西田宗千佳のRandomTracking
第507回
今年のレグザは「大画面・Android・ネット動画」。当事者に聞く新トレンド
2021年8月24日 08:00
今年のレグザ(REGZA)は「大画面攻勢」だ。85型4Kモデルを備える「Z670K」、75型の「M550K」など、大画面専用チューンを施した上で価格的にも抑えめなモデルが目に付く。
プラットフォームとしても初めて「Android TV」を採用したモデルをラインナップし、今までとは違う商品戦略に入った印象が強い。
現在のテレビ市場をどう見ているのか? TVS REGZA・ブランド統括マネージャーの本村裕史氏と、商品戦略本部 商品企画部 シニアプロダクトプロデューサーの槇本修二氏に聞いた。
そこで見えてきたのは、地デジ移行から10年を経てようやく、再度成長期を迎えた新しい日本のテレビ市場の形だ。
リビング向けの買い替え需要が加速、都市と地方で変わる「画質」「サイズ」の判断
本村氏は今年、日本のテレビ市場が「610万台くらいになるのでは」と予想している。そして「ここから数年はこれくらいの規模で推移するのでは」とも話す。各社からの話を総合しての筆者の予測も同様だ。
2011年の地デジ移行の頃には2,300万台くらいまで急激に伸びたが、その分が「需要の先食い」となって急激に売り上げが落ちた。以来10年、日本のテレビは販売数量を大きく減らしたまま推移してきた。以下のグラフは、一般社団法人・電子情報技術産業協会(JEITA)が公開している「民生用電子機器国内出荷統計」から、テレビの国内出荷台数を抜粋してまとめたものだ。2011年とその前後の違いがはっきりとわかる。
だが、需要の先食いも時間が経てば解消される。故障や経年劣化、引越しや新機種への魅力など様々な理由はあるが、どの家庭でもテレビは他の家電同様、一定期間で買い替えられていくものだからだ。
しかし、地デジ移行期に購入されたテレビの買い替えサイクルはなかなか回ってこなかった。それがようやく今やってきているわけだ。
本村氏(以下敬称略):テレビの買い替えサイクルは10年以内と言われているので、「そろそろ来るだろう」と言われていたのですが、この数年はなかなか来ませんでした。ただ、コロナの影響があったかどうかは別にして、昨年から市場が動き始めています。
10年前のテレビをどのくらい使ってるのか? ということを調べてみると、7~8割がそのまま使われている、という状況のようです。だとするなら、しばらく潤沢に買い替え需要が起きるとは思っていますから、600万台規模が、数年続くでしょう。
一方、ここでいう「テレビ」はあくまで「リビングにある大型テレビ」のことだ。
先ほどテレビの販売数量が落ちた、という話をしたが、その内実をみると単に「売れなくなった」という話ではないことが見えてくる。
以下のグラフは、前出・JEITAの統計から、29型以下の「小型テレビ」と、37型もしくは40型以上の「大型テレビ」の出荷数の変化を描いたものだ。筆者が何回か記事で使ってきたものだが、その最新版である。
2018年にJEITAの統計におけるテレビのサイズ区分が「37型~40型」「50型以上」から「40~49型」「50型以上」に変わったため、そこから「大型テレビ」については若干基準が変わっていることをご留意いただきたい。
このグラフが示すことは明白。下がったのは「小型」のテレビ需要であり、リビングにおける「大型テレビ」の需要は年々回復基調にあり、大型化がさらに進んでいる……ということだ。筆者がこの点を指摘と、本村氏も同意した。
本村:昔、テレビの販売台数が多かった頃は「家にあるテレビの台数」自体が多かったんです。24型くらいの小さなテレビがかなり売れました。しかし、今はそうした個室向けのテレビはスマートフォンやタブレットに置き換わったのか、そこまで売れていない。
でも、リビングは別。大画面は別なんです。
そこで、買い替え需要が伸びる中で起きたことはなんなのだろう? 本村氏は「画質とサイズ」という、リビング向けテレビの本質といっていい部分への評価だった、と話す。
本村:今は「有機EL」の製品が市民権を得ました。「どうせ買うなら有機EL」と皆さんが考える。やっぱり、店頭にテレビを求めていらっしゃるお客様が、今の製品の画質をみるとびっくりなさるんですよね。
やはり、その瞬間は我々もお客様もうれしい。テレビという商品を目の前に感動しているわけですから。「大画面の画質に感動する」というのはテレビのテレビたる所以であり、ワクワクドキドキするところ。スマホにない感動領域です。
なるほど……と思うが、そこで大きく変わってきた事情もある。
それが「さらなる大画面化」だ。ただし、それも「地域によって差がはっきりしてきた」と本村氏は指摘する。その結果が、冒頭でも挙げた「大画面シフト」だ。
本村:まだまだ大画面化は進むと思います。そのベースにあるのは「価格の変化」です。これまで「日本では大画面は難しい」という言い方がされてきたんですが、けっしてそうではない。
先日85型・75型で液晶を使った製品を出しましたが、狙いはそこです。65型以上でも「普通に選んでいただけるモデル」として、液晶の製品を用意しました。
多くの方は20万円台くらいのテレビをお買い求めになります。この価格帯、有機ELだと55型になるのですが、液晶だと65型も買える。リーズナブルなモデルなら75型も大丈夫です。
同じ価格で「画質」なのか「大きさ」なのかは、地域性・居住空間性ではっきり変わってきます。要は、地方では同じ価格で大きなサイズのものの方が好まれやすい。数値で情報を持っているわけではありませんが、バイヤーの方々・お客様などからの「肌感覚」で言えば間違いなくそうです。
販売店の特性によっても違います。「レールサイド」と呼ばれる都市型の量販店では完全に有機ELですが、「ロードサイド」と呼ばれる、ゆったりした作りの地方のお店では液晶・大画面の製品に対するリアクションがいい。
そうしたニーズにキャッチアップしている、とお考えください。
大型モデル増加に寄与する「ハイセンス」
なるほど……と思う一方で、「ではなぜ価格が下がったのか」という点も重要だ。もちろん、最も大きな要因は「液晶パネルの価格下落」だ。10.5世代ガラス基板による液晶工場での量産効果が出ているのは間違いない。
だが、それだけがポイントではない。
槇本氏は「ハイセンス傘下になって大きな製品が作りやすくなった」と事情を明かす。
ご存じのとおり、TVS REGZAは2018年に中国・ハイセンスの傘下となった。その結果として、調達や生産にはハイセンスのファシリティが使われるようになっている。
槇本:例えば、テレビのバックパネルの生産に使う「金型」が挙げられます。昔は4分割したものを使っていましたが、今の製品は金属の1枚板を成型したものです。
これを作るためには、金型だけで数億円のコストがかかります。日本市場だけで投資回収するのはかなり難しいです。しかし、ハイセンス側にあるものを元にすることで、劇的に価格を下げて、さらに差別化することもできました。
本村氏も「そうした製造面での対応がなければ、大きいサイズの製品を素早く低コストに作ることはできない」と頷く。
中国やアメリカの市場は、もともと土地に余裕があるお国柄もあって、他の地域よりも「大きなサイズ」が喜ばれる。また、そもそも人口が多く需要も旺盛なので、市場として大きい。ハイセンスはワールドワイドにテレビビジネスを展開しており、中国を含めた「大きなサイズが得意」な市場を抱えている。そこで、その利点を活かし、地方で盛り上がる「リーズナブルな価格の大画面テレビ」のニーズを掴んで攻勢をかけた……ということなのだろう。
こうした事情もあり、現状のTVS REGZAのラインナップは「都市部・画質優先の人々に向けた有機EL」と、「地方・サイズ優先の人々に向けた液晶」という作戦になっている。
一方、現状視界が不明瞭なのは「8K」だ。現状、TVS REGZAとしては8K製品の準備はない、という。2019年に「8Kレグザエンジン」を組み込んだ試作機も公表しているが、そこからの進展は公表されていない。本村氏も「あの時期が、弊社としても8Kに一番熱心だった頃かもしれない」と話す。
東芝、史上最高画質の「8Kレグザエンジン」。8Kチューナ内蔵8Kテレビも開発中
本村:確かに、8Kは素晴らしいです。ただ、パネルのブレイクスルーがなかなか見えてこない。有機ELで今作ると、恐ろしく高いものになってしまいます。
「では液晶で」ということになるかもしれませんが、今度は、液晶だとそこまでの価値が出ないんです。画質は精細感・発色・コントラストで決まりますが、液晶ではコントラストが足りません。さらにはコンテンツもまだ少ない。現状ではまだ明確な予定を話せる時期ではありません。
では、他のテレビメーカーやiPadなどでの採用で注目されている「ミニLED」はどうだろう? こちらも「現状では予定がない」という。
槇本:現状の4Kテレビは、パネルやバックライトなどのコストが急激に下がっています。しかし、ミニLEDを作るためのコストはそこまで落ちてきていないんです。量産効果が出ていないためでしょう。
一方、画質面で言えば、ミニLEDで有機ELに近い画質になるか、というと、そこまででもない。結局、ミニLEDでどれだけバックライト分割数を増やしても、ピクセル単位で表示する有機ELには敵わないですから。
もちろんメリットは見出しているので、価格とのバランスの兼ね合いから、どのタイミングで出すのが良いのか……ということです。
本村:どんな製品を作るかについて、すべては「コストとその効果」です。お客様に喜んでいただけるためにはそれが重要なのですが、コストが落ちてきていないと価値を出しづらいですから。
すなわちバリューのバランスにおいて、「4Kで55型・65型の有機EL」「4Kで65型・75型・85型の液晶」は良好な位置付けにあるが、ミニLED液晶や8K製品はまだバランスがとれていない……という判断なのだろう。
Android TVでは「クラウドのパラメータで画質向上」
TVS REGZAは今年販売する製品の、もう一つの特徴が「Android TVの採用」だ。
これまでレグザはCELinuxベースのオリジナルプラットフォームを採用してきた。だが、今回初めてAndroid TVという他社プラットフォームを使うことになる。
では、Android TVに一本化するのか? というとそうではない。「これまでのプラットフォームも含めて、適材適所で使い続ける」と本村氏は言う。
ここで理解しておくべきは、レグザにおける「プラットフォーム」は、ハードウエアの選択と強く紐づいている、ということだ。OSというとソフトの話に思えるが、PCなどと違い家電であるテレビは、ハードウエアと一体で設計され、提供される。正確に言えば、コストや機能などの要求に応じてハードウエアと開発のためのOSを選択している、といった方が正しい。
今のレグザでは、以下のように多数の「映像処理エンジン」が使われている。これが「プラットフォーム」。プラットフォームによって実装できる機能は変わってくるので、機能や画質が異なる。
プラットフォームは逐次それぞれの技術で刷新しているが、どの技術がどのタイミングで搭載されるかは、プラットフォームの開発タイミングとの兼ね合いで決まることがある。
例えば、HDMI 2.1による「4K 120Hz対応」や「ARR対応」は、ハイエンドのモデルではまだ見送られているものの、Androidを採用した「レグザエンジンZR Ⅰ」採用製品からとなる。この理由は「開発のタイミング的に、新エンジンからになった」(本村氏)からだという。
本村:今我々が幾つのエンジンを使っているエンジンを順番にご説明します。
まず、フラッグシップの有機ELなどに使っている「ダブルレグザエンジン Cloud Pro」。いわゆるSoCと呼ばれるチップに我々の高画質化ソフトを入れて、さらにバックエンドに専用の高画質化プロセッサーが入っています。
その下に、高画質化プロセッサーを外してSoCの上でソフトによって高画質化を実現しているものがあります。これが「レグザエンジンCloud」です。
それとは別に、Androidベースの「レグザエンジンZR I」があります。
ただ、CELinuxかAndroidか、というのはあまり大きな問題ではないです。今時なら開発をちゃんとしていれば、どちらを使うのか、というレベルの話に過ぎないので。
なのでザックリいうと、「特別なチップを使う超ハイエンド」と「既存SoCに我々の魂をソフトで実現するもの」の2つなんです。
すなわち、新しい世代のエンジンを作っていく上で「汎用SoC上+ソフトで開発するプラットフォーム」としてAndroid TVベースのものを採用した、ということになるのだろう。
ではその特徴はどこになるのか?
槇本:映像処理エンジンの裏側では、画質調整のための多数のパラメータが動いています。ハイエンドなものはいじれるパラメータが非常に多いんです。
今回のAndroidのものは、いじれるパラメータ自身はハイエンドほど多くはないんですが、それでもかなりあるんですね。
でも一方、それを細かく変えるために分析するハードウエアではないんです。
本村:ハイエンドモデルは、弊社の住吉(東芝DME 映像マイスタの住吉肇氏)などがこだわった高画質化を実現するために、60分の1秒単位で解析して補正をかけています。
ですが、そのための専用プロセッサーがついていないモデルではできないことなんです。
槇本:ではそこでどうやって最適化するか、ということで、使っているのが「クラウド」です。
パラメータのデータベースを番組ごとにクラウドに持っていて、「この番組であればこのパラメータを与えれば画質が最適化されますね」という形でやっています。
従来のSoCベースのものは、そこまでいじれるパラメータが多くなかったので、クラウドと連携はするものの、結果として画質がそこまで上がらなかった、という部分もあります。
今回のAndroidベースで開発したものは、ハイエンドなものと違ってシンプルな1つのSoCで動作してはいるんですが、クラウドでのパラメータと連携することで、従来のエントリーレベルのモデルよりも高画質になっています。
レグザが「クラウドAI高画質テクノロジー」を導入したのは2020年2月のこと。ハイエンドの「Z740X」からの導入だった。
クラウドAI高画質テクノロジーは、文中にもあるように、番組単位で「この種別の番組はこうしたパラメータが高画質化に有効」という情報を用意して、番組表の情報をもとにテレビ側に提供して画質を向上させていく技術だ。もちろん「ジャンル」レベルの荒い分類ではなく、番組名や番組の傾向などによる画質傾向を加味した複雑なものである。
今回Android TVで使われているのもその技術をベースとしている。そこで筆者は「なるほど、そもそもクラウド導入は、最終的にはコストに応じた不利をカバーする技術にもなる、という想定だったんですね」と聞いた。
すると本村氏は「そうカッコよく書いていただけるといいんですけど、そうではなくて……」と苦笑する。
本村:最初はやっぱり「ハイエンドでさらに高画質を追求するにはなにをすべきか」という話だったんです。それが結果的には「Androidで有効に使える」という話になったんです。
槇本:技術を進化させてきたらミドルクラスでも十分に使える技術にまでなってきた、ということです。
「ビジネスの事情」からNetflix非対応、そこから生まれた「My.Choice」ボタンの価値
採用した理由はシンプルに「ニーズ」だ。
本村:我々の視点で言えば、テレビにとって重要なのはOSではなく「機能」なので、Androidかどうかはあまり大きなことと考えていました。しかし、世の中にAndroidが浸透し、バイヤーの方々まで「Androidとタイムシフトマシン、どちらがいいのか」的なことを言うほどになってきた現状を考えると、そのニーズを否定するものではないし、逆にCELinuxベースで作ってきた価値を否定することもあり得ないです。
Android TVベースになる利点の一つは映像配信への対応が容易である、ということだ。アプリを開発すればいいため、新しいサービスへの対応のハードルは低くなる。もちろん、ゲームやフィットネスなどのアプリのニーズもあるだろう。
だが、今年のレグザエンジンZR Iを使ったレグザの場合、映像配信の中でもメジャーな存在である「Netflix」には対応していない。アプリをインストールしたとしても視聴はできない。理由については「ビジネス上のもの」とだけ開示されている。今回の取材でもそこに変化はない。
そのことはもちろんマイナスなのだが、「実際の販売ではそこまで大きな影響はない」と本村氏は話す。Fire TVやChromecastのようなHDMIに差し込むドングル型の機器で安価に対応できるから、というのが理由だ。
それはある意味で言い訳なのだが、けがの功名としての「新機能」が生まれたからではある。それが「My.Choice」ボタンだ。
「My.Choice」ボタンは、リモコンの映像橋品へのダイレクトボタンの位置に用意されたものだ。
「使わない配信を好きな機能のショートカットに使いたい」と思うことはないだろうか。簡単に言えば、「My.Choice」ボタンはそういう機能だ。割り当てるのはなんでもいい。HDMI端子につけたゲーム機やSTBでもいいし、BS・CSの1チャンネルでもいい。アプリでもいい。「テレビでよく見るソース」をとにかく割り当てられるようになっているのだ。
実際のところ、この機能は急遽搭載が決まったものだが、本村氏は「仮にNetflixが再度搭載できることになっても、このボタンは続けたいと思う」というくらい気に入っている。確かにユーザーとしてはありがたいし、ある意味で「あって欲しかった」機能だ。
「V34」のヒットから見えた「パーソナルサイズ復権」の兆し
Android TVを採用したレグザエンジンZR Iにはタイムシフトマシンは搭載されていない。だが、録画機能はちゃんと搭載されている。しかも、中身がリニューアルされたものが、だ。
本村:Androidである理由はなにかを考えたとき、結論として出たのが「録画」です。Androidだからこそ録画文化が開花するのではないか、と考え、フルクラウドで実現したのが新しい録画機能です。
この機能は、番組を大きなサムネイルでみせ、その時に気になる・話題になっている番組を「おまかせ予約」したり、一覧で確認したりできるものだ。従来の録画機能をベースにしつつも、これまで培ってきた「クラウドによる番組分析と情報提供」を活かしたものになっている。開発を担当しているのは、過去同社の録画機である「RDシリーズ」などの企画を担当した片岡秀夫氏が率いる、通称「チーム片岡」だ。
全録ではなく自動録画系を重視した作りだが、その見せ方などにYouTubeの影響があるのが面白い点だ。
ここには、TVS REGZAの中でのある変化がある。
冒頭で今のテレビ市場について分析した中で、「個室の小さなテレビが売れなくなった」という話をした。それは今もその通りなのだが、変化の予兆を感じる商品もあったという。
それが、同社の「V34」シリーズである。
これは解像度も2Kで、サイズも24型から40型。AVメディア的に目立つ「高画質テレビ」という路線ではない。これが「出した瞬間からブレイクした」(本村氏)のだという。そのことは、TVS REGZAにとってエポックな出来事だった。
本村:この製品はパーソナルモデルですが、初めてネット動画の再生機能をガッツリ搭載しました。
実のところ、このモデルは前モデル「V32」に比べ、チューナーの数がスペックダウンしています。3チューナーだったものがWチューナーになりました。その代わりと言ってはなんですが、ネット動画の機能はしっかり入っています。
「コロナ以降、ネット動画の視聴時間は伸びてきていますね」ということは肌感覚では感じていたんです。そこでチーム片岡に、ちょっと調べてもらったんです。テレビがどう使われているかはリアルタイムで把握できるので、そこからどうなっているかがわかりますから。
そうすると「大変なことが起きてますよ」と彼らはいうわけです。
なんと、テレビでのネット動画視聴の時間が「1日1時間半を超えている」というんです。
しかも急速に伸びている。もはやNHK 1局よりも長い時間見ているじゃないか……ということがわかってきました。
視聴しているのは圧倒的にYouTube。そこからかなり落ちてAmazon Prime Video、さらにちょっと落ちてNetflix……という状況です。
そこでもう「これはネット動画全押しだね」ということになり、展開を急遽変えました。「ネット動画がズラリ」というプロモーションにした途端、大ブレイクです。
本村:同時期に、他社ですがTCLの32型Android TVも売れています。ネット動画がサクサク見れる製品、ということで本格的に認知が進む時代になったと言えます。こういう製品を若い方々が買っているわけです。
「テレビ離れ」と言いますが、ネット動画を見ていてもテレビ。マルチデバイス化の一端を担っているということです。
そして、V34では結果的に「録画」もされているという。自動録画などで簡単に使えるのであれば若者も使うのだ。これは筆者の予測だが、ネット動画視聴が増え、結果的に「テレビのリアルタイム視聴」が減ったことで、チューナー数が減ってもさほど影響がなかったのではないか、という気もする。
結果としてTVS REGZAは現在、パーソナルサイズのテレビについても色々と戦略を練り直している最中だという。もちろん次にどういう製品が出てくるかはわからない。
本村氏は「もしかすると、別にテレビという製品の形でなくてもいいかもしれない」と話す。
本村:V34のヒットの状況を見て、妄想が広がり始めてしまったんです。パーソナルサイズのテレビといえば「価格勝負しかない」という価格しか打つ手がないので興味がなかったゾーンですが、実はそうではなかったわけで。
価格が大きな価値を持つことに変わりはないですが、切り口を変えて付加価値をつけ、それでお客様に選んでいただいて市場が広がるのであれば、メーカーとしては十分にやる価値があります。
マルチディスプレイ・マルチデバイスの入口としてのV34、のような方向性もあるでしょうし、全く別のカテゴリーもあるかもしれません。
テレビ市場は、リビングではようやく「画質とサイズ」という流れで10年前と違う世界が定着し、それが市場の再生につながった。
小さいサイズは「失われたまま」とされていたのだが、実際には低価格なPC用ディスプレイが堅調に売れていたりと、別の形で「それなりの大きさの画面を見る」価値観が継続していたりする。
V34でTVS REGZAが見つけたかもしれない方向性は、失われた「パーソナルサイズ市場」を再び活性化させるきっかけになるかもしれない。