西田宗千佳のRandomTracking

第566回

MRに高解像度VR。Meta Quest 3がもたらす「新鮮な進化」体験

Meta Quest 3

Meta Quest 3の製品レビューをお届けする。

Meta Quest 3

すでにハンズオンやインタビューの形で記事を掲載しているが、ようやくじっくりと製品を試すことができたので、その印象をお伝えしたい。

手元にはMetaの「Quest 2」「Quest Pro」、そしてPICOの「PICO 4」がある。これらと使い勝手を比較しながら、製品の特徴を紹介していこう。

なお、今回試用しているのはストレージが512GBの上位モデルだが、違いはストレージのみで、機能などに差異はない、

デザインはコンパクトで「三つ目」を強調

手元に届いてまず驚いたのは「小さい」ことだ。パッケージも本体もかなりコンパクトになっている。

Quest 3のパッケージ

Quest 2やPICO 4のパッケージは処分してしまっていたので、Quest Proと比較してみたが、サイズ感の違いがわかるだろうか。

下の茶色い箱はQuest Proのパッケージ。半分くらいの大きさになった
中身もコンパクトに収納

本体も、バンド部分まで含めると話は変わってくるが、それ以外はかなり薄型化が進んだ。

バンド部はY字の形状に
Quest 2とのサイズ比較
Quest Proとのサイズ比較
PICO 4とのサイズ比較

レンズを見ても、分厚いフレネルレンズだったQuest 2は別として、それ以降に登場したパンケーキレンズ採用のモデルはかなり構造も薄さも異なるのが見えてくる。

Quest 3のレンズ部
Quest 2のレンズ部
Quest Proのレンズ部
PICO 4のレンズ部

外観上の特徴として大きいのは、Mixed Reality(MR)用のステレオカメラの存在感だ。自分の位置を把握する「インサイドアウト」技術のためのカメラ(センサー)はどの機種にもついているが、Quest ProやPICO 4は黒い光沢のシェードを前面に押し出していて、あまり目立たない。それに対してQuest 3はあえてカメラ部を強調する「三つ目」的デザインで、これは好みが分かれるかもしれない。

Quest 2との外観比較
Quest Proとの外観比較
PICO 4との外観比較

HMDの中は意外とスペースがあり、メガネをかけたまま使える。ここは大きな改善点だ。専用補正レンズも付けられる構造だが、普段使っているメガネをそのまま使えるので「専用レンズ必須」というわけではない。

電源・データ転送に使うUSB Type-Cのコネクタとヘッドフォン端子は、バンドの中央に移動している。手探りでもつなぎやすくなったという点ではプラスだ。

ヘッドフォン端子は本体右側に

ちょっと面白いのは、USB Type-Cコネクタ周りのデザインが、旧ブランドである「Oculus」マークに似ていることだ。

USB Type-C端子のデザインは「Oculus」ロゴにちょっと似ている

MetaはOculusブランドを商品から消してきた。コントローラーのボタンもMetaを表す「無限大」マークに変わっているのだが、スマホアプリのアイコンとスクリーンショットが保存されるフォルダ名、そしてUSB端子に「O」のモチーフが残っている。

コントローラーはリングがなくなり、机の上に置きやすい形になった。一方で、機能的にはほとんど変化がない。検知範囲や精度も、Quest 2より改善したとは感じるが悪くなったところはない。

Quest Pro用の「Meta Quest Touch Proコントローラー」との差異も小さいように思える。Touch Proコントローラーの方が精度は高いと思うのだが、Touch Proコントローラーは充電が切れやすく、意図しないタイミングでコントローラー自体の再起動を必要とすることもあったように思う。だから、Quest 3向けとしては内蔵のものでいいのではないか、というのが筆者の感想だ。

Quest 3付属のコントローラー。リング部は無くなった
左から、Quest 3・Quest Pro・PICO 4・Quest 2のコントローラー

これはQuest 3だけの変化ではないが、Questのシステムソフトウエアの進化によって振動演出がかなりリッチでわかりやすくなっている。最近使ってない……という方はぜひソフトウエアをアップデートして使ってみていただきたい。

ゲームでもMRでも画質は大幅進化

では肝心の画質はどうか?

これは明確に「Quest 3の圧勝」だ。ゲームを含めた表示自体がかなり改善している。ゲームをする上で、Quest 3が過去の製品に比べ圧倒的に優れているのは間違いない。

こちらは以前のレポートでも紹介した以下の動画を見るのがわかりやすいだろう。実際この通りになる。Quest 3向けのアップデートが行なわれていないであろうアプリの解像感アップも確認できている。

また、同じアプリでも起動が速くなっているようだ。キャッシュなどの効果もあるし、アプリによっても差があるので明確に言いづらいが、体感で1割から2割は短縮されているように思う。

「Meta Quest 3」、「Red Matter 2」での従来機種との比較デモ

MRの画質はどうだろうか?

これも、Quest 3は「さすが」という他ない。

パススルーがモノクロであるQuest 2は別として、PICO 4・Quest Proはそれぞれカラーのパススルーが搭載されている。

以下は比較の画像と動画だ。なおQuest 2はパススルーを含めた動画の撮影が難しいので、ここでは3機種のみにとどめる。

パススルー画質比較。Quest 3・Quest ぷろ・PICO 4の順で収録
Quest 3のパススルー画質
Quest Proのパススルー画質
PICO 4のパススルー画質

PICO 4は多少画質が高いように感じるが、これは掲載したものが「左目の画像のみをキャプチャしたもの」だからだ。PICO 4はビデオパススルーに立体感がほとんどなく、ホーム画面とパススルーの同居も難しい。「周囲を確認するための機能」と割り切っている印象だ。

それに対してQuest 3は、解像感も高く立体感もちゃんとしている。ゲームにMRをどう使うのか……という課題はあるが、それでも、「自分が普段暮らしている部屋の中にCGオブジェクトが現れ、ゲームができる」というインパクトは大きい。Quest Proでも例に挙げたパズルゲーム「キュービズム」のプレイ動画を掲載しておくが、なかなかに素晴らしいクオリティだ。

「キュービズム」をQuest 3でプレイ

VRにおいて「Beat Saber」タイプのゲームがヒットにつながったように、MRらしい価値のあるゲームが生まれることを期待したい。

立体感・空間の活用という意味では、「ルームスキャンの自動化」も大きい。

Quest Proまでは自分の部屋の中を「手動でスキャン」する必要があった。特にMRで遊ぶ場合、壁の位置や家具などを手作業で設定する必要があった。毎回必要になるものではないが、かなり面倒な作業ではある。

しかしQuest 3ではこれが自動化された。部屋の中を歩き回って見渡すだけで、自動的にルームマップが作成される。MR品質の高さにはこうした機能も効力を発揮しており、明確に「次世代になった」印象を受ける。

もちろんまだ難点はある。

解像感は高くなっているが、それでも肉眼ほど精細なわけではない。少し暗くなると画質はさらに落ちる。

歪みもけっこうある。特に、近いところなどには出やすい。ふいに手の近くが大きく歪んだりもするので、かなりソフトウエア的な補正をかけているのだろう。

Quest 3のパススルーでスマホを見てみた。ちゃんと文字も読めるが、近くだと歪みが発生しているのもわかる。

筆者はアップルのVision Proも体験しているが、あちらには解像度や歪みなどの問題はほぼなく、「現実と錯覚する」体験がある。だがQuest 3はそこに至っていない。まあ、価格が7倍違うわけで、そこはしょうがない話でもあるのだが。

なお参考に、レンズを介した画像も掲載しておく。カメラでレンズ越しに接写したものなので完璧な画質ではないが、雰囲気の違いはおわかりいただけると思う。

Quest 2のMRを、レンズ越しに撮影
Quest ProのMRを、レンズ越しに撮影
Quest 3のMRを、レンズ越しに撮影
PICO 4の画像をレンズ越しに。MRとOSの同居ができないのでそれぞれ別に撮影

動画画質はQuest Proが勝利

では動画アプリはどうだろう? AV的に楽しむならここも重要だ。

Quest 3はPICO 4やQuest 2に比べると明確に画質面で優位であり、動画においても上位の存在であるのは間違いない。「Amazon Prime Video」や「YouTube VR」、「Netflix」など、手元にあるアプリはすべて問題なく動作した。若干だが解像感がアップし、見やすくなったようにも思う。

ただし、画質が他より上、というわけではない。

Quest ProはミニLEDを使ったローカルディミング対応液晶をディプレイに採用しているためか、黒がしっかり締まる。それに対してQuest 3の液晶はローカルディミング対応ではないためか、黒が締まりきらない。動画アプリでは映画館のような環境を再現するものが多いが、比較してみると「暗くなりきらない」のがわかる。また、発色もQuest Proの方が上ではある。

ただ、Quest Proはパッドで顔に密着させるスタイルではないので、目の下から光が入ってくる。それに対してQuest 3は密着型なので、没入感ではQuest 3がベストではある。

また音質については、Quest ProよりQuest 3の方が上だと感じた。Quest 2を含めた3機種は「耳から下に向けて、球状に音場が形成されている」印象が強いが、Quest 3はより自然に「耳を中心とした球状になっている」感覚がある。

快適さではPro優位な部分もあるが、やはり最新の「3」がベスト

Quest 3は、現在コンシューマ向けの製品として、間違いなくベストなクオリティのVR機器である。MR品質も優れているが、それは「VR機器としての性能と品質の良さ」に依存する部分が大きい。

PICO 4やQuest 2は似た特質を持つ製品なので、「Quest 3はそれらの上位存在」と考えていい。

だがQuest Proに関しては、演算性能こそQuest 3の方が上だが、長時間利用時の負担の小ささを考えると、Quest Proは「別のもの」という印象が強い。没入感を高めるために顔パッドを使っているが、これが顔への負担となっているのだ。重量バランスもQuest Proの方が望ましい。

つけやすさに加え、映像にこだわるなら、前出のようにローカルディミングのあるQuest Proの方が良いのだが、価格差やできることを考えると、そこだけにフォーカスしてQuest Proを選ぶ、という人は少ないだろう。

逆に言えば、Quest 3のアフターパーツとして、「長時間使う人向けのバンド」のようなものはニーズがあるだろうし、そういうものがあればQuest Proを選ぶ理由も減っては来る。

Quest 3の課題は、円安傾向であるが故に高い、ということだ。単純にVRゲームがしたいだけならQuest 2などを安価に購入する手もある。

しかし、Quest 3には7万5,000円分の新しい体験がある。また、スリープ動作を含めた電力コントロールでは、Quest 2よりも格段の進化が見られる。

新しく買うならやはりQuest 3をお勧めしたい、というのが筆者の結論だ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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