西田宗千佳のRandomTracking

第564回

高性能+高度なMixed Reality、「Meta Quest 3」を試す

Meta Quest 3

Meta Quest 3の予約が本日より開始される。

発売は10月10日で、価格は7万4,800円(128GBモデル)、もしくは9万6,800円(512GBモデル)となっている。

詳細をうかがいつつハンズオン体験ができたので、その感想などをお伝えできれば、と思う。

ゲームやサブスク利用権が付属

まず商品情報を振り返っておこう。

前述のように、価格はストレージ容量で決まる。

さらに、両方にQuest向けゲーム「Asgard's Wrath 2」(5,990円相当)が付属し、512GBモデルにはさらに、MetaのQuest向けサブスクリプションサービス「Meta Quest+」6カ月分の利用券が特典として付属する。

販売はMetaのオンラインストアと、下記家電量販店で行なわれる。

販売する家電量販店

Amazon、エディオン、ビックカメラ、コジマ、ソフマップ、ヤマダデンキ、TSUKUMO、ベスト電器、ECカレント、ヨドバシカメラ

というわけで、Quest 3は「Quest 2よりはグッと高いが、Quest Proよりは安い」という値付けになっている。

同時に、頭につけるためのストラップや顔の部分のパッドなど、複数の周辺機器が発売される。カラーバリエーションが最初から用意されるなど、かなり「パーソナルな用途」を重視したラインナップ、という印象だ。

同時発売のアクセサリー群。バッテリー内蔵ストラップの他、カラーバリエーションも2つ用意される
別売の「接眼部&ヘッドストラップ」(7,480円)は、エレメンタルブルーとブラッドオレンジの2色展開

調整機能やアクセサリ充実。メガネ対応も楽に

では機能はどうかというと、「視線追尾などいくつかの機能が搭載されていないが、おおむねQuest 2より高い」と言っていいだろう。着けてみた感触はまた後ほど述べる。

外観はQuest 2に近いが、HMDの前の部分(すなわち、処理系やレンズが入っているところ)がかなり小さくなった。重量は515gで、Quest 2(502g)よりも重くなっている。しかし、付属ストラップの形状が変わったことで、「前が重くて引っ張られる」感じは減っている。

Quest 3本体。正面にMixed Reality向けのセンサーが3つならんでいる
コントローラーもセットで

ちなみにQuest Proは722gとより重い。しかしこの辺は、重量バランスなどによる頭への負担が大きく影響してくるので、やはり数字だけではなんとも言えない。個人的な印象で言えば、Quest 3の方が「顔と頭で支える」印象なので、Quest Proに比べると負担はある。

前述のように、複数の交換用ストラップも用意されるので、どれをセットで使うかを加味して考えた方がいい。

両目の瞳孔間距離、いわゆるIPDの調整は、調整用ホイールが内蔵されたので、かなり楽になった。また、メガネへの対応も同様に楽になっている。内部スペースが大きくなっている上に、顔からレンズまでの距離も、レンズを動かすことで調整できるからだ。従来はプラスチックのスペーサーをパッドと本体の間に挟んでいたが、もうスペーサーは不要になっている。

Mixed Realityはかなりの品質、立体感も自然

Quest 3は、正面から見ると3つの光学センサーが並んでいる。外観上の大きな特徴でもあるが、もちろん、機能的な最大の差別化点でもある。

従来通り、自分の位置を把握する「インサイドアウト」用のセンサーが6つ搭載されているのに加え、正面に距離センサーと、Mixed Reality(MR)向けのRGBカメラが2つある。カラーのステレオカメラを使い、周囲の状況をよりリアルに取り込み、CGと重ねるのが、Quest 3の特徴だ。

今回の取材では「レンズから見たまま」の映像をキャプチャすることは許されていなかったため、基本的な印象としてお伝えする。

筆者も実際につけて遊んでみた

確かに、Quest 3のMRは、Quest 2やQuest Proよりはるかに画質がいい。

Quest 2は解像度の低いモノクロだったし、Quest Proはモノクロに、やはり解像感の低いカラーフィルターを重ねたような感じで、リアルとは言い難い感じだった。ライバルのPICOはちゃんと色は付いていて解像感もあるが、立体感はなかった。

ではQuest 3はどうか?

ちゃんと解像感があって、立体感もある。

ただ、100%違和感がないか、というとそうではない。筆者はアップルのVision Pro(VP)を体験しており、あの圧倒的な解像感と自然な表現が頭にあって、どうしても採点が辛くなる。

だから「100点」とは言えない。VPほど外界のイメージはすっきりしておらず、パススルーの画質がQuest 3のネイティブ解像度には達していないのだろう、という印象を受けた。

事実、その印象は正しいようだ。目にみえる解像感を表す指針である「PPD(Pixel Per Degree)」で表すと、Quest 3のディスプレイは25PPD。それに対してパススルーカメラのPPDは18とされている。このギャップが、外界の映像が多少不鮮明に見える原因だ。

しかし、「もしQuest Proが最初からこの品質で出ていれば、多くの人が衝撃を受けただろうな」と思うくらいの画質である。すなわち、未発売製品や業務用の高価なものを除くと、確実にトップクラスの品質と言える。

Metaによれば、Quest 3は「パススルーにおいてMeta Quest 2の約10倍、Meta Quest Proの約3倍の解像度を提供している」という。算定基準がはっきりしない数字ではあるが、体験として「過去のモデルとは大きく違う」ことは間違いない。これだけの体験が、7万5,000円弱で買えるデバイスでできる、というのは圧倒的に大きな進化だ。すでにコンシューマ向けとして市場に出ている機器で比較するなら、ここまでのMRを実現している機器は存在しない。(かえすがえすも、円安傾向が厳しい……)

MRの自然な立体感がゲームに生きる

特に大きいのは、画質以上に「ちゃんと立体感が再現されている」ことだ。おそらくは、2つのカメラによるステレオペア画像と、正面にある距離センサーの組み合わせで実現されている。自分にごく近いところの違和感は残っていたが、視界のほとんどで正確な立体感が実現されているので、部屋を歩いても違和感は感じづらい。

立体感に絡むもう一つの大きな変化は「ルームマッピング」が自動化されたことだ。

Quest 2やQuest Proでは、HMDを被ってプレイする部屋の形や家具のない安全な床面について、コントローラーで「プレイエリア」として描く。

だがQuest 3では、この作業が基本的に自動化されている。かぶったまま部屋を見回すだけで、部屋の形も家具の位置もスキャンされる。これは、新たに搭載された距離センサーを生かした機能だろう。

こうした要素を活かすことで、Quest 3では本格的な「MRを使ったゲーム」が楽しめる。今回は幾つかのゲームをプレイできたが、どれも「単に背景が透けているだけ」ではなく、部屋という立体空間の中でちゃんとゲームとしての体験をできる。

Metaが公開しているMRプレイのイメージ動画。正直、現実世界の解像感はこんなに高くないが、イメージとしては近い

シンプルなものとしては「ねこあつめ Purrfect」(2023年中リリース)が気に入った。スマホ向けでおなじみの「ねこあつめ」なのだが、集めたネコを自分の部屋にMRで連れて来られる。これはけっこう大きなことだ。インタラクション自体は限られたものだが、やはり「見慣れた自分の部屋にいる」という感覚がいい。

ヒットポイントが開発中の「ねこあつめ Purrfect」。提供画像にはMRのものがないが、自分の部屋で集めたネコと触れ合える

もう1つ興味深かったのは、I-Illusionsが開発中の「BAM!」というゲーム。MRで部屋の中にゲーム台を表示し、その中で対戦(あえて言葉を選ばずに言えば、スマッシュブラザーズ的な吹き飛ばし対戦)を楽しめる。プレイヤー四人がちゃんと部屋の中にいて、さらに自分に特化した形でCGが重ねて表示されるのは、確かにとても面白い体験だった。

I-Illusionsが開発中の「BAM!」のトレーラー
「BAM!」のプレイ画面。実際の部屋にゲームテーブルを置き、その上で対戦するようなイメージで楽しむ

ゲーム体験を向上させる「ディスプレイ解像度とパフォーマンスの改善」

一方で、実はMR以上にストレートに効いているのが「ディスプレイ解像度とパフォーマンスの改善」だ。

Quest 2やQuest Proは、解像度が片目あたり1,832×1,920ドット(Proは1,800×1,920ドット)だった。Proの方がレンズの変化によって感じられる「解像感」は高かったのだが、ディスプレイデバイスの解像度はそこまで高くなかった。

とはいえ、これは使っているプロセッサー(QualcommのSnapdragon XR2 Gen1)のCPU・GPU性能を考えると、さほどバランスの悪いものではなく、これ以上の解像度があっても処理はしきれなかっただろう。

しかしQuest 3では、採用しているディスプレイパネルの解像度が片目当たり2,064×2,208ドットになる。レンズもQuest Pro以降で採用されているパンケーキレンズになり、本体が小さくなったものの、解像感は増す。

PPDで言えば、Quest 2は21PPDで、Quest Proは22PPDだった。前述のように、Quest 3では25PPDに上がる。数字としては小さく思えるが、計算上2割程度向上していることになる。この結果、文字や物体のエッジが以前よりしっかりと見えるようになる。

同時に、プロセッサーが「Snapdragon XR2 Gen2」となり、レンダリング性能も大きく向上している。

この点は、Metaから提供された各種ゲームの比較スクリーンショットを見てもわかる。

Skydance Mediaの「The Walking Dead: Saints & Sinners」で、Quest 2と3のプレイ画質を比較

デモの中では特に、「Red Matter 2」のクオリティに驚かされた。解像度とレンダリング品質の向上により、ガラス窓などのオブジェクトの質感が劇的に向上している。

「Red Matter 2」での品質比較ビデオ。圧倒的な違いなのだが、実際プレイするとこのビデオの通りで、圧倒的に品質が上がっている

また、あえてここまで言って来なかったが、視野角もQuest 2に比べ改善している。約15%広い「水平110度・垂直96度」になったので、ゲームなどに没入するにはプラスだ。

やはり、Quest 3の最大の魅力は「ゲームの画質が上がった」ことに尽きる。MRの体験はもちろん重要だが、Quest 2に比べ、よりリアルで滑らかなゲーム体験ができる点が重要と言える。

Quest 3はQuest 2と互換性があるため、出てくるゲームの多くはQuest 2でも遊ぶことができるだろう。Quest 2はローコストなデバイスとして併売されるので、ゲームメーカーも当面両方の対応を続けると考えられる。

「同じゲームができるなら、より安い(もしくはすでに持っている)ものを選べばいいのでは」という考え方もあるだろう。

そこで差別化要因となるのがMRであり、高画質・高品質のゲーム体験ということになる。いかに差を理解してもらうか、これが最大のテーマとなるだろう。

なお、解像感の上昇は動画コンテンツを楽しむ時にも効いてくると想像できるが、こちらはQuest 2向けアプリをそのまま動かした時と、Quest 3向けに最適化されたアプリの差がどうなるかわからないので、現状では保留としておきたい。

Quest Proより高性能だが「視線追尾」はない

すでに述べたように、Quest 3はQuest Proよりも、MR品質も性能も高い。そう考えると、「Quest Proの存在価値はどうなるのか」という話も出てくる。

機能としての違いは、

  • 視線追尾機能の有無
  • コントローラーの認識精度

といったところになる。後者は別途Quest Pro向けのコントローラーを買い、Quest 3で使えば対応できる。ただ、充電が必要なQuest Pro向けの「Meta Quest Touch Pro VRコントローラー」よりも、片方につき単三電池1本で動くQuest 3の「Touch Plusコントローラー」の方がいい……と考える人もいるだろう。

Quest 3の「Touch Plusコントローラー」。リング部がなくなったのが特徴
Quest 3の内容物。付属の電源は17Wのもので、コントローラーは単三電池で駆動する

また、Quest Proユーザーの視点で見ると、重量バランスなどの問題から、長時間使った時の頭への負担はQuest Proの方が楽だ、という印象を受けた。

とはいえ、Quest Proの核であった「MR」と「高度な処理」の両方でQuest 3が優っている以上、今から買うならQuest 3をお勧めする。Quest 3と同じ品質のMRがQuest Proにも最初から備わっていたなら、評価はかなり違ったのではないか、というのが正直なところではある。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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