西田宗千佳のRandomTracking

第611回

XREAL CEOに聞く「未来」と「Android XR」。XREAL Oneレビューも

CESのXREALブース

サングラス型ディスプレイの大手XREALは、「CES 2025」に出展した。

今年のCESは昨年以上に、スマートグラスやサングラス型ディスプレイを売る企業の出展が目立っていたのだが、なかでもXREALは昨年以上に派手なブースを仕立てて、新製品である「XREAL One」シリーズをアピールしていた。

発売前に長時間テストすることができたので、レビューをお届けしよう。

テストした「XREAL One」

そしてCES会場では、同社のチー・シューCEOにも、改めて詳しく話を聞くこともできた。

XREALのチー・シューCEO

同社はGoogleと連携し、Googleが昨年発表した空間コンピューティング向けOS「Android XR」を使ったデバイスの開発も進めている。

Android XRについては日本にあまり詳細が伝わってきていないが、シューCEOの口から、「どのようなOSであり、どのようなデバイスがあり得るのか」という話を詳しく聞くこともできた。

XREAL製品の今後だけでなく、Android XRによって今年「空間コンピューティング・デバイスがどう変わっていくか」という視点でも、非常に興味深いインタビューとなった。

XREAL Oneレビュー

以前の記事でも概要はお伝えしているが、まずはXREAL Oneの実機レビューをお届けしよう。

今回は発売に先立ち、XREALより提供された試用機材を、まとまった期間使い続けることができた。その結果、以前の取材時には分からなかったことがずいぶん見えてきた。

デザイン的な変化は少ないように見えるが、光学系の設計が一新されているので、比較すると、厚みなどがけっこう変わっている。

左がXREAL Air 2 Proで、右がXREAL One
XREAL Oneをかけてみた様子
こちらはXREAL Air 2 Pro。光沢以外ではほとんど区別がつかない
厚みを比較。左がXREAL Oneで、右がXREAL Air 2 Pro
上から。左がXREAL Air 2 Proで、右がXREAL One
右側のツルの内側には「XREAL One」の文字が

この種のサングラス型ディスプレイは、「正面から見ると普通に見えるが、横から見ると分厚くて違和感がある」という欠点がある。この点、新型ではちょっと悪化してしまった。ただ、これ自体は、他の進化点を考えれば些細な話ではある。

レビューしているのは日本でももうすぐ販売される「XREAL One」だが、CESのブースでは、2025年第2四半期にアメリカで出荷を開始する上位モデル「XREAL One Pro」もチェックできた。

こちらは光学系が、従来のバードバス型から、新しい「フラットプリズム」に変更されている。そのため、薄さも向上している。

XREAL Oneの光学系。従来のバードバス型を改良したもの
CESブースでチェックしたXREAL One Pro。「フラットプリズム」光学系を採用し、視野角は拡大しつつも厚みを減らしている

詳しくは後述するが、XREAL One系は「視野が広くなった」のが大きな変化。XREAL Air系は視野角は水平46度だったが、XREAL Oneでは50度に、XREAL One Proでは57度になった。

また非常に地味な話だが、付属のケースは少し小さくなった。カバンにしまうにはプラスだが、本体とケーブルくらいしか入らなくなったので、アダプターなども一緒に入れておくにはマイナスである。

本体パッケージ
付属品はマニュアルとケースとケーブルだけで、インサートレンズアダプターは別売に
手前がXREAL One付属、奥がXREAL Air 2 Pro付属のケース。若干小さくなっている

なお今回は試せていないが、表面には別途カラーフレームを貼り付けられるようになっており、デザインのカスタマイズはそちらで行なう、という考え方だという。

別売機器やソフトがなくても「映像を空中にピン止め」

既存モデルとの最大の違いは、内蔵のオリジナルチップ「X1」を使い、本体だけで「ウルトラワイド表示」「3DoF表示」などが可能になっていることだ。

内蔵の「X1」チップ。写真はチップをガラスに埋め込んだ記念品

それはどういうことなのか? 前回は模式図で説明したが、今回は実機動画を合わせてご説明したい。

XREAL Airは単体では「0DoF」だった。要は単純なディスプレイであり、自分がどちらを向いても映像はついて来る。

しかしXREAL Oneは、内蔵のモーションセンサーとX1が連動することで「3DoF」になる。なにができるようになるかというと、空中の特定の場所に画面を「ピン止め」できるようになるのだ。さらに、入力する画像は「1,920×1,080ドット・16:9」か「3,840 ×1,080ドット・32:9」が選べる。だから、空中にワイド画面を出すことも可能になるわけだ。

どのように違うかは、以下の実機動画を見るのがわかりやすい。

XREAL One利用中の様子を接写。「通常」は既存機種同様0DoFで、「固定」モードはX1チップを使った3DoF

これはXREAL Oneをカメラで撮影したものだが、従来通りの0DoFである「固定モード」、空中に16:9の画像をピン止めした「固定モード」、そして、同じく空中に32:9の画面をピン止めした「ウルトラワイド」を続けて動画化している。

こうしたことは従来も可能ではあった。だがその場合には、出力する機器の側との連動が必須になる。ウルトラワイドはPCに専用のソフトを入れ、そちらで表示位置などを制御する形だった。

逆に言えば、「ソフトが提供されていない環境では使えない」ということでもある。

現状、XREAL Airと連携する「Nebula」というソフトはWindowsとMac向けに提供されているものの、いくつかの欠点がある。Windows版の場合、かなり高性能なGPUでないと動作が不安定で、消費電力も大きい。また、Windows版・Mac版ともに、「空中に画面をピン止めする精度」はイマイチ。ピッタリと止まるかというと、微妙なブレがおきやすかった。

だが、XREAL Oneではそうした問題が解決される。

実は前掲の動画は、あえて「ARM版Windows PC」で撮影している。ARM環境ではNebula for Windowsは動作せず、XREAL Air世代では利用できない。だがXREAL Oneなら、ケーブルでつなぐだけで使える。

そして動画でおわかりのように、空中への「ピン止め」精度はかなり高く、遅延もほとんど感じない。

今回、CES取材で移動中の飛行機内などで映画を見るのに使ったり、プレスルームで仕事をする際に使ったりしたが、XREAL Air世代との違いは明白だった。

XREAL Oneは視野角が広がったといっても、水平50度しかない。Meta Quest 3やApple Vision Proに比べるとやはり狭いし、解像感も足りない。普段筆者はVision Proを使っており、解像感や視野の不足は感じてしまう。しかし価格が50万円以上違うわけで、並列に比較するのは難しい。

XREAL Airに比べると多少値上げされているが、サングラス型ディスプレイ同士で比較すると、体験の違いは明白だ。

「固定」モードで映画を見るのは、いままでの通常モードよりもずっと快適だ。だがそれ以上に、PCの作業をするのはもっと快適。そして作業以上に良いと思ったのはゲームだ。

映画を見る場合、映像が見切れないようにする方が良い。そうすると、視野角の範囲以上に大きな範囲に画面を設定して使うのは難しい。

PCの作業画面も「見切れない」方が望ましくはある。だが作業に集中している時には中央の視界内を見ていることになるので、使ってみるとそこまで大きな問題は感じない。必要な時に、必要な情報がある報告を見ればいいわけだ。

ゲームの場合にも、たいていは中央を見ていれば良い。視界の左右を確認する時にそちらを見る、という感じになる。画面が狭く真ん中だけが表示されている場合と比べると、ちょっと左右を見られるだけでも没入感が大きく変わる。

画質面で言うと、過去のモデルとの差はそこまで大きなものではないと感じた。視野角が50度まで広がり、XREAL Oneの場合、視野角が広くなった分、若干見える範囲が広くなっている。ただ、その差はそこまで大きく感じない。それよりもX1チップを使った「固定モード」の精度の高さ、快適さの方が大きな価値を持っていると感じる。

ただ、これがXREAL One Proになるとかなり差を感じる。視野が57度になった分、映画を見た場合に「視野を映像が覆う感覚」は明確な差がある。

詳しくはのちほどのインタビューでも触れるものの、視野角が広がってもその映像を構成するドット数自体(片目あたり1,920×1,080ドット)は同じなので、映像の解像感は下がっている。映画などならさほど気にならないが、PCをつないで作業する場合、解像感の不足を感じやすくなる。

この辺を含めて、XREAL OneとOne Proの間では、多少のトレードオフが存在するのである。

PCに接続すると「ウルトラワイド」で価値向上

前出のように、画面の空中固定にしろウルトラワイド表示にしろ、処理はXREAL One(もしくはOne Pro)内で行なわれる。本体にはUSB Type-Cのコネクターがあり、ここに付属のケーブルを差し込み、機器とつなぐ。

ケーブルは本体の端にあるコネクターにつなぐ

規格的にはDisplay Port Altモードを使っており、接続にはDisplay Port Altモード対応機器が必要になる。昨今のスマートフォンやPCの場合、対応している場合が多いだろうし、Steam deckのようなポータブルゲーミングPCも使える。

なおHDMI出力のゲーム機やNintendo Switchの場合、適切なアダプターで変換する必要がある点は変わっていない。

XREAL Oneでは、表示の設定変更のために複数のボタンが追加された。

特に重要なのは、右側のツルの上にある「ファンクション」ボタンと、下側にある「XREAL」ボタンだ。

本体右側上部にある「ファンクション」ボタン
本体右側下にある「XREAL」ボタン

下のボタンを押すとメニューが表示されるようになっていて、表示モードの設定を細かく変えられる。

XREALボタンをダブルクリックするとこの設定メニューが現れ、表示モードを細かく設定可能

ウルトラワイドを使うか否か、「固定モード」を使うか否かの他、見かけ上どのくらいの大きさで映像を見せるか、という設定もここから行なう。

表示は、動画で紹介した「通常」「固定」があり、画面サイズを16:9とウルトラワイド(32:9)で切り替えられる。

接続した機器の側から見ると、ワイド(16:9)の時には1,920×1,080ドットのディスプレイに、とウルトラワイド(32:9)の時には3,840×1,080ドットのディスプレイだと認識される。

イメージで、接続時のスクリーンショットを。こちらはワイド(1,920×1,080ドット)時
ウルトラワイド時のイメージ。32:9で3,840×1,080ドットの仮想画面になる
ウルトラワイド時は、PC側にはこのように画面が表示される

スマホやタブレット、ゲーム機では解像度が決め打ちである場合が多いのでうまくいかないこともある。だがPCなら「ウルトラワイドのディスプレイにつないだ」と認識され、以下のような画面に切り替わって表示されるわけだ。前掲の動画はそうして撮影されたものだ。

さらに、画面を小さくして視野の端に出しっぱなしにする「サイド表示モード」も使える。シースルー状態で映像を見続けるには向いたモードである。

「サイド表示モード」にすると、シースルー状態で右端もしくは左端に16:9で小さく画面を表示できる。背景は透過して見えている実景で、右の領域が画面

表示される画面サイズなどはメニュー内から変更できる。ただ、数字はあくまで目安であり、その数字通りに「感じられる」かというとそうではない。

また、ワイド設定なら表示画角の見かけ上のサイズ(要はどのくらいの大きさのスクリーンがあるように見えるか)を変更できるが、ウルトラワイド設定では「ピン止めされるところまでの距離」のみ変更可能で、しかもワイド表示に比べ変更の幅も小さい。どちらも「数字を信じず、自分で快適と思うサイズに決める」のが良いだろう。

発熱など課題はあるが前世代から大きな進化

XREAL Oneはかなり良い製品だ。

「固定」モードの精度、「ウルトラワイド」モードの使い勝手など、X1チップが内蔵されたことによる改善点はかなり大きい。

一方、X1チップの内蔵はちょっとしたトレードオフも生み出している。

1つは、画面が表示されるまでの時間が少し長くなったこと。

XREAL Airまでは、ケーブルをつなげばほぼ瞬時に映像が出てきた。だがXREAL Oneは、接続後表示までに数秒かかる。X1チップが起動し、処理を開始するまでのタイムラグが発生するのだ。

2つ目は、発熱が上がっていること。長時間使った時、眉間部に熱を感じやすくなった。X1チップなどの処理系が増えたからではないか。

どちらもひどく不快なほどではないが、機能向上に伴うトレードオフではある。

また、飛行機や電車内で「固定モード」を使った時、乗り物の動きにあわせて画面が動いていってしまうこともあった。

そうした特性も理解しつつ、X1チップ内蔵による利便性も加味すればプラスの存在、といえるだろう。

カメラも別売し「AI連携」を重視

製品の今後はどうなるのか? CESブースでシューCEOに詳細をインタビューした。ここからはその内容をお伝えしたい。

シューCEOにロングインタビュー

——XREAL One、一足先に使わせていただいていますが、良い製品ですね。

シューCEO(以下敬称略):ありがとうございます。かなり満足度の高い製品になりました。「固定」モードなどもシンプルで、より多くの機器で簡単に使えます。

驚いたのは、メニューからの設定変更を、意外なほど多くの人が好んでいるという点です。自分が見たいサイズや位置に変えるという行為を、多くの人は好んでいるようですね。

——ただ、「トラベルモード」はあったほうが良いのではないでしょうか? 飛行機の中で画面が動いてしまって……

シュー:キャリブレーション機能を追加した方がいいかも知れませんね。そうしたことはファームウェアアップデートで改善できると思います。

——XREAL Oneには秘密もありますよね? 別売のカメラである「XREAL Eye」の存在です。日本ではまだ発表されていませんし、他の国でも詳細は公表されていません。どう使うものなのでしょうか?

XREAL Oneの眉間部には、別売のカメラ「XREAL Eye」をつなぐコネクターが隠れている

シュー:目的は「AIカメラ」にすることです。ただそれにはソフト開発に時間がかかりますので、まずはハードウェアの準備を進めます。

写真や動画を撮影する機能があり、また、幅広いさまざまなシナリオでAIカメラとして機能する能力があります。暗い場所や明るい場所、非常に高速で動いている環境でも、AIカメラとして活用することを目指します。

GoogleとはAI関連でもパートナーシップを組んでおり、XREAL Eyeも活用します。

——Android XRでも提携していますよね? では、XREAL One+XREAL EyeをAndroid XRで活用するということでしょうか?

シュー:そうとは言えません。

今言えることは、Googleと協力しているため、Geminiが大きな役割を担うことは間違いない、という点です。

また、APIを公開し、他の人々にも利用してもらえるよう奨励していきます。

例えばビデオ関連の担当者から、XREAL Eyeをリアルタイム翻訳に使う話を報告されました。声だけでの翻訳より、もう少し高度なことができるだろう……と考えています。

シューCEOの語る「Android XR」の正体

——なるほど、XREAL OneとAndroid XRには直接的な関係はないわけですね。では、Android XRはどのように活用するのですか?

シュー:以前はまだGoogleの発表前だったので詳しくお話できませんでしたが、いまならAndroid XRとはなにか、お話しできます。

私たちは、2つの異なる手段を用意しています。

1つは、私たちが空間ディスプレイと呼んでいるものです。

——すなわち、XREAL AirやXREAL Oneですね。

シュー:はい。

空間ディスプレイはつなぐだけで使えますが、もう1つの「空間コンピューティングデバイス」は、そうはいきません。

空間コンピューティングデバイスとは、アップルがVision Proで提供しているような性質のものです。ハードウェアを作るだけでは提供できず、素晴らしいコンテンツも必要になります。

それは我々1社ではできない。実現する最善の方法は、世界で最高のパートナーを見つけることです。

幸運なことに、私たちは最高のパートナーを見つけました。それがAndroid XRです。このようなパートナーシップ契約を結べて本当に嬉しいです。

我々は完全な空間コンピューティング体験を実現するために、XREALの製品とAndroid XRを一緒に使いたいと考えています。

——昨年12月にイベントがあり、御社も参加していましたね。

シュー:はい。参加できたのは光栄なことです。ただあのイベントは、技術者向けで報道関係者はあまり参加していなかったようですね。

——そうなんです。私も参加したかったのですが……。実際にはどんなモノなのですか?

シュー:まず、「Project Mooohan」(サムスンが開発しており、Android XR第一号になると思われているHMD。発売は2025年中)は現在最高のVRヘッドセットです。私は、Vision Proの主な欠点をすべて修正できた製品だと感じました。

サムスンが公開した、Android XR一号機「Project Mooohan」の写真

2つ目は、Android XRには本当に際立った主要機能が複数ある、ということです。

その1つが「ヘッドセットとスマートグラスを統合するオペレーティングシステム」である、ということです。

この業界を見渡すと、スマートグラスとヘッドセットの間で「分断」が起きているのが分かります。様々なOS、様々なSDK、様々な開発ツールが入り乱れています。

——Metaでさえ、両者を別のものとして扱っていますね。

シュー:はい、まさに。

ですから、ソフトウエアエコシステムも、ハードウェアも統一する必要があります。

そのための答えとして、Android XRは完璧なアイデアだと思います。これはヘッドセットとスマートグラスのための統一プラットフォームです。

Androidでアプリケーションを開発していれば、そのままAndroid XRにも移行できます。

——すなわち、御社が作る製品も、他社のヘッドセットも1つのプラットフォームとして扱われる。さらに、既存のAndroid開発者も、空間コンピューティングに簡単に移行できるということですか?

シュー:はい、そうです。

他にも特徴はあります。大きいのは「AIを本格的に統合した、初の空間コンピューティングOSである」ということです。

今年のCESで、NVIDIAのジェンセン・ファンCEOは非常に興味深い発言をしました。彼は「AIこそが次世代のオペレーティングシステムだ」と言いましたよね。

——私も同感ですね。

シュー:我々は日々、ラップトップやスマートフォンを使っています。結局、タッチスクリーンやキーボードを使って、機械と対話しているのは我々自身です。

ですが次世代のユーザーインターフェースでは、人と人が会話しているような感覚が求められています。システムが私たちのニーズを分析し、理解し、適切なタイミングで適切なコンテンツとともに適切なアプリケーションを引き出してくれるようになるでしょう。

私はその姿を実際に、Android XRの中に見ました。目から鱗が落ちる思いです。

——それはぜひ使ってみたいです。

シュー:もうひとつ大きいのは、Googleが既存のファーストパーティアプリケーションを、素晴らしいクオリティですべて空間コンピューティング用に移植しているという点です。

Chrome、YouTube、Googleフォト、Google Map……あとはGoogle TVですね。これらにはすべてXRバージョンがあると思われるのですが、動作はシームレスで、素晴らしい完成度です。Vision Proでアップルがやったことよりも洗練されています。

私は今後2年間に何が起こるのか、非常に楽しみです。この種のオペレーティングシステムを搭載したハードウェアが今後登場し、さらに改良されていくでしょう。

これはXRだけの話ではありません。次世代のコンピューティング・プラットフォームになると思います。

——コンピューターのプラットフォームは、XRの時代に向かっているということですか。

シュー:最終的にXRの領域に向かっている。そのためのすべてのピースが、ついに揃ったと思います。OSが用意され、開発者もいて、ソフトウェアスタックも準備万端です。ハードウェアもすでに準備ができていると思いますので、これでようやくフルスピードで進むことができます。

——一方で、ヘッドセットやスマートフォンに搭載できるプロセッサーのパフォーマンスと電力には、まだ限りがあります。この点はどう考えていますか? クアルコムは非常に良い仕事をしていると感じますが、それでも制約はまだ大きい。

シュー:クラウド上でコンピューティングの一部をオフロードするという形になるでしょう。だから、Googleも密接に協力していると思います。適切なレベルで最適化し、ローカルのコンピューティングとクラウドのコンピューティングを分離するには、多くの微調整とエンジニアリング作業が必要であり、Googleはそのために業界でもっとも優れた知見を持っていますから、彼らは解決するでしょう。

XREALの「これから」に迫る

——光学系の未来はどう考えていますか? より薄く、より広い視野で、より解像度の高い光学系が必要になります。

シュー:XREAL Oneは新しい光学系を採用しました。それでもまだ厚みがありますが。ディスプレイにしろ導光技術にしろ、新しいものには常に注目しています。量産可能になり次第、新技術を製品に導入することを考えて行きます。

この予想は、5年は有効だと思うのですが……。

ウェーブガイド方式で他の方式と同じ画質を実現するのは難しいでしょう。ですから、「通知用」デバイスに使われるのがせいぜいではないかと思います。

だから我々は新しい技術に取り組んでいます。

XREAL One Proでは「フラットプリズム」という新しい技術を採用しました。我々はウェーブガイド方式ではなく、このやり方で先を目指します。

ただ、ウェーブガイドは「通知」には良い。たくさんのコンテンツを楽しみたいなら、(XREAL Oneが採用した)バードバスやフラットプリズムが良い。

双方が併存すると予想しています。

——そもそも「通知特化型」スマートグラスの市場は大きくなるとお考えですか?

シュー:本当に優れたAIグラスを作るなら「通知を見る」ことよりも「通知を解決する」ことを重視すべきです。その方がずっと便利になります。

ただこれは私見ですが、高いハードルです。

実際、多くの企業が新しいAIグラスを数多く開発していますが、「通知型」について、この市場の可能性を検証し、大量販売できることを証明した企業はまだありません。誰かが突破口を開くのをとても楽しみにしています。

一方、メディア消費や空間ディスプレイ向けグラスに注目すると、私たちは実際に市場シェアを獲得した最初の企業です。この市場を検証し、実際にヒットさせることができました。市場には競合がどんどん出てきています。

通知型AIグラスは、10年ほど前のGoogle Glassの時代から始まり、市場で製品を多くの人が目にしています。

通知型の製品はまだまだ色々出てくるでしょうが、私は、大量に売れる市場になるとは思えません。

——すなわち、今のものでは市場を活性化する(brake the ice)することはできない?

シュー:氷を破壊するには至らないでしょうね。

でも、いつかは(通知重視でも)市場が広がるものと期待しています。そこでは、Android XRでお話しした「AIの活用」が重視されます。

市場にはまだ十分に優れたAIはありませんが、優れたAIと本当に役立つAIのギャップを埋めようとしている人たちがたくさんいることは知っています。ですから、今後2、3年のうちに、そういったものがたくさん出てくることを期待しています。

——ご自身でも興味はあるわけですね?

シュー:はい。しかし、適切なタイミングが必要です。社内でも「これは有用なAIグラスだ」と信じられるものが産まれた時にやります。それまでは製品化しないでしょう。

——では、今年注力する製品についてはいかがですか?

シュー:ワクワクするようなものがいくつもあります(笑)。まだ先の話はお話できないですが……。

ただ少なくとも、「XREAL One」と「XREAL One Pro」は、今年力を入れていく製品になります。

——そこで疑問があります。なぜ同時に2つの製品を出したのでしょうか?

シュー:ああ、それは2つの「違うサイズのテレビ」があるのと同じだと思ってください。

XREAL Oneは視野角が50度で、XREAL One Proは57度で、後者がより広くなります。ですが、どちらもディスプレイ解像度は同じです。

55インチと70インチのテレビがあり、どちらも同じHD解像度だとした場合、どちらを選ぶかは好みが別れますよね?

——すなわち、解像感が違うから?

シュー:PPDが変わってきますからね。視野角を重視する方もいれば、解像感を重視する方もいるでしょう。単に片方が上位、という話ではないです。

——画面サイズと解像度の違いが、映画鑑賞やユーザーの生産性向上にとって非常に重要な要素だということですね。さらには価格の問題もある。

シュー:はい。人によって異なるので、この2つのグラスは、異なる顧客の異なる優先事項を解決するものなんです。

——日本ではまだProについてはアナウンスされていませんが……?

シュー:主に量産の問題ですね。始まれば、日本でもアナウンスが行なわれるでしょう。

——XREAL Beam Proのような周辺機器ビジネスはどうなりますか? XREAL Oneでは不要になりますよね?

シュー:そこは詳しく説明させてください。

先ほど私は「2つの異なるビジネス領域がある」というお話をしましたよね?

空間ディスプレイとして使いたいだけなら、メガネ型デバイスだけで解決できます。

しかし、将来的に、空間コンピューティングとしてより多くのアプリケーションを実行したいのであれば、Android XRを見ると、おそらく「アップグレードシステム」に収束していくでしょう。

要は、人々はまだ「コンピューティングパック」を別に必要とする、ということです。

まずは1つの外付けデバイスから始まり、将来的にはさらに多くのバリエーションが生まれるでしょう。

——すなわち、空間コンピューティング用の「コンピューティングパック」をつないで使う時代が来る、と?

シュー:はい。結局、オペレーティングシステムやアプリケーションが必要ですからね。

近い将来、そのニーズをスマートフォンだけで担えるとは思えません。なぜなら、空間コンピューティング用のパックとスマートフォンは、完全に2つの異なるシステムになるからです。

信じてください。私たちは空間コンピューティングのために、このような新しいパックデバイスを展開し続けます。そうした連携は企業での使用にも最適です。

——では、空間認識用カメラが内蔵された「XREAL Air 2 Ultra」のような製品の未来はどうなりますか?

シュー:いいご指摘です。

そうしたセンサー付きのデバイスは「空間コンピューティング向け」になって行きます。機能はAndroid XRでパワーアップするでしょう。

まだ先のことですが、センシングや知覚能力がさらに強化されたUltraの新バージョンは考えています。

重要なのは、常に小型を維持していくということであり、視野角はより広くなるという点です。

空間ディスプレイならば、視野角は50度・60度でも大丈夫です。ディスプレイなので、十分な広さでしょう。

しかし、本当に空間コンピューティングを行ないたいのであれば違う。現実ではない、仮想の物体を配置したいと思うでしょう。そのためには視野角のより大きなディスプレイが必要になります。

空間コンピューティング向けに、より広い視野角を持ち、軽量なグラスを提供できるのか?

それが近い将来に向けた、私たちの使命であり、挑戦です。

私たちは間違いなく、その未来を実現すべく、取り組んでいます。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41