鳥居一豊の「良作×良品」

第77回

驚異のエネルギーとシームレスな空間再現。ヤマハA5200×ニンジャバットマン

今回はヤマハのAVプリアンプ「CX-A5200」と、11chパワーアンプ「MX-A5200」を取り上げる。年末に我が家にやってきたAVセパレートアンプだ。昨年登場した新技術「SURROUND:AI」の搭載はもちろんのこと、ヤマハの最上位のAVセパレートアンプとして音質を練り上げた。CX-A5200は30万円、MX-A5200は32万円とさすがに高価だが、AVプリとパワーをセパレートしたことによる音質的なメリットは想像以上のものがあった。年末年始の休暇は、ほとんどの時間を彼らのセットアップに費やした。実によい休暇だった。

最新鋭の機能と最上位機にふさわしい高剛性シャーシを搭載

簡単に概要を紹介しよう。AVプリのCX-A5200は、映画のシーンに合わせてリアルタイムで最適な音場効果を再現するSURROUND:AIを搭載。11.2h信号処理を行ない、最大で7.2.4chまでの構成に対応している。DACにはESSの「ES9026PRO」を搭載。電源部はオーディオ回路、デジタル回路、アナログ映像回路、FLディスプレイ回路のそれぞれに専用電源を用意し、オーディオ専用の電源トランスは、前作CX-A5100の2倍の大容量とし、さらに3mm厚の真鍮製ベースプレートを介してシャーシに設置して、徹底した音質チューニングと振動対策を行なっている。

ラックに設置したCX-A5200。フロントパネルの外観は高級AVアンプ「AVENTAGE」シリーズの上級機と同様だ
CX-A5200の前面パネル内部の操作ボタン。各種の操作ボタンを備え、リモコンなしでもほぼすべての操作が可能。ヘッドフォン出力やオーディオ入力、USB端子、YPAO用マイク端子などもある
CX-A5200の内部。手前側が電源部で、後方に各種回路が配置されている。大柄な筐体内に余裕を持って部品を配置している

シャーシ自体も底面のボトムカバーの厚みを1.6mmに増した鋼板を採用し、強度をさらに向上。ボディ両サイドにもアルミサイドパネルを追加し、制振性を高めるとともに高級機らしい風格のある外観に仕上げている。このため、顔付きこそ一体型AVアンプの上級機とほぼ同じだが、サイドパネルや天板の仕上げが異なり、全体の雰囲気は他とは大きく違った印象になる。もちろん、AVENTAGEシリーズの特長である“5番目の脚”もボトムカバーの中央付近に備わっている。

CX-A5200を横から見たところ。美しくデザインされたサイドパネルが装着されている

背面端子を見ると、見慣れたスピーカー端子群がない。そのぶん、11.2chのプリアンプ出力がバランス、アンバランスとも用意されている。これが一体型AVアンプとの大きな違いと言える部分。バランス端子のプリアウトが備わったことで、ピュアオーディオ用のパワーアンプとの組み合わせもしやすくなってる。

ちなみにサブウーファー出力もバランス/アンバランス出力とも装備。購入し忘れたため今はまだアンバランス接続だが、サブウーファー(ECLIPSE TD725SWMK2)もバランス入力を持つので、サブウーファー用のバランスケーブルも注文済みだ。

CX-A5200の背面。上段にHDMI入力×7、HDMI出力×3、LAN端子を装備。中段にAV入出力端子群などがあり、下段にバランス端子のプリアウト群がある。サブウーファー用プリアウト端子やオーディオ入力用バランス端子もある
CX-A5200の背面の接続状態。パワーアンプとはあらかじめ購入しておいたバランスケーブルにて接続
付属のリモコン。マットブラック仕上げのリモコン。自照式でボタンを押すと自動でボタンが発光する

今度はパワーのMX-A5200。11chものアンプを内蔵するが、純然たるアナログパワーアンプなので、操作ボタンは電源ボタンとチャンネル3のスピーカーA/B切り替えスイッチのみ。こちらもサイドパネル、トップパネルが備わり、CX-A5200と共通する質感の高いデザインで仕上げられている。

ちなみに、筆者は“AVアンプは黒”という刷り込みがあるので当初はブラックで注文していたが、ブラックだと年内の入荷ができないとうことでチタン色に変更した。こうして設置してみると、チタン色の方がヤマハのAVらしくもあるし、見た目も落ち着いていて好ましかった。

ラックの下段側に内蔵したMX-A5200。顔付きはシンプルでLEDのインジケーターを備えた大きな電源ボタンが印象的

11chパワーアンプの搭載という点では、前作のMX-A5000と同じだが、アンプ回路はまったくの新設計になっているという。3段ダーリントン出力段・電流帰還型パワーアンプ回路で、定格230W/ch(6Ω)、4Ωのローインピーダンス駆動にも対応する。電源部のトランスは専用設計の大型トロイダルトランスと27,000μF×2の大容量ブロックケミコンを搭載。給電のためのワイヤリングも大径ケーブルとして素早い電力供給を実現した。

シャーシ構成はH型メインフレームを基本に、厚さ1.6mmのサブシャーシと厚さ2mmのボトムカバーを組み合わせた二重構造とするなど、剛性を強化。特徴的な“5番目の脚”も採用している。

MX-A5200の内部。左右対称のレイアウトを採用しており、配線も含めて美しい。普段は見えないのがもったいない

そして、11chのうちの4ch(チャンネル3、4)はブリッジ出力モードで使用することも可能。チャンネル1~3、チャンネル3、4、チャンネル5、6でそれぞれバイアンプ駆動も可能など、多彩なアンプ構成に対応している。こういったアンプモードの切り替えは背面の入力端子部にあるスイッチで切り替える。入力端子はバランス/アンバランス端子を備える。左右に分かれたスピーカー端子はバナナプラグ/Yラグに対応する金メッキ仕上げのものとなっている。

MX-A5200の背面。スピーカー端子は左右に分かれて配置。入力端子はすべてバランス/アンバランス端子を装備。下側(チャンネル2、4、6)は上側(チャンネル1、3、5)の入力切り替えがあり、バイアンプ駆動が行なえる

接続を済ませて、自動音場補正や各種設定を行なう

開梱や設置はさすがに機材が重いため多少は苦戦したが、筐体が2つに分かれているため、スピーカーの配線などは逆にやりやすかった。結線の間違いをきちんと確認して(「スピーカー設定」にある「テストトーン」を使えばわかりやすい)、まずは自動音場補正機能「YPAO」によるセットアップだ。

CX-A5200に付属するYPAOの測定用マイク。基本的にはヤマハのAVENTAGEシリーズのものと同様のようだ
3D測定用のアダプター。距離だけでなく角度の測定も行える。測定には多少の手間はかかるが、精密な空間再現のためには欠かせないもの

CX-A5200のYPAOはAVENTAGEシリーズのものと共通。高精度なイコライジング処理を行なう「64bitハイプレシジョンEQ」などを備え、部屋の音響の影響度の大きい初期反射音を積極的に制御する「YPAO-R.S.C.」、再生時の音量に合わせて周波数特性が聴感上フラットになるようにする「YPAO Volume」などの技術を搭載。また、スピーカーの距離と角度、トップスピーカーの高さまで測定する「YPAO 3D測定」なども盛り込まれている。

操作そのものは簡単で、CX-A5200のフロントパネル内にあるYPAO用マイク端子に測定マイクを接続すると、自動で測定モードに切り替わる。後は画面の指示に従って操作するだけだ。測定の前にすることは、「マルチ測定」と「3D測定」を行なうかどうか決めるだけ。「マルチ測定」は複数の人で見る場合のためなどに、複数箇所での測定を行なうこと。「3D測定」は前述の通りスピーカーの角度や高さまで測定することだ。

筆者の視聴室はほぼ完全にお一人様専用なので「マルチ測定」はせず、「3D測定」だけ行なった。測定はほぼ自動なので、開始されたら不要なノイズを減らすため部屋の外に出てもいい(スタート前に10秒の待機時間がある)。「3D測定」を行なう場合は、その後にアダプターを使って4箇所にマイクの設置位置を変えながら測定する。この時も、いちいち測定開始前に10秒の待機時間があるが、リモコンのENTERボタンをもう一度押すと待機時間をキャンセルしてすぐに測定がスタートする。これを知っていると測定時間をかなり短縮できる。

YPAOのスタート画面。左側にある測定オプションを選択したら、「測定開始」でENTERボタンを押すと測定が始まる
1stステップの環境測定。部屋のノイズ量を測定するほか、接続されているスピーカーの確認、極性のチェックなどが行なわれる
2ndステップの主測定。ここでスピーカーの周波数特性や反射音による残響特性などを測定
3rdステップの角度/高さ測定。画面の指示に従って、アダプターの指定された番号の位置にマイクをセットする
角度/高さ測定の画面。各スピーカーからテスト音が再生される

測定が完了すると、測定結果が表示される。後からスピーカー設定の項目で確認することも可能だ。測定結果が問題なければ「保存」を選べば完了。測定したデータは複数を保存しておくこともできるし、左右の距離が極端に違っていて測定をやり直す場合は「キャンセル」を選べば測定データは記録されない。

スピーカー設定では、各スピーカーの距離や音量をマニュアルでも設定できる。すべてをYPAOまかせにせず、測定結果と実測した距離や音量のデータを照らし合わせてみると、部屋の音響を改善するヒントにもなる。YPAOでの測定結果は、すべてのスピーカーが「大」判定。フロントやサラウンド、サラウンドバック等のスピーカーの左右の距離がずれていることもなく、おおむね実測値通りであることがわかった。

音量については、極端な差ではなかったので、測定値をそのまま採用している。ちなみにフロントスピーカーに対して、同じスピーカーであるサラウンドが-3~4dBとなっているのは距離が短いため。サラウンドバックは別のパワーアンプを使用しており(理由は後述)、パワーアンプのゲイン差が反映されたもの。

設定メニューのトップ画面。スピーカー設定をはじめとする各種の設定がリストアップされる。左側に内容を説明するテキストも表示されるのでわかりやすい
スピーカー設定の「設定パターン選択」。複数の測定データを保存した場合は、ここでパターンが選択できる
スピーカー設定の「構成」。接続されたスピーカーの総数や配置、大/小を選択できる。トップスピーカーは天井配置(フロントトップ/リアトップ)と壁の高い位置(フロントプレゼンス/リアプレゼンス)の選択も可能
スピーカー設定の「距離」。数値はYPAOの測定値のままで、リアトップのスピーカーの距離がやや短いので、後日位置を調整する予定
スピーカー設定の「音量」。多少のバラツキがあるが、左右でほぼ1dB以内に収まっていたのでそのままとしている

パラメトリックイコライザーは、「フラット/ナチュラル/フロントの特性に合わせる」「補正しない」が選べるが、CX-A5200の場合は「フラット」が最も好ましかったのでそれを採用した。これは個人的にはちょっと意外で、今までは「フラット」よりも高域をやや減衰させて聴きやすい音にする「ナチュラル」が好ましいと感じることが多かったのだ。このあたりは、アンプ自体の音質、特に高音域のノイズ感の大小とも関わる部分なので、ある意味でこの時点で高域のS/Nの良さや低歪みであると理解でき、頼もしく感じたものだ。

スピーカー設定の「パラメトリックイコライザー」。各スピーカーのところにある波形がイコライザー補正された波形。部屋の音響特性の改善に役立つデータだ
スピーカー設定にある「YPAO測定結果」。結線確認では、逆相接続をしている場合にアラートが表示される。よく確認しよう
YPAO測定結果の「角度(水平角)」。測定位置(視聴位置)からのスピーカーの各度が表示される。左右でずれがある場合は可能な限り設置位置を微調整するといい
YPAO測定結果の「高さ」。視聴位置からトップスピーカーまでの距離を表示。これも左右でずれがある場合は取り付け位置を見直してみよう

YPAOの測定を含めて、スピーカー設定はこれで完了だ。すぐに視聴を始めたいところだが、まずは一通り設定の内容を確認しよう。音声設定は、音場処理やダイナミックレンジ等の設定をはじめ、バーチャルスピーカー機能や高音質機能などもある。注目したいのが、「ウルトラロージッターPLLモード」と「DACデジタルフィルター」。前者はDACが内蔵するPLLではなく、外部に設けた専用のPLLを経由してジッターをさらに低減するもの。音飛びが生じなければ「レベル3」とし、音飛びが生じるならばレベルを下げるようにする。

「DACデジタルフィルター」は、DAC自身が備える機能でデジタルフィルターの特性を選択できるもの。個人的には「ショートレーテンシー型」が好ましいと感じた。

音声設定のメニュー。入力されている信号の情報確認のほか、音質に関わりの多い設定や機能がある。一通り内容を確認したい
音声設定の「ウルトラロージッターPLLモード」。各入力端子ごとにオフ/レベル1~3を選択できる。オフを選んでもDAC内のPLLが働くのでジッターが増えるわけではない
音声設定の「DACデジタルフィルター」。簡単な説明と音質傾向も紹介されているので、好みに合わせて選ぶといい

シーン設定は、入力端子や選択した音場プログラム、音量など、さまざまな設定をまとめて登録でき、素早く呼び出せる機能。登録できるシーン数は8つまで増えた。使い勝手を高めるうえでは不可欠な機能だ。設定したいシーンのボタンを長押しするだけで登録できるので簡単に使える。設定では、登録時に記憶される内容を選択でき、シーン名を好みに合わせて変更することも可能だ。

シーン設定の項目。登録時に記憶するアンプの設定が選択可能。シーン名変更では、シーンの名前やアイコンを好みで変更できる
シーン設定では、8つのシーンごとに記憶するAVアンプの設定を選択できる。記憶させておきたい設定にチェックマークをつける
シーンを切り替えた場合、オンスクリーン表示でもシーン名が表示される

このほかの設定は、HDMI設定やネットワーク設定など。ネットワーク設定は有線または無線が選択できる。ネットワークからの起動や連動設定などもあるので、ネットワーク機器と併用する場合にはこれらの機能も確認しよう。

面白いところでは、「Bluetooth設定」がある。スマホの音楽をワイヤレス再生する「音声受信」だけでなく、Bluetoothヘッドフォンなどに音声を出力する「音声送信」も選べる。Bluetoothヘッドフォンが必要だが、深夜の映画鑑賞などでありがたい機能と言える。このほかは一般的な設定項目だが、入力端子の割り当てや入力名の変更などを行なえばより快適に使えるようになるので、一通りチェックしておこう。

ネットワーク設定。有線/無線の設定のほか、ネットワーク機器との連携設定などもある
Bluetooth設定。音声受信と音声送信それぞれの設定が可能

これらの設定や機能のうち、コンテンツ再生中に切り替えられると便利なものを集めたのが、リモコンにある「オプション」メニューだ。オーバーレイ表示でメニューが現れ、再生しながら設定できる。ネットワーク再生などでの圧縮音源の再生ではより高音質化を行なう「エンハンサー」もここから呼び出してオン/オフが可能だ。

また、この「オプション」メニューからSURROUND:AIのインジケーターを表示できる。「オプション」メニューの2ページ目にあって見つけにくいので、覚えておこう。

「オプション」のメニュー画面。トーンコトンロールやYPAOボリュームのオン/オフ、エンハンサーなど、再生中にあると便利な機能がリストアップされている
エンハンサーの画面。オン/オフの切り替えのほか、CD音源や可逆圧縮音声を最大96kHz/24bitまで拡張する「ハイレゾモード」の選択もできる
エンハンサーをオンにしたときの画面表示
オプションメニューの2ページ目にある「オンスクリーン情報」。ここから「サラウンド:AI」のインジケーターを呼び出せる

「ニンジャバットマン」をAtmosで満喫する!

いよいよ上映だ。今回選んだのは「ニンジャバットマン」。発売から少々時間が経ってしまったが、日本で制作された映画としては珍しいDolby Atmos採用のタイトルであり、「ガルパン」の音響さんチームである、岩浪美和(音響監督)、山口貴之(録音)、小山恭正(音響効果)の3人が参加した作品だ。これを取り上げないわけにはいかない。

ちなみに、音響さんチームは今まで3本のDolby Atmos音声の作品に参加しており、制作順に並べると、「BLAME!」、「ニンジャバットマン」、「ガールズ&パンツァー最終章 第1話」(Dolby Atmos音声版は未発売)となる。

通常版の「ニンジャバットマン」Blu-ray
(C)DC Comics. (C)Warner Bros. Japan LLC

ここでひとつ心配な点がある。すでに「ニンジャバットマン」のBDを持っている人の中には「Dolby Atmos音声が収録されていない」と思っている人がいるかもしれないという点。少々残念なことに「ニンジャバットマン」のAtmos音声は「ニンジャバットマン ブルーレイ豪華絢爛版(2枚組)」の音声特典として収録されているのだ。通常版の音声はドルビーTrueHD 5.1chとなる。

筆者は初回限定のボックス仕様は箱が大きくかさばるのであまり好きではない。ブックレットや映像/音声特典はともかく、フィギュアなどにはほとんど興味がないので、きちんと棚に収まる通常版を選ぶことが多い。「ニンジャバットマン」も同様に通常版を手に取ったのだが、音声仕様を確認してみるとAtmos音声が入っていない。これに気がついて豪華絢爛版も確認したところ、こちらには音声特典としてAtmosが収録されていたので、豪華絢爛版を購入することにした次第。

Atmos音声を音声特典としてスペシャル版にのみ収録したという例は他の映画でもあまり聞かないし、このやり方はちょっとおかしいのではないかと感じる。しかし、Atmos音声で視聴できる環境を持つ人はまだまだ少なく、筆者のようなマニアは普通スペシャル版を買うので、商売としては間違っていないとも思う。だが、やはり釈然としない。通常版でもAtmos音声を収録して欲しいし、いっそのこと、4KアップコンバートとHDR化を行なってUHD BD版として発売して欲しかったくらいだ。

購入した「ニンジャバットマン ブルーレイ豪華絢爛版(2枚組)」。ボックスアートが凝っていて、ボックスはモノクロイラスト(裏はヴィラン)、ディスクケースはカラーイラスト(裏はバットマンたち)となる

話を戻すが、本作に限らずコミックなどを原作にしてアニメ化、実写化する例は最近とても増えている。中でもコミックが原作の実写映画が、なかなか危うい。成功作もきちんとあるが、失敗作あるいは失敗とは言えないが期待を下回る作品が少なくない。特に日本のコミックを海外(ハリウッド)が実写化した映画に、あまり良い思い出を持っていない人は多いのではないだろうか?

「ニンジャバットマン」は、海外のDCコミックスが原作であり、何度となく実写映画化もされてきた「バットマン」を、日本でアニメ化した作品。筆者自身、本作は「混ぜるな危険」のレベルにあると思う、ただし“良い意味で”。

(C)DC Comics. (C)Warner Bros. Japan LLC

見た人は驚くだろう。海外で知られる日本の文化であるニンジャとバットマンを融合させ、舞台も当然日本の戦国時代。そこにジャパニメーションの華である合体ロボットまで登場する。それでいて、バットマンやヴィランの立ち位置やキャラクター観が歪められているようなことはなく、むしろ原作へのリスペクトに溢れていると言ってもいい。バットマンという作品の懐の深さもあるだろうが、徹底的にバタ臭いジャパニメーションに徹したことが最大の成功の理由だろうとも思う。

制作は「妥協は死」で有名(?)な神風動画。3Dアニメーションを駆使しながらも、手描き風のテクスチャーを多用し、手描きと思われるキャラクターも骨格を感じる立体的な描写で動き回る。映像の密度の高さでも大きな評判になったので、ご存じの人も多いだろう。

とにかく、この連載で本作を取り上げなかったら筆者が残りの短い人生を後悔にまみれて生きることになる。というわけで、少々タイミングが遅れたことも承知で、組み合わせる製品にはまさに最高レベルの傑作を持ってきた。

「ニンジャバットマン」のAtmos音声で、SURROUND:AIを試す!!

上映開始といこう。視聴に使ったシステムは、いつものB&W「Matrix801 S3」を中心とした6.2.4ch構成のスピーカー、ディスプレイは東芝「55X910」、プレーヤーはこれも新顔のパナソニック「DP-UB9000(JAPAN LIMITED)」だ。

CX-A5200とMX-A5200を購入して感激した理由はまさに「音の良さ」だが、SURROUND:AIの威力にも感動した。このSURROUND:AIは本機だけの機能ではなく、AVENTAGEシリーズの上位モデル、RX-A1080、RX-A2080、RX-A3080にも搭載されており、機能そのものはほぼ共通と考えていい。総額62万円のAVセパレートアンプを買う人はあまりいないだろうが、実売10万円前半で手に入るRX-A1080でも楽しめる機能だと知れば、真剣に導入を考える人も少なくないと思う。

まずはSURROUND:AIの効果をじっくりと検証した。SURROUND:AIは、ヤマハが誇る音場創生技術「シネマDSP」の最新機能で、これまでのようにいくつかある音場モードをユーザーが好みに応じて切り替えるのではなく、AIが映画の音(ダイアローグ、効果音、音楽)を解析してシーンに応じて最適なサラウンド効果にリアルタイムで切り替えるという技術だ。くわしい内容はこちらの記事を参照のこと。

従来の「シネマDSP」ではアクション映画ではそれに適した音場モードである「スペクタクル」や「アドベンチャー」などを使うのが妥当だった。しかし、アクション映画といっても全編でドンパチが繰り広げられるわけではなく、甘いロマンスの場面やシリアスなシーンもある。そんな場面でスケール感たっぷりの「スペクタクル」は効果が過剰だ。だからといって、シーンによって音場モードを切り替えるのは面倒。では、AIが代わりにそれをやりましょう。というわけだ。

これは2つのメリットがある。ひとつはユーザーが場面に合わせていちいち音場モードを切り替える手間がなく、シーンごとに最適な音場効果が得られるということ。もうひとつは視聴してはじめて気がつくのだが、ドンパチの場面に特化できることで、音場の効果をさらに高められるということ。「スペクタクル」などでこれをやると、ロマンスの場面が雰囲気ぶち壊しになるので、そういった場面でも破綻しないように効果を手加減していたというわけだ。だから、ドンパチの場面はもちろんだが、シリアスなシーンでも効果は“マシマシ”である。

こう言うと、ベテランのAVアンプユーザーからは、派手なお化粧は肝心の音そのものを曇らせるし、浴室のような残響まみれの音は聴きたくない。むしろ、ストレートデコードのピュアな音をクリアに再現する方が良いのではないか、と指摘されそうだ(これ自体は決して間違いではない)。そのあたりも含めて、音場効果マシマシの実際を詳しく解説しよう。

チェックしたシーンは冒頭のゴッサムシティでの戦いの場面からオープニングまで。派手なアクションシーンもあるし、バットマンたちを戦国時代へとタイムスリップさせてしまう「時空震」の迫力たっぷりの音もある。一転してのどかな中世の日本へ現れたバットマンは状況がつかめずに戸惑う。と、目まぐるしく状況が切り替わるシーンだ。

まずはSURROUND:AIをオンにして聴いた。激しく雨の降るゴッサムシティの場面では風雨が周囲を取り巻き、頭上から稲光の音が降り注ぐ。ゴリラ・グロッドの大仰なセリフとそれを阻止しようとするバットマンのセリフが太く厚みのある声で画面の前に現れる。そして時空震の強烈な低音がまさしく弾けるように目の前に広がり、バットマンが歪んだ世界に飲み込まれる。

ここまでの空間のスケールの大きさは見事なもので、これまではリアルな部屋の広さを感じがちだったが、実際の部屋以上に広い音響を感じる。風雨が降り注ぐ感じも定位が良好で単に頭上から降るのではなく、部屋中に雨が降り、びゅうびゅうと風が吹き荒れている感じが得られた。そして低音のエネルギー感が凄まじい。ドーンと響きながらバットマンを飲み込んでいく感じがリアルに再現されている。

時空震は唐突に収束し、気がつけばバットマンは中世の日本の城下町と思しき場所に立っていた。風の音が寂しく鳴る静かな場面となる。そこに鎧をつけた侍の集団が現れ、バットマンに襲いかかる。

日本の戦国時代へとタイムスリップした直後の場面は、一転して静かな場面だ。状況がつかめないバットマンのモノローグで進行し、侍集団が現れた後も激しいバトルになるというよりも、侍との会話がメイン。こうしたシーンでは、セリフの実体感豊かな定位と厚みのある音色が印象的だ。風の音が襲来する侍たちの足音など、効果音もあるのだが、あまり強調はされない。

一言で言えば、作り手が想定した音響やサラウンド効果がしっかりとわかりやすく再現されていることがよくわかる。が、場面の変化によってサラウンド感がガラリと変わる感じもなく、SURROUND:AIとしての大きな特長があるようには感じられない。

(C)DC Comics. (C)Warner Bros. Japan LLC

SURROUND:AIは、およそ0.2秒でその場面の音の特長を解析し、最適な音場効果へと切り替えていくという。しかも、急激に音場を変化させるのではなく、変化を気付かせないように独自の切り替えを行なっているようだ。実際、サラウンドの音場空間が変化している感じはほとんどない。

映画を見ているだけではわかりにくいSURROUND:AIの働きを、視覚化して表示する機能がある。先ほど説明した「オプション」メニューで、「オンスクリーン情報」を呼び出すと画面にSURROUND:AIのインジケーターを表示できるのだ。

「オンスクリーン情報」を呼び出したところ。実際には再生中の映像に重ねる形でAVアンプの動作状態が表示される。画面の周辺に小さめの文字で表示されているのは、映像の邪魔にならないようにするため
リモコンの十字キーの切り替えで、音声信号情報などの表示も可能。AVアンプのさまざまな情報を画面で確認できる
SURROUND:AIをオンとしたときの、オンスクリーン表示の状態
SURROUND:AIのオンスクリーン情報。写真の状態は無信号時。実際は画面の左下に小さく表示される

「オンスクリーン情報」でリモコンの十字キーの左右を操作すると画面が切り替わる。その1つにSURROUND:AIのインジケーターがある。これを表示した状態で、もう一度同じ場面を見てみた。

すると、インジケーターがかなり敏感に変化しているのがわかる。上部の円形のものは音場効果の強度を表しており、上側が画面側で円の中心が視聴位置。セリフ主体の場面では上側が大きく光るし、音楽が加わると上から横方向にかけて円のラインが光りだす。冒頭のゴッサムシティでのバトルから時空震の場面のようにサラウンド効果が一番強まるところでは、円全体が強く光っている。

下側の横棒状のバーは横に広がるほど解析が進んでいることを示すようだが、頻繁に伸縮していてめまぐるしい動きだ。いくつか特徴的なインジケーターの状態を撮影してみた。

セリフ主体の場面での「SURROUND:AI」のインジケーター表示。円の上の方が大きく点灯し、セリフ重視の音場であることがわかる
セリフとBGMが重なる普通の会話の場面。上側から横方向にかけて点灯部分が広がり、前方音場主体となっている
アクションシーンでのインジケーター表示。円全体が均一に点灯している。前後左右の包囲感や移動感をしっかりと表現する。
かなり派手なアクションシーンのインジケーター表示。円全体が強く点灯している。サラウンド効果はかなり高くなっている

インジケーターの動きを見ていると、アクションの場面から時空震、そして江戸時代へタイムスリップ、というような大雑把な場面の変化に追従した音場の切り替えではなく、カット毎か、それ以下の短さで、セリフ重視、前方音場主体、全方位音場、音場効果増し増し、という感じで目まぐるしく切り替わっているのがわかる。だから、アクションシーンで交わされるゴリラ・グロッドとバットマンの会話は、素早くセリフ重視に切り替わるので、子安武人の大仰なセリフ回しが一層力強く響く。この切り替わりの反応の早さは圧巻だ。

インジケーターを見ていてようやく、SURROUND:AIが忙しく働いていることがわかった。とはいえ、実際の音響効果としては「素晴らしいレベルで再現されたサラウンド音場」という感想しか出てこない。そこで、今度はSURROUND:AIをオフ、音場モードも使用しないDolby Atmos音声のストレートデコードで再生してみた。

冒頭からして、音場が一回り狭くなったように感じる。残響というか、空間の響きが失われてあっさりとしたサラウンド空間になったと感じた。それでいて、残響に埋もれていた細かな音が聴こえて情報量が増えるかというと、そのあたりの差は感じない。バトル中のゴリラ・グロッドとバットマンの会話も声に迫力がなく、大人しい表現だ。時空震に飲み込まれるスペクタクルな場面も低音のパワー感を含めて迫力不足。江戸時代にタイムスリップした直後の静かな場面は、静かというより寂しい感じだ。

おそらく、ダイアローグの音量は一定であるためだと思うが、音楽や効果音が重なるとダイアローグが相対的に弱く感じるし、ダイアローグだけの場面では音数の少ない寂しさが募る。

もちろん、ストレートデコードが最も忠実度の高い再現であることも間違いないので、音響制作時の調整で音数が多い場面でもセリフが聴こえにくいわけではない。だが、SURROUND:AIを聴いた後だと、何か物足りない感じになる。いわゆるドライな再現というもので、残響の少ないデッドな部屋で映画や音楽を聴いたときのような、明瞭ではあるが広がりや奥行きの乏しい音場だと感じる。正確ではあるが楽しくない。

今度は、シネマDSPの音場プログラム「エンハンスド」を組み合わせて聴いてみた。「エンハンスド」は比較的最近作られた新しい音場モードで、Dolby AtmosやDTS:Xといったイマーシブサウンド登場後のもの。ストレートデコードに近い感触で空間再現やサラウンド効果を高めるもので、音場プログラムによる味付けが加わった感じも少ないため、ここ最近のヤマハAVアンプの視聴でよく使う音場モードだ。

ちなみに、SURROUND:AIとシネマDSPの音場モードは排他利用になっており、両方の掛け合わせはできない。

音場モードを「エンハンスド」に切り替えたときのオンスクリーン表示

音場モード「エンハンスド」で聴くと、空間の広がりは大きくなる。Atmos音声ならではの空間を音で埋め尽くしているような感じもよく出る。気になったのは、SURROUND:AIと比べると、音数が増える場面ではセリフが埋もれてしまったように感じる事。セリフ主体の場面では、セリフの力強さが物足りない。この比較で、SURROUND:AIのもう1つの魅力は、セリフ(ダイアローグ)と効果音、音楽のバランスをシーンに応じて最適にして、どんな場面でもダイアローグをしっかりと立たせた再生ができることだとわかった。

最後にもう一度SURROUND:AIを聴くと、空間の広さと音響のダイナミックさが出て、しかもセリフが立つことが改めてよくわかる。だから、激しいバトルの後の一瞬の静寂が際立つし、バトルの合間の決め台詞が文字通りに“決まる”。本作は、展開もスピーディーだし、アクションもけれん味たっぷりで動きのひとつひとつがカッコイイ。そんな映像に合わせて設計された音の効果が十分に引き出されていると感じた。

残響の付加については、特に派手なシーンでは低音域のレベルを増しているとわかるし、空間の広がりが大きくなることからも、それなりの演出が加わっているのは確かだ。しかし、それによって細かな音が埋もれたり、中音域の不明瞭な再現になることもない。このあたりは、すでにシネマDSPでも十分に改善が進んでおり、まったく気になることはなかった。

SURROUND:AIでは、ダイアローグ、効果音、音楽のバランスが最適化されることもあり、むしろストレートデコード以上に作り手の意図に迫った再生になると感じたほどだ。結果的に、劇場のような広大な空間が一般家庭の室内に再現されることになり、制作者が意図した通りのスケール感が得られるというわけだ。

結論としては、SURROUND:AIは一度使ったら手放せなくなるレベルでよく出来ている。強いて言うならば、出来が良すぎて、どんな映画でも優れた音響に感じてしまいがちというくらいだ。仕事上、映画ソフト自体の音質も確認する必要はあるので、念のために一度はストレートデコードで視聴して出来を確かめないと、どのソフトも高音質ソフトと評してしまいそうだ。

(C)DC Comics. (C)Warner Bros. Japan LLC

AVセパレートアンプならではの音の実力をチェック

ここからは、純粋にCX-A5200とMX-A5200の音質についてレポートしていこう。視聴したのは、江戸時代にタイムスリップしたバットマンが、キャットウーマンやアルフレッドと再会し、尾張の大名として天下統一を目指しているという、ジョーカーの城に攻め込む場面。バットマンではおなじみのバットモービルが登場し、戦いが進むにつれてバットウィング、バットポッド、パワードスーツへと変形していくなど、バットマンのファンとしても見逃せない場面だ。

本作は基本的に爆音映画である。時空震の場面でも感じたが、サブウーファーが鳴り響くどころか、怖ろしく低い音域まで伸びている。バットモービルで城下町を駆け抜け、城の天守閣を目指す場面でも、和楽器をフィーチャーして日本的なテイストを加えながらも、アクション作品としても聴き応えのあるテンションの高い音楽が流れ、激しいエンジン音を轟かせながら疾走していく。応戦する侍たちが路上に撒いた撒き菱を磁石の力で吸い取ってしまうなどのギミックも満載だし、それらにも細かく音が配置されている。

最新兵器満載のバットモービルにジョーカーが火縄銃レベルの戦力でどう立ち向かうかと言えば、“城が動く”。城から手が生え、バットモービルを鷲掴みにしてしまう。ダイナミックというか、予想外の戦法だ。

このようなアクションたっぷりの場面で驚いたのは、底なしと思えるレベルの駆動力だ。ニンジャバットマンは昨年の発売以来何度も再生しているが、昨年まで使っていた一体型のAVアンプでもその轟音を十分に再現できていると思っていた。しかし、MX-A5200は格が違った。全チャンネルから全力で音が鳴るような轟音の場面での音圧感がケタ違いなのだ。

AVアンプはひとつの筐体にいくつものパワーアンプを内蔵するが、電力を供給する電源部は複数のアンプで共有している。AVアンプの出力はおおよそ100W前後であることが多いが、その数値は2チャンネル出力時のものであることがほとんどだ。結果として、全チャンネルでフルボリュームに近い音を出すような場面では、各アンプの出力は100Wに満たないものになる。つまりアンプのパワー不足で音量が下がってしまう。

これを避けるようにすると、100Wのアンプを9基内蔵するならば、単純計算で900W相当の電源部を持つ必要があり、消費電力を含めて現実的ではない。実際、爆音映画の一部のシーンでパワー不足が生じる程度なので、全チャンネル出力時のパワーは価格との兼ね合いも含めて、妥当な性能に抑えられていると考えていい。

だが、MX-A5200はセパレートアンプだ。全チャンネル出力時のパワーもそれなりの性能を確保している。これまでの一体型AVアンプでの再生でも、爆音の場面ではなかなかの大音量が出ていたのだが、CX-A5200とMX-A5200に変えたら、突き抜けた大音量が出て驚いた。砲撃開始で、ドカンと大砲が撃ち出されるような場面でも、いきなりとんでもない音量が出る。パワーに余裕があるので、音の立ち上がりも速いし、音圧の上昇もケタが違う。あまりに驚いて、買ってすぐはいつもの音量(-15dB。0dBでだいたい映画館の音量になるようだ)ではさすがに大きすぎるので、-20dBまで音量を絞ったくらいだ(慣れた今は-15dBに戻したが)。

低音自体も、Matrix801 S3の重いウーファーを軽々と駆動し、今まで聴いたことのない低音を鳴らしてくれた。サブウーファーの電源が入っていないことに気付かないまま、映画1本見ていたこともある。この圧倒的なパワーに慣れてしまった今は、もはや普通のAVアンプではパワー不足を顕著に感じてしまいそうで怖い。しかも、音に雑味がなく、突き抜けた大音量でもうるさく感じない。これは、徹底した振動対策やS/Nの確保でノイズを抑えたことが大きいだろう。そのため、低音の再現性が見違えるようになったが、中低音が過大でセリフの明瞭度が落ちたり、細かな音が聴こえにくくなったということもない。解像感の高いクリアーな再現で、しかもパワーも増大しているのだ。

それだけにアクションの迫力は倍増。バットマンとジョーカーは肉弾戦では殴り合いや刀での斬り合いを繰り広げるが、刀と刀がぶつかった金属音もカン高い音でありながら芯の通った太い音だし、殴り合いも身体に響くような重々しい音になっている。こうした力強い音をしっかりと出すので、力の漲った映像が、一層見応えのある場面になる。パワードスーツを装着したアーマード・バットマンと、力士姿のベインとの相撲対決も、ぶつかり合う身体の重みと衝撃を存分に味わえた。

(C)DC Comics. (C)Warner Bros. Japan LLC

その後、バットマンはジョーカーの策略によって危機一発の状態に。逆に、ジョーカーですら一度は危機に陥るなど、二転三転していく。そして、バットマンと仲間たちは、コウモリ集団である忍者たちと共にヴィラン大名達に立ち向かうことになる。日本の鎧装束を着けた姿はまさにニンジャバットマンだ。

危機に陥ったジョーカーとハーレイ・クインの2人は、片田舎の農村に逃げ延びる。どうやら記憶を失っているようで、荒れた土地を耕して花を咲かせることに夢中になっていた。この場面が作画を含めて絵巻物語のような演出になっていてなかなか面白い。手描きというか、筆書きのような描線で描かれたキャラクターで背景も日本画風となり、バットマンたちが姿を見せていなければ別の作品と思うほど。こうしたしんみりとした場面では、S/Nの良さ、情報量の豊かさが際立つ。

AVプリのCX-A5200は、高性能DACの採用や頑強なシャーシの採用でS/N向上に徹しているが、細かな音まで実に明瞭に再現する。セリフのニュアンスや情感を豊かに再現できる点も優れているが、空間再現も見事だ。セリフ主体の音場ではセリフがしっかりと画面の前方に立ち、音楽はその後ろに広々と展開する。風の音や足音といった効果音は前後左右のあるべき位置に明確に定位し、実に立体的な空間を構築している。

音質的にはヤマハらしい、しなやかな高域の伸びを感じるが、基本的な傾向はニュートラル。相対的に非力と感じがちだった中低域は前述の通り、エネルギー感もパワー感も大きく向上し、がっしりと映画の音や音楽を支えてくれる。当然のことながら極めて質の高い音になっており、一体型AVアンプとは別格の完成度と言える。

SURROUND:AIの優れた効果も、ベースとしての解像感の高さ、明瞭な定位といった実力の高さに支えられているとわかる。AVアンプは膨大なデジタル信号処理をすることもあり、純粋なオーディオ的な性能ではオーディオ用のアンプとは差があるのは確かだ。しかし、CX-A5200のレベルになると、少なくとも同価格帯のオーディオ用アンプと比べてもその差はほとんどなくなっているのではないかと思う。実際のところ、筆者は映画だけでなく、音楽再生でもCX-A5200とMX-A5200の実力を確かめているが、オーディオ再生のためにさらなるグレードアップを考えるならば、価格的にもさらに上のハイエンドの世界に踏み込む必要があると感じている。

「合体!」の場面で、フロントのバイアンプ、ブリッジ接続を試す

CX-A5200とMX-A5200の実力の高さはもうたっぷりと語っているが、まだ語り尽くしてはいない。最後はフロントスピーカーのバイアンプ出力とブリッジ出力を試してみよう。前半で軽く説明しているが、MX-A5200は、チャンネル1と2、チャンネル3と4、チャンネル5と6のペアでバイアンプ出力できる。

つまり5.1ch構成ならば全チャンネルでバイアンプ駆動が可能なのだ。さらにチャンネル3と4のペアだけは、ブリッジ出力に切り替えることが可能。

ブリッジ出力は片チャンネル当たり2つのパワーアンプを使うことで大出力化を図るもの。MX-A5200は定格出力で170W(2ch出力)がブリッジ出力になると定格で200W(2ch出力)になるようで、全チャンネル同時出力との兼ね合いもあって数値的な大出力化よりも駆動力の向上やダイナミックな音の再現、つまり質を重視した仕上げになっていると思われる。

(C)DC Comics. (C)Warner Bros. Japan LLC

視聴したのは「ヴィランの諸君! 合体だよ!!」の場面。クライマックスなので詳しくは触れないが、ヴィラン大名たちが合体して、バットマンたちを迎え撃つ。「合体」のテーマも流れるし、合体のシークエンスは往年のロボットアニメを踏襲したもので、見応えもたっぷりだ。おそらく、本作で一番クレイジー(褒め言葉)な場面。

まずはバイアンプ出力。スピーカー側の接続端子が低域側と高域側に分かれた端子を持ったもので使える方法で、通常時は低域側と高域側を接続している配線やアダプターを外し、それぞれをスピーカーケーブルでそれぞれ2台のアンプと接続する。MX-A5200で言えば、チャンネル3を高域側につなぎ、チャンネル4は入力を3に切り替え、低域側につなぐ。こうすることで、主に低域側で発生するスピーカーの逆起電力の影響が高域側に及ばないので、音質向上を実現できるというもの。

もちろん、普通は1台のアンプで鳴らすスピーカーを2台のアンプで鳴らすので駆動力の向上も期待できる。もちろん、どちらの出力時でも、YPAOの測定をやり直して視聴している。

バイアンプ出力では、低域の鳴り方は大きく変わらないが、中高域がより鮮明になったと感じた。合体のテーマ曲はラップ調で各大名の決め台詞を歌っているが、滑舌がよくなった感じで歌詞がより聞き取りやすくなる。合体時の効果音もさらに明瞭度を増し、情報量が増す。これもなかなか立派な音で、映画と違ってそれほど低音域のパワーを必要としない音楽再生ならば、こちらの方が美味しい中高域を鮮明な音で楽しめると思う。

今度はブリッジ出力だ。チャンネル4の切り替えをブリッジに切り替え、スピーカー端子は背面の表示通りに接続する。変則的な接続なので、接続を間違えないように注意しよう。こちらは予想通り、低域の鳴り方が一変し、さらにエネルギー感あふれる音になった。なによりも立ち上がりの良さがさらに際立ち、ウーファーが軽々と鳴っているのがわかるようだ。

音楽も迫力が増し、もともと強大だったダイナミックな音圧もパワーアップ、より雄大なサウンドになる。合体後の巨大な姿にふさわしいパワー感で、それが一斉に砲撃する時の迫力は砲弾が自分の身体を貫いていくようだ。

高音域はバイアンプ出力のような鮮明さは得られないが、もともとバイワイヤ接続(スピーカーの高域側と低域側のそれぞれにスピーカーケーブルを接続し、1台のアンプに接続する方式。バイアンプほどではないが逆起電力の影響を抑える効果がある)のため、高音域の情報量などにも不満はなかったので、今後の使用ではブリッジ出力を選ぶことにした。

ちなみに、自宅の6.2.4ch構成では2チャンネル分のパワーアンプが不足することになるので、現状はアキュフェーズのパワーアンプをサラウンドバック用に使っている。アキュフェーズのパワーアンプ「A-46」も優秀なアンプだが、純A級のため絶対的な出力がやや不足気味で、パワー感や低域の駆動力ではMX-A5200に及ばなかった。

サラウンドの面白さを、さらに引き出す「SURROUND:AI」

というわけで、サラウンド効果はSURROUND:AI、スピーカーの接続はフロントをブリッジ出力とし、パワーアンプを追加した6.2.4ch構成とした状態で、その後のクライマックスを視聴した。音の迫力やスケールの大きさはもちろんだが、バットマンとジョーカーが繰り広げる戦いや、バットマンを惑わせようとするジョーカーのセリフなども際立ち、見応えのあるクライマックスが楽しめた。

CX-A5200とMX-A5200の音の実力の高さは極めて満足度が高く、大型のスピーカーを使ったホームシアターならば、ぜひおすすめしたい。かなり高価ではあるが、それにふさわしい音が得られる。特に大音量で爆音映画を見るのが好きな人は、今すぐでなくてもいつかはこうしたモデルへのグレードアップを考えてみてほしい。

SURROUND:AIの面白さは万人におすすめしたい。サラウンドの魅力が倍増すると言っても過言ではない。AVアンプのサラウンド音場技術は新しい段階に到達したと言える。バーチャル再生とはひと味違う本格的なサラウンドシステムの臨場感が味わえるはずだ。中級機以上とはいえ手の届く価格のモデルでも搭載しているので、アンプの買い換えなどを考えている人はぜひとも候補に入れてほしい。

そして、「ニンジャバットマン」はぜひとも見てほしい。かなり話題になっているので、未見でも知っている人は多いと思うが、筆者も含めて作品のクレイジーさを強調しがちなので、ゲテモノのように感じている人も少なくないかもしれない。すべて常識外れな作品だが、作り手は大真面目に面白さを追求している。和のテイストを採り入れたバットマンたちのデザインも秀逸だし、作画を含めて見どころも山のようにある。音声もハリウッド映画を超えるレベルの出来だ。 未見の人は見ないともったいない。できれば豪華絢爛版のDolby Atmos音声で堪能してほしい。

BD/DVD/デジタル【予告編】『ニンジャバットマン』10.24リリース/10.10デジタル先行配信

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。