プレイバック2022

Nreal Airで感じた未来のディスプレイ(のひとつ) by 西田 宗千佳

Nreal Air

今年もそこそこ色々なものを買っているのだが、「面白くて未来予測に役立った」という意味では「Nreal Air」がベストだったと感じている。

Nreal Air。今はAmazonでも買えるようになり、ずいぶん購入が楽になった。

発売直後にレビューも書いているので、製品特性なんかはそちらをお読みいただきたい。

メガネ型HMD「Nreal Air」が驚くほど快適。画質大幅アップ

実際、今年後半は完全に「出張の友」だったし、カスタムしたり傷んだりするほど使ってもいる。

ここでは、「じゃあなんでそんなに面白いと思ったか」を手短に述べてみたい。

「西田さん、HMD大好きだよね」

うん、大好きだ。

とはいえ、別に頭になんか被りたいわけじゃないのだ。四角いディスプレイを見つめる、という形とは違う世界があるように思うから、ずっと取材しているに過ぎない。(取材はしていてまだ記事化できてない話が1本あるのだが、それはまた本誌連載で近々……)

PICO 4やMeta Quest Proは「パンケーキレンズ + 後部バッテリー配置」という今のHMDのトレンドを示してくれた。来年出てくるPlay Station VR2も、品質面でかなり楽しみだ。

Metaより安くて高性能、「PICO 4」の価値をチェックする

「Meta Quest Pro」をAV目線でチェックする

AV的にも期待度十分! PlayStation VR2を先行試遊してきた

とはいえ、これらはやっぱり「ちょっと本気」のデバイス。大きくて重いのは事実なので、今日の段階で「誰もが毎日使う」ものとは言い難い。まだまだ進化が必要だ。

一方で、そこまでの汎用性はないものの、Nreal Airは「今日でも使える」デバイスだ。iPadやスマホとつなぎ、映画を見たり本を読んだりするならもう十分に実用的である。

実際、日常でも出張でもずいぶん使っている。

筆者が現在使っているNreal Airの姿。だいぶ傷みも見えるし、カスタムもしている

今年6月以降、国内で3回・海外に6回出張しているが、飛行機の中ではずっとNreal Airで映画を見ていた。マスクにサングラスにヘッドフォン、という姿はまあ十分怪しいが、そこまで変な格好ではない。

出張中の飛行機の中で。怪しいと言わないように。

これだけちゃんと使えるのは、「かけ心地がそこまで悪くない」「画質もそこまで悪くない」「でも、空間に大きなディスプレイが浮いてる感覚は良い」からだ。発色はちょっと気になるが、画素密度などはとても好ましい。

マイクロOLED(どうやらソニー製らしい)を使ったメガネ型のデバイスで、ちゃんとした形で映像を楽しめる時代がやってきたのだな……とはっきり感じる。

例えるなら、2015年にクラウドファンディングで完全ワイヤレスイヤホン「EARIN」が登場(その後製品化され、日本でも販売)して、手に入れた直後の感覚に近い。足りない部分は確かにあるが「完全ワイヤレスの時代が数年以内に来る」と確信したのはその時だ。そしていまや、ヘッドフォン/イヤフォン市場の中核は、まさに「完全ワイヤレス型」になってしまった。

耳栓タイプの超小型Bluetoothイヤフォン「EARIN」発売。29,800円

前モデルでハイエンドだった「Nreal Light」の時には色々まだ疑問があったのだが、Nreal Airでは、かなり「こういう形がいい」というものが見えてきている気がする。

課題は多数、だが「未来」は見える

もちろん課題は山ほどある。

メガネ型のデバイスを快適に使うには「属人性」の壁を越える必要がある。視力調整はもちろんだが、「顔への収まり」「耳への収まり」も重要だ。その結果として、目の見やすい部分にディスプレイが配置される。今のNreal Airは昔のデバイスよりは良くなったが、それでも、ちょっと“調整”はいる。

筆者の場合には、見えやすい部分がちょっと上に来すぎる感じがしたので、耳にかかる“ツル”のところにゴムリングを入れて角度調整をしている。

調整のために、ツルのところにゴムリングを入れて角度調整

遮光用のカバーも邪魔だ。移動中に紛失してしまったので、Amazonで売っていた「外光軽減オプションシール」を貼っている。

ちょっと壊れやすいのも気になる。ヒンジ部がちょっと危ない感じだったので、今はテープで補強している。出張続きで修理に出すタイミングもなく、買い換えるにはちょっと高い。

ヒンジが折れかかったのでテープで補強してある

Nrealの独自環境「Nebula」もだいぶ良くなり、特にMacとの組み合わせでは「三画面」を空中に出せるようになってもきた。最初のベータ版ソフトはかなり品質に問題があったが、改定後の最新版では良くなった。

100点の製品ではなく、画質にも消費電力にも機能にも課題は多い。けれど「この先になにかある」のは、はっきりわかる。競争は2023年以降、加速するだろう。

そこでちょっと思うこともある。

そろそろ「つけると空間に200インチ」的なキャッチコピーは、やめたらどうだろうか?

実際そんな風には見えず、40インチくらいのディスプレイが数十センチ先にある、という感じだし、見え方も人によって異なる。

スマートグラス・HMDの時代にあった表記を、そろそろちゃんと考えるべき時だ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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