西田宗千佳のRandomTracking

第551回

周辺機器でゲーム機と連携、視力調整もできる新ARグラス「VITURE One」を試す

VITURE One

マイクロディスプレイの開発が進んだことによって、サングラス型のディスプレイが増えてきている。その1例が、昨年発売された「Nreal Air」ではあるのだが、他にもすでに、市場にはいくつもの製品がある。

そのうちの1つ、「VITURE One(ヴィチュアー・ワン)」が、本日から日本でも、Makuakeで「応援購入」がスタートする。価格は5万4880円からで(詳細は後述)、到着は本年9月末までとなっている。

Makuakeの応援購入ページ

VITURE Oneには色々なデバイスを組み合わせたセットがあるのだが、今回は全てを組み合わせた「VITURE One Ultimate セット」に相当するものを借りることができた。

様々な用途での使い勝手をお伝えしたい。

サングラス型ディスプレイのニューカマー

VITURE Oneは、マイクロOLEDを使ったサングラス型のディスプレイデバイスだ。外界が透けて見えるタイプの「シースルー型」でもある。

あくまでディスプレイなのでバッテリーは搭載しておらず、利用には別途機器を接続して使う。

具体的にはDisplayPortを使い、USB Type-Cケーブルから「Altモード」で表示する。ケーブルは、グラス側が独自のマグネットを使った端子になっていて、ケーブルも付属する専用のものが必要だ。

そのため、Altモードに対応したAndroidスマホ(例えばGalaxyやXperiaは対応しているが、Pixelは非対応)やiPadなどのタブレット、PC/Macがまずは対象となる。

すなわち、Lightningを使っているiPhoneやHDMI機器の接続、ワイヤレス接続には、別途機器が必要になるのだが、こちらについては後述する。

カラーはジェットブラックとマットインディゴの2色があり、今回貸し出されたのはマットインディゴ。かなりカジュアルなデザインだ。

VITURE Oneのマットインディゴ。ちょっと派手目の外観

ディスプレイとしては片眼あたり1,920×1,080ドットで、そのままだと空中に1,920×1,080ドットの画面が大きく表示されるようなイメージになる。空中の大きな画面で映画やゲームを楽しんだり、PCの作業を大画面(といっても解像度は1,920×1,080ドットだが)で行なったり、というのが大きなメリットだ。

マイクロOLEDが内部にあり、プリズムで目の前に映像を見せる形だ
実際につけてみた。派手目だが、サイズやデザインへの違和感は小さい

スペック上、視野角(FoV)は43度、PPD(視野1度あたりのドット数、すなわち解像感)は55。広告では「目の前に120インチ」と表現されているが、実際には個人によって感じ方が違い、そのような大画面には見えないと思った方がいい。筆者のイメージは、「前へ倣えをして、その手の先に25から27インチの画面がある」という感じだろうか。

これは別に劣ったものではない。

現在のこの種のディスプレイとしては一般的なもの。ライバルである「Nreal Air」もFoVが46度・PPDが49なので、Nreal Airよりちょっとだけ画面が小さくて解像感がある……というところだろうか。でも、見比べないとわからないくらいの小さな差だ。

左がVITURE One、右がNreal Air。実はサイズがけっこう違う

画質に関しても、Nreal Airにかなり近い。マイクロOLEDデバイスや光学系の違いもあるためか、発色はVITURE Oneの方が若干ゆるい感じがするものの、「だからこちらは選ぶべきではない」というレベルではない。十分にきれい、といって差し支えない。

むしろどちらを選ぶかは、別の「使い勝手」の面で決まる。

視度・透過度調整で

VITURE Oneの最大の特徴は、「見るための機能」に色々工夫があることだ。

1つ目は「視度調整」。

日常的にメガネをかけている人の場合、HMDなどを使うときにも映像に合わせた視度調整が欲しくなるので、「メガネやレンズはどうするか」という問題が出る。大きなHMDと違い、この種のものは「メガネを二重にかける」のも難しい。

Nreal AirにしてもVITURE Oneにしても、視度調節用のレンズを入れることは可能なのだが、VITURE Oneの場合、軽い近視(0.00Dから-5.00D)なら、内蔵の調整機能を使い、自分で調整できる。別途調整レンズを入れなくて済む、という人は多そうだ。このことは、コスト的にも大きなプラスである。

本体上方にはダイヤル式の視度調整機能がある

2つ目は「透過度調整」。

VITURE Oneの左側のツルにはボタンがあり、メガネ部から外光がどれだけ透過するかを変えられる。透過率は5%または40%、とされている。5%だと「ほんのり外が見えて、ほとんど暗い」、40%だと「なんとか前が見える」くらい。スイッチ1つで切り替えられるのは便利だ。

レンズを通した絵をスマホカメラで接写。ピントの問題があるので解像感などは参考程度に考えていただきたい。上が透過度40%で、下が透過度5%

もちろん、完全に没入したいときには、メガネの外に別売の「シェード」をつければいい。

これらの工夫は、いかにも後発らしい良い変化だと感じた。ディスプレイ単品としてみても、かなり使いやすいデバイスだ。

多彩なオプション。Switchとセットで輝く「モバイルドック」

そして、さらに「後発ならではの工夫」を感じるのが、多彩なオプション群だ。

VITURE Oneのクラウドファンディングページを見ると、オプションセットがいくつも用意されているのがわかる。

Makuakeでのセット紹介。対象となる機種によってセットとなる機器が変わる

基本的には3つ。本体だけのものと、HDMI接続を軸にした「モバイルドック」のセット(6万8,880円から)、独自のAndroidデバイスである「ネックバンド」とセットになったもの(7万5,880円から)がある。そして、さらにそれら全部入りが、今回使っている「Ultimate」(8万9,880円から)だ。

前出のように、VITURE Oneは基本的に“DisplayPort対応のディスプレイ”だ。だからそのままでは使えない機器が多い。例えばNintendo Switchで『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』を遊びたいと思っても、本体をそのままVITURE Oneなどにつなげることはできないわけだ。

そこでまず出てくるのが「モバイルドック」。

これは簡単に言えば、「HDMI入力を備えたVITURE Oneへのアダプター」であり、「巨大なモバイルバッテリー」でもある。

モバイルドック。実は大型のモバイルバッテリーでもある

モバイルドックにバッテリーと変換器が内蔵されていて、目的の機器とケーブルでつなげると、映像を出力する機器に給電しながらVITURE Oneで映像が見られるようになる。

前出のSwitchの例で言えば、Switch本体とVITURE Oneに給電しつつ、バーチャルな大画面でゼルダが楽しめるようになるわけだ。

モバイルドックとSwitch、VITURE Oneをセットに。だいぶ大袈裟だが、これで寝転がってSwitchを大画面で遊べる

モバイルドックは別にSwitchに限った機器ではなく、PlayStation 5などとHDMIでつないでもいいのだが、VITURE Oneのモバイルドックは特にSwitchと相性がいい。専用アダプターを使って、モバイルドックとSwitchを一体化できるからだ。さらに、内蔵のバッテリー機能を活かして、Switch自体の動作時間を倍にまで伸ばすことができる。

ただ結果として、デバイス全体は非常に重くなる。ほぼ1kgになってしまい、本体を手で持つのは流石に無理がある。

おすすめは、寝っ転がってSwitchを使う、というパターンだ。そうすると空中にSwitch本体よりも大きなディスプレイが現れることになり、楽な姿勢でゲームを楽しめる。寝る前の数時間をこうして過ごすにはいい組み合わせだ。このくらいなら、バッテリー動作時間を気にする必要もなくなる。これで10時間くらいプレイしてみたが実に快適だった。

もちろん、Switch本体とモバイルドック、両方を充電しておかなければいけない……という欠点はあるのだが。

Android TVベースで色々できる「ネックバンド」

もう一つのオプションは「ネックバンド」だ。これは写真のように首にかけて使うもの。ケーブルが出ていて、VITURE Oneと直接つながる。

Androidデバイスである「ネックバンド」
このようにケーブルでVITURE Oneとつなぐ
首にかけるとこんな感じに

ネックバンドは十字キーなどの操作系を備えており、内部にAndroidベースのシステムが組み込まれている。

操作ボタンは左側に集まっている

もっというと、最近のモバイルプロジェクター同様、Android TVベースのデバイスになっていて、Androidアプリから映像配信を見たり、ゲームをしたりもできる。PS5を「リモートプレイ」で楽しんだり、AirPlay・Miracastなどに対応したアプリを使い、スマホの画面を転送して楽しんだりもできる。

アプリを動かして動画配信やゲームを楽しめるようになっている
機能としてはAndroid TVベース。ただし、全てのAndroid向けアプリが動作するわけではない

しかも面白いのは、VITURE One独自の拡張もかなりある、ということだ。

例えば「ピンモード」。

VITURE Oneに機器をそのままつないだときには、映像は常に目の前に表示される。いわゆる「ODoF」であり、首を動かしても歩いても、ずっと同じ位置に映像がある。

だがネックバンドを使って「ピンモード」をオンにすると、空中の定まった場所に映像が固定される。デバイス自体の視野は中央だけなので、「空中に配置した大きな画面を、中央の覗き窓から見ている」ような感覚になる。より自然に画面を見たいなら有用だ。

ただし、ピン留めできる画面のサイズや見かけ上の「遠さ」は変更できない。

設定に、画面を空中に固定するピンモードがある

サイズという意味では「アンビエントモード」も重要だ。これは、ネックバンドから表示される映像を画面の四隅のどれかに縮小表示するもの。VITURE Oneが透過性のあるディスプレイであることを活かし、周囲の様子を見ながら動画なども同時に見られる。もちろん透過性はそこまで高くないので「PCで作業しながらネックバンドで映像を見る」のはそこまで現実的ではない。しかし、周囲の安全に気を配りつつ映像を楽しむ、といった使い方ならば問題ないだろう。

スクリーンサイズを決め、視界の四隅のどこかに映像を縮小して表示し続ける「アンビエントモード」も

操作性やファン音などの課題も

こうした多彩な楽しみ方をするには、それなりの規模の処理系が必要になる。グラス側に入れると重く熱くなるしバッテリーの問題も出るので、処理系は専用のデバイスとして外に出すのは現実的なやり方だ。

スマホで代用するやり方もあるが、電源もスマホから供給することになり、動作時間が短くなりやすい、というジレンマがある。筆者はこの種のARグラスはPCやタブレットとの組み合わせがベストだと思っているが、理由はそれらの機器がスマホより大きなバッテリーを搭載しており、動作時間の問題が起きづらいからでもある。

ネックバンドをわざわざ買うのは費用の面でマイナスだが、安心して使うための仕組みとしてはわかりやすい。

ネックバンドも大容量のバッテリーを搭載しているわけではない。公式スペックとしては3時間程度とされている。ただし、ネックバンドには充電ケースが用意されてもいる。バッテリーがケース自体に入っていて、ネックバンドを中に入れることで充電ができる。移動中に充電しつつ使う、というやり方ができるわけだ。

ネックバンドと組み合わせて使うオプションの「充電ケース」。持ち歩きながら充電できるので、動作時間を伸ばせる

一方で、ネックバンドにはいくつかの課題もある。

1つは、操作性がとても悪いこと。

内蔵十字キーは押し心地が悪く、操作系を見ずに操作するので使いづらい。文字入力などで不可解な挙動もあった。Bluetoothでキーボードやゲームパッド、マウスなどをつなげられるので、それらを活用して操作することをおすすめする。一番相性が良かったのは、意外なことにマウスだ。

2つ目はファンの音が気になること。結構な処理を行なうことになるのだが、放熱のためにファンが入っていて、それで冷却をしている。音を出していれば気にならなくなるが、静かなときには、ファンが耳に近いこともあって気になる。

Android TVベースで色々なことができて、セットの価格は割とお得だとは思うが、必須のものというわけではない。

だからこそ、グラスだけの単体製品や、ドックとのセットが用意されている……と考えればいいだろうか。

そういう部分まで考えてエコシステムで攻めているのが、VITURE Oneの特徴でもあるのだ。

他の製品を選ぶかVITURE Oneを選ぶかも、「こうしたエコシステムを魅力と思うか」にかかっているといっていい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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