プレイバック2022
Nreal Airで感じた未来のディスプレイ(のひとつ) by 西田 宗千佳
2022年12月21日 08:30
今年もそこそこ色々なものを買っているのだが、「面白くて未来予測に役立った」という意味では「Nreal Air」がベストだったと感じている。
Nreal Air。今はAmazonでも買えるようになり、ずいぶん購入が楽になった。
発売直後にレビューも書いているので、製品特性なんかはそちらをお読みいただきたい。
メガネ型HMD「Nreal Air」が驚くほど快適。画質大幅アップ
実際、今年後半は完全に「出張の友」だったし、カスタムしたり傷んだりするほど使ってもいる。
ここでは、「じゃあなんでそんなに面白いと思ったか」を手短に述べてみたい。
「西田さん、HMD大好きだよね」
うん、大好きだ。
とはいえ、別に頭になんか被りたいわけじゃないのだ。四角いディスプレイを見つめる、という形とは違う世界があるように思うから、ずっと取材しているに過ぎない。(取材はしていてまだ記事化できてない話が1本あるのだが、それはまた本誌連載で近々……)
PICO 4やMeta Quest Proは「パンケーキレンズ + 後部バッテリー配置」という今のHMDのトレンドを示してくれた。来年出てくるPlay Station VR2も、品質面でかなり楽しみだ。
Metaより安くて高性能、「PICO 4」の価値をチェックする
AV的にも期待度十分! PlayStation VR2を先行試遊してきた
とはいえ、これらはやっぱり「ちょっと本気」のデバイス。大きくて重いのは事実なので、今日の段階で「誰もが毎日使う」ものとは言い難い。まだまだ進化が必要だ。
一方で、そこまでの汎用性はないものの、Nreal Airは「今日でも使える」デバイスだ。iPadやスマホとつなぎ、映画を見たり本を読んだりするならもう十分に実用的である。
実際、日常でも出張でもずいぶん使っている。
今年6月以降、国内で3回・海外に6回出張しているが、飛行機の中ではずっとNreal Airで映画を見ていた。マスクにサングラスにヘッドフォン、という姿はまあ十分怪しいが、そこまで変な格好ではない。
これだけちゃんと使えるのは、「かけ心地がそこまで悪くない」「画質もそこまで悪くない」「でも、空間に大きなディスプレイが浮いてる感覚は良い」からだ。発色はちょっと気になるが、画素密度などはとても好ましい。
マイクロOLED(どうやらソニー製らしい)を使ったメガネ型のデバイスで、ちゃんとした形で映像を楽しめる時代がやってきたのだな……とはっきり感じる。
例えるなら、2015年にクラウドファンディングで完全ワイヤレスイヤホン「EARIN」が登場(その後製品化され、日本でも販売)して、手に入れた直後の感覚に近い。足りない部分は確かにあるが「完全ワイヤレスの時代が数年以内に来る」と確信したのはその時だ。そしていまや、ヘッドフォン/イヤフォン市場の中核は、まさに「完全ワイヤレス型」になってしまった。
耳栓タイプの超小型Bluetoothイヤフォン「EARIN」発売。29,800円
前モデルでハイエンドだった「Nreal Light」の時には色々まだ疑問があったのだが、Nreal Airでは、かなり「こういう形がいい」というものが見えてきている気がする。
課題は多数、だが「未来」は見える
もちろん課題は山ほどある。
メガネ型のデバイスを快適に使うには「属人性」の壁を越える必要がある。視力調整はもちろんだが、「顔への収まり」「耳への収まり」も重要だ。その結果として、目の見やすい部分にディスプレイが配置される。今のNreal Airは昔のデバイスよりは良くなったが、それでも、ちょっと“調整”はいる。
筆者の場合には、見えやすい部分がちょっと上に来すぎる感じがしたので、耳にかかる“ツル”のところにゴムリングを入れて角度調整をしている。
遮光用のカバーも邪魔だ。移動中に紛失してしまったので、Amazonで売っていた「外光軽減オプションシール」を貼っている。
ちょっと壊れやすいのも気になる。ヒンジ部がちょっと危ない感じだったので、今はテープで補強している。出張続きで修理に出すタイミングもなく、買い換えるにはちょっと高い。
Nrealの独自環境「Nebula」もだいぶ良くなり、特にMacとの組み合わせでは「三画面」を空中に出せるようになってもきた。最初のベータ版ソフトはかなり品質に問題があったが、改定後の最新版では良くなった。
100点の製品ではなく、画質にも消費電力にも機能にも課題は多い。けれど「この先になにかある」のは、はっきりわかる。競争は2023年以降、加速するだろう。
そこでちょっと思うこともある。
そろそろ「つけると空間に200インチ」的なキャッチコピーは、やめたらどうだろうか?
実際そんな風には見えず、40インチくらいのディスプレイが数十センチ先にある、という感じだし、見え方も人によって異なる。
スマートグラス・HMDの時代にあった表記を、そろそろちゃんと考えるべき時だ。