目は、世の中の「デジタル化」がより進行しているということです。

PlayStationプラットフォームでも年々デジタル(ダウンロード販売)で購入される割合が増えていて、今では約3分の2になっています。

私には10代の子供がいます。彼らの世代は「すべてがデジタル」。ディスクが何であるかをほとんど知りません。PS5はまだちょっと早い年齢かもしれませんが、3年後・4年後には、彼ら世代もPlayStationユーザーになっているでしょう。

――一方で、ライバルであるマイクロソフトは、価格によって性能の違う2つのモデルを同時に出す判断をしています。これをどう見ていますか?

ライアン:まず申し上げておきたいのは、すべてのコンペティターの判断・フィロソフィーについてリスペクトしている、ということ。明らかに「価格」は重要な要素の一つです。私たちは、他社との競争戦略を尊重しています。

しかし、自分たちの戦略とその影響については、完全に納得しています。

一つ言えることは、特定の価格帯のために低スペックのコンソールを導入するのは、業界の歴史を見ても、あまり幸せな結果を産んでいない、ということです。

我々も考えたことはあります。他の事業者が試し、問題があったことも知っています。

私たちがリサーチした結果わかっているのは、人々がゲーム機を買う時には、それを4年・5年・6年・7年と、長く使い続けたいと思っている、ということです。自分たちが購入したものが、将来的にも安泰である確証が欲しいのです。2、3年で陳腐化するものを求めてはいないのです。

テレビを買い換える際には、「今持っているゲーム機が、買おうとしている4Kテレビを完全にサポートしている」ことに確信を持っておきたい、と思うでしょう。

「PS4の反省」から日本同時発売を実現

――今年1月、ライアンさんにインタビューした時に、「PS4の時に日本での発売を遅らせたのはいいアイデアではなかった」と伺いました。今回は、「日本も同時発売」になりましたね!

ライアン:そうですね(苦笑)。

PS4の時の判断は、確かにいいアイデアとはいえないものでした。

1月にお話ししたように、私は「これを繰り返してはいけない」と思っていたんです。

昨日(日本時間・9月17日早朝)、世界に向けて発信しなければならなかったことは多数あったのですが、私個人にとっても、「日本での発売とアメリカでの発売が同じ日だ」と公表することは、なにより重要なことでした。

――イベントで発表されたタイトルの中に、日本の大手ゲームパプリシャーの存在感が大きかったことも重要でした。彼らとの関係維持・改善についてはいかがですか?

昨日の発表では、スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XVI」や、カプコンの「デビル メイ クライ 5 スペシャルエディション」などもアナウンスされた

ライアン:はい、まさにそこが重要です。

昨日だけでなく 6月のプレゼンテーションでも、日本発のゲームタイトルを多く紹介しました。もっとたくさんあるんですよ。

日本のゲーム開発者やパブリッシャーの多くは、5、6年前には、モバイル(スマートフォン向け)を主要なプラットフォームとして追求することを考えていました。しかし、ここ2~3年で彼らはゲームコンソール、特にPlayStationに戻ってきています。これは業界レベルの現象と認識しています。

私たちはより多くの時間を費やして、日本の主要なパブリッシャーと良い関係を築くために、多くの交渉が行なわれています。スクウェア・エニックスやカプコンはもちろん、コーエーテクモなどとも非常に良好な関係を保っています。すべての日本のゲームパブリシャーと密接な関係を持つことが大きな戦略的目標だったんです。

品不足は起きるのか、需要予測は困難

――PS5は発売日に向けて大きなデマンド(需要)があると感じます。どのくらいかければデマンドを満たせる、すなわち入手が楽になると予想していますか?

ライアン:申し訳ない、実際のところ、私たちも明確な答えを持っていません。

初年度に供給する量として、PS4の時よりもPS5の方が多くなっている、ということはお伝えできます。

しかし、足りるかどうかはわからない。

ここにはジレンマもあります。マーケティングやパートナーシップ、販売などが効率的で優れたものであればあるほど、売れ行きは上がりますが、需要と供給が一致していないと、大きな問題が発生してしまうのです。これは常に難しいことです。

昨日のショーへの反響から考えると、私たちは需要を満たすために苦労する可能性が非常に高い。11月12日には、早くベッドから起きてお店に行かなければならないでしょう。

―― 一部海外のニュースソースでは、「ディスクドライブ搭載型に比べ、Digital Editionの供給量が極めて少ない」とされています。これは事実ですか?

ライアン:Digital Editionとディスクドライブ搭載モデルの比率は、現段階では競争上の機密情報です。正確な数は開示できませんが、どちらも同じように、必要とする人に届くような数を生産する計画です。

とはいえ、「2モデルに分ける」ことはこれまでにやったことがないので、本当に正しい判断、どのような比率が良いのかは、本当にわからないのです。できるかぎり正確な予測を試みています。

「PS4との互換性」「ネットワーク」がPS4世代からの移行を加速

――PS5に人々を惹きつけるには、ネットワークサービスも重要です。今回、有料サービスである「PlayStation Plus(PS+)」に、「PlayStation Plusコレクション」を追加しました。その意味を教えてください。

(筆者注:PlayStation Plusコレクションは、PS+契約者向けの付加サービス。「バットマン:アーカム・ナイト」や「Fallout 4」、「モンスターハンター:ワールド」など十数本のPS4タイトルが、PS5でダウンロードして遊べるものになる。18本が対象として公開されているが、どのタイトルが遊び放題になるのかは、国や地域によって異なる)

PlayStation Plusコレクション

ライアン:これは、PS4ユーザーの皆様に向けた、PS+サービスを強化するものだと考えています。

ユーザー層は3種類あります。

今回18本の対象タイトルを発表していますが、全部プレイしたことのあるPS4ユーザーは、どのくらいいると思いますか?

PS4ユーザーは1億人いますがそのうち、みなさんが想像するよりずっと少ない数の方々しか、全部はプレイしていないんです。彼らには魅力はないかもしれませんが、「1億人の大多数」にとってはそうではありません。

2つ目のユーザー層は、「Plusコレクション」に含まれる何本かのゲームを、PS4でプレイしたあとにPS5へとアップグレードする、PS4所有者です。

「Plusコレクション」は、彼らにかなりの数の追加の素晴らしいPS4向けのゲームを、追加費用なしで提供する価値のあるものになるでしょう。

しかし、「Plusコレクション」を最もお得に、興味を持ってもらえるのは、「PS4を買ったことがなく、PS5を買う人々」です。PS5を購入してPS+を利用している人たちは、多くのPS4タイトルを追加費用なしで手に入れることができます。

これはPS+の価値を大幅に強化することを意味しますが、同時に、PS5にとって、意味のある顧客獲得ツールでもあります。

――PS4の今後について教えてください。PS3からPS4の時に比べ、市場の移行は速くなる、とお考えですか?

ライアン:はい、はるかに速くなる、と考えています。一番大きな理由は、PS5ではPS4のソフトが動くという、非常に高い後方互換性を備えているからです。

もう一つの理由は、PS4のコミュニティがネットワーク化されていることです。

PS3のコミュニティは「ネットワークコミュニティ」とは言えなかったのに対し、PS4のコミュニティはネットワークで結ばれていて、より粘着質で、まとまりのあるコミュニティになっていると思います。これにより、PS3よりもはやく移行できる機会を得られたと思います。

また、現時点でのPS4のコミュニティの規模は、2013年同時期のPS3のコミュニティの規模を大幅に上回っています。

一般論でいえば、ある世代から次の世代のコンソールへとユーザーを連れて行く機会は、7年前よりも、かなり大きなものになっているといえるでしょう。

――最後に、日本のゲームファンへのメッセージをいただけますか?

ライアン:日本のゲーム市場と日本のゲームコミュニティは、PlayStationにとって、世界で最も重要な市場の一つです。

北米と同時発売日を設定したことや、日本のパブリッシングパートナーとの関係に注目していることなど、私たちが日本市場に向けて示している注目と集中を評価していただき、みなさんに、PS5での素晴らしい体験、PlayStationでの素晴らしいゲームの未来が訪れることを、心から願っています。

前面にUltra HD Blu-rayドライブを備えたスタンダードな「プレイステーション 5」

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41