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第512回

ウォルト・ディズニー・ジャパン社長に聞く「Disney+リニューアル」で生まれるもの

10月27日、日本の「Disney+」が大きく変わる。先日も東京都内で「APACコンテンツ・ショーケース」と題したプレスイベントを開催し、新サービスでのコンテンツをアピールした。

では、新しいDisney+はどう変わるのだろうか? コンテンツ施策などをどう考えているのだろうか? ウォルト・ディズニー・ジャパンのキャロル・チョイ代表取締役社長にメールインタビューを行なった。

その内容から、新しいDisney+の狙いを紐解いてみたい。

プレスイベント「APACコンテンツ・ショーケース」

Disney+はどう変わるのか

まず、ここまでのDisney+の流れをおさらいしてみよう。

日本におけるDisney+は少々複雑な流れで現在に至る。

まず、NTTドコモとのパートナーシップに基づくサービスとして、2019年3月から「Disney DELUXE」がスタートする。その後、2020年6月より、Disney DELUXEをひきつぐ形でブランド名が「Disney+」になる。

これ以降、同サービスでは「Disney+オリジナル」ブランドの、Disney+だけで見られる作品群が多数追加されていく。「マンダロリアン」「ワンダヴィジョン」「スター・ウォーズ: ビジョンズ」などが代表である。

一方、10月26日までのDisney+は、海外でのサービスと構造が違う部分も多かった。

4K/HDR/Dolby Atmos配信が見られない・PlayStation 5などのゲーム機から視聴できないなどの機能性の違いもあったし、課金も基本的にはNTTドコモを経由してのものに限定されていた。

だが、10月27日からはそれが変わる。4K/HDR/Dolby Atmos配信やゲーム機の対応、複数人で同じ番組を楽しむ「GroupWatch」などの機能強化に加え、NTTドコモのdアカウントを使わない契約も行なえるようになる。

PS5向けに発売されている「メディアリモコン」(CFI-ZMR1J)には発売開始時点でDisney+のボタンが用意されていたが、10月27日より、このボタンからも起動できるようになる

最大の変化は、総合エンターテインメントブランドである「STAR」の追加だ。ディズニーやピクサーなどの「ディスニーブランド」の他に、より広いドラマやエンターテインメントの配信が始まる。

総合エンターテインメントブランド「STAR」が追加される

ただし、価格は従来の月額770円から、月額990円へと値上げされる。

機能・コンテンツ・価格と全ての面で大幅に生まれ変わるのが、「新しいDisney+」ということになる。

日本では「ファミリーのテレビ視聴」「オリジナルコンテンツ」支持が厚い

さて、ここからは、キャロル・チョイ社長からの回答を交えて、新しいDisney+の狙いを探っていこう。

まず最初の質問だ。昨年6月のリニューアル以降、Disney+の視聴動向はどうだったのだろうか?

ウォルト・ディズニー・ジャパンのキャロル・チョイ代表取締役社長

チョイ社長(以下敬称略):日本でのDisney+に対する消費者の反応は励みになり、とてもポジティブなものでした。

日本でDisney+は2020年6月11日に、ノース・アジアで最初に提供を開始しました。サービス提供開始からNTTドコモ様をはじめ、多くのパートナー企業、そしてファンの皆さまに支えていただき感謝しています。

消費者からのポジティブな反応は、Disney+が持つ強みからきていると感じています。それは、ディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズ、ナショナル ジオグラフィックなど私たちの象徴的なブランドやフランチャイズから生み出される作品、そして10月27日以降はSTARの映画やドラマ、アニメーション、オリジナル作品などが見放題でお楽しみ頂けることです。その強みを多くの消費者の皆さまにお楽しみいただけていると感じています。

70年以上に渡り、ウォルト・ディズニー・カンパニーは日本中の観客を楽しませて参りました。ディズニーは日本の消費者の心に寄り添っていると思っています。

ディズニー・ディファレンス(ディズニーだからできること)は、卓越したクリエイティビティ、デジタル・イノベーション、そして象徴的なブランドやフランチャイズを通じて消費者や地域社会と育んできた本物のつながりに支えられています。

特に日本では、オリジナル作品の人気も高かったようだ。また、それらの作品を含め、「日本の言葉でのコンテンツを求めている」と指摘する。

チョイ:消費者からはDisney+オリジナル作品に高評価を頂いております。特に、「マンダロリアン」やマーベル・スタジオの「ワンダヴィジョン」、「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」、「ロキ」、「モンスターズ・インク」は非常に高い評価をいただいております。日本の消費者のみなさまには、映画の世界のその後を描くキャラクタ―の物語をお楽しみいただいています。

「マンダロリアン」シーズン2
(C)2020 Lucasfilm Ltd.

例えば、ルーカスフィルムと日本のアニメスタジオが制作した9作のオリジナル短編映画集「スター・ウォーズ:ビジョンズ」は、日本のみならず世界中の観客から高い評価を得ています。日本の消費者は、この地域で最も洗練された消費者層のひとつであり、グローバル、リージョナル、ローカル言語による最高のコンテンツを求めています。

「スター・ウォーズ:ビジョンズ」キービジュアル
(C)2021 TM & c Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

チョイ社長は、日本でのユーザー層にも言及する。その結果、もともと「テレビでの視聴」が多かったようだ。一方で、今後総合エンターテイメントである「STAR」の追加は、若年層の支持を増やす上で重要。その結果、アクセス傾向に変化が出るのでは……とも予測している。

チョイ:Disney+は、もともとファミリーのユーザーが多いこともあり、スマホでの視聴に追加して、テレビでご家庭でお楽しみいただいているケースが多く見られます。

STARの追加でゼネラル・エンターテイメント・コンテンツが増加することにより、より多くの若年が外出先からDisney+にアクセスするようになることで、スマートフォンで動画配信サービスにアクセスする傾向は今後も高まると予想しています。

STARの登場で「Disneyだけじゃない」サービスへ

次に、サービス移行後の形について聞いてみた。大幅な刷新となり、コンテンツも増加する形になる。

チョイ:STARの提供開始にあわせて、新たな対応プラットフォームと機能を追加します。

これまでのスマートフォン、タブレット、PC、スマートテレビ、ストリーミングデバイスに、新たにゲーム機が追加され対応デバイスを拡大します。

機能面では、動画品質を高める4K UHDの映像提供、5.1チャンネル、およびDolby Atmos対応のオーディオ機器で、コンテンツをより大迫力でお楽しみいただける他、別の部屋にいても、7人まで一緒に視聴を楽しめるGroupWatchやキッズプロフィール、プロフィールPIN(暗証番号)など、お子さまも安心してお楽しみいただけるペアレンタルコントロール機能も提供開始となります。

やはりなにより大きいのは、「STAR」による大量の番組追加だ。それにより、Disney+というサービス全体で視聴できるコンテンツの幅は広がり、サービスとしての価値は大きなものになる。

チョイ:STARは、膨大なゼネラル・エンターテイメント・コンテンツがお楽しみいただけるブランドです。ディズニー・テレビジョン・スタジオ(ABC Signature と20thテレビジョン)、FXプロダクションズ、20世紀スタジオ、サーチライト・ピクチャーズなどのディズニーが誇る制作スタジオが数多くの映画やシリーズをお届けします。

日本のファンのみなさまには、「ディズニーだけじゃない」Disney+をお楽しいただけると思っております。ドラマからスリラー、コメディとこれまでにないあらゆる感情に合う幅広いジャンルのコンテンツを含む無数のエンターテイメントと体験をお楽しみいただけます。

価格がここで770円から990円に上がることになるが、その点については「コンテンツの幅が広がる」ことによるもの、と考えてよさそうである。

チョイ:ドラマからスリラー、コメディとこれまでにないあらゆる感情に合う幅広いジャンルのコンテンツに加え、STARには、ここだけでしか見られないオリジナル作品、日本市場向けに制作するローカルコンテンツもお届けします。

10月14日に開催した「APACコンテンツ・ショーケース」でも発表した通り、日本のオリジナル作品をDisney+で順次公開していくほか、日本を代表するクリエイターと協働し、ローカルコンテンツを増やしていきます。

具体的には、「ガンニバル」「拾われた男」などのドラマ作品や「ブラック★★ロックシューターDAWN FALL」「サマータイムレンダ」「四畳半タイムマシンブルース」などのアニメ作品です。

また、Disney+では、今後一年間で20本以上のアジア太平洋地域から生み出される作品を追加する予定で、韓国、グレーター・チャイナ、インドネシア、オーストラリアなど、アジア地域のオリジナル・ストーリーをお楽しみいただけます。

四畳半タイムマシンブルース
(C)森見登美彦, KADOKAWA / 四畳半タイムマシンブルース製作員会
「サマータイムレンダ」
(C)田中靖規/集英社・サマータイムレンダ製作委員会

ここで気になるのは、「海外で見られている作品も含め、日本のDisney+/STARでも、同じように見られるのか」という点。ここはどうやら、安心してよさそうだ。

チョイ:マーケットごとに異なるブランドを展開しているため、作品の配信スケジュールは地域によって異なりますが、日本ではDisney+にSTARが加わることでフルラインナップをご提供します。

STARで独占配信される幅広いコンテンツラインナップには、アカデミー賞作品賞受賞「ノマドランド」などの最新映画、「プリティ・ウーマン」「タイタニック」「プラダを着た悪魔」「デッドプール」などの大ヒット映画、STARオリジナルシリーズからは、セレーナ・ゴメス主演で話題の「マーダーズ・イン・ビルディング」や、人気映画のスピンオフ「Love, ヴィクター」があります。

さらに、サイエンス・フィクション クラシックの金字塔、初のシリーズ作品「エイリアン(原題)」、ジェームズ・クラベルの人気小説をテレビドラマ化し1980年にアメリカで大ヒットした「ショーグン(原題)」など、期待作を新たに制作中です。

また、「glee/グリー」「24 -TWENTY FOUR-」「ウォーキング・デッド」「9-1-1: LONE STAR」などの人気海外ドラマも登場し、数多くの作品が揃います。

TBSとの関係は「継続的」なもの、今後も日本のコンテンツを継続調達

オリジナル作品展開として気になるのが、日本のテレビ局との協業だ。第一弾として、10月27日からはTBSで放送された「TOKYO MER~走る緊急救命室~」が配信されるが、これは日本だけでなく、STARを通じた世界配信となる。こうした関係はどうなっていくのだろうか。

「TOKYO MER~走る緊急救命室~」
(C)TBS

チョイ:まず、TBS様は、これまでディズニーの映画を放送いただくなど、我々にとって長きにわたり大切なパートナーです。その関係をさらに進化させ、TBS日曜劇場の人気ドラマ「TOKYO MER~走る緊急救命室~」を始め、TBSが生み出す優れたコンテンツをディズニーのプラットフォームを通して、国内はもちろんのこと世界中の消費者へとお届けいたします。

ディズニーとしては初めて、日本のドラマを世界へ配信しますが、TBS様とは、今後も継続的に同様の取り組みをすることで合意しました。

10月14日に開催した「APACコンテンツ・ショーケース」でも発表した通り、日本の素晴らしい才能を持つコンテンツ・クリエイターと共に、日本のクリエイティブの素晴らしさを引き続き世界に発信してまいります。

Disney+は動画配信サービスという特性上、すべての人にエンターテイメントの新しい扉を開き、これまでのディズニーにはない日本発の新しいコンテンツやオリジナル・ストーリーを生み出す可能性を大きく広げます。

70年以上に渡り、ウォルト・ディズニー・カンパニーは日本中の観客を楽しませて参りました。Disney+の世界的な成功を受け、ウォルト・ディズニー・カンパニーのグローバルなリソースと日本を代表するコンテンツ・クリエイターを組み合わせ、地域のオリジナル・ストーリーを世界に向けて発信しています。

今後数年の間に、Disney+では、アジア太平洋地域のオリジナル作品や独占コンテンツが数多く提供される予定です。これに加えて、フランチャイズ(マーベル、ピクサー、スター・ウォーズ、ナショナル ジオグラフィック)やSTARのゼネラル・エンターテイメント・コンテンツから、膨大なグローバルおよびリージョナルコンテンツが配信されます。

Disney+ (ディズニープラス)
西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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