西田宗千佳のRandomTracking

第512回

第3世代AirPodsは「空間オーディオ」ありき、実はテレワークにも

第3世代AirPodsのパッケージ。価格は2万3,800円

アップルが発売する「第3世代AirPods」の実機レビューをお届けする。

AirPodsは完全ワイヤレス型イヤホンを定着させた大ヒットモデルであり、デザイン的な「フォロワー」も多い。

現在はハイエンドモデルの「AirPods Pro」の売れ行きも上がっているが、やはり3万円を超える価格が気になり、普及モデルのAirPodsを……という人も少なくないだろう。

第3世代に進化することで、AirPodsも「空間オーディオ」に本格対応する。

「第2世代AirPods」「AirPods Pro」と完全比較し、その実力を確かめてみた。

第3世代AirPods(左上)、第2世代AirPods(右上)、AirPods Pro(下)

第2世代と第3世代は「同じサイズで向きが変わった」

第3世代AirPodsは、デザイン的にはAirPods Proに近く、ノイズキャンセルの有無や耳への装着方法という意味では第2世代AirPodsに近い。AirPods Proでの進化を普及モデルに落とし込んだもの、というイメージでいいだろうか。

並べてみると、確かにAirPods Proに近付いているように思える。

が、よく比べるとなかなか面白い。

実は、AirPodsの第2世代と第3世代は「まったく同じサイズ」なのだ。縦横の方向が違うだけで、こんなに印象が変わるものかと驚いた。だから、中で本体を梱包するのに使われているトレーも、90度回しただけで同じものだった。「製造での最適化とはこういうことか」と興味深く感じてしまった。

どちらも左が第3世代で、右が第2世代。90度回転しているだけで、実際はサイズはほとんど変わっていない
左が第3世代で、右が第2世代のパッケージ。サイズなどはまったく同じだ
内部のトレーは90度方向が違う。が、実は同じもの

なので、同じようなデザインに見えて、AirPods Proよりはケースの横幅が狭い。市販の外付けケースなどについては、AirPods Proのものは使えないのでご注意を。サイズは同じだから入るが、90度回転しているので、第2世代のものも、実際には使うのが難しい。

背面から。第3世代AirPods(左上)、第2世代AirPods(右上)、AirPods Pro(下)
左がAirPods Proで、右が第3世代AirPods。確かにProの方がちょっと横長
上がAirPods Proで、右が第3世代AirPods

耳につける本体の側は、マイク・操作部として飛び出している「棒」が短くなっている。バランス的にはかなりProに近い。

第3世代AirPodsのハウジング
左から、AirPods Pro、第3世代AirPods、第2世代AirPods。マイク・操作部の長さが第2世代だけかなり長い

筆者は普段AirPods Proを使っており、第2世代AirPodsを使ったのは久々だ。比べてみて気づいたのだが、棒の部分が長いことで、ケースからはちょっと取り出しにくかった。短い方がスッと出てくるのだ。この部分は、新しい第3世代AirPodsも同じなので、「第2世代より第3世代の方が使い勝手が上がった」といっていい、と思う。

第2世代AirPods。縦長で、実は意外と取り出しづらい
AirPods Pro。「棒」が短くなったので、スッと取り出しやすくなった。イヤーピースが付いている点が特徴だ
第3世代AirPods。AirPods Proに近い使い勝手になった

耳に触れる部分の作りは、どのモデルもずいぶん違う。

AirPods Proは軟質のイヤーピースを併用して閉鎖性を高めるいわゆる「カナル型」に近い構造だが、AirPodsはそうではない。耳の穴には差し込まず、耳介で支えるのは第2世代も第3世代も同じである。音については後ほど詳しく解説するが、その構造ゆえに、AirPods Proに比べ、装着感も音も開放的だ。

左から、AirPods Pro、第3世代AirPods、第2世代AirPods。上部の耳につける部分の形状・構造は3者まちまちだ

繰り返しになるが、同じような構造とはいえ、第2世代と第3世代はデザインが違う。センサーや音が抜けるポートの位置が変わっているだけでなく、耳介で支える丸い部分の大きさも変わっている。そのため、耳への「収まり感」も違う。

素材的には同じく白いツルッとした肌触りのプラスチックで、摩擦で止まるようなイメージはない。だが、丸い部分が大きくなったことで耳の皮膚に接する面積が増えたせいか、安定性は上がったような印象だ。また、棒の部分が短くなったことでバランスが変わっており、「ポロッ」と落ちづらくなった。とはいえ、耳の穴に入れるAirPods Proの方が落ちづらいので、その点はご注意を。

つけてみた写真はご覧の通り。AirPods Proと第3世代AirPodsはかなり近い。実際にはイヤピースの耳への収まりが違うし、「棒」の長さもちょっと違うが、パッと見、両者を見分けるのは困難だ。

左から、第2世代AirPods・AirPods Pro・第3世代AirPodsの装着例

iOS 15.1で利用、空間オーディオでは大きな進化

では、iPhoneとペアリングして音質などをチェクしていこう。

第3世代AirPodsをフルに活かすには、発売と同時に一般公開が始まる「iOS 15.1」「iPadOS 15.1」「macOS Monterey」が必要になる。今回もiOS 15.1を使用している。

iOS 15.1でのペアリング時。ウィジェットの残り電力表示でも、筐体のデザインは、第2世代と第3世代が違うものになっている

セットアップはいつもの通りで、iPhoneやiPadに近づけてタップするだけだ。

セットアップの方法に変化はない

ハードの構造は変わっていないので、アップル製品以外とペアリングする時の方法も同じ。充電ケースの裏側にある丸いボタンを長押しし「手動ペアリング」モードに入って、一般的なBluetoothヘッドフォンと同じようにペアリングするだけだ。すなわち、アップル製品とセットでなくても、これまで通り使える。

とはいえやっぱり、最も大きな価値を発揮するのは、アップル製品+アップルのサービスと組み合わせた時。具体的には、iPhoneやiPadを使い、Apple MusicやApple TVアプリを使い、空間オーディオを活用した場合である。

まず音楽から行こう。

ご存知のように、Apple MusicではDolby Atmosによる空間オーディオ楽曲が提供されている。

実は、アップル製ヘッドフォンなどはアップル側で特性がわかっているので、どの製品でも「とりあえず空間オーディオは再生できる」。Dolby Atmos提供楽曲であれば、標準設定だと、アップルのヘッドフォンがつながった時は自動的に空間オーディオとして再生される。

さらには他のヘッドフォンでも聴ける。「ミュージック」の設定で「ドルビーアトモス」を「常にオン」にすれば、どのヘッドフォンでも空間オーディオとして再生が始まる。この点は誤解されがちなのだが、第3世代AirPodsやAirPods Proでないと聴けない、という話ではない。

ただ、第3世代AirPods・AirPods Pro・AirPods Maxの場合、ヘッドトラッキングを併用するため、頭の向きに応じて定位が変わり、空間の把握がしやすくなるのだ。そのため、これらの「ヘッドトラッキング対応AirPodsシリーズ」の方が、空間オーディオの醍醐味を味わいやすい、といっていいだろう。

では実際に、Apple Musicの楽曲を聴いてみる。

iOS 15.1から、空間オーディオ関連のUIはよりわかりやすくなり、ヘッドトラッキングをしているかどうかもアイコンで見えるようになっている。「固定」が、空間オーディオ再生はしているがヘッドトラッキングを使わない場合で、「オフ」が通常のステレオ再生だ。これらを適宜切り替えつつ聴いて行く。

ヘッドトラッキング対応だということがわかりやすくなり、ヘッドトラッキングだけをオフにする「固定」モードも増えた
AirPods Proの場合。「ノイズキャンセル」の設定項目があるのが特徴
第2世代AirPodsでは、設定関連が出てこない

まずは、個人的に空間オーディオのベンチマークにしている、ビートルズの「Here Comes the Sun(2019 Mix)」から。

「Here Comes the Sun(2019 Mix)」をDolby Atmosで再生中。中央の表示に注目

確かに、第3世代AirPodsではヘッドトラッキングが有効になる。効果としては、AirPods Proのものとまったく同じだ。第2世代AirPodsだと「固定」での再生だけに近い形になるのだが、効果はヘッドトラッキングありに比べると弱く、音の広がり感がない。

同じくDolby Atmosでハービー・ハンコックの「The Sorcerer」を聴いてみる。ジャズは空間オーディオとの相性が良いジャンルの一つだと思っているが、やはりこちらも、AirPods Proと第3世代AirPodsではかなり近い効果が楽しめる。

iOS 15以降では、ステレオ楽曲を擬似的に「空間オーディオ化」して再生する機能がある。こちらは、ヘッドトラッキングが使える3機種でのみ有効なものだ。

ステレオ楽曲の場合、ヘッドトラッキングを生かして「擬似的な空間オーディオ化」も行なえる

こちらでは聖飢魔IIの「EL・DO・RA・DO」を聴く。実はこの曲、非常にこの機能と相性がよく、一気に音が広がるのがわかっている。ここでも、第3世代AirPodsの効果は十分。ヘッドトラッキングによる空間オーデオの体験は、第3世代AirPodsと第2世代とでは大きな差が生まれている。

開放的な音だがノイキャンも合わせて「Pro」には敵わず

では、音質そのものはどうだろう?

面白いことに、第2世代・第3世代のAirPodsはそれぞれ違い、AirPods Proはさらに違う、という結果になった。

AirPodsはオープン型なので、音には多少開放感がある。装着感が「軽い」のも特徴だろう。

ただそれゆえに、低音は少し軽い。これは第3世代でも同様だ。低音を含めた全体楽曲の迫力では、AirPods Proの方がずっといい。

ただ、第2世代と第3世代を比べると、音の傾向は似ているものの、高域から中域にかけての細やかさは上がっていると感じる。イメージとしてはよりAirPods Proに近づいた感じだ。音の要素が多く煌めくようなイメージの部分を聴いていると、違いがよりわかりやすい。

周囲がうるさい場所に行くと、3者の違いはもっとはっきりする。

地下鉄に乗ってテストしてみると、そもそもノイズキャンセルがなくオープン型なので、第2世代・第3世代AirPodsともに、周囲の音は気になる。だが、第2世代に比べると第3世代の方が音のイメージは伝わってくる。第3世代AirPodsはその場に合わせて適応的に音質チューニングをしながら再生が行なわれるので、その効果ではないか……と思える。

AirPods Proはノイズキャンセルもあるので、ちゃんと楽曲に集中できる。これはAirPodsとの大きな違いと言える。

ただ面白いのは、静かなところだと、第3世代AirPodsとAirPods Proの差は小さくなってくることだ。

全体的には、ノイズキャンセルの効果も含めて間違いなくAirPods Proが優位ではあり、特に低音はかなり違う。だが、第3世代AirPodsの方が少し音に開放感があって、これはこれで悪くない。

AirPods Proには「外音取り込み機能」もあるが、それをオンにした場合、第3世代AirPodsで「周囲からの音が聞こえる」感じに少し近いように思う。

ただ、映画・ドラマなどのDolby Atmosコンテンツを見ている場合には、正直AirPods Proの圧勝だ。音楽と映画における音の傾向の違いからか、第3世代AirPodsでは没入感が削がれる感じがする。映画視聴を考えるなら、正直「Pro一択」だと思う。

テレワークにも最適だが、微妙な「高値」が悩ましい

これらの点を総合すると、第3世代AirPodsは「ノイズキャンセルが不要で、音楽中心で使いたい人」ということになる。

また、テレワークなどで長時間使う場合にも、AirPodsの方がいいだろう。他のカナル型に比べれば負担が小さいとはいえ、AirPods Proは耳の穴に圧迫感がある。AirPodsはその点、より負担が小さい。

マイク音質についても調べてみたが、AirPods Proと第3世代AirPodsはかなり傾向が近かった。第2世代はそれら2機種に比べると、音の明瞭さに欠ける印象を持った。ここでも「第3世代AirPodsはテレワーク向け」という感触を持った。

ただ気になるのは、第3世代AirPodsが決して「安くはない」ことだ。

第2世代AirPodsが1万6,800円であるのに対し、第3世代は2万3,800円。AirPods Proは3万580円である。やはりAirPods Proがちょっと高いのは間違いないのだが、その差は7,000円弱だ。第2世代と第3世代の差もやはり7,000円なのだが、第3世代のためにプラス7,000円出せるなら、もうひとがんばりしてAirPods Proを……という気もしてくる。

第3世代ではIPX4の耐汗耐水性能があること、動作時間が5時間から6時間に伸びていることなどをどう判断するか、という印象も持つ。

第3世代AirPodsのケースはMagSafeによるワイヤレス充電にも対応しているが、この機能については「なくてもいいのでもう少し安く」とも思う。

まあ、第2世代を一番下に残すが故の価格戦略だとはわかるのだけれど……

ケースはQiのワイヤレス充電とMagSafeに対応。確かに便利ではあるのだが
西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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